さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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発令、テレザート降下作戦

 

 シナノの隣を征くヤマトのメインマストに、ホログラムの旗が掲げられる。

 

 国連宇宙軍時代からの伝統だ―――戦闘中、通信システムに損傷を受けたり、または星間物質などの影響で通信が遮られる場合、従来の通信システムだけでは味方艦隊との意思疎通が不可能になってしまう恐れがあり、実際それはガミラス戦役においてガミラス艦隊が仕掛けてきたジャミングの影響下で顕著に表れた。

 

 それを防ぐための非常手段として、地球艦ではあのようなホログラフィックの投影システムを艦のメインマスト、あるいはそれに準ずる設備に搭載する事が義務付けられている。

 

 とはいえ、今は敵のジャミングは確認されてこそいるものの、ヤマト艦隊に搭載されている対ジャミングシステムはアンドロメダ級に搭載されているものよりも一世代前のものだ(だからアンドロメダとの遭遇時、アンドロメダ側からのジャミングでセンサー類が妨害されてしまったのは記憶に新しい)。それでもガトランティスの脆弱な電子戦装備の前には十分で、どの艦もいつも通りのコンディションを発揮できる状況にある。

 

 では、なぜわざわざホログラムを用いた刺客的な情報伝達手段を用いたのか。

 

 答えは単純明快、戦意高揚のためだ。

 

 他国ではほとんど無い事だが、極東地域、特に日本においては伝統的にZ旗は特別な意味を持つ。そういう事もあり、海軍が宇宙海軍となった今でも日本軍区所属の艦隊は士気高揚のため、戦闘前にああやってホログラムの戦闘旗を掲げる事が多いのだ。

 

 双眼鏡を手に、藤堂艦長はヤマトのマストに掲げられた戦闘旗を読む。

 

 ―――【ニイタカヤマノボレ】。

 

 その意味を瞬時に理解するなり、彼女は稲妻のように鋭い声で命令を発した。

 

「全航空隊、直ちに出撃!」

 

 シナノはヤマト級の1隻―――ガミラス戦役でも効果を発揮した、ヤマト航空隊の長所を突き詰める改修を受け、戦闘空母として生まれ変わっている。その搭載数はヤマトのそれを遥かに上回るもので、戦闘機や攻撃機、爆撃機といった航空機の他、艦底ハッチからは装甲戦闘車両などを投下する事も可能な強襲揚陸艦でもあるのだ。

 

 戦力投射能力ではヤマト級随一を誇るシナノだが、それ故に各種管制が複雑化してしまっている。艦橋に搭載されている3基のアナライザーズは、それを補うためのものだった。

 

《航空隊、出撃用意》

 

《カタパルト、スタンバイ》

 

《無人航空隊”ブラックバード”、全機発進セヨ》

 

「艦長より達する。航空隊、第一次攻撃隊の目標は惑星テレザート上空の脅威の排除、並びに航空優勢の確保。敵航空隊、並びに対空砲火の排除を確認次第、第二次攻撃隊を全機投入。その後空間騎兵隊と陸戦隊、機甲部隊を降下させ一挙に制圧を図ります」

 

 艦隊を失ったとはいえ、地上をスキャンした結果未だ相当数の戦力が残っている事が分かっている。

 

 遥か昔から、航空攻撃だけで敵の地上戦力を殲滅する事は困難であるとされてきた。どんな精密誘導爆弾でもミサイルでも、広範囲を焼き払える爆弾が登場しても同じ事だ。敵の地上部隊は防空壕や塹壕に逃れるか、建物などの遮蔽物や地下通路に逃れて空爆をやり過ごし、ゲリラ戦でしぶとく抵抗を続けてくる。

 

 だから結局は人間の兵士が敵地へと足を踏み入れて、虱潰しに殲滅していくしかないのである。

 

 戦いの舞台が地球から宇宙へ変わっても、この軍事的な常識は何一つ変わらない。

 

 そして藤堂艦長が、いや、彼女だけでなく土方艦長や栗田艦長が恐れているのが、ガトランティス側が持久戦を選択しゲリラ戦に移行する事である。

 

 既に例の白色彗星はヤマト艦隊とすれ違い、地球へと向かっている。故に一刻も早くテレザートの調査を済ませて反転、地球へと帰還し防衛作戦に加わらなければならない。

 

 戦力では敵を圧倒しているだろうが、しかし状況的に不利なのはヤマト艦隊側なのだ。時間は決して味方ではないのである。

 

 だから初撃で敵に大損害を与え、迅速な掃討を行うつもりではあるのだが―――しかしそれは敵も予測している事だろう。

 

 ガトランティス人は戦いを好む。

 

 特に強敵との戦い、名誉ある戦いを、だ。そういう民族性である事は既に判明しているが、しかしそれだけで”敵は持久戦を選ばない”と判断するのは早計であろう。確かに地下陣地に潜み、一撃を加えるだけで去るばかりのゲリラ戦など、勇猛果敢な兵士の多いガトランティス人は好まないかもしれない。

 

 が、ここが宇宙の女神テレサが眠る惑星テレザートだ。

 

 そんな重要拠点の守備を、この星の重要性も分からぬ愚将に任せる筈がない。それも艦隊が破られた場合の最終防衛ラインとなる地上部隊である。だとしたら、その指揮官はあの艦隊司令と同じく相当に優秀な人物である筈だ。

 

 勇猛果敢で、されど大局を見極め常に相手の嫌がる手を打つ戦のプロ。

 

 果たしてどこまで攻め切れるか。

 

 全ては航空隊の初撃にかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤンキーリーダーより各艦攻撃隊へ」

 

 母艦を出撃してきた航空隊の編隊の先頭を飛びながら、コスモタイガーⅡの操縦桿を握る加藤は視線を周囲へと向ける。

 

 編隊中央を飛行するのはヤマトを母艦とする『ヤンキーチーム』。その右翼をシナノから出撃してきた『シエラチーム』が、そして左翼はムサシを飛び立った『マイクチーム』が固める。

 

 そんな航空隊の大編隊の先頭を、少数の航空隊が飛んでいる。

 

 コスモタイガーⅡ……では、ない。丸形のエンジンノズルと機体の上下に伸びる垂直尾翼、そして大小の針を束ねたような機首の形状は、紛れもなくコスモゼロのものだ。

 

 しかしよく見ると、コクピット周りの形状が異なっている。

 

 通常、人間のパイロットが乗るコクピットのキャノピーはガラス張りとなっているのだが、しかしそのコスモゼロたちはキャノピーまでが装甲で覆われており、有人機と比較するとのっぺりとした無機質な印象を与える。

 

 キャノピー周辺を覆う装甲には規則的に並ぶ複眼型のセンサーが埋め込まれており、昆虫の複眼さながらにその視線を雲の浮かぶテレザートの大気圏内へと向けていた。

 

 無人戦闘機『ブラックバード』。

 

 機首を青く、そして機体を黒く塗装されたそれらは、人材の損耗を恐れる地球政府が推し進める兵器の無人化、あるいは省人化の過程で生み出された兵器だ。最終的には編隊長機のみを有人機とし、それ以外の編隊機をあのブラックバードで置き換えるプランであると言い、無人機であるが故にパイロットにかかる負荷を無視できるためコスモゼロに備わっているリミッターを全て解除しているのだという。

 

《いずれアレに役目を取って代わられるのか……パイロットも安泰じゃないねェ》

 

「なあに、だったら俺らが優秀な成績を叩き出して連中のハードルを上げてやればいい」

 

《はっはっは、隊長もなかなか性格が悪い》

 

 正直言って、無人機が幅を利かせる未来など加藤はこれ以上ないほど気に入らないと思っている。

 

 空はヒトの手にあるべきだ―――大昔、鳥のように空を飛びたいと願い、自ら大空を舞う翼を生み出したのは他ならないヒトなのだから。

 

 大気圏に突入したところで、機体の後方からの接近警報が鳴り響いた。

 

 敵の攻撃ではない―――ヤマト、ムサシ、シナノの3隻から放たれた長距離ミサイルだ。

 

「よし、やるぞ。全機”槍”を放て」

 

 味方機に指示するなり、加藤はコスモタイガーⅡの操縦桿にあるスイッチのガラスカバーを指で弾いた。

 

 彼らの目的は敵航空隊、及び対空兵器の排除である。そうしなければ、鈍重な”コスモシャーク”で構成された第二次攻撃隊はまともな反撃も出来ずに撃墜されてしまう恐れがあるからだ。

 

 既に反応はある―――シナノとのデータリンクによると、シナノに搭載された早期警戒レーダーに引っかかった敵機は合計67機。

 

 カブトガニに似た例の航空機、”デスバテーター”だ。

 

「ヤンキー1、フォックス1!」

 

 ミサイルの発射スイッチを押した。

 

 パイロンから、マウントされていた空対空ミサイルが切り離される。同時にふわりと機体が軽くなったかと思いきや、ロケットモーターに点火して、ミサイルはあっという間にテレザートの空へと消えた。

 

 加藤だけではない、他の航空隊のパイロットたちも同様にミサイルの発射を宣言しながら、搭載された長距離ミサイルを発射している。

 

 ごう、と雲海の向こう側で紅蓮の花が咲き乱れた。

 

 レーダーの反応が一気に消失―――してはいない。

 

 むしろ増えている!

 

『Warning, missile approaching. Avoid(警告、ミサイル接近中。回避せよ)』

 

「くるぞォ!」

 

 増えた反応の正体は、敵の長距離ミサイルだった。

 

 味方に警告を促すなり、「散開(ブレイク!)」と指示を出し、ミサイルの発射でいくらか軽くなったコスモタイガーⅡの翼を翻させる。

 

 パイロットをやっていて一番聴きたくないビープ音がコクピットで何度もリフレインする。急加速と急旋回、急減速を巧みに組み合わせてミサイルを回避する加藤。ガミラス戦役を生き抜いた撃墜王の前では、如何に高精度なミサイルであっても回避するのは容易い。

 

 しかしそのための無茶な機動(マニューバ)は、情け容赦なく加藤の身体にGとなって牙を剥いた。航空隊用のパイロットスーツには対Gの効果があり、ガミラスから導入した技術で更にそれを高めているが、完全にGを打ち消してくれるわけではない。

 

 加えて、コスモタイガーⅡはコスモファルコンよりも軽快で機動性に優れ、加速も速い。それを組み合わせればミサイルを曲芸のような動きで回避する事も出来るが、パイロットの身体にかかる負担は相当なものとなる(それを防ぐためにリミッターがかけられている)。

 

 バイザーの内側に籠る自らの呼吸音と、コクピットの中に鳴り響くビープ音。無機質な女性の機械音声が回避を促し、加藤の意識を急かすように駆り立てる。

 

 目を見開き、視界を頭上へと向けた。

 

 他の仲間たちは無事なのか―――何機か翼端から煙を噴き上げたり、炎の華と化すものが見えたが、味方が撃墜されたのか、それともミサイルの爆発なのかまでは判断がつかなかった。

 

 地獄のようなミサイルの雨を掻い潜る加藤の視界の端に、地球に残してきた妻子の写真が映り込む。

 

(待ってろよ、翼……!)

 

 ぐっ、と歯を食いしばった。

 

 声にならない声を漏らしながらGに耐え抜き―――開けた視界の先に、カブトガニにも似た敵の攻撃機を睨む。

 

 ガトランティス軍の攻撃機、デスバテーターだ。

 

 唐突に雲海を突き破り、獲物を狩る猛禽の如く飛び出してきた加藤のコスモタイガーⅡに慌てふためいているのだろう。背面に背負った回転砲塔を回転させ、ガトリング砲さながらに緑色のビームを射かけてくるが、加藤を落とすつもりであればあまりにも狙いが甘すぎた。

 

 至近距離に潜り込み、12.7mm機銃とパルスレーザーの掃射を浴びせかける。

 

 ガガガ、とデスバテーターの分厚い装甲に火花が散った。

 

 デスバテーターは、コスモタイガーⅡのように高速での格闘戦を想定した機体ではない。むしろ分厚い装甲と余裕のあるペイロードを生かし、遠距離からミサイルの飽和攻撃を行ったり、敵艦への対艦攻撃に投入する事をコンセプトとして開発された機体だ。

 

 とはいえ機動性が皆無というわけではなく、練度の高いパイロットが乗り込めば無駄のない動きによる機動性と持ち味の打たれ強さ、そして機体正面に6門も搭載した大口径レーザー機銃の火力が猛威を振るう恐ろしい相手と化す。

 

 が、加藤から言わせればガミラスの航空隊ほど手強いとは思えない。

 

 機銃を浴びたデスバテーターが主翼の付け根から紫色の煙を吹き出し、錐揉み回転しながら斜めに落ちていく。グァァァァ、と重々しく空気を引き裂きながら落ちていく音は、大昔の空戦―――それこそレシプロ機の全盛期を思い起こさせる。

 

 加藤に続くかのように、ミサイル攻撃を回避した他の仲間たちもガトランティス航空隊に果敢に切り込んだ。

 

 コスモタイガーⅡの中に1機だけ、ガミラスの機体が紛れているのを加藤は見逃さない。

 

 コスモタイガーⅠ―――コスモタイガーⅡとの正式化競争に敗れた、ガミラス製の戦闘機である。

 

 いうならばガミラスの企業が地球向けに開発したツヴァルケであり、ソフトウェアや操縦システム、アビオニクスなどが地球仕様に改められている。性能は優秀であったがヤマト航空隊でも対抗できた機体の焼き直しに過ぎない事、そして何より『自国の兵器は自国で』という国産化志向も追い風となりコスモタイガーⅡが採用された、という経緯がある。

 

 パイロットは山本だ。

 

 まるで舞うような動きから急加速、鋭角的な機動でデスバテーターのレーザー掃射を躱していく。

 

 その動きはまるで、相手のパンチを躱し至近距離まで肉薄するボクサーのようにも見えた。

 

 敵機の下顎をアッパーカットで殴りつけるかの如く、地球仕様のツヴァルケ―――コスモタイガーⅠに搭載されたレーザー機銃が全門火を噴いた。

 

 高出力のものを搭載しているのだろう。デスバテーターの分厚い装甲を容易く撃ち抜き撃墜に追いやるや、山本は機体をくるりと回転させて次の相手へと襲い掛かっていく。

 

 俺も負けてられない―――部下の活躍を見せつけられ、加藤もバイザーの中で笑みを浮かべた。

 

 

 





コスモタイガーⅠ

 コスモファルコンに代わる次世代航空機としてガミラスの企業が提案した航空機。ガミラス軍で採用され高い評価を受けているツヴァルケをベースに、アビオニクスや操縦システム類を地球仕様に改めた機体。
 本家譲りの機動性と地球からの要求で搭載された高出力レーザー機銃による火力は圧巻で、対G装備もコスモタイガーⅡのものよりも優れているとされ、無人機のような挙動も可能となっている。

 総じて優秀な機体ではあるのだが、地球からは『ヤマト航空隊でも対抗できた機体の焼き直しに過ぎない』という辛辣な評価が下され、加えて『自国の防備は自国の装備で』という国産化志向が追い風となりコンペには落選した。

 現在ではごく少数が軍に納品され比較試験目的で運用されている。山本が受領したのもそのうちの1機である。





コスモタイガーⅡ

 コスモファルコンに代わる次世代戦闘機のコンペで選定された次世代機。コスモファルコンのデータを基に、基礎性能を底上げする方向で各種性能を拡張。ヤマトがイスカンダルへの航海で得たデータやハヤカワ・インダストリーがガミラスに送り込んだ産業スパイから得た情報も盛り込んで完成した。製造は機体と兵装が南部重工、ソフトウェアがハヤカワ・インダストリー。
 
 機動性、火力、加速性能、拡張性に優れ、自力での大気圏突入と離脱が可能で航続距離も長大と非の打ち所の無い傑作マルチロール機。ただし機動性と加速性能の向上の結果、人体では危険なレベルのGが発生する挙動も可能となってしまった事から、全ての機体にはリミッターが設けられている。

 拡張性に優れた設計のため、本機をベースにレドームを背負った電子戦仕様機『コスモアイ』、加速性能を突き詰め迎撃戦闘機仕様となった『コスモセイバー』、主翼をデルタ翼に変更しエンジンを大口径化、旋回機銃を追加しペイロードを増加させた爆撃機仕様の『コスモシャーク』などの派生型が存在するほか、南部重工より性能向上型のB型の開発とアップグレードがアナウンスされている。




ブラックバード

 コスモゼロをベースとした無人戦闘機。キャノピーごとコクピットは撤去され、代わりに制御ユニットと装甲、複眼型センサーが搭載されているのが外見上の特徴。母艦、あるいは編隊長機からの制御か、あるいはAIによる完全自律制御を選択できる。

 ガミラス戦役後、慢性的な人材不足に喘ぐ地球防衛軍が推し進める省人化/無人化政策の一環として開発された機体であり、母体にはコスモゼロが選定された。将来的には航空隊の完全無人化、あるいは編隊長機のみを有人機とした混成運用が想定されている。

 

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