さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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制圧戦

 

 南部0式小銃が用いるのは、7.62×51㎜弾である。

 

 既にこの銃弾が開発されて200年以上も経過している―――以前、そんな話をガミラス側の士官にしたら驚かれた事があったな、と古代は思い出した。ガミラスが未だに根柢の部分で地球人を見下すのはそういう”古い技術”に縋っている部分に由来するのだろうな、とも思う。

 

 しかしながら、この弾薬も大昔の冷戦時代に生まれ、しかし永い歴史の中で改良を加えられて今日まで運用され続けてきたものだ。威力も弾速も射程も、誕生当時のそれとは比較にならないほどで、今の弾薬を昔の銃で発砲すると機関部が破裂する恐れすらある(だから銃機コレクター用に装薬を減らした弱装弾も販売されている)。

 

 200年前の当時、このフルサイズのライフル弾を自動小銃で連射するのは使い手に多大な負荷をかけてきた。発砲時の反動が大き過ぎてコントロールが難しく、弾薬のサイズの関係で弾倉に装填できる数は限られ、その重量から多数の弾倉の携行は兵士の体力を著しく奪っていく。

 

 だがそれでも、大口径であるが故の強みはあった。弾丸が重く大きいという事はそれだけで十分な威力の保証にもなるし、重量があるという事は風の影響を比較的受けにくく、余裕のあるスペースに詰め込まれた装薬は高初速と長射程を約束した。

 

 そんな弾薬を、歩兵用の自動小銃で連射できるようになったのもつい最近の事だ。南部0式のようにストック内にショックアブソーバーを組み込む事で、汎用性を犠牲に反動の大幅軽減と利便性向上を図ったのである。

 

 以前までの小銃では5.56㎜弾を使用していたが、次世代小銃の採用にあたって大口径のものを旗艦モデルにしたのは正解だ、と古代は思った。

 

 きっと、5.56㎜弾だったならば屈強なガトランティス兵は止められなかっただろう―――今しがた撃ち殺した兵士の死体を見下ろしながら、そう確信する。

 

 たった今射殺したガトランティスの兵士は根性があった。手榴弾の爆発に巻き込まれ、身体中に破片が突き刺さった状態で、左腕が皮と筋肉繊維だけで繋がっているだけでほとんど千切れているような状態となってもなお、雄叫びを上げて剣を片手に突っ込んできたのである。

 

 一説によれば、ガミラスから提供されたガトランティス人の情報から5.56㎜弾では力不足と判断され、この大口径弾の採用が決まった、という噂を聞いた事がある。真相が何にせよ、今はその判断がまさしく慧眼であったと認めざるを得ない。

 

 呼吸を整え、0式短小銃のマガジンを交換してコッキングレバーを引く古代。

 

 やはりというか、白兵戦の心得はあっても「慣れた」とは口が裂けても言えないな、と自嘲する。

 

 やはり白兵戦が本職の空間騎兵隊のように、平常心を維持していられない。

 

「リロード!」

 

「了解!」

 

 マガジンの交換に入った速河を支援するように、古代はセミオートに切り替えた0式短小銃を撃った。ガンガン、とショックアブソーバーで軽減してもなお確かに感じる反動を押し殺しつつ、ガトランティス兵の眉間に弾丸をお見舞いして黙らせる。

 

 ちらり、と視線を空間騎兵隊の方へ向けた。

 

 分隊支援火器仕様の0式小銃を抱えた空間騎兵隊の田村が弾幕を張り、敵兵に頭を上げさせない。その隙に永倉が躊躇せずに手榴弾を投擲して遮蔽物に隠れている敵を爆殺、生じた敵火力の空白に天城が切り込んで戦線を押し上げていく。

 

 再装填を終え復帰した速河が制圧射撃をかけ、ガトランティス兵の反撃を阻む。

 

 その隙にポーチから手榴弾を引っ張り出した古代は、安全ピンを抜いて2秒ほど数えてから力いっぱい投げつけた。

 

 投擲した手榴弾はちょうど、ガトランティス兵の頭上―――真上から破片を浴びせかけるような角度で起爆したものだから、相手にとってはたまったものではなかった。たまらず遮蔽物の影から飛び出したガトランティス兵を、真田が正確に撃ち抜いてトドメを刺していく。

 

 抵抗が見られなくなったところで、古代たちも空間騎兵隊と合流し先へと進んだ。

 

「……古代」

 

 真田が手にした携帯端末の画面を見せながら息を呑む。

 

「高エネルギー反応が上昇し続けている」

 

「じゃあ」

 

「ああ、そうだ……テレサは近い」

 

 もう少しだ。

 

 もう少しで、テレサと―――あの夢をヤマトの関係者に見せ、この惑星テレザートへと呼びつけた宇宙の女神とのご対面、というわけである。

 

 が、しかし。

 

 ヒュン、と空気を裂く音と共に飛来した1発の杭のような弾丸が、敵の存在を彼らに告げた。

 

 半ば飛ぶようにして遮蔽物の影に転がり込み、古代は息を呑む。

 

 鍾乳洞の岩肌に深々と突き刺さった杭型の弾丸は、ぶすぶすと周囲の岩を溶かしながら転がり落ちてきた。

 

 空間騎兵隊が鹵獲したガトランティス側の銃器を速河が鹵獲し解析した際の話を思い出す。曰く、『ガトランティス軍の銃器は実弾と光線のものが混在したちぐはぐな兵器体系』である、という。

 

 おそらくは相手の文明から奪い取り、有用と判断したものを手あたり次第運用に組み込んでいった結果なのだろうが、それはさておき保有している銃器の威力は目を見張るものばかりだった。

 

 特に実弾兵器はあのような杭型の弾丸を発射してくるのだが、その弾丸は着弾の際に高温・高圧のガスを噴射する事で命中した対象を融解させ、更なる貫通力を発揮するのだという。事実、第十一番惑星の戦闘では少なくない空間騎兵隊の隊員たちがそれで装甲宇宙服もろとも肉体を撃ち抜かれ、無残に殺されている。

 

 その事からも分かる―――ガトランティスは、相手を生け捕りにする気などさらさらないという事が。

 

 以前まで、地球においては相手を殺すのではなく負傷させる事こそが効率よく相手の火力を削ぐものだ、と信じられていた。

 

 例えば1名の兵士が負傷したとする。彼を戦線離脱させるために最低でも1名から2名の兵士が救助に割かれるわけで、その間敵からの火力は歩兵2、3人分ほど減少する事となる。また後方に移送させて治療させる事で医療品などのリソースを割く事もでき、敵の兵站に負担を強いる事も可能となる。

 

 しかしガトランティス軍の兵器からは、そんな思想は一切感じられない。

 

 『相手を殺す』という、武器という概念の本来持つべき役割にいやらしいほど回帰したかのような目的しか感じられない。

 

 田村の分隊支援火器が沈黙し、再装填の間天城が0式小銃で制圧射撃をかける。その射撃で1名のガトランティス兵が被弾して転げていったが、即座に沈黙したはずの銃座が息を吹き返してレーザーを吐き出してきた。誰かが銃座についたのだ。

 

「ア゛!」

 

 濁るような声。

 

 ぎょっとしながら古代が視線を向けると、再装填中だった田村の胸板をガトランティス側のレーザーがぶち抜いていた。胸に開いた風穴から煙を噴き上げながら、絶命した田村が崩れ落ちていく。

 

「田村ァ!!」

 

「クソがよォ!!!」

 

 仲間の死を目にして逆上した嘉茂(かも)が、田村の分隊支援火器を拾い上げてドラムマガジンを装着。重いコッキングレバーを引くなり、罵声を発しながら引き金を引いて弾丸をばら撒き始める。

 

 敵の火力は空間騎兵隊の方へと向けられているようだった。

 

 逆に言えば、古代、真田、速河の3人はマークされていない。状況を打破するならば今しかないのではないか―――瞬時に判断するや、古代は真田の肩を小突いて言った。

 

「真田さん、合図したら速河と2人で手榴弾を。その隙に俺が」

 

「無茶だ、古代」

 

「敵の目は空間騎兵隊に釘付けです。俺たちはマークされてない。仕掛けるならば今しか―――」

 

「……分かった、援護する」

 

 すぐに思考を切り替えるや、「速河」と彼にも手榴弾の投擲準備をするよう合図する真田。

 

 死ぬなよ―――目線でそう訴えられた古代は頷くなり、腰の鞘からナイフ形銃剣を取り出して0式短小銃へと着剣した。銃身の短いカービンでは白兵戦において銃剣攻撃のリーチが短くなってしまうという欠点があるが、しかし止むを得ない事だ。

 

 今はただ、どんな形であれ殺傷力を持つ武器が頼もしく思える。

 

投擲する(フラグアウト)!」

 

 真田の声と共に、2個の手榴弾が敵の銃座目掛けて投擲された。

 

 銃座までは届かず、積み上げられた土嚢袋の辺りで炸裂する手榴弾。飛び散る破片と爆風に、数名のガトランティスの兵士が頭を引っ込めてやり過ごそうとする。

 

 それを合図に、古代は前に出た。勾配を一気に駆け上がり、遮蔽物の影から顔を上げたガトランティスの兵士に銃弾を叩き込み、至近距離に現れた敵兵の喉笛に銃剣を突き入れて、前へ前へと進んでいく。

 

 怖かった。

 

 ヤマトの艦橋にいる時は、こんなにも血の香ってくるような距離で殺し合う事はない。戦術長、あるいは艦長代理としての重責はあるが、それでもヤマトの艦橋で感じる戦場の気配というのは、古代にとっては艦内の空気清浄機で綺麗にフィルタリング(・・・・・・・)された、なんとも小綺麗なものだった。

 

 しかし実際の、敵兵がすぐ目の前にいるような戦場は違う。

 

 べっとりと、どこまでもまとわりついてくる死の感覚。

 

 ガンガン、と銃座でレーザー機銃を撃とうとしていたガトランティス兵のこめかみに1発叩き込み、倒れた敵兵の心臓目掛けてさらに2発撃ち込む古代。

 

 即座に銃口をもう1人のガトランティス兵に向けた古代の指が、しかしピタリと止まった。

 

 倒れた敵兵の傍らで、古代へと向けて大型拳銃を向けるガトランティスの兵士。

 

 いや―――違う。兵士ではない。

 

 ―――子供だ。

 

 ガトランティス人の子供が、その手には余りにも大き過ぎる拳銃を持って、手を震わせながら古代を睨んでいるのである。

 

 そっと銃を下ろした古代は、両手を上げて「撃つな」とジェスチャーを送った。果たしてそれが、異星人に通用するものかは分からないが、何とかして敵意を削ぎたいところではある。

 

「撃つな、銃を下ろせ」

 

『っ、っ!』

 

 彼が身に纏っているのは兵卒用の鎧ではなく、指揮官用のコートだった。

 

 ガトランティス軍では兵卒が鎧と鉄仮面を、指揮官は鉄仮面は被らず、鎧の上に陣羽織のようなコートを羽織っている事が多い。しかしこの子がここの守備隊を指揮していたとは到底思えない―――少なくとも地球の兵士を目にして手を震わせるような子供では、勇猛果敢な者が多いガトランティス兵はついて来ない筈だ。

 

 背後から足音が聞こえた。

 

 天城だ。

 

 斉藤や永倉とも付き合いの長い彼は、銃座の土嚢袋を乗り越えるなり、手にした拳銃をガトランティス人の子供へと突きつけた。

 

「野郎ォ!」

 

「やめろ天城!」

 

「何故止める!?」

 

 拳銃を握る天城の手を掴んで止めようとするが、しかし天城は古代にも食って掛かった。

 

「敵なんだぞこいつらは!」

 

「分かってる!」

 

「第十一番惑星での仕打ちをアンタも見た筈だ! コイツらは女子供まで殺してたんだ!!」

 

「分かってる!!」

 

 ひときわ大きな声で天城の言葉を遮り、優しく諭すように言った。

 

「だからこそ―――俺たちまで、そこに堕ちてはいけない」

 

 首を横に振るなり、古代は視線をガトランティス人の子供へと向けた。

 

 ヘルメットの翻訳装置のスイッチを入れ、優しく語り掛ける。

 

「銃を下ろしてくれ」

 

「ち、父上の仇……っ」

 

「父上?」

 

ヤマト(ヤマッテ)……父上を殺した、悪魔の(フネ)……!」

 

 ガチガチと歯を鳴らし、手を震わせながらも、ガトランティスの少年(ノル)は拳銃を古代に向けたままだ。下ろす気配がない。

 

 後は引き金を引くだけで―――というところで、ゾッとするほど冷たい声が彼を射抜く。

 

「―――撃つなら撃ちな」

 

 永倉だった。

 

 0式小銃にマウントしたレーザーサイトが、ぴたりと少年の側頭部に向けられる。

 

「引き金と筋肉の動きを見てれば、発砲の瞬間くらい見当がつく。撃つなら撃ちな、その前にあたしがお前を撃つ。その覚悟があるならばやってみると良いさ」

 

「……っ」

 

 少年の中で、何かが葛藤しているように思えた。

 

 おそらくは生き残りたいという本音と、ガトランティスの戦士としての使命を全うするべしという使命感が、少年の小さな身体の中でせめぎ合っているのだろう。

 

 しばしの沈黙ののち、少年の天秤は―――ゆっくりと、自身の生存の方向へと傾いていった。

 

 銃口を下ろす少年。彼の手から大型拳銃を奪い取るなり、古代は安堵した声で告げた。

 

「―――ありがとう。賢明な判断だ」

 

 追い付いてきた真田が速河に命じ、ヤマトに無線で報告を入れさせる。

 

 鍾乳洞制圧、捕虜1名確保―――。

 

 

 

 

 テレサとの対面は、もう近い。

 

 

 

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