さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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テレザート、鉄火の嵐

 

 どう、と車両用パレットとパラシュートを繋ぐ支柱部分に設置されたロケットモーターが動作して、パラシュートの空気抵抗でも減速しきれない分の力を強引に抑え込む。

 

 濛々と舞い上がる土煙の中、着地するなり次の変化がすぐに表れた。パレットの各所に搭載されていた爆裂ボルト―――部品や装備品の強制排除のために火薬を仕込んだ点火用ボルトが瞬時に炸裂して、装甲戦闘車両を雁字搦めにしていたパレットたちが次々に切り離され始めたのである。

 

 それを合図に、戦車や装甲車たちの砲塔部に搭載されたセンサーユニットに蒼い光が燈った。

 

「小隊全車、降下を確認」

 

「小隊前進、全車我に続け」

 

 空母シナノから投下された戦車―――【01式戦車】に乗る”大宮正臣(おおみやまさおみ)”軍曹はマイクに向かって言うなり、戦車4両で構成される第一小隊を前進させた。

 

 01式戦車の形状は、大昔に地球の日本で運用されていた10式戦車に酷似している。旧来の戦闘車両を参考に、地球と、ガミラスからもたらされた新技術を融合させて誕生したのがこの01式戦車である。

 

 設計に際してはガミラスのサルバー戦車が参考とされており、低重力下でも運用が可能なよう上部方向へと向けられたスラスターも搭載されているほか、戦車から射出可能なドローンも装備している。

 

 宇宙戦艦にも搭載可能なよう、より軽くコンパクトに設計されている点もあって、大昔の10式戦車同様のコンパクトな車両として仕上がった戦車と言えよう。

 

 戦車の砲塔から顔を出し、大宮軍曹は空を見上げた。

 

 上空ではちらほらと炎の華が芽吹いている。レーザー機銃の掃射を受け、穴だらけになって斜めに落ちていくのはいずれもガトランティスの航空隊ばかりだ。テレザートの空は既に掌握したも同然と言っていい。

 

 これで不安材料の一つは消えた。

 

 上空からの情け容赦のない空爆で一方的にタコ殴りにされるなど、地上部隊からすればこの上ないほどの屈辱である。それが火力に特化したガトランティスによるものなど、考えるだけでゾッとしてしまうほどだ。

 

《コスモアイより戦車各小隊へ通達、敵機甲部隊を確認。12時方向、距離12000。彼我の戦力差は1対2と推定》

 

「了解―――小隊全車、初弾装填。弾種徹甲」

 

「了解、弾種徹甲」

 

 重々しい音を立て、砲塔後部の弾薬庫から砲弾が140mm滑腔砲へと装填されていく。砲尾の閉鎖機が閉鎖される音を聞きながら、大宮軍曹は砲塔から車内へと引っ込んだ。

 

 友軍機とのデータリンクが確立されている事を確認、映像をチェックする。

 

 映像にはガトランティス側の機甲部隊が待ち構えている様子が確認できた。第十一番惑星でも交戦した、回転砲塔を持つ多脚戦車の姿も確認できるが、大宮が目を見張ったのはそれらに紛れて配備されている兵器だった。

 

 多脚戦車に混じり、連装砲を搭載した通常型の戦車も確認できる。

 

 ガトランティスといえば、あの回転砲塔で節操なくビームを撒き散らすイメージが強いが、ごく少数とはいえああいった砲身付きの兵器も運用が確認されている。別に驚く事ではないが、しかし今までに地球防衛軍が遭遇した事のないタイプの兵器である事に違いはない。

 

(2種類の戦車の混成運用……何が目的だ?)

 

 一種のハイローミックス運用……ではないだろう。そもそも、ガトランティス人に”コスト”という懸念材料があるかどうかも疑わしい。

 

 そうなると考えられるのが、主砲の貫徹力や命中精度であると考える事が出来る。

 

 あの回転砲塔は連射速度こそ圧倒的だが、反面命中精度はお世辞にも良いとは言い難く、砲塔を旋回させているベアリングの摩耗度合いによって命中精度に影響が出るという砲手泣かせの兵器である。

 

 加えて肝心なビーム発振器も技術の限界ゆえか、低出力のユニット4基を砲口内部に並べて連動して発射する事でエネルギーを増幅させるという、力業でとりあえず威力を確保している状態だ。

 

 回転砲塔を搭載したタイプが連射速度に物を言わせ歩兵部隊を制圧する一種の”歩兵狩り用”の兵器なのであれば、あの砲身を持つ連装砲搭載型戦車は対戦車用の兵器である可能性が高い。

 

 厄介な、と唇を噛み締める大宮の耳に、コスモシャーク隊のエンジン音が届く。

 

 戦車第一、第二、第三小隊の頭上を、5機のコスモシャークが通過していったのである。戦車部隊に先んじて敵を攻撃しようというのだろう。

 

 それだけではない。

 

《こちらヤマト、こちらヤマト。敵機甲師団集結地点に対し、主砲による砲撃を敢行する》

 

「了解。小隊全車、進撃停止」

 

 停車を命じたところで、ドドドン、と豪快な爆音が轟いてくる。

 

 コスモシャーク隊が対地攻撃を開始したのだ。

 

 コスモアイからの映像を確認してみるが、コスモシャーク隊のパイロットたちも、ヤマト航空隊に勝るとも劣らぬ猛者ばかりである事が分かる。敵の対空射撃を掻い潜りつつ対戦車ミサイルを発射。敵戦車を撃破しつつ、行きがけの駄賃とばかりにクラスター爆弾まで投下するなり歩兵と軽装甲車両をスクラップに変え、敵戦力を面白いほどごっそりと拭い去ってしまう。

 

 中には機銃とパルスレーザー、あるいはビームキャノンの掃射で敵戦車を火達磨にする猛者も見受けられた。

 

 そして彼らが攻撃を済ませて飛び立った後に―――遥か頭上からの死神の鎌が振り下ろされる。

 

《3、2、1―――だんちゃーく、今》

 

 南部砲術長が弾着のタイミングを通達した直後だった。

 

 それはまるで、雷に撃たれたかのような轟音。

 

 あまりにもの爆音に、聴覚が死んだのではないかという錯覚すら大宮軍曹は覚えた。それほどまでに凄まじい爆発は敵の機甲戦力を根こそぎ吹き飛ばし、空間騎兵隊の進撃経路上に巨大なキノコ雲を形作っていた。

 

 主砲三式弾による対地砲撃―――冥王星攻略作戦(メ2号作戦)でも行ったそれは、ガミラスの惑星間弾道弾への誘爆で核爆発にも匹敵する破壊力へと成長したと記録されている。

 

 しかし今のヤマトが改装で更なる力を手にしたように、三式弾にも南部重工の手が加えられている。

 

 通常の炸薬に波動エネルギーを少量だけ添加した”複合炸薬”により、三式弾もまた破壊力を大きく増しているのだ。改装の優先度はそれほど高くないとはいえ、万一波動エンジンが停止してしまった場合はメインの武器ともなり得るという判断から、三式弾にも改良が加えられる事になったのだという。

 

『隊長……これ、俺たちの出番あるんですかね?』

 

「……あるだろ、たぶん」

 

 そうでなければ困る。

 

 空間騎兵隊の一員としてここにやってきたのは、第十一番惑星の無念を晴らすためでもあるのだ。自分たちにも戦いの場を遺してもらえなければ、死んでいった仲間を弔う事も出来はしない。

 

《ヤマトより空間騎兵隊各位、本艦は惑星上空で旋回中。砲撃要請はいつでもどうぞ》

 

「了解」

 

《コスモアイより空間騎兵隊、敵機甲師団の前進を確認》

 

 来るか、と呟き、大宮はキューポラに搭載されている望遠カメラを最大望遠に切り替え、モニターをチェックした。

 

 濛々と立ち昇るキノコ雲の根本―――先ほどの砲撃を生き延びたのだろう、塗装の剥げ落ちた戦車たちが傷だらけの歩兵や、馬のような動物に跨った騎兵たちと共に進撃してくる。

 

 それを見て、大宮は―――彼だけではない。空間騎兵隊の兵士たちが皆、腹を括った。

 

 あれだけの空爆に、核爆発を思わせる熾烈な艦砲射撃―――制空権もなく、援軍の保証もない死にかけの軍隊であるというのに、それだけの逆境に直面しておきながら、ガトランティスの兵士たちの目に絶望の色はない。

 

 むしろ、笑みを浮かべる兵士すら見受けられる。

 

 彼らは奮い立っているのだ―――この絶望的な現実を前に。

 

 抗ってみせよう、爪痕を残してご覧に入れよう、この一戦はのちの世まで語り継がれよう―――そのためだけに死に場所へとやってきたようにも思え、その異様さに大宮は息を呑む。

 

(なるほど、連中との戦争が終わらないわけだ)

 

 国が違えば、メンタリティも違う。

 

 星が違えば、同じくメンタリティや価値観も変わってくる。

 

 彼らにとって戦争とは忌避するべきものではなくむしろ望むべきもので、平和こそが忌避すべきものなのだ。

 

 どちらかが滅びぬ限り終わらぬ戦い。

 

 その果てに”人間らしさ”すらかなぐり捨てたグロテスクな結末を垣間見た大宮は息を吐き、攻撃開始を命じた。

 

「小隊全車、敵戦車へ照準合わせ」

 

『照準ヨシ!』

 

「撃ち方始め!」

 

 ドン、と01式戦車に搭載された、虎の子の140㎝滑腔砲がテレザートの地で火を噴く。

 

 発射された砲弾はある程度飛行するや、ガトランティス兵たちの頭上に到達する遥か手前で空気抵抗を受け、空中分解を始めた。

 

 ぼろり、と脱落したサボットの中から姿を現すのは、まるで捕鯨船の漁師たちが巨大なクジラ目掛けて投げ放つ(ハープーン)を彷彿とさせる鋭利な砲弾。

 

 『APFSDS』と呼ばれる実体弾だ。

 

 軽く、それでいて硬質なそれは凄まじい弾速で一直線にガトランティス軍の戦車の正面装甲を直撃するや、激しい火花を撒き散らしながら―――”ユゴニオ弾性限界”を突破した。

 

 金属は、耐えられる限界を超過した圧力をかけられると流体と化してしまう性質がある。その限界点が”ユゴニオ弾性限界”と呼ばれる。

 

 ガトランティスの戦車を直撃したAPFSDSの先端部は着弾の瞬間にユゴニオ弾性限界を超えるなり、流体と化し―――大きく傘を開くかのように広がりつつ、接触した装甲を強引に削り始めた。

 

 弾芯部の先頭から流体化し変形、装甲を削り穴を穿ち、どんどん奥へ奥へと貫徹していく。

 

 やがて―――半分以上も残ったAPFSDSの弾芯が車内へ突入。車長席に座っていたガトランティスの戦車兵を一瞬にして引き千切ると、車内構造物を諸々ぶち抜きながら車体後部へと到達。エンジンにまで到達してようやく停止した。

 

 冷戦時代に誕生し、2000年代に洗練され、その後200年間もレーザー兵器と並んで配備され続けた実績を持つAPFSDSが、異星人の戦車にも通用する事が証明された瞬間であった。

 

『命中、撃破!』

 

「次弾装填、別命あるまで弾種同じ!」

 

 やはり実弾は効果が高い、と確信する。

 

 ガトランティス軍は防御を軽視し攻撃力を重視する傾向がある。もちろん完全なノーガードというわけではなく、必要最低限の防御力を持たせている場合が多いが、しかしそれでも装甲は薄いのが実情だ。

 

 ガミラスもそうだが、表面に対ビーム兵器用のコーティングを施して装甲を薄くしている事例が多く見受けられるのである。ガミラスもガトランティスも、実弾兵器がミサイルや魚雷を除いて廃れて久しいというのも理由の1つであろう(むしろ砲弾を今日に至るまで運用し続けている地球がおかしいのかもしれない)。

 

 多脚戦車が慌てて回転砲塔を旋回させビームを撒き散らすが、しかし悲しいほど当たらない。周囲を彩る緑色の荷電粒子ビームに微塵も怯まず、空間騎兵隊の戦車小隊たちは淡々と140mm滑腔砲を放ち続けた。

 

 2発のAPFSDSが立て続けに多脚戦車をぶち抜く。大量の火花を撒き散らし、うっすらと白煙を吐きながら、ギギギ、と装甲の軋む音を立てて崩れ落ちていく多脚戦車。

 

 そうしている間に、後続の【02式装甲戦闘車】たちも戦車部隊の後方へと展開した。主砲として搭載している35mmパルスレーザー砲を単発で放ちながら敵歩兵部隊を攻撃しつつ、車体後部のハッチから歩兵たちを降車させ始める。

 

《大宮ァ! 構わん、前進だ!》

 

 斎藤の声だ―――見ると、02式装甲戦闘車から降車した斉藤が空間騎兵隊やヤマト艦隊の陸戦隊を引き連れて、戦車の後方へと移動している。

 

 戦車を盾にしながら前進しようというのだ。

 

「了解です隊長! お前ら聞いたな、地獄に突っ込むぞ!」

 

『シャァァァァ!! 前進だオラァァァァァァ!!』

 

 ブォォ、と排気口から灰色の煙を噴き上げ、エンジンの唸り声を高らかに戦車たちが前進していく。

 

 ビームが戦車の装甲を打ち据えるが、しかし表面に施されたガミラス式のミゴウェザー・コーティングがその貫徹を許さない。油膜が水を弾くように、ビームの飛沫が明後日の方向へと散っていく。

 

 戦に燃えているのはガトランティスだけではない。

 

 空間騎兵隊もまた―――飢えたる虎の如く、その目を爛々と輝かせているのだ。

 

 

 





01式戦車

 西暦2201年に地球防衛軍が採用した主力戦車(MBT)。140mm滑腔砲を主砲として搭載している他、砲塔上部や主砲同軸に7.62mm対人機銃、または12.7mm対物機銃を搭載可能。主砲は対人用の榴弾やエアバースト弾、キャニスター弾の他、対戦車用のAPFSDSなどの実弾に加え、波動コンデンサーからエネルギーを充填する事で140mmショックカノンの発射にも対応している多目的砲塔である。戦車というよりは、ヤマト級の主砲を小型化し戦車に搭載したような兵器と言っていい。

 開発は車体と兵装を南部重工が、戦闘用の各種ソフトウェアをハヤカワ・インダストリーが担当したほか、車長用の暗視スコープなどの一部電子機器はハヤカワの子会社『土門電子』が担当した。

 地上戦力としてだけでなく、宇宙戦艦と連携し空挺降下する事も想定しているため車体は軽量でコンパクトなサイズに収められており、その姿はかつての自衛隊の10式戦車に酷似している。

 乗員は操縦手、砲手、車長の3名。





 02式装甲戦闘車

 西暦2202年に採用された歩兵戦闘車(IFV)。上記の01式戦車とのファミリー化構想の一環として開発された車両であり、車体は21式戦車と同じものを使用している(完全に同じではなく、エンジンのレイアウトや兵員室の有無などが異なっている)。主砲は35mmパルスレーザー砲、砲塔両側面に連装型の対戦車ミサイル発射機を搭載。副武装は主砲同軸の7.62mm対人機銃。

 開発は車体と兵装を南部重工が、ソフトウェアや兵員室のハッチ開閉システムはハヤカワ・インダストリーが担当した。

 こちらも空挺降下を想定しているためコンパクトサイズとなっており、ドレッドノート級の格納庫に艦載機の代わりに収容可能となっている。これら陸上戦力の充実によりアスカ級の一部を強襲揚陸艦仕様として運用する事が決定され、一部の艦に改修が施されている。

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