さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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司令部の警告

 

 ごう、と重々しい咆哮を奏でながら、1隻の宇宙戦艦がまた、地面にぽっかりと開いた大穴から空へ、そして宇宙へと漕ぎ出していく。

 

 地球防衛軍(かつては”国連統合軍”と呼ばれていた)のエンブレムが描かれた、イージス艦を思わせる角張った船体。戦闘機を思わせる艦首の真下には、2基の波動砲発射口が、さながら狩猟用の散弾銃のように2つ並んでいる。

 

 真新しい艦名プレートには、これ見よがしに『E.F.C.F AAA-0006-2203』と記されている。

 

 完成したばかりのアンドロメダ級6番艦『アークトゥルス』だ。

 

 青空に昇る太陽の光をその身に浴びながら、波動エンジンの唸りと共に空へと舞い上がっていくアークトゥルス。行き先は火星基地であろう。しばらくはそこを母港とし、各種テストを行った後に木星宙域にてアンドロメダ率いる波動砲艦隊と合流、そのまま木星沖での合同演習に参加する予定となっている。

 

 飛び去っていくアークトゥルスの後ろ姿を見送りながら、藤堂は苦悩していた。

 

 果たして、今の地球は正しい方向へ向かっているのだろうか、と。

 

 地球は再び、蒼い姿を取り戻した。ガミラスからの侵略で受けたダメージは回復し、今は地球の再開発の時代。そのためにありとあらゆる資源を地球へとかき集めては、原始時代にまで遡った地球の自然を開拓し、居住地の面積を増やしている。

 

 その一方で、地球人類は軍拡を推し進めていた。

 

 イスカンダルとの約束を反故にして、波動砲を再びヤマトに装備したばかりか、それを搭載した量産型の艦を大量生産し、新たな星間国家として名乗りを上げようとしている―――こんな地球の姿を見て、スターシャは何と思うだろうか。

 

 そう思いつつも、しかしこれも止むを得ない事なのだ、と現実を受け止めてもいた。

 

 今の地球は、完全な平和を得たとは言えない。その証拠に、ヤマトがイスカンダルからの帰路で遭遇した新たな敵―――ガトランティスが、地球へと狙いを定めて侵攻しているのである。

 

 ガミラスの資源惑星や採掘プラントを狙っていたガトランティスであったが、今年に入ってからというもの、太陽系の外縁部での交戦事例も急増しており、この新たな敵勢力を迎え撃つための軍備を整えなければならない、というのが実情であった。

 

 それにガミラス側の都合もある。

 

 デスラー政権が斃れ、共和制へと移行した今のガミラスに、以前のような軍事力は無い―――デスラーという強大な指導者が不在となった今、肥大しきった版図を統治しきれるほど、今のガミラスに力は残されていないのだ。

 

 だから今、ガミラスはその中でも手に余る領域の統治を地球側に任せようとしている。近年、新技術の提供に比較的オープンなのもそれが一因であろう。新しい技術をやるから軍を出せ、というガミラス側の思惑が、彼らの青い肌の向こうから滲み出ている。

 

 大国の思惑と新たな敵―――2つの荒波に、今の地球は押し流されているのだ。

 

 その激流は、おそらくもう止まる事は無いだろう。

 

「こちらにいらっしゃいましたか、長官」

 

「芹沢君」

 

 波動砲艦隊構想を推し進めた張本人である芹沢は、藤堂の隣にやって来るなり、両手を後ろで組みながら空を見上げた。時間断層で完成したアークトゥルスの姿はすっかり小さくなっていて、今ではもう豆粒ほどだ。それもすぐに雲に呑まれ、すっかり見えなくなってしまう。

 

 新たなアンドロメダ級の完成を喜ぶように笑みを浮かべた芹沢は、しかしすぐに表情を険しいものに変えた。

 

「一つ、報告しておきたいことが」

 

「何だね」

 

「ヤマトの件です」

 

「……」

 

「先週より、ヤマトは時間断層から海底ドックへと移されましたが……その海底ドックにて不審な動きが」

 

「不審な動き?」

 

 問いかけると、芹沢は眉間に皺を浮かべながら首を縦に振った。

 

「元ヤマト乗員の出入りがやけに多いのです」

 

「それがどうしたというのだ」

 

「それだけではありません。大量の物資に弾薬の積み込みまで始まっています」

 

「確かヤマトは木星演習に参加予定ではなかったか」

 

「ええ、そうなっています。しかし……それにしたって準備が早すぎます。それに、たかが木星へ向かうにしても、積み込んでいる物資の量が尋常ではないのです」

 

 たかが木星、という言葉に、藤堂は苦い笑みを浮かべずにはいられなかった。ほんの数年前まで、地球人類の艦では木星までの往来にいったい何ヵ月かかっていた事か。

 

 それが今では”たかが”木星、である。

 

 技術の進歩と受け取るべきか、傲慢さの表れと受け取るべきか……。

 

 彼の言葉を胸中で嘲笑しつつも、しかし報告の内容には確かに不審な点が見られる事を、藤堂は見逃さない。

 

 確かにそれが、ワープ能力を持たぬ旧来の宇宙戦艦であるというならばまだ分かる。何ヵ月もかかるとなれば、それ相応に物資を積み込まなければならなくなるからだ。

 

 しかしヤマトは地球で初めてワープを成功させた、記念すべき宇宙戦艦である。またイスカンダルへ向かうというならばまだしも、木星まで行くのにそこまで入念な準備が必要になるだろうか?

 

「念のため、監視を続けます」

 

「……うむ」

 

「万一、何かあればその時は―――」

 

「芹沢君」

 

 彼の言葉を遮り、藤堂は言った。

 

「……沖田の子供たちだ、手荒な真似はするな」

 

「しかし長官。長官はヤマトの乗組員に甘すぎます」

 

 善処はしますが、と何とも頼りのない言葉を残し、芹沢は休憩室を出た。

 

 これがただの思い過ごしであればいいのだが―――何事もないように、と祈る藤堂の背後に広がる窓の向こうで、時間断層からドレッドノート級が顔を出し、空へと舞い上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大食いだなぁ、ヤマトは」

 

 大量に艦内へと運び込まれていく物資を第一艦橋から見下ろしながら、太田は呑気にそう言った。

 

 無理もない事である。ヤマトはイスカンダルへの航海を無補給で成功させるという無理難題を可能とするべく(あるいは死にゆく地球から脱出するために)、長距離の航海を可能とした宇宙船でもある。長い長い航海に備えられるよう、大量の物資を積み込む事ができるのだ。

 

 さらには艦内工場で、ある程度自力で物資を生産する事も出来る。ミサイルや魚雷、砲弾といった弾薬も、資材がある限りは自力で賄える設計となっている。

 

「ヤマトだけじゃない、ムサシとシナノもそうさ。キイだって……」

 

 合計で4隻建造されたヤマト級のうち、実際にイスカンダルへと出発できたのはヤマトのみ。他の艦は就役が遅れたり、ヤマトを迂回したガミラスが地球への直接侵攻に打って出たり、あるいはヤマト計画が失敗した際の保険としてスタンバイされていたイズモ計画実行のため、地球へと留まっていた。

 

 が、単純にこれだけの物資を4隻分も用意する力が地球には残されていなかった、というのも理由の一つであるという。

 

 古代は第一艦橋から、物資を積み込むトラックを見た。どれも古いものだ。ガミラス戦役時、地下都市で使用されていた物資輸送用のトラック。地球に残留した仲間の話では、ヤマトが飛び立った後は食料の配給のために地下都市を走り回ったり、月面で回収された空間騎兵隊を暴動の現場まで輸送するのに使われたのだという。

 

 いわゆる”過去の遺物”というものだ。

 

 そういった、辛く苦しかった時代を思い起こさせるものは地下都市へと捨てられていった。過去の辛い記憶を忘れ、繁栄や復興といった綺麗事で塗り固める―――地球連邦政府のやり方には思うところがあるが、しかしおかげで彼らの目には盲点となっているだろう。

 

 ヤマトに運び込む物資の殆どは、南部工業の子会社が用意したものだ、と聞いている。こんなところでコネが役に立つとはね、と苦々しい笑みを浮かべながらメガネを指で直していた南部の事を思い出し、彼の方を振り向いた。

 

 ”大砲屋”を自負する南部は、計器類のチェックに余念がない。

 

 アップデートされた装備は主砲だけではない。艦橋の後ろに聳え立つ煙突―――8連装ミサイル発射塔も、今では複数の弾頭の発射に適応した『複合ミサイルシステム』として生まれ変わっているし、パルスレーザーもアンドロメダの建造で培った新技術が反映されている。

 

 そういった武装の数々を使いこなすために、チェックとマニュアルの参照に余念がなかった。

 

「レーダー各種、チェック完了」

 

 制服に身を包んだ雪の報告を受け、古代は頷いた。

 

 当初、この航海に雪を連れていくべきか否か―――古代は葛藤を繰り返していた。

 

 十中八九、ヤマトは防衛軍の命令に背いて無断で出撃する事になる。そうなれば、ヤマトは防衛軍に追われる身となるだろう。無断出撃を断固として阻止するべく、軍は戦闘衛星や他の戦闘艦を差し向けてくるに違いない。

 

 そうなった時、雪を地球に残しておけばどうなるか―――最悪の場合、身柄を拘束され人質として利用される恐れがある。

 

 古代にとって雪は大切な人だ。将来的には結婚も考えている(だからこんな事が無ければ指輪を買いに行く予定も立てていた)。もし人質にされたとなれば、間違いなく古代の判断は冷静さを欠く事になるだろう。雪だけでなく、ヤマトの他のクルーを危険に晒す事になるかもしれない。

 

 そして何より、今回のテレザートへの航海へは雪も志願していた。

 

 そのような事もあって、本心では危険に晒したくないという思いもあったが、雪の乗艦を許可したのである。

 

「すまない、雪……こんな事に巻き込んでしまって」

 

 レーダーのチェックを終えた雪の傍らで、周囲に聴こえないように呟く古代。雪は顔を上げると、そんな事ないわ、というかのように笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

「この航海が終わったら、一緒に指輪を見に行こう」

 

「ええ」

 

 そのためにも―――必ず生きて帰る。

 

「しかし……沖田艦長が居ないのは寂しいですね」

 

 相原が言う通り、今のヤマトには艦長が不在だ。

 

 果たして名将たる沖田抜きで、地球連邦軍の追跡とガトランティスの猛攻を退け、無事にテレザートまで向かう事ができるのだろうか。

 

 命令違反を犯す、という不安とはまた違った不安が胸中に浮かび上がってきたが、しかし艦長席の方から聞こえてきた佐渡の声が、その不安を吹き飛ばしてくれた。

 

「古代。艦長ならおるよ、ここに」

 

 先ほどから艦長席の後ろでごそごそと何かをしていた佐渡。満足げな笑みを浮かべながら手で示したのは、艦長席の後ろにある壁に掲げられた、沖田のレリーフだった。

 

 元々は沖田艦長を忘れないように、と製作していたものだったのだが……誰かが(おそらくは佐渡先生が)艦内に持ち込んだのだろう。

 

 もう沖田艦長は居ない。それは誰もが承知の上だったが……しかし、それでも今は亡き艦長が見守ってくれているような気がして、心の中の不安が少しずつ溶けていくのが古代には分かった。

 

「古代戦術長、司令部からの緊急通信です」

 

 相原の声が、和んだ艦橋の空気をあっという間に吹き飛ばした。

 

 繋いでくれ、と言うと、頷いた相原はメインパネルにそれを投影した。

 

 第一艦橋の上部に設置されたメインパネルに、皺の浮かんだ男の顔が映し出される。

 

 芹沢だ。イスカンダルとの約束を反故にし、波動砲艦隊構想を推し進めた男。スターシャの、そして沖田の想いを踏み躙った相手に思えて、古代の表情が一気に険しくなった。

 

《ヤマト乗組員に告ぐ。長官命令だ、直ちに退艦せよ》

 

 血走った眼で、艦橋に居るクルーたちを睨みつけながら芹沢は言う。

 

《諸君らの行為は、地球連邦政府に対する反逆である。直ちに退艦せよ。従わない場合は実力行使も辞さない》

 

 やはり察知されていたか、と思いながら、古代は真田の方を見た。

 

 想定されていたケースではあった。発進直前に察知され、ドックのシステムが電子的に遮断される恐れがあったからこそ、事前にドックのコントロール権限をヤマト側に移すなどの工作を続けていた事が功を奏した。

 

 これで、外部からのアクセスにより出航できない、という事は無くなっている。

 

 繰り返す、と芹沢が言ったところで、古代は相原に言った。

 

「この放送を艦内に」

 

「えっ」

 

 いいんですか、と聞き返す相原に、「やってくれ」と古代は命じる。

 

 相原がスイッチを切り替えると、芹沢の声はヤマト艦内に響いた。

 

《ヤマト乗組員に告ぐ。長官命令だ、直ちに退艦せよ。諸君らの行為は、地球連邦政府に対する反逆である。直ちに退艦せよ。従わない場合は実力行使も辞さない》

 

 二度目の警告の後、メインパネルに映る人物が入れ替わった。

 

 切羽詰まったような表情の芹沢が後ろへ下がり、まるで我が子を諭すかのような優しい表情を浮かべた藤堂が彼に代わって前に出る。

 

《……前人未踏の航海を成し遂げた、栄誉ある”ヤマト”の諸君。どうか、私の言葉に耳を傾けてほしい》

 

 飴と鞭、とはよく言ったものだ。先ほどの芹沢の言葉よりも優しい響きが、藤堂の言葉にはあった。

 

《君たちが何をしようとしているのか、我々には判らない。今の地球の平穏を、やっと掴み取った平和を乱す事で一体何が得られようというのか》

 

 では、話を信じようとしなかったのは誰か―――古代はそう問い詰めてやりたかった。

 

 念のため、例の『Unknown:01』と名付けられた例のテレサからのメッセージは、真田が地球防衛軍司令部へ一度提出を試みている。が、それが聞き入れられていたならば、こんな事にはならなかっただろう。

 

 結局は門前払いだったのだそうだ。『真田志郎ともあろう者が、オカルトに目覚めたか』と笑い者にされたと聞いて、古代はこの反乱を決心したのである。

 

《真田君が提出しようとしていたデータの件は聞いている。確かに我々は一度イスカンダルに救われた。だからこそ、救いを求める異星の声に応えようというその気持ちは分かる。しかし、どうか今一度踏み止まって考えてほしい》

 

「戦闘衛星が動きました」

 

 レーダーを監視していた雪が報告した。

 

 戦闘衛星―――地球の軌道上に浮遊する、ショックカノンを搭載した移動砲台だ。地球防衛の最終ラインとして、ヤマトやアンドロメダの建造で培われたデータをフィードバックされたそれは、恐るべき兵器として宇宙からの侵略者へ牙を向けている。

 

 2つに分割されたメインパネルの映像の片方に、スラスターを吹かしながらゆっくりと旋回する戦闘衛星の姿が見えた。コマのような胴体の外周に沿うように、連装型の砲塔がいくつも搭載されている。

 

 ヤマトの主砲と同じ、48㎝ショックカノンだ。

 

 波動エンジンの搭載により波動防壁の展開も可能、更には主砲と波動防壁にのみ動力を供給するだけでいいので、単純な威力はヤマトの主砲を上回る。

 

 中にはより大型の、波動砲を搭載した戦闘衛星も存在すると聞いているが、ヤマトを止めるべく移動を始めたのはショックカノンのみを搭載した中型だった。

 

《未知の通信を受け取ったというだけで、確かな事は何一つ分かっていない。いいかね、ヤマトは強力な兵器だ。見知らぬ星系での争いに不用意に干渉すれば、地球に新たな火の粉が降りかかる事にもなる。そんな未来は誰も望まんはずだ……どうか、ヤマトを明け渡してほしい。今ならばまだ間に合う》

 

 通信が終わった。

 

 実力行使も辞さない―――芹沢の言葉が本当ならば、この警告を無視すれば戦闘衛星による砲撃を加える、という事なのだろう。

 

 古代は相原の席にあるマイクを取った。

 

「みんな、今の話は聞いたな」

 

 古代の声もまた、ヤマト艦内すべてに響いている。

 

「これが俺たちの現実だ。長官の仰る事も正しい。だが、それでも俺たちは行かなければならない。そこに救いを求める誰かがある限り―――そして、地球に迫る危機を知るためにも」

 

 破滅の未来を変えるために。

 

 それができるのは―――テレサに呼ばれた、ヤマトのみ。

 

 

 

 

「迷いのある者は退艦してほしい。残るも去るも、それぞれの自由だ」

 

 

 

 

 

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