黒騎士は英雄にはなれない 作:影雪
『委員会』……それは「
ある者は剣を取り敵をなぎ倒し、ある者は烈火を振りまき闇を焼き払う!
そして、今日もここに……表向きは普通の貿易商を名乗り、裏では違法薬物を取り引きする凶悪な犯罪者達と戦うため、倉庫街をゆく孤独な
その名は
「……ていうのはどうよ?」
「……なんですか急に、しかも孤独て、僕居なくなってるじゃないですか」
人気のない倉庫街を、二人の男が歩く。
白を基調とした制服。腕には腕章、胸ポケットの部分には特徴的な紋章を、そして二人の腰には緑の魔石。『
「ヒーロー番組風に今回の任務の説明をしたのさ……そうかそうか、
「勘弁してくださいよ。仕事だから一緒にやってるだけでレイジさんがいいとか一回たりとも思ったことありません。ほんとに孤独にさせてやりましょうか?」
「冗談冗談。今回の仕事は敵の数が多いし、雇われの異能力者も混ざってる。ずっと難しい顔してたら、不意打ちで呆気なくやられちまうぜ?」
「……気を抜くのは結構ですけど、あんまりそういうの、皆切に見せないでくださいね。あの子くらいですよ、レイジさんに憧れてるの。ファンは大切にするべきかと」
「仕事の時こそ普段通りにって奴だよ。こういう命はる仕事は特にな……。それに、言われなくてもあの子の前だけではいつもかっこいい俺だろうが」
「と、そうだ。皆切と言えば……最近はあの子どんな感じだ? 能力訓練はここに来てからずっとしてきてるだろ。
それを聞いた大我はため息を一つ吐き、困ったように言う
「相変わらず能力の制御は落第点ですね。威力にブレがあったり、そもそも全方位に能力をばら撒くんです……能力を用いた組手訓練どころか、仮封印の鎖もまだ外せそうにありません」
「そうか……まぁ、あの子はまだ子供だ。能力の制御は最優先の課題だが、全く焦る必要なんてないのさ。俺達がガキだった時と比べたら、あの子は気負いすぎなんだよ。大人の俺達をもっと頼れってんだ」
「ま、俺にとっちゃ二十歳の大我くんもまだまだ守るべき子供だけどな〜?」
「はは、さすが。おっさんは無駄に歳食ってるだけありますね?」
「……俺はまだ29なんだが」
「若者は年齢言う時に"まだ"とか使わないし、そもそもそんなに歳を気にしないものですからね。つまりそういうことですよ」
「…………」
「……」
───ガッッッ!! ───
「一度大我くんには上下関係ってのを叩き込んでやらねぇとなぁ……!」
「事実言われて腹立てるのもみっともねぇんですよ……!ここであんたボコして隊長変わるかコノヤロウ……ッ!」
取っ組み合いを始めた二人だが、無線から入った【仕事してくださいね】という内容のお叱りを受け、我に帰る。
乱れた服装を直し、大我がふと思い出したように続ける
「……あぁそうだ。あの子、気分転換に行かせた図書館でいい出会いをしてきたようで。出かけた時に落ち込んでたのが嘘みたいに元気になって訓練室に戻って来ましたよ。帰ったら話を聞いてみないとな……。レイジさん?」
「い、いい出会い…………だと? 」
振り返って見ると、先程まで隣を歩いていたはずのレイジが立ち止まり、わなわなと震えている。
「ちょ、ちょっとレイジさん……!今怒られたばっかりなんだから集中しないと!」
「どこの馬の骨ともわからんやつに!あの子を渡せるかァ!こんな仕事さっさと片付けて事務所に戻るぞ大我!!」
「あぁもう……っ!めんどくさい人間がめんどくさい歳の取り方してめんどくさいオッサンになってる……!落ち着いてくださいよ、今不意打ちなんてくらったら── 」
「そんなことしねえよ。能力者も人間、銃弾叩き込んで終わりだ」
──ぞろぞろと
倉庫の影から男達が出てくる。下卑た笑いを浮かべ、各々に武装し二人を取り囲む
銃口を向けながら、声をかけてきた男が言う。
「委員会が間抜けなのは知ってたが、ここまでとはな……。敵地のど真ん中で声は荒らげるわ、仲間割れするわ。挙句こうしてピンチってわけだ、俺たちは無能力者だが、能力者も無敵じゃねぇ。この数相手にはどうしようもねえだろ」
その言葉を、レイジはぽかんとした顔をした後、思わず吹き出し、大我はそれを横目で見つつ、呆れたように聞いている。二人の反応が思ったものと違うことに、追い詰めているはずの男達が困惑する
「なんだ……頭でもおかしくなったのか?それとも、俺達がてめえらを殺さねえとタカをくくってやがんのか」
「くく……あぁ、違う違う。お前さん達あれだろ?ここの会社の従業員だろ。いやぁ、まさかこんな見た目からして悪そうな奴が運営してるとはな!人は見た目が9割ってやつだぜ大我!」
「人に向かってそれは失礼ですよ……馬鹿そうなのは見たら分かりますけど。レイジさんなんかその辺わかりやすいですよね!」
「おうこら誰が馬鹿って言いてぇんだ?とにかく、お前さん達をしょっぴいて来いって命令が出てんだ。火傷したくないなら、素直にお縄にかかった方がいいぜ?」
「て、めぇ……!遺言はそれでいいってことだな?もういい、お前ら!よく狙えよ……」
「やっぱあの図鑑の最初のページ変えてもらおうぜ。無能力者でも頑張ったら何とかなりますみたいな奴。大勢で囲めば勝てるとか思っちゃうこいつらみてーなの出てくるしよ」
「レイジさんがアホなことばっかりやってるからですよ。『委員会』の能力者全員同レベルと思われてますね。まぁ、これから嫌という程分かると思いますけど」
「さっさとこいつらぶっ飛ばして、雇われ異能力者見つけてぶっ飛ばして、帰って皆切に話を聞くぞ。お父さん交際はまだ認めませんからね!」
「はいはい、早く終わらせたいのは同意します。それじゃ──」
「ぶっ殺しちまえ!!」
「「
能力発動を告げる声と、倉庫街を照らす銃声が、同時に響いた
●
「撃て撃て撃て撃てェ!!」
扇状に広がった隊列で様々な銃火器が火を吹く。無能力者は勿論、身体能力の向上している能力者であっても無事ではすまない数と文明の暴力。所詮は人間。その脆さを男達はよく理解している。
理解しているからこそ、眼前に広がる光景を信じることができないのは、仕方の無いことだった
「おー怖……少し能力使うの遅れてたら蜂の巣だぜ大我くんよ」
「レイジさん一人だけなら即死でしたね。なんでしたっけ、"孤独な
「悪かったって……頼りにしてるぜ相棒。
──ぴたりと
男達の撃った弾は全て委員会の二人に届くことなく、その少し前で完全に運動を停止。時が止まったようにその場に浮いている。
「んだそりゃあ……、風を操る
「あー、そういう反応……さては同じような念力使いを殺したことあるな? さて、答え合わせの時間だぜ大我くん、教えてやれよ」
「……確かに僕の能力は段階3の『
「能力の作用する場所は段階と、本人の認識によって変わる。殺された念力使いは腕としてその力を認識した。僕は空間そのものを能力として認識している。レイジさん一人囲んで飛んできた銃弾を防御する程度簡単なんですよ」
「……どうしますレイジさん。このまま銃弾、相手に跳ね返してもいいですけど」
「いや、ここまでやってくれたら充分だ。あとは俺に任せろ」
レイジの腕が燃え上がり、掌を前に突き出す。その炎に止まっている銃弾が当たると赤熱し、どろどろと溶けていくことから温度の高さが伺える。
「おいおい……まさか、そんなもんを俺らにぶつける気じゃねえよな……?『委員会』は殺しはしねぇんだろ……」
「あぁ? まさか俺がてめぇらを殺さないとタカをくくってやがったのか。知らねぇのかよ。『委員会』にはな、死体処理専門の部署があるんだぜ?」
「今回はお世話になることもねえがな、そのまま火葬場コースだ。骨も残らず蒸発しな」
「やめ!降参、逃げ───」
段階4の能力者がもたらす圧倒的な爆炎が、男達を包み込み──真夜中の空が一瞬明るくなるほどの光が倉庫街を照らす
後に残ったのは、その場に泡を吹いて倒れる男達と、イタズラが成功したかのように笑うレイジ……そしてそれを呆れたように見つめる大我だった。
「ばーか。委員会はヒーローだぜ……悪人だろうと殺すかよ。俺程の能力者になると、熱を伝える対象を絞れるのさ。
「ありませんよ死体処理専門の部署なんて物騒なところは……はぁ、なんだかんだ、レイジさんの能力操作は皆切にとって、というか委員会の能力者全員にとっての手本として完璧なんだよな。性格がアレだけど」
「アレってなんだよ!あ、そうだ。今のバッチリ撮れてるよな!次の講習で使えちゃったりする?」
【いい感じに編集して、変なところはカットして使います。レイジさんは性格がアレなので】
「アレってなんなんだよォ!!」
「ほら、急ぎますよ。まだ能力者が見つかってないし、主犯の最高責任者も見つかってないんですから。外で待機させてるメンバーにこの人達の捕縛お願いしといてください」
「釈然としねぇ……かっこよかったはずなのに」
二人の男はそのまま、再び静かになった倉庫街を歩き出す──……
●
──委員会が接敵するより、少し前──
倉庫街の屋根から屋根を飛び移り移動する
今日は騎士の時に纏うマントだけを具現化している。騎士には顔と身体を半分ほど隠すボロ布のようなものだが、今の僕にとっては全身をすっぽりと覆うちょうどいい長さだ。夜に紛れられるし、大きい騎士は隠密性に難があるから、敵にも委員会に見つからずに標的を始末するならこれが最も確実だ。
【騎士様。委員会の能力者と、標的の異能力者を見つけました】
「ありがとう姫。確認してみるよ」
肩に腰掛けた天使から姫の声がする。その少し後、手に持った携帯端末に通知が入り、地図のデータが送られてくる。
「青丸が二つ、これが委員会で。赤丸が四つ……?一つ離れたな。これが異能力者か。ねぇ、異能力者が三人で囲んでる黒丸は?」
【この倉庫街を運営する最高責任者のようですね、委員会が来るとの報告を受けて籠城。旗色が悪いと感じれば港から脱出しようとしているのではないかと、一人は船を取りに行ったのでしょうね】
「……なるほど。部下を尻尾切りしようって魂胆か。悪人らしい姑息さだ……」
「とりあえず、まずは離れてる一人を斬るね。姫は念の為に委員会を監視しておいて」
【はい。騎士様……あら、この方たち急に仲間割れを始めて……ふふ。これは逆に仲良しさんみたいですね。楽しそうに言い争ってます】
「……敵地のど真ん中で?」
人間はたまによく分からないことをするな……僕もまだまだ勉強不足みたいだ。
と、見つけた。異能力者だ
「
黒い霧が腕を一瞬覆い隠し、篭手を形成する。
デザインは騎士の物とは違う。これは僕の
屋根から降りて、短剣を作製。男の背後に立つ
「こんばんは、随分と探したよ」
「……? 船を取りに行くのは一人でも──ッ!『起動』ぅぐあああぁ!?」
挨拶と同時に飛び込み、首を狙って振り抜いたが……流石に手練か。
ちょうどお互いにすれ違った形になり、振り向きざまに全身を硬質化させた男が拳を振りあげ殴りかかる。
「……殺す!」
「
振り下ろされた拳を鎧を纏った回し蹴りで横から蹴りつける。
即座に作り直した短剣を、心臓を狙って突き刺すが、切っ先が少し入るだけで硬質化した皮膚を突破出来ずに砕け散り、僅かな傷口も能力で即座に修復された。
飛び上がって距離を取るも、男は逃がさないとでも言うようにすぐに距離を詰め、凶器の拳を振り下ろす
「無駄だ!そんな脆い刃で全力で硬化させた俺の防御は貫けない!」
「先に謝っておくけれど、君の遺体は綺麗には残らないよ」
「何をふざけたことを───!?」
金属同士を擦り合わせたかのような、不快な音が男の腕部分から鳴り、拳が僕の方へと振り下ろされることは無い。
手に持っていた短剣の柄部分を霧に帰し、腕を振り上げたまま固まる男を見る
「なんだ、これは……何故俺の腕から剣が生えて」
「時間もないし、初撃で殺せてたら良かったんだけど……能力に頼りきって防御しなかったね。さっきから君が砕いてる短剣……あれを霧に戻して全身に張り巡らせた。それを同時に剣の形にするとどうなると思う?」
「は?……まて──やめ」
「──弾けろ」
概念に物理法則なんて存在しない。その一欠片でも"入った"と認識さえすればそこから剣を作り出せる。縦横無尽に飛び出た剣を霧に帰し、人と呼べるかどうかも怪しい形になったモノを横目に歩き出す。
……空が明るくなったな。こっちが戦ってる時、銃声のような音も聞こえたし、向こうも終わったか
【騎士様。委員会の方々、無能力者の集団と戦闘に……いえ、もう終わったようです。距離はそこまで離れていないので、お早めに……】
「分かってる。すぐに片付けるよ」
この倉庫の中に、あと三人……この声は例の責任者の声か、誰かと話してる?
●
丸々と肥えた男が、宙に浮く黒いモヤ、その中にある鏡と話している
「まて、待ってくれ!金ならここを切り抜けた後でいくらでも払う!だからもう少しだけ、協力してくれないか!」
【いやですねぇ、物語は終わるもの、夢は覚めるものでございます……我々は貴方に夢のような時間を提供しただけ。完璧な隠れ蓑と安定したルート。どう使うかは一任しましたが……本当に、貴方の欲望がよく分かる素晴らしい物語でございました】
【一睡の夢であれ、快楽的な生活はお楽しみいただけたようで何よりでございます。目覚めた時、現実とのギャップが大きいほど、喪失感もまた大きい……覚悟の上だったのでは?】
【委員会を侮り、無能力者のみでの対応。自分のみに戦力を集めて籠城を選択し、さらに逃げる判断も遅い……。さすがにここから我々がなにかして差し上げられることはないかと】
【可能性があるなら、我々が紹介した異能力者達……彼らを上手く使えばここを切り抜けることくらいはできるかもしれませんねぇ。最後の最後まで、ここから楽しませていただきますとも……それでは】
鏡がひび割れ、黒いモヤと共に消える。男はさらに取り乱し、苛立ちと焦りで半狂乱になって叫ぶ。
「船を取りに行ったやつは何をしている!委員会にやられたのか!? もういい!殺せ!奴らを殺せば追加報酬をだす!私が逃げるだけの時間を──」
「船なら来ないよ」
ぽつりと声がする。
見れば、入口の方に小柄な人影が一つ。全身をボロ布で覆い隠し、表情すら伺い知れないその異物に、この場にいる誰も気づけなかった。
「な、なんだお前は……子供?なんでもいい、邪魔をするな!私には時間が無いのだ!」
残った3人の異能力者が一斉に
「『剣士』『槍兵』後ろのは緑の魔石……
剣士が警戒を強め、槍使いは前傾姿勢を取り何時でも飛びかかれるように。一見何も持っていないように見える
「……船は来ないと言ったな。つまりあいつは委員会に捕まったのか、それともお前が殺したのか」
「当然、僕が殺した。道を外れた
「……そうか、お前が例の異能力者殺しの犯人か、ならばこちらはもう語ることも無い」
「同胞の仇、取らせてもらおう!」
その言葉を言い終わる前に、前衛の異能力者達が飛び掛る。
能力者の身体能力であれば容易く詰めれる距離に──しかし、少年の余裕は消えず、僅かに見える口元には笑みさえ浮かんでいた。
「もう出し惜しみは無しだ。『
体を霧が包み込み、剣と槍が止められる。拮抗も一瞬……爆発するように霧が晴れ、二人を吹き飛ばす。
「……仇、復讐、俺もそうだ。ようやく見つけた」
大柄な体躯。全身を覆う黒い甲冑。ボロ布のようなマントを纏い、その手に持つは装飾のない真っ黒な剣
「……お前の魂を喰らいつくし、中の元凶を引きずり出して、必ず殺す」
だらりとぶら下げていた剣を持ち上げ構える。三人の異能力者と、漆黒の騎士が改めて対峙する。
逃げることも立ち向かうこともできない責任者の男はガタガタと震えながら、その戦いを見届けることしか出来なかった。
長い夜は、まだ続く──……
次回もバトルバトルな予定。お楽しみに