さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
その音は、宇宙空間の断末魔のようにも思えた。
何もない空間へ、本来有り得ないほどの量のエネルギーが、抵抗を押し切って強引に捻じ込まれていくような―――余剰次元の爆縮を用いた蒼い閃光はそれほどまでに凄まじく、文字通り”宇宙を引き裂く”恐るべき一撃に他ならない。
ヤマトの呪縛から解き放たれた無限のエネルギーは、手始めにゴーランド艦隊から放たれたミサイルの一団を呑み込んだ。
いや、「呑み込んだ」のではない。
ミサイルは波動砲と接触すらしていない―――着弾の遥か前に、その押し寄せる衝撃波と猛烈な熱に耐えかね融解、波動砲の到達を待たずに消滅していたのである。
数隻の斉射で惑星すら破壊しかねない破滅ミサイルの一団を一蹴した波動砲は、続けてゴーランド艦隊の前方に展開する前衛艦隊を呑み込んだ。
高エネルギー反応を探知し回避に移ろうとしたラスコー級やククルカン級の船体が、押し寄せる蒼いエネルギーの奔流の中で崩れ、溶け、消え失せていく。僅か1秒にも満たない閃光の中の陰法師と化した前衛艦隊はさしたる抵抗も、そしてその一撃を回避する事も出来ず、破壊の一撃に道を譲る事しかできなかった。
前衛艦隊消滅、という知らせを聞いたゴーランドは、艦橋の窓の向こうから迫る蒼い光を見て己の敗北を悟った。
―――これはもう、躱せない。
武人として戦場に立った経験が長いからこそ、分かる。
今更回避命令を下したところで、戦艦というのは命令が出てから実際に動き出すまでに大きな
加えて今回の改装で波動砲の大口径化を施されていたヤマトの波動砲は、集束型のみとはいえある程度の”面の攻撃”も可能となっていたのがそれを後押しした。
ヤマトへ最高密度での最高火力を叩きこもうと勝負を焦るあまり、艦隊に密集隊形を取らせてしまった事も重なり、ゴーランド艦隊は波動砲の加害範囲から逃れられないという状態に陥ってしまったのである。
副長もそれを悟ったのだろう―――死への恐怖を微塵も感じさせぬ、やり切ったような笑みを浮かべながら言った。
「ゴーランド様、栄えある一戦でしたぞ」
ガトランティス人にとって、戦での死は最高の名誉だ。
だからゴーランド自身も死を恐れてはいない。むしろ、強敵と真っ向から戦った事を誇り、祖先の眠る場所へ征こうとすら思っている。亡き父に良い土産話が出来た、とも。
―――しかし。
ここに来て、彼の脳裏を過るのは息子のノルの事だった。
(せめて……せめて、
恐竜狩りの際に見せた、ノルの真っ直ぐな目。
ああ、あの目だ。
ずっと誰かに似ていると思っていた―――それは紛れもなく、今は亡き彼の父”ザイゼン・ゴーランド”のそれではないか。
祖父から受け継いだ魂は、あの時点で確かに息子の中に宿っていたのだ。
走馬灯のようにそれを思い出し、ゴーランドは笑った。
「……すまぬ、ノル」
俺はお前を見くびっていた、と。
お前はもう、立派な戦士なのだと。
だから―――だから。
(息子よ―――父は一足先に逝っておるぞ)
武人としての生涯に、一片の悔い無し。
どう、と波動砲の閃光がゴーランド艦隊を覆い尽くした。
「艦隊旗艦ゴーランド、反応消失」
惑星テレザートの洞窟内に設営された地下陣地で、軌道上の艦隊を観測していた兵士が、信じられないと言わんばかりの表情で報告してくる。
眉をピクリと動かしつつも腕を組んだまま仁王立ちするザバイバルの傍らでノルは目を見開きながら涙を浮かべ、杖代わりにしていた剣を取り落とした。
―――父上が、死んだ。
有り得ない事だ―――ゴーランド艦隊はガトランティス最強、だから負ける筈などない。父上に限ってそのような事がある筈がない。
頭の中に、父の顔が何度も過る。早く一人前の戦士になれと叱責する父の声が心の中でリフレインする。
ヤマトとの一戦が近付くにつれて、しかし父は優しくなっていった事を思い出し、今になってその真意を理解した。
ゴーランドは―――こうなる事を薄々勘付いていたのだ。
だからこそああやって厳しく接しつつ、成長したノルを最後になって認めてくれた。
「ち、父上……父上、どうして」
拳をきつく握りしめた。
爪が手のひらにめり込んで、オレンジ色の血が溢れ出る。
「どうしてですか、父上……どうして!」
「ノル殿!」
野獣のような声が、地下陣地の中に響く。
ただの声の筈が―――しかしそれは爆風のように思えて、微かに衝撃波のような錯覚すら覚えるほどのものだった。
「それ以上はなりませんぞ。ゴーランド殿は武人としての使命を全うなされた……あのお方の死を受け入れなされ、さもなくば武人に対する……いや、我らガトランティスの戦士たちに対する侮辱に他なりませぬ」
分かりますな、と念を押すように言うザバイバルに、涙を拭い去ってから頷いた。
「―――ご立派です。涙など、我らガトランティスには不要」
にっ、と快活な笑みを浮かべたザバイバルは、副官から渡された戦車兵用のヘッドギアを被るなり、腰に提げた剣を引き抜いた。
彼の周囲に参集するは、ゴーランド艦隊と並びガトランティスの中でも精強と呼び声高い陸軍部隊『ヘルサーバー』、通称【ザバイバル陸戦師団】の兵士たち。
鎧と兜を身に着けた歩兵と、耐火服にヘッドギアを装着した戦車兵たちがずらりと並ぶ姿は圧巻で、一兵卒に至るまで身に纏う威圧感が違う。まるで数多の戦場を渡り歩き、地獄のような戦いを生き残ってきた百戦錬磨の兵士の如しだ。
ゴーランドの死、という知らせに、悲しむ素振りを見せる者は誰一人としていない。
むしろ沸き立っていた。
あのゴーランド殿をも撃ち破る強敵、ぜひ手合わせ願いたいものである、と。
戦友の死を悲しむ事は許されない。
戦友を弔うのであれば戦に勝ち、宴の席で笑って見送ってやるのだ。それがガトランティスの文化であり、戦友の死を悲しんでいつまでもめそめそしているのは、戦での死という最高の栄誉を手にした武人への侮辱である。
「貴様ら、ついにこの日がやってきた! 我らザバイバル陸戦師団が全力を以て戦える相手は今、我らの頭上に在り!」
手にした剣を頭上に掲げながら、ザバイバルは声を張り上げる。
「貴様らは何者か!?」
『『『『『我らザバイバル陸戦師団!!!』』』』』
「何のためにここへ来た!?」
『『『『『全能なる大帝へ勝利を献上するためだ!!!』』』』』
「貴様らの欲する物は何だ!?」
『『『『『勝利と栄光、
彼らの士気は、この分厚い岩盤の天井をぶち破らんばかりの勢いだった。
艦隊からの支援は期待できず、彗星からの補給も絶望的。物資の備蓄は十分とはいえ、航空優勢を握られた上に艦砲射撃の援護付き、こちらには戦える戦艦が残っていないとなると、この勝負は口が裂けても有利とはいえない。
そんな逆境も、しかしガトランティスの兵士たちには何の苦にもならない。
むしろ逆境を跳ね除け戦い抜いたとなれば、妻子への良い土産話になるであろうし、その奮戦は後の世にまで語り継がれることであろう。
「我らはガトランティス!!!」
ガン、と剣の切っ先を地面に叩きつけながら、ザバイバルは言う。
「”ゼムリア”のモヤシ共を根絶やしにし、遍く宇宙に覇を示すための旅を初めて1000年! 我らガトランティスの永い歴史の中で、多くの戦士たちがその武勇を示し、そして死んでいった!」
全宇宙こそ我が故郷―――そう言ったのは、初代大帝【ラング・ズォーダー】であったとされている。
無限に広がる大宇宙。その覇権は、最も勇猛果敢な戦士にこそ相応しい。
そしてそれは、我らガトランティスであるべきだ。この緑の肌の内に流れる血は戦士の血。アケーリアス文明が宇宙に種をまき、それが芽吹いた時から戦いに明け暮れていた根っからの戦士である。
対話による和睦など弱者の所業。覇を唱える以上は武力を以て己の軍門に下すべし。
魂が震える感覚というものを、この時ノルは初めて覚えた。
ザバイバルの言葉はまるで魔法のようだった。聞いているだけで、不思議と戦おうという気になってくる。我らは戦士であり、戦が必要なのだと思えてくる。
「皆勇敢だった! 俺の父も、祖父も、曾祖父もそうだ! 強敵と戦い、戦場で散っていった! そうしてガトランティスの永い歴史の一部となったのだ! 彼らの後に続くのは今をおいて他に無し!!」
『『『『『大帝に勝利を! 一族に栄光を!!!』』』』』
兵士たちも剣を抜き、切先を頭上へと掲げて声を張り上げた。
戦士たちの雄叫びで、鼓膜が割れそうになる。
そうだ、泣いている場合ではない。
父の死を悲しんでいる場合ではない。
そんな事、父は望まない。
年相応の目つきだったノルの目が、一気に鋭くなった。
この戦に勝ち、宴の席で笑いながら父を弔おう―――肉に酒、それから戦士たちの武勇伝。それこそがガトランティスの戦士を見送るのに一番ではないか。
「全師団集結!」
鋭い声で、ザバイバルは命じる。
「戦力をテレサの宮殿の周囲に集めよ! 全戦力を以て
これから始まるのは、地獄のような戦いだ。
艦隊無し、制空権無し、補給無し。
しかし不思議と―――そんな戦いも悪くないと思える自分に気付き、ノルは思う。
これが父の言っていた『一人前の戦士』という事か、と。