さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
機体下部に搭載された観測ポッドからの映像を見て、コスモタイガーをベースとした攻撃機『コスモシャーク』の後部座席に座る村上軍曹は目を疑った。
惑星テレザートは地表の実に9割が海に覆われている。陸地といえばテレサの神殿のある大陸と、その周囲に浮遊する無人島くらいのものだ。だからここからでもはっきりと見える大陸の守備隊に集中攻撃をかければいい。
しかし観測ポッドから伝達されてくる最大望遠の映像に映っていたのは、とんでもない代物だった。
―――ラスコー級巡洋艦が、地表に埋まっているのだ。
船体中央部の楕円形の部位から上を地表から露出させ、艦の上部に搭載された回転砲塔から緑色のビームをこれでもかというほど射かけてくるのである。
「何だありゃあ」
『トーチカですかね?』
「トーチカだァ? 巡洋艦を埋めてトーチカにってか?」
実際、大昔の大戦では戦車を陣地に埋めて砲塔だけを露出させ、簡易的なトーチカとして防衛戦に転用した事例は数多くある。
防衛戦術の一つとして防衛大学の教本にも出てきたし、その厄介さがこれでもかというほど記載されていた。車体が埋まってる分車高が低く発見が困難で、そのうえ装甲は戦車譲りであるため堅牢。火力もそれに準じたものだから歩兵にとっては脅威となる、と。
だからそういうものがある、という知識はあった。
しかし―――それを宇宙巡洋艦でやる、というスケールのケタの違いに、頭の中が一瞬バグりそうになった。
何のために、と機関部をズームアップするが、エンジンノズル周りに爆発したような跡がある。
おそらくヤマト艦隊がテレザートにやってくる以前に何かエンジントラブルか、それか他の艦と接触事故でも起こし飛び立てなくなってしまったものなのだろう。それでヤマト艦隊の到着に備え、やむなくああやって地表に埋めて艦そのものをトーチカにした、というところか。
いずれにせよ、あの火力は歩兵部隊にとって脅威となる。
「仕留めるぞ」
『了解』
「アックス1よりアックス2、アックス3、レーザー指示の目標に攻撃を集中させろ」
部下たちに命じるなり、村上は慣れた手つきで手元のコンソールを弾いた。観測ポッドをレーザー照準モードへ切り替え、眼下のラスコー級巡洋艦を転用した超大型トーチカへ照準を合わせる。
レーザー照射を受けた事を察知したのだろう、ガトリング砲よろしく回転していたお椀型の回転砲塔の矛先が、遥か頭上を飛翔するコスモシャークへと向けられる。
素早く手元のスイッチを弾きECMを展開。ただでさえ当たるかどうかわからない程度の命中精度の砲撃が目に見えて悪化する。
《”コスモアイ”よりアックス1、6時方向より敵航空隊の残存戦力が接近中》
「クソが」
まだ生き残りが居たのか、と操縦席で操縦桿を握る宮野が吐き捨てるように言う。
コスモシャークには、機体後部に連装パルスレーザーを搭載したレーザー砲塔がある。射手も乗り込んで臨戦態勢に入っているものの、コスモタイガーと違ってコスモシャークは鈍重だ。そのペイロードの殆どを空爆用の各種照準システムや対地兵装に割り振っているのだから、敵機を躱しながらの空爆など出来る筈もない(対地兵装を全て外したうえでエースパイロットが操縦するならば話は別だ)。
《ヤンキー1よりアックス1、空爆を続行されたし》
「助かる、背中は任せた」
背後から接近する敵機(デスバテーターとは形状が違うようだ)の頭上から、12.7mm機銃とレーザー機銃の弾雨が降り注ぐ。
たまらず爆散する先頭の機体。唐突に頭上から襲ってきた敵機の姿に、ガトランティス航空隊が目に見えて狼狽するのが分かった。
太陽を背にして逆落としの急降下で突っ込んできたのは、1機のコスモタイガーⅡ。垂直尾翼と主翼に『誠』のマーキングがある。
加藤の機体だ。
凄腕の隊長機に、ヤマト航空隊の面々が続く。頭上から鉄槌の如く繰り出される機銃の雨にガトランティスの航空隊は1機、また1機と煙を吹いて、テレザートの海へと落ちていった。
「―――
『アックス1、
がごん、とパイロンから大型の爆弾が投下される。
レーザー誘導式の誘導爆弾だ。パイロンから切り離されるなり安定翼を展開した爆弾たちが、惑星テレザートの重力に引かれて落下を開始。勢いを乗せつつビームの雨を掻い潜り、トーチカと化したラスコー級へと向かっていく。
アックス2とアックス3もそれに倣い、爆弾を投下。合計6発のレーザー誘導爆弾が、前代未聞の巡洋艦トーチカへ向かって落下していく。
宇宙時代になり、一度はこういった爆弾という類の兵器は廃れた。
そもそも爆弾とは投下する物であり、それは重力があるからこそ成り立つ攻撃方法である。重力もなく、あったとしても地球と同等の重力である保証がない宇宙空間や他の惑星での戦闘において不確実な兵器とされた爆弾は、早々にミサイルに置き換えられ姿を消しつつあった。
だが、爆弾にはミサイルと違う明確な利点がある。
センサーや各種装置、そしてロケットモーターといった機構を組み込む必要がなく、余裕のあるペイロードいっぱいに爆薬を搭載できるという点だ。
そして落下の勢いを乗せたそれは、直撃すれば宇宙戦艦にすら大打撃を与えうる強烈な一撃として機能する。
そういう利点もあって、用途は以前よりもかなり限定されるものの、爆弾というカテゴリーの兵器体系は防衛軍の中で確かに息づいていた。
対空砲火に絡め取られ、1発の爆弾が空中で爆発する。
しかしそれだけだった。残る5発の爆弾たちは殺意を込めて直進するなり、地中に埋められたラスコー級の前部甲板を強かに打ち据えた。
落下の勢いを乗せた大重量の爆弾たちはラスコー級の上面装甲を貫通。艦内で立て続けに起爆したのだからたまったものではない。装甲の繋ぎ目や回転砲塔の接合部から紅蓮の炎を芽吹かせるなり、トーチカと化したラスコー級は沈黙。中小規模の爆発を何度か繰り返し、燃え盛る鋼鉄の棺桶と化した。
「アックス1よりヤマト、アックス1よりヤマト。地上の脅威を排除した。空間騎兵隊の降下を」
《了解した》
攻撃隊の仕事は、これで終わりではない。
シナノに帰投し燃料と弾薬の補給後、今度は上空に待機して空間騎兵隊の航空支援を行わなければならないのだ。
彼らが無事に進撃できるか否か―――それは航空隊の空爆に懸かっていると言っても過言ではない。
マガジンに7.62mm弾をクリップで装填し、ポーチに放り込む。
これでもかというほど取り付けたマグポーチには大量のマガジンが差し込まれており、グレネードポーチにも携行可能なだけのグレネードを放り込んだ。既に照準器は艦内の射撃訓練場でゼロイン済み、その他装備品の細かな調整も済んでいる。
スラスター付きのバックパックを背負って外に出ると、既に艦内通路には空間騎兵隊の面々がずらりと並んでいた。
皆、目つきが真剣……いや、そんなお行儀の良い連中ではない。まるでこれから獲物に喰らい付こうとする、肉食獣のそれだ。
無理もない。ここにいる空間騎兵隊は皆、第十一番惑星の地獄を生き延びた
その眼光が狙うはガトランティス兵の首―――志半ばで散っていった、仲間たちの仇討ちのみ。
「いよいよだ。最近は全く出番が無くてな、このまま待ちくたびれて死ぬかと思った」
来る日も来る日も艦隊戦ばかりだ。空間騎兵隊の仕事と言えばこの日が来るまでに身体を鈍らせないよう訓練に精を出しつつ、艦に乗り込んでいる陸戦隊の訓練の相手をしてやることくらいだった。
この陸戦隊というのがなんともモヤシぞろいだ、と斉藤は思う。空間騎兵隊のような骨がない、根性がない。制圧射撃をかけてやるだけで逃げ出してしまうような連中である。
だがしかし、それも今日までだ。
第十一番惑星からここまで溜め込んだ恨み―――それを晴らす日が、ついにやってきた。
「目標は地上部隊の殲滅、及びテレサの発見……敵は制空権を喪失、だがそれでも十分な量の地上兵器と兵士を保持しているものと思われる。テレサの前に辿り着く頃には、この中の何人が生き延びている事か……」
「ハッ、良いじゃないですか」
古株の天城が言った。
「こんなの、月面でガミラスの空爆に耐えていた頃よりはるかにマシだ……少なくとも殺すべき敵が目の前にいる。そうでしょう、隊長?」
「そうとも」
にいっ、と斉藤も笑みを浮かべた。
「安心しろ、今度は敵が目の前にいる。俺たちとの殴り合いに最後まで付き合ってくれるそうだ。地獄までの最終ラウンド、満喫しようじゃねえか!」
拳を振り上げると、空間騎兵隊の隊員たちも同じように拳を振り上げた。
「死にぞこない共! 生温い遠足の時間は終わった! ここから先は俺たちの時間だ! 空間騎兵隊、行くぞ!!」
『『『『『応ッ!!!』』』』』
「行くぞ!!」
『『『『『応ッ!!!』』』』』
「行くぞ!!」
『『『『『応ッ!!!!!』』』』』
部下たちが駆け足で格納庫へと向かっていく。
この中で何人生き残るか―――自分の発した言葉が棘のように心に刺さる嫌な感触を覚えながら、斉藤は第十一番惑星で戦死した古橋のドッグタグを取り出した。
血に塗れたそれを握り締め、堅く誓う。
(古橋……見てろ。仇取るからな)
死者は何も言葉を返さない。
既に死んでしまった者と遺志を通わせる事など、もう出来ないのだ。
だから生者に出来る事は、その哀れな死者たちの死に、その生涯に”意味”を与えてやる事だけだ。
彼らの死には意味があったのだ、後世に大切なものを遺したのだ―――この遍く大宇宙の片隅にそう刻んでやる事こそが、死者への最大の手向けとなるのだ。
少なくとも斉藤は、そう信じている。
ヤマトの艦底部にあるハッチが、音を立てて開いた。
四角く切り取られたそこから見えるのは、蒼く輝く美しい惑星の大陸―――あのどこかにいるのだ、テレサが。”宇宙の女神”が。
「装甲車両、投下開始!」
榎本の声を合図に、ビー、とブザーが鳴り響いた。
艦載機の代わりにセットされた車両用の大型パレット。そこからパラシュートが伸びたかと思うと、強烈な空気抵抗を受け、装甲戦闘車量を乗せたパレットが火花を散らしながら艦の外へと吸い出されていく。
スラスターで姿勢を制御しながら投下されていく装甲戦闘車両たち。ヤマトからだけでなく、ムサシやシナノからも次々に戦車や装甲車が投下されている。
どれも第十一番惑星で無事だったものを急遽積み込んだものだ―――彼らだって、仲間の仇を取りたいに違いない。戦車に意思があったならば口をそろえて言う筈である。
「隊長」
間もなく歩兵の降下時間だ―――緊張感が高まる中、背後から言葉を投げかけたのは古代進その人だった。
見送りに来てくれたのだろうか。
「第十一番惑星の無念、晴らしたい気持ちはよく分かる。だが……この戦争が終わったら、いや、戦争が終わった後だからこそ君たちのような軍人が必要なんだ。どうか無事に帰ってきてほしい」
「……がっはっは、そうかいそうかい!」
豪快に笑い、古代の肩をバシンと叩く斉藤。さすがに痛かったようで古代が顔を歪めたが、斉藤はまったく気にしなかった。
斎藤の悪い癖だ。豪快で、誰にもああやって接する竹を割ったような性格の男だが、その反面力加減だったり、空気を読むという行為が苦手なのだ。
「いやー、参ったな。俺ァ別にこの星に骨を埋めても良いって思ってたんだけどよ。戦術長殿にそう言われちゃあ帰ってくるしかなくなっちまったァ。なあお前らァ!」
ははは、と笑う声が疎らに聞こえてきた。
「なあに、心配すんな。あんなミドリムシ共に後れを取る空間騎兵隊じゃねえ。それよりド派手な花火を打ち上げてやるからよ、目ェかっ穿ってよぉく見てな」
「あ、ああ」
「空間騎兵隊、降下1分前!!」
「―――じゃあな、古代」
「ああ。ご武運を」
ぐっ、と互いに拳を突き合わせ、斉藤は元の位置へと戻った。
確かに古代の言う事も一理ある―――戦後だからこそ、戦争の悲惨さを知る軍人が必要なのだ、と。
それに空間騎兵隊の部下たちも皆、ヤマト艦内で出された食事が気に入っている。特に毎週金曜日に出されるカレー、あれは絶品だった。ヤマトではビーフカレーだがムサシではシーフードカレー、シナノではフルーツカレーなのだそうだ。
あれにありつくためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。
「降下30秒前!」
気が引き締まる。
ここから飛び出せば、そこはもう戦場だ。
仲間の仇を討つか、それとも死ぬか―――結果は2つに1つである。
「用意、用意、用意―――降下、降下、降下ァ!!!」
ビー、とブザーが鳴り響いた。
先頭に立っていた隊員たちが走り出し、艦底部のハッチから惑星テレザートへと次々に身を躍らせていく。
お先に、と言い残し、永倉と天城、それから仙堂たちも艦から飛び降りていった。
最後に1人残った斉藤は、降下していない部下がいないかを素早くチェックしてから、臨時でジャンプマスターを務めた榎本に向かって敬礼し、腹の底から声を絞り出す。
「―――お世話になりましたァッ!!!」
おう、行ってこい―――榎本の豪快な声に背中を押され、斉藤もヤマトから身を躍らせた。
目指すは眼下、惑星テレザート。
蒼く輝く、美しい地獄へ。