さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「陸戦隊、戦力損耗率20%を突破」
微かに震える雪の声に、古代は目を細めた。
淡々と報告が上がってくる友軍の損耗率。それは兵器の損害だけではなく、命どれだけの命が失われたかという事実に他ならない。
ガミラス戦役で多くの命が失われ、その現場を見てきたからこそ、淡々とした統計上のデータの後ろには生々しい現実があるのだと殊更意識してしまう。
雪の声は、だからこそ震えているのだ。
艦長席で腕を組む土方の顔には、苦い色が浮かんでいた。
テレザート攻略作戦の懸念事項―――それは”空間騎兵隊の頭数がどうしても少ない”という事だ。
テレザート上陸作戦において地上部隊の主役となるのは、紛れもなく空間騎兵隊である。実戦経験が豊富で第十一番惑星の仇討ちに燃える彼らは士気も高く精強。地上戦力としての切り込みを期待するのであれば最良の選択肢と言えよう。
しかしヤマト艦隊に分乗している彼らは、あくまでも第十一番惑星駐留部隊の生き残りでしかない。
突然の奇襲で多くの損害を出した空間騎兵隊の生き残りは、決して多くなかった。
だからこそ、不足分の兵員はヤマト艦隊の陸戦隊から抽出した。保安部や戦術科の余剰人員から抽出した人員で陸戦隊を募り、テレザートに到着するまでの間は空間騎兵隊による訓練を受けさせることで頭数を確保せざるを得なかった。
そうでなければ、空間騎兵隊は10倍以上のガトランティス軍と戦う羽目になっていったはずだ。ヤマト艦隊の支援砲撃と、航空隊の空爆をいつでもリクエストできるとはいえ、さすがにそれは彼らの荷が重すぎると言わざるを得ない。
雪からの報告がなくとも解る―――その20%の損害の大半は、艦隊の余剰人員から抽出した陸戦隊であろう、と。
「方位修正、右3度、仰角プラス2度」
空間騎兵隊からの艦砲射撃要請に基づき、ヤマトの第一、第二、第三砲塔がゆっくりと右側へ旋回した。そのまま砲身を持ち上げるや、虎の子の48㎝砲が吼える。
どどう、と重々しい咆哮を発し、合計9発の砲弾が放たれた。
ショックカノンではない。三式弾だ。
エネルギー弾ではなく敢えて砲弾を選択したのは、大気によるエネルギーの減衰を考慮したという理由もあるが、一番は重力の存在である。
地球よりも遥かに強力な重力を持つ惑星であれば、確かにビームの軌道すら捻じ曲げられてしまう事もあるだろう(そういった環境を想定した照準プログラムもヤマトにはインストールされている)。しかし基本的にビームは直進する兵器であり、弾道の落下を考慮する事は殆どない。
それ故に”曲射”が出来ないのだ。
遮蔽物の向こう側にいる相手をビームで砲撃したいのであれば、遮蔽物をぶち抜けるほどの出力を確保した上で遮蔽物もろとも撃ち抜くしかないのである。
しかし砲弾であればどうか。
相手との距離に応じて装薬量を調整、仰角を付けてやれば遮蔽物を飛び越えて一方的な砲撃が出来る。加えてこの手の実弾兵器が廃れて久しいガトランティスやガミラスが相手であれば、遮蔽物を盾にしながら好きなだけタコ殴りにできるという特権付きだ。
加えて、ヤマトには”大砲屋”が乗り込んでいる―――この主砲を製造したメーカー、南部重工の御曹司にして砲撃のエキスパートが。
「……だんちゃーく、今!」
南部が報告するなり、メインパネルに投影された映像の一角で炎の花が咲き乱れた。
空間騎兵隊を砲撃するガトランティスの戦車群。そのど真ん中に着弾した三式弾が一斉に炸裂して、火山の噴火さながらの火柱を生み出す。
ヤマトに搭載されている主砲の口径は、地球防衛軍の中でも最高クラスのものだ。そんな主砲から放たれた砲弾の爆発を受けて、戦車が無事に済むわけがない。
回転砲塔を搭載した多脚戦車や、履帯の上に車体と連装型のビーム砲を搭載していたガトランティス軍戦車が爆風を受けて横転、あるいは擱座。着弾地点の近くにいた車両はもっと悲惨で、爆風をもろに受けて装甲を引き剥がされ爆発するものすらあった。
まさに巨人の一撃とも形容できる威力であったが、しかしガトランティス側も怯まない。
後続の戦車部隊が、友軍の残骸を踏み締めて進撃していく。
空間騎兵隊の機甲部隊も果敢に反撃するが、しかし数が違い過ぎる。戦車隊の砲撃で生じる爆発が、段々と空間騎兵隊の方へと押し流されていった。
「このままじゃ空間騎兵隊が……!」
「南部、次弾装填まだか!」
「この威力です、下手すりゃ空間騎兵隊を巻き込みますよ!」
島からの声に、南部も焦燥感を滲ませた声で応じた。
ヤマトの主砲の威力が見事に仇になった格好だった。確かに破壊力は地球防衛軍随一であるが、破壊力があるという事は周辺への影響を考慮した慎重な運用が求められるという事である。それこそ、味方や民間人を巻き込まないような細心の注意は必須事項と言っていい。
ガトランティス軍はそれを理解しているようだった。
だからこそ、空間騎兵隊からの決死の反撃を受けながらも前進し距離を詰めようとしている。交戦距離を近くする事により艦砲射撃と空爆という、ヤマト艦隊側の火力的アドバンテージを封じる作戦なのだ。
「……艦長」
すっ、と座席から立ち上がるなり、真田が意見具申する。
「例の兵器、ここで投入してみてはどうかと思うのですが」
「以前に言っていた”アレ”か」
副長と艦長のやり取りを背中で聴きながら、古代は頭の中にヤマトに積み込んだ兵器のリストを思い起こしていた。
その中にあったのだ。速河が実家から持ち込んだと思われる試作兵器が。
「よろしい、やってくれ」
「分かりました……古代」
「了解です」
座席を立つ前に通信で北野を呼び出す。エレベーターから駆け足でやってきた北野に必要事項を手早く引き継ぐなり席を立ち、心配そうに見つめてくる雪に視線で「大丈夫だ、心配するな」と告げてから、真田と共にエレベーターに乗り込んだ。
基幹エレベーターが第二艦橋でいったん止まり、速河も乗り込んでくる。
手にはいつも彼が持っている多目的タブレットがあった。
「速河、”アレ”の準備はどうなっている?」
「既に必要分の組み立ては済んでいますが……現地での最終調整が必要です」
「……真田さん、テストは?」
事実上、ぶっつけ本番での投入となる。その前に試射などは済ませたのだろうか―――そんな疑問が古代の口から言葉となって溢れ出たが、しかし返ってきたのは「そんな暇あるか」というぴしゃりとした返答だった。
格納庫へと向かい、コスモシーガルへと乗り込む。発進準備を済ませ、発艦許可を得るなりコスモシーガルを吊るしていたアームとの連結が外れた。エンジンの唸り声を高らかに、3人を乗せた機体がテレザートの空を舞う。
やや遅れて、ヤマトの艦底部にある艦載機用のハッチからパレットに乗せられた何かが投下された。ドラッグシュートで空気抵抗を受けながら引きずり出されたそれは、ロケットモーターの噴射で急減速しながらふわりと地表へ降下していく。
投下されたパレットの傍らにコスモシーガルを降ろすと、3人はパレットの方へと駆け寄った。
パパパン、と炸裂音が響き、パレットに搭載されていた爆裂ボルトが点火。火薬の力で金属製のフレームの結合を解除するなり、積み込まれていた兵器の姿を3人の前に晒す。
うっすらと立ち昇る煙の中から姿を現したのは、まるで複数の砲身をいくつも束ねた古めかしい外見の兵器だった。
車両での牽引も想定しているのだろう、車輪らしきパーツも見受けられる。車輪と、兵器を地表に固定するためのアウトリガー。その上に8×8本、合計64門もの砲身がずらりと束ねられている。
砲身側面にはボックスが設けられており、解放されたハッチの中には大量の小型ドローンが収められていた。
速河が手にしていたタブレットを操作すると、ドローンたちのスリットに一斉に赤い光が燈り目を覚まし始める。小さなローターを回転させる音を発しながらテレザートの空へと消えていくドローンたち。それを他所に、真田と古代は事前に読んだ説明書通りにアウトリガーを展開、砲身をしっかりと地面に固定させる。
「隊長、斉藤隊長、聴こえるか」
《古代か!?》
「敵との距離が近いせいでヤマトからの砲撃は出来ない。現在、”精密攻撃兵器”の展開作業を行っている。至急、こちらの指定する座標まで後退されたし」
《了解! 大宮ァ! 聞いただろ、後退だ! 永倉、弾幕張れ弾幕ゥ!!》
「”リフレクトドローン”、所定の位置に展開を確認」
上空に展開したドローンたちの機体下部が開いたかと思いきや、磨き上げられた鏡面を思わせる装甲が露出する。
『空間磁力メッキ』が搭載された特殊装甲だ。命中したビームを捻じ曲げ、反射する効果がある。大規模なものであれば波動砲すら曲げることが理論上可能であるとされており、現在それを用いた兵器も研究が行われているとの事だが、古代たちの知る由もない。
「”試製多弾頭反射砲”、エネルギー充填30%。
油圧式の仰角調整装置が動作、64門の砲身の仰角を調整し始める。
砲口内に、ショックカノンにも似た蒼い光が燈り始めた。
砲身の左側面に設けられた座席に座り、防盾の裏に用意されたコンソールを操作して安全装置を解除していく古代。ちらりと端末を見ると、空間騎兵隊は応射しつつ後退し、指定座標へと敵を誘引しているところだった。
やはりガトランティス軍の狙いは空間騎兵隊との距離を詰め、誤射の恐れを生じさせて艦砲射撃と空爆を封じる事にあったらしい。逃がしてなるものか、とぐいぐい距離を詰めていくのが反応からでも分かる。
あるいは、戦士として敵は残さず討ち取るべしとでも考えているのか(きっと両方だろう)。
「エネルギー充填、80%」
双眼鏡を覗く真田が「よし、敵が散布界に入った!」と報告する。
後はエネルギー充填を待つばかりだ。
「エネルギー充填、120%」
コンソールにある小型モニターに、波動砲の照準にも使う電影クロスゲージが立ち上がる。明度20に調整し、ドローンから転送されてくる空撮映像とハイライトされる散布界をチェック、敵が加害範囲に入っている事を確認するなり、古代は手元の引き金を引いた。
「発射!!」
カッ、と閃光が瞬く。
粘つくような音と共に、合計64門もの砲塔から一斉に発射されるショックカノン。外付け式のジェネレーターから十分すぎるエネルギー供給を受けた閃光たちは捻じれながら直進するなり、ドローンが展開する空へと舞い上がっていった。
そこで、変化が生じた。
編隊を組むドローンたちと64門のショックカノンたちが絡み合い―――上空で蒼いスパークを生じたかと思いきや、そのまま空を穿つ勢いで直進していたショックカノンたちが進路を強制偏向。打って変わって地上へと突き進んでいったのである。
それだけではない。
ショックカノンたちが炸裂したかのように閃光を発したかと思うと―――64発のショックカノン、その一発一発たちが、拡散波動砲の如く拡散して光の散弾と化し、相手の頭上から降り注いだのである。
それはまさに、炎の雨だった。
ショックカノンと比較するとずっと小さな光の礫。しかしそれは戦車の装甲を穿つに十分な威力を保持していた。
ガガガガガ、と炎の雨に上面装甲を滅多打ちにされた多脚戦車が炎を吐き出し爆発、そのまま動かなくなる。
連装砲搭載型の戦車も同様だった。分厚い装甲で耐えるかと思いきやあっという間に蜂の巣と化し、破孔から炎を芽吹かせてそのまま動かなくなってしまう。
戦車がその有様なのだから、歩兵も無事で済むわけが無かった。
高エネルギーの雨を浴び、一瞬で肉体を蒸発させられていく。
狩る側と狩られる側が見事に逆転した瞬間であった。
試製多弾頭反射砲
ハヤカワ・インダストリーが試作していた新型兵器。空間磁力メッキを塗布したドローンを用いる事で発射した64門の拡散型ショックカノンを偏向、任意の座標に撃ち込むことが可能な戦術兵器である。攻撃範囲が広く、尚且つドローンとのデータ連携により精密な火力投射も可能という利点があるが、試作段階であるが故にシステムが大掛かりである事、ECMなどでドローンとの通信を妨害されれば容易に無力化されてしまうなどの欠点がある(※これについてはメーカーが『初撃で殲滅すれば問題ない』と主張している)。
なお、ビーム偏向に関しては産業スパイに盗ませたガミラスの反射衛星砲の技術が用いられており、ソフトウェアは多少の独自性を見せるもののガミラス製のコピーが原型である事から、反射衛星砲の運用法を知るガミラス人に見破られると【お仕置き】されてしまう可能性がある。