さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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殺傷距離零メートル

 

 速河の持つ端末に映る映像を見ながら、斉藤は思う。

 

 かつて月面の駐屯地で自分たちが死にかけていた時、ガミラスの連中はこんなふうにゲーム感覚で攻撃してきたのか、と。

 

 横倒しにした速河の携帯端末には、自爆ドローンからの映像が表示されている。一緒に出撃させた偵察ドローンで電波を中継させている事もあり、映像は極めてクリアだった。

 

 やがてその自爆ドローンが、鍾乳洞の岩陰に隠れていたガトランティス兵に突っ込んだ。映像が途切れて砂嵐になるや、鍾乳洞の中から低く轟く爆音がこだまし、微かにガトランティス兵の断末魔と思われる叫び声が聞こえてくる。

 

 いくらガトランティス兵が屈強な肉体を持っているとはいえ、自爆ドローンが直撃すればひとたまりもあるまい。

 

 よし、と天城が拳を握り締めるが、自爆ドローンを操縦する速河は表情を崩さない。淡々と画面をスワイプさせ、偵察ドローンの傍らで待機していた次の自爆ドローンを鍾乳洞へと突入させ、偵察ドローンからのデータを基に淡々とガトランティス兵を探し出してはドローンを突入させて殺傷していく。

 

「にしても、なんだかゲームみたいだな」

 

 思わず呟く斉藤。すかさず永倉の肘鉄が飛んできて、斉藤は呻き声をあげた。

 

「何すんだい」

 

「隊長、アンタもう少しデリカシーってもんをだね」

 

「ああ、いえいえ。お気になさらず」

 

 逃げ惑うガトランティス兵の背中にドローンを突入させながら、速河は表情を崩さずに言った。

 

 散々モヤシだの何だの言っていた空間騎兵隊の面々も、そんな機械じみた速河の無機質さに恐ろしいものを感じずにはいられなかった。

 

 斎藤の言う通り、本当にゲームのようだったのだ。

 

 画面の中に映る敵に向かってドローンを突撃させる。ドローンが役目を終えたらまた次のドローンを突入させ、ガトランティス兵を爆殺していく。

 

 自分は安全地帯にいて、携帯ゲーム機のような画面を見ながら一方的な殺戮を繰り広げるのだ。

 

 空間騎兵隊に入隊して斉藤はそれなりに長い。ガミラス戦役以前も内惑星戦争に従事し、身も心も傷だらけになって帰ってきた先輩を何人も見たし、心に抱えたトラウマ(PTSD)に耐えかね自ら命を絶った先輩や上官もいた。

 

 人を殺す、というのはそういう事だ。

 

 殺す側も銃を向けられる側も、心に大きな傷を否応なしに刻みつけられる。そしてその傷が癒える事は生涯無く、延々と終わりのない苦しみに心身を苛まれていくのだ。

 

 しかし、速河はどうか。

 

 まるでゲームをプレイしているように淡々と敵を殺していく―――そこに良心の呵責など微塵も感じられない。本当に、子供がゲームで遊んでるかのようだ。

 

 気に入らない―――そう思いながら冷めた目で見ていた斉藤に気付いたのか、速河はポツリと告げた。

 

「―――僕の母と義理の姉はガミラス戦役で死にました」

 

「……」

 

 ゾッとするほど冷たい声だった―――これまで見てきた、気が弱そうな速河と同一人物とは思えないほどに。

 

「そのショックで父も兄も、心に深い傷を負ったのです。それを境に速河家は緩やかに壊れていきました」

 

 ドン、と自爆ドローンの爆発。

 

 淡々と画面をスワイプさせ、次のドローンを出撃させていく。

 

「大切な人が、僕の家族が内側から壊れていく……しかし僕には何もできませんでした。苦しむ家族を前に、あまりにも無力だったのです」

 

 ここにいる全員がそうだ―――あまりにも理不尽な現実を一方的に突きつけられ、しかし抗うには余りにも無力だった。目の前で蹂躙が繰り広げられているというのに、何一つ出来る事が無かったのだ。

 

 実際にその苦しみを経験しているからこそ、実体験が伴うが故にずっしりと重い彼の言葉は、水のように斉藤や古代たちの心に染み入っていった。

 

「そんな中、僕は心に決めました。もしまた地球を侵略してくる異星文明があるのだとしたら、その時は絶対に容赦なんかしてやらない、と」

 

 兄、力也がそうであるように―――信也もまた、あのガミラス戦役で身の内に闇を溜め込んでいたのだ。

 

 大人しく、気弱そうな容姿からは想像もつかない狂気を。

 

 それは時を経て、新たな侵略という現実を前に、熟成期間を経てゆっくりと発露された―――斉藤や古代には、そのように映った。

 

「……”恐怖を克服するには、自らが恐怖になるしかない”」

 

 また1人のガトランティス兵を血祭りにあげ、最後の自爆ドローンを出撃させる信也。

 

 一方的な蹂躙に、恐れをなし逃げ出すガトランティス兵の背中に照準を合わせる。

 

「―――だから、もう容赦なんかしてやるつもりはありません」

 

 ドローンが、無慈悲にも逃げる敵兵の背中に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 0式短小銃のセレクターをセミオートに入れ、コッキングレバーを引いて初弾を装填。ドットサイトのスイッチを入れる古代の手つきを見ていた斉藤が、感心したように息を吐く。

 

「ほォー……銃の扱い、なかなか様になってるじゃあねえか」

 

「宇宙海軍でも銃撃の軍事教練は受ける」

 

 宇宙の船乗りだからといって、小銃や拳銃といった武装と無縁でいられるわけでもない。

 

 敵艦の乗員が乗り込んで白兵戦になる事もあるし、不審船や拿捕した敵艦の臨検も行う事があるのだ。そんな時に陸戦が専門の空間騎兵隊を呼びつけるわけにもいかない。乗員のうちの誰かが、臨時の陸戦隊としてそういった任務に従事しなければならない事もある。

 

 だから宇宙海軍の教育課程の中にも、陸軍と比較すると必要最低限とはいえ基礎的な軍事教練は一通り含まれているのだ。

 

 特に宇宙戦艦ヤマトの乗員は、そういう面で銃を手にする機会は多かった。イスカンダルへの航海の際に銃を手にし身を護ったのは一度や二度ではない。

 

 だから必然的に、小銃の扱いも手慣れたものにならざるを得なかった。

 

 ホルスターに収まっている南部零式拳銃を取り出し、安全装置を解除する古代。以前まで使っていた南部97式拳銃の後続モデルだ。兄の使っていた拳銃は自室に保管してある―――あれはお守りのようなものだ。兄の形見で血を流すような事は極力したくない、という思いもあるのだろう。

 

 行くぞ、と斉藤が先陣を切って鍾乳洞へと切り込んだ。ポイントマンを務める彼の0式小銃のハンドガード下部には、アンダーマウント式のセミオートマチック式ショットガンが装備されている。

 

 ヘルメットにマウントしていた暗視ゴーグルを下ろし、鍾乳洞の中を索敵していく斉藤ら空間騎兵隊。その無駄のない動きを見れば、彼らの練度の高さも窺い知れるというものだ。

 

 鍾乳洞の中は地獄絵図だった。いたるところに四肢のどれかが必ず欠損しているガトランティス兵の死骸が転がっていて、ヘルメットのバイザーを下ろしていなければ噎せ返るほどの血の臭いと臓物臭でテレサの捜索どころではなかったはずだ。

 

 先ほどからぴちゃぴちゃと、踏み出した足が水たまりを踏み抜くような音が聴こえてくるが……足元を流れる水らしき液体は、きっとガトランティス人の血の色をしているに違いない。

 

 やはり当然なのだが、無駄も無ければ躊躇もない。それでいて危険な博打に出るような事もなく、ちょっとした死角も丁寧にクリアリングしていく。

 

 緩やかなカーブに差し掛かるなり、斉藤はカッティング・パイの要領でクリアリングを開始。少しずつ、ナイフでハムを削いでいくように索敵し―――次の瞬間、斉藤が熊のような巨体を引っ込めた。

 

 直後だった。ドカン、と爆発するような銃声と共に杭と見間違うほど巨大な砲弾……いや、ガトランティスの定義からすれば”銃弾”なのだろう。それが1秒前まで斉藤の頭のあった場所を突き抜け、鍾乳洞の岩盤へと深々と突き刺さる。

 

「コンタクト!」

 

 敵兵との接敵を宣言するなり、斉藤は0式小銃をカーブの遮蔽物から突き出してひとしきりフルオートで撃った。照準器を覗かずただ弾丸をばら撒く制圧目的の射撃。相手の頭を押さえつけている間に、手榴弾の安全ピンを抜いた永倉が飛び出すなり、柄のついた古めかしい見た目の手榴弾を敵兵目掛けて投げつけた。

 

 ガトランティス語の悲鳴が聴こえた直後、耳を劈く轟音と共に爆風が鍾乳洞を駆け抜ける。

 

「行け行け行け!」

 

 先陣を切って突っ込む斉藤。ショットガンを連発しながら前に出るや、潜んでいたガトランティス兵の頭を散弾で吹き飛ばした。ヒグマのような体格の巨漢の上顎から上が吹き飛び、鍾乳洞の内壁が血に染まる。

 

 雄叫びを上げながら、剣を振り上げて突っ込んでくるガトランティス兵。ガギ、と咄嗟に0式小銃で斬撃を受けとめ鍔迫り合いになるや、天城がすかさず敵兵の眉間を0式小銃で撃ち抜いた。

 

 7.62㎜弾でこめかみを撃ち抜かれ、ガトランティス兵が血を撒き散らしながら崩れ落ちる。

 

 その隙にマガジンを交換、ショットガンのチューブマガジンにも12ゲージの散弾を素早く滑り込ませ、射撃する天城と入れ替わりで敵兵の一団を射撃する斉藤。

 

 ガンガン、と快調に射撃していた永倉の0式小銃が、不意にガギンッ、と何かが噛み込む音と共に沈黙する。

 

 見るまでもない、排莢不良だ。エジェクション・ポートが閉じる瞬間に排出された薬莢が噛み込んでしまったのだ。

 

 レーザー銃には無い、実弾小銃特有の弱点である(ガミラスではこれを嫌い歩兵火器を全てレーザーで統一している)。

 

 ここぞとばかりに身を乗り出し射撃してくるガトランティス兵。薬莢を排除している余裕はないと瞬時に判断するや、永倉は小銃から手を離した。スリングに保持を任せつつ、ホルスターからハヤカワM21マシンピストルを引き抜き9㎜弾を豪雨の如くばら撒く。

 

 あっという間に40発入りのロングマガジンを撃ち尽くし沈黙するマシンピストル。被弾したガトランティス兵は蜂の巣になったが、しかしガトランティス兵の生命力は異常だった―――まるでヒグマでも相手にしているようで、拳銃弾程度ではなかなか死なない。

 

 剣を引き抜き突っ込んでくる瀕死のガトランティス兵。血がべっとりと付着した身体で突っ込んでくるが、永倉は冷静に背中のホルダーからトマホークを引き抜いて、無造作に投げ放つ。

 

 ぐるぐると回転しながら飛んでいたそれは、すこーん、と綺麗にガトランティス兵の顔面を割った。

 

 空間騎兵隊の兵士たちの戦いを見ながら、古代は思う。

 

 ―――出る幕がない。

 

 確かに古代は戦術長で真田は副長という重要な役職にある。だからポイントマンを空間騎兵隊の面々が買って出たのだろうが、それにしても、だ。第十一番惑星で散々やられた鬱憤も溜め込んでいるのだろう。

 

「古代!」

 

「!」

 

 真田の声にハッとしながら、右の岩陰に隠れていたガトランティス兵を0式短小銃で撃ち抜いた。眉間を撃ち抜かれたガトランティス兵が人形のように倒れていく。

 

 空間騎兵隊の装甲宇宙服のように、ヤマトの乗員が着用する制服にパワーアシスト機能はない。ショックアブソーバーがあるとはいえ、フルサイズライフル弾の反動はなかなかキツいものがある。

 

 次々にガトランティス兵を薙ぎ倒していく斎藤たちに続く古代、真田、速河。

 

 その時だった―――先頭を進んでいた斉藤に、一際大柄なガトランティス兵が飛びかかってきたのは。

 

「!」

 

「隊長!」

 

 永倉と天城が即座に銃口を向けるが、しかし取っ組み合いとなった斉藤とガトランティス兵が頻繁に動き回るせいで、もしかしたら斉藤を誤射してしまうのではないか、というリスクからなかなか発砲に至れない。

 

「俺に構うな!」

 

 ガトランティス兵に圧し掛かられながら斉藤は叫んだ。

 

「永倉ァ、俺はコイツとケリつけてから行くからよぉ! 先に行ってろ!」

 

「でも隊長―――」

 

「命令だ!!!」

 

 巴投げの要領でガトランティス兵を投げ飛ばす斉藤。鍾乳洞の岩壁に背中を打ちつけたガトランティス兵が呻き声をあげている間に拳銃を引き抜くが、しかしガトランティス兵が傍らに転がっていた味方の兵の剣を投げつけてきたせいで拳銃を弾き飛ばされてしまう。

 

「……分かった。必ずついてきてよ、隊長」

 

 斎藤という男への期待の言葉を残し、永倉は古代や真田たちを先導して奥へと進んでいった。

 

 仲間の銃声がどんどん遠ざかっていくのを聞きながら、斉藤は敵兵に石を投げつけて気を逸らさせつつ先ほど弾かれた拳銃を拾い上げる。

 

 撃ったが、しかし咄嗟に放ったものだから狙いも何もあったものではない。9㎜弾は岩肌を殴りつけ、微細な破片を撒き散らすばかりだ。

 

 敵兵も胸のホルスターに下げた大型拳銃を取り出して、杭のような弾丸を放ってきた。ガヂン、ガヂン、と岩肌に杭のような銃弾が突き刺さり、その凄まじい貫通力を見せつけてくる。

 

 ガギ、とスライドが後退位置のまま沈黙―――相手の大型拳銃もこちらを睨むばかりで沈黙している。弾切れなのだろうか。

 

『……優秀な戦士だ』

 

 ヘルメットに搭載されている翻訳装置が、ガトランティス語を地球語に翻訳して斉藤の耳へと伝える。

 

『我が名はザバイバル……”ザンツ・ザバイバル”。お主の名は?』

 

「……空間騎兵隊所属、斉藤始」

 

『サイトー……なるほど』

 

 ニッ、とザバイバルと名乗った男は笑った。

 

『我が生涯の最期……貴様のような戦士との戦いで飾れてうれしいぞ、サイトー!』

 

「こっちは微塵も嬉しくねえ!!」

 

 片や笑いながら、片や相手への憎悪を剥き出しにしながら―――斉藤とザバイバルは、お互いに殴りかかっていった。

 

 

 

 

 





南部零式拳銃

 使用弾薬9×19㎜弾。以前まで国連宇宙軍で採用されていた南部97式拳銃の後続となる新型拳銃であり、97式拳銃で一部の兵士から指摘されていた引き金の重さを克服、トリガープルは軽くなっている。そのほかサプレッサーの装着や、それと亜音速弾との組み合わせを想定したボルトロック機構も新たに追加されている。
 フルオート化や大容量のロングマガジンもテストされたが、実用性と手堅さを優先する南部重工としては安定した性能の拳銃で勝負したいという事もあり、これらのモデルは計画の身で終了している。革新性を求め度々暴走するハヤカワとは違うのである。



ハヤカワM21マシンピストル

 使用弾薬9×19㎜弾、及び.45ACP弾(M22のみ)。ハヤカワ・ストームパラベラムM2を旗艦モデルとして大型コンペンセイターの追加や伸縮式ブレース、フラッシュライト内臓のフォアグリップなどの追加を行ったマシンピストルモデル。南部重工ならば踏み止まるところを土足で突っ込んでいく辺りがハヤカワらしい、とは南部社長の談。
 発射速度1200発/分という凄まじい連射速度であり、フォアグリップとブレースがあるとはいえその反動制御は困難を極め、60発入りのドラムマガジンでもあっという間に弾切れするほど。ハヤカワ社長曰く『相手が1発撃ってくる間に100発撃てる銃を作りたかった』との事。
 なお、これのバレルを延長しワイヤーストックを装備したSMGモデルも存在する。



ハヤカワ・ストームパラベラムM2

 使用弾薬9×19㎜弾。がっちりとしたスライドとコンペンセイターが目を引く、ハヤカワ・インダストリーにしては珍しく実用的な拳銃。設計も21世紀ころの拳銃に回帰しつつも新型機構をそれなりに組み込み、しかし操作方法は保守的となっている。現在陸軍への積極的な売り込みを行っており、南部の零式拳銃と見事にシェアを二分している。
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