黒騎士は英雄にはなれない   作:影雪

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完全処女作。妄想がな、我慢できなくなったんだ……
悪を持って悪を裁く勧善懲悪モノ。ぜひぜひ


プロローグ

 

 

 御伽噺に出てくる騎士というものは、高潔で間違いを犯さない

 甲冑は光り輝き、その剣はいつも正しいことのために振るわれる

 物語の最後で騎士は悪を滅ぼし、姫と結ばれて新たな王となる……。

 素晴らしい、それでこそ騎士だ。あるべき正義の体現者。そんな御伽噺に感化され、騎士に憧れる幼子もいるだろう。

 

 きっと僕は騎士に討ち滅ぼされるべき存在だ。それでも、あの日、あの部屋で彼女にそう呼ばれた時から、彼女の為にこの存在のあり方を決めた。

 醜い化け物は、闇より暗い甲冑を身につけ、たった1人の歪んだ願いのために剣を振るう

 

 騎士に憧れたのは、何も幼子だけじゃないってことさ

 

 ●

 

「はっ……、はぁ……ッ! クソ!! なんで……ッ」

 

 街灯もない狭い路地裏を、男が駆ける。

 その速度は常人に出せるものではない。しかし、その顔にはそれを自慢することもなく、ただ困惑と焦り、そして恐怖があった。

 

()()()()()()! 称号(ギフト)は起動してるのにッ! スピードで俺に着いてこれるはずがねえ……! 今まで1度だって!」

 

 走る男の後方、音も無く、闇の中においてさらに暗い輪郭が男を追っていた。

 速度は一定、付かず離れずの距離を保ったままソレは着いてくる

 

「チクショウ……ッ!」

 

 間もなく逃走劇は終わりを迎える。路地裏を抜けた先は袋小路の広場であった

 周りはビルに囲まれ逃げ場はない。

 

「……テメェ、なんなんだよ……! 誰の差し金だ!? 誰の命令で俺を殺しに来た!」

 

 改めて見るソレは、大柄な騎士の形をしていた。

 全身を覆う黒い甲冑、上から被ったローブはボロ切れのようで、死神を想起させる。隙間から覗くフルフェイスメットは無貌であり、一切の感情を感じさせない。右手に握った剣は装飾もなく、刀身も甲冑と同じような闇の色をしていた

 騎士は答えない。男をさらに追い詰めるように一歩踏み出す

 

「クソ……、やってやる、やってやるぞ……! 今までだって似たような奴らはぶっ殺してきた……。今回だって上手くいく……! その妙な格好だって称号(ギフト)だろ! なら俺の───」

 

「……お前の称号(ギフト)は『盗賊』。権能は俊敏性の向上、暗器熟達、危機的状況の警鐘……俺を見るなり逃走したのは、俺を脅威だと判断したから……だな」

 

 

 くぐもった、唸るような低い声がする

「……お前はこれまで、その力で快楽的に罪を犯し、金で雇われ多くの善良な者を傷つけた……」

 

 声が変わる。しわがれた老人の声がする

「……裁きの時だ、私刑の時間だ」

 

 声が変わる。静かな怒りを纏った青年の声がする

「……我が剣は姫の為に、その命を捧げ、天に罪に塗れた称号を返上しろ」

 

 騎士はだらりと握った剣を持ち上げ、構えた。

 

 男の目は泳ぎ、しかし恐怖とは別、怒りの色が映る

 

「……ふ、ざけんなァ!! 称号(ギフト)が割れたからなんだってんだ! 犯した罪だぁ!? 貰ったモン有効活用して何が悪い! 俺は認められたんだよ! 特別なんだ!」

「テメェもそうだろうが! 与えられた力使ってヒーロー気取りか? 真っ先に殺しにかかる当たり甘ったれの委員会のヤツらとは違うみてぇだが……」

 

 男は数十ものナイフを取り出し、構える。権能が働きその目に恐怖が無くなった。自分が強者であることを思い出したのだ

 

「俺が殺してきたのは称号(ギフト)無しの雑魚だけじゃねぇ……鎧は対策のつもりか知らねぇが隙間を貫くくらい造作もねぇ! そして! テメェが追い詰めたこの場所は俺にとって有利な戦場に変わるッ!!」

 

 男の姿が掻き消え、周囲を囲むビルを蹴る音だけが響く

 その音は勢いを増していき、騎士を取り囲んで暴風となった

 

「最高速に乗った俺を視認することはできねぇ! ズタズタになっちまいなァ!」

 

 嵐の壁から刺突を繰り出し、騎士はそれを弾いて躱す。男は反撃が来る前に勢いを殺さずに嵐の中に隠れる。刺突、斬撃、投擲、あらゆる攻撃を剣のみで対処していく。火花が絶え間なく走り、広場を照らした

 

「今までの追いかけっこだって付かず離れずが限界だったんだろ!? よく着いてきたと言いてぇとこだが障害物の無くなった俺の速さはそんなもんじゃねぇ!!」

 

 ほぼ同時の投擲、弾かれたナイフを回収しての刺突。それを騎士は弾く、勢いを殺さずに動かなければ反撃を食らうのが権能の危機回避能力で分かる

 なぜ、なぜ、なぜ……速度は目で追えていないはず、今までだって誰にも追いつかせなかった、目で追わせることなく殺してきた。それを弾かれる、躱される……焦りと怒りが頭を占めていく

 

「あぁァ! しっぶてぇなァ!! さっさと……死んどけェ!!」

 

 冷静さを欠く投擲。騎士はそれを掴み取り、男の攻撃する方向へと投げ返す

 

「!? しまッ」

 

 咄嗟の防御反応。投げ返されたナイフを弾いた時、勢いが消え嵐が消える

 動きが止まったその瞬間。男の腹に騎士の膝が突き刺さった

 

「ォ……がァ……ッ!」

 

 腹の中の空気の全てが、血反吐と共に吐き出され、男はその場に跪き、蹲るのみとなった。

 それは、断頭台に身を縛られ許しを乞う囚人が如く

 

「ご……ぁが……なんで、ぉれが……こんな」

 

「…………まぁ、こんなもの、か」

 

 まだ幼さの残る、中性的とも言える少年の声がする

 顔を上げれば剣を振り上げた騎士の姿

 

「……あぁ、ああぁ……! おれは、つよいはず。で……! こんな、ところで」

 

「……犯した罪、奪った未来。全て背負って永遠に彷徨え」

「……私刑、執行」

 

 それが、男の聞いた最後の言葉であった

 

 ●

 

 

 剣が、鎧が、解けるように消えていく

 騎士が消えた後には、嵐が過ぎたあとの傷だらけの地面とそこに崩れる斜めから両断された死体

 そして大柄だった騎士とは逆に、小柄な制服姿の少年だけが立っていた。

 黒い髪に少し眠そうな赤い瞳、首元には体格にあっていない長めのマフラーが巻かれた彼は、この凄惨な現場を作り出したとは思えないただの中学生に見える

 

「──お見事でした。騎士様。」

 

 振り返ると、今まで来た路地裏から、少女が1人歩いてくる。

 色白で、長い髪の毛から身につけたコートや靴まで真っ白な少女は、闇の中にあっても輝いているように見えた。

 

「汚れちゃうから近づいちゃダメだよ。それに、着いてくると危ないっていつも言ってるよね、姫……」

「この方にお仲間はいませんし、周囲にも人はいません。私の称号(ギフト)が教えてくれています…………それに」

 

 姫、と呼ばれた少女は白の中に唯一色をつけたような琥珀色の瞳と桜色の唇で柔らかく微笑み、言う

 

「何があっても、あなたが守ってくれるのでしょう?」

 

 ──私の、私だけの騎士様

 

「……うん、そうだね。当たり前だ」

 

 少年は首元に巻いていたマフラーを解き、少女に巻き直す。背伸びをしないと巻きにくそうにする少年と、くすくすと笑って前かがみになり、マフラーを巻かれる少女。辺りにはいつの間にか雪が降り始めていた。

 

「帰ろう。委員会が来ても面倒だ。処理は彼等がやってくれるさ」

「えぇ、帰りましょう。雪で足跡が出来ても大変ですから」

 

「……んん。お手をどうぞ、お姫様」

「ありがとうございます……ふふ、そんなに恥ずかしそうにしなくても」

「壊さないように握るのは緊張するんだ。それだけさ」

「では、そういうことにしておきますね」

 

 2人で手を繋いで路地裏に戻る。雪はもう、地面を白く隠そうとしていた

 

 ●

 

 

 ──それは僕の最初の記憶

 

 

『儀式』は成功だ!! 

 

 被検体17番の称号(ギフト)の仮説は正しかった! 

 

 さぁ、さぁ、我らが神よ! 

 

 我々の願いを─────

 

 部屋の全てが赤く染まる。血、肉、命だったもの。その部屋には呼んだ者と、呼ばれ混ざったモノしかいなくなる

 

 うるさい、(ボク)を呼んだのはお前達ではない

 さぁ、虐げられた少女よ、哀れな贄よ

 願いを聞いてやる

 歪んだ(ワタシ)に何を願う? 

 変幻自在。望むカタチになれる(オレ)に何を望む? 

 

 長い髪を床に散らばった血で赤く染めながら。彼女はゆっくりと顔をあげる

 白い肌は返り血だけでなく、所々に血の滲んだ包帯を

 琥珀色の瞳は虚ろな中に暗い炎が揺らいでいるようだった

 

 その姿に(ボク)は見とれていた

 

 彼女は少し考え、微笑み言う

 

「あぁ、でしたら…………」

 

 身体が変わる

 

「──私の、私だけの騎士様」

 

 存在を書き換えて行く

 

「この世界()をどうか」

 

救って(滅ぼして)あげてくださいな」

 

 全くもって歪んだ願いだ。救いを求めながら破滅を望む。彼女をそうまで変えた運命はやはり、その称号(ギフト)

 

「────その願い、聞き届けた。これより僕は貴女の騎士として、貴女の剣となり、盾となる。」

 

 闇より暗い甲冑に、血に汚れた白い手が重なった

 

「……ありがとう、騎士様。私を助けてくれて」

 

「あぁそうだ、名前が無いと不便ですよね……ここを出たら、貴方の名前を決めましょう。私の名前は……17番…………。ふふ、姫と、呼んでくださいね」

 

「……あぁ、姫」

 

 あの日、僕は目覚めた。彼女の願いを叶えるモノとして。彼女の理想に最適化した権能を作り上げた。変幻自在、何にでもなれるこの身体を、ただ一つの理想に押し固めた。彼女が夢見た御伽噺。絵本の中の騎士の形に。流れ込んだその概念は僕の夢にもなった。彼女を守る騎士。悪を滅ぼす絶対的な正義。たとえ魔王が姫だったとして、騎士の忠誠は覆らない。

 

 彼女が安心して生きていけるまで、ちゃんと幸せになるまで。狙う者も、奪おうとする者も全て喰らい尽くす。彼女を脅かす存在全てが消えた時、世界は救えるだろう

 

 姫……自分の名前さえ分からなくなったのに僕に名前をくれた君。いつか本物の騎士に黒騎士()が敗れるとしても、僕にとっての本物()だけは、必ず守りきってみせる

 それが僕、岸 景光(きし かげみつ)の存在理由だ。

 




読んでくれてありがとうございます! 設定なんかの詳しい話は次回以降で、ね。評価お気に入り待ってます
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