本来は長編シリーズで考えていたのですが、途中断念で供養と言う感じで投稿させて頂きます。表紙イラストも
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荒廃した廃墟郡と、白銀の新都市。黒と白、陰と陽、対照的にな存在がまるでかつて古代の太極図のように組み合った大都市──クーロン・シティ。
その市街地の真上に張り巡らされた高速道路、網目のように広がる大ジャンクションで、俺と相棒のラウルはA・P・T仕様の白色のモトバイザー『グリフォン』、そのオートバイ形態となるビークルモードを駆りターゲットの追跡を行っていた。
オペレーターからの通信が俺のヘルメットに届く。
『対象は間もなくD地区外れ、旧市街地付近のエリアに到達します。そこでならピープルへの被害は無いはずです。準備してください、アレックスさん、ラウルさん』
「ああ! 俺はいつだって、絶好調さ!」
『──了解した』
暗い青……濃紺色のアムジャケットを纏いモトバイザーで俺と並走するラウル、いつもの無愛想な声もこっちに届く。
アムジャケットは規格こそ共通しているけれど、着用者ごとにヘルメットなどのデザインやカラーリングが幾らか異なる。ラウルは濃紺色だけれど、僕のアムジャケットは明るめの赤、クリアレッドが基調になっている。
『なら構いません。──対象はトレーラーで逃走する銀行強盗。全員僕達同様にアムジャケットを着用し、アムギアによる武装もしているようです。二人とも用心をお願いします』
アムジャケット、そしてアムギア。それは世界の多くで今なお使われている特殊エネルギーである『アムエネルギー』を利用した強化服、そして武器の事だ。
かつては人類に敵対する未知のメカとされてきた存在、『バグシーン』と対抗するために、当時世界を統治していた連邦政府によって生み出されたものだった。けれど、そのバグシーンの正体は連邦とそのトップに立つ連邦評議会議長、バーロック・ウィルコットにより、世界統一のための架空敵として自らが作った存在にすぎなかった。
このスキャンダルが明るみになった事により、連邦内でナンバー二の地位にいた評議会議長、ジャン・ピエール・ジノベゼが自らの施設部隊、ジャスティスアーミーを組織し反逆。──連邦とジャスティスアーミーの間で世界を巻き込むほどの激しい戦争が巻き起こった。
二つの陣営による世界の混乱。それは『ある勢力』の活躍もあって終結に至った。……けれど。
目の前を走るのは、銀行強盗が乗る大型トレーラー。それもただの強盗犯罪じゃない、アムエネルギーを利用したテクノロジーを悪用する──アムテクノロジー犯罪。
僕達が追跡する銀行強盗のトレーラー、その上部ハッチが開き、アムジャケットを着た強盗が三人現れる。黒を基調にした、かつてジャスティスアーミーが用いていたジャケットだ。
「あれからもう五年も経つのに、本当に、あちこちに出回っているよな」
『そんな事はどうでもいい。僕達は僕達に出来る事をするだけだ、アレク』
「……そうだな、ララ」
俺とラウルは互いに愛称で呼び、応え合う。
戦いから五年が経った今、復興は進んではいるものの、その傷跡は深く残っていた。
連邦はバグシーンによるマッチポンプを引き起こしたスキャンダルとジャスティスアーミーとの戦争の末に解体されたが、世界には新たに人類社会を治める統治機構が必要だった。……その後元連邦の一部閣僚と関係者により『新連邦』として再編、新設され、改めて世界を統治する事になりはしたが、それでも問題は山積みだった。
他に適任がいなかったとは言え、かつての連邦の関係者によって結成された後継組織。かつてスキャンダルと騒動からまだ数年と間もなく、人々の信頼は多く得られているとは言えなかった。加えて新連邦の設立の一方で、未だ世界の覇権を諦めていないジャスティスアーミーの残党も各地に潜み、今なお抵抗とテロ活動を続けている。
何より──一度巨大な統治機構を失ってしまえば、治安も大きく低下するしかなかった。
問題を抱え不安定な社会、その中で暴力と犯罪が幅を広げ、戦争で多数生産されたアムテクノロジーも裏で大量に出回り悪用されている。あんな風に、強盗さえ裏ルートで仕入れたアムジャケットと装備で武装出来るほどに。
アムテクノロジーと言う力を悪用したアムテクノロジー犯罪。復興されつつある社会と人々を守るために、同じくアムテクノロジーを使い対抗するべく新連邦が結成された公安組織。
それが俺達、アムドライバー公安機動部隊────通称A・P・Tである。
『オペレーター、対象は戦闘態勢をとっている。交戦許可を頼む』
『……交戦許可ですか。しかしエリアへのポイントまではまだ少しあります。ここは一旦距離をとって──』
「悪いけど、今距離を離したら逃げられるリスクが高くなる! 旧市街に逃亡してしまう前に、ここで止めるぜ!」
『アレックスさん!』
「心配ない、ここでも周囲への危険は少ない。それに周囲に被害が出るより先に、迅速に仕留めてみせる!
行くぜララ! ステップオン、アクセルっ!」
俺はラウルに呼びかけた。あいつも軽く頷いて、それから前を見据えて言った。
『了解だ。──ジェロニモ(突撃)っ!』
────
トレーラーから現れた、ジャスティスアーミー仕様のアムジャケットを纏う三人の強盗。配置はトレーラー後部、俺達から見れば手前左右にライフル型のアムギアで武装した二人。あれは戦時中にでも一般的に使われていたギアで、汎用性が高い分威力はそこまでない。
問題なのは……トレーラー前部、俺達から見て中央奥にいる、両腕でキャノン砲を構える残り一人の方だ。
(あのアムギアの威力は相当に大きい。流れ弾一つでも小さい家くらい軽く吹き飛ぶほどで、ジャンクションそのものも場合によっては崩落する危険がある。
先に無力化したいが、左右の二人が邪魔になる。ここは──)
俺達はモトバイザーの速度を上げて前に出て、更にトレーラーとの距離を詰める。そしてラウルに頼む。
「俺は今からトレーラーに乗り移ってターゲットを無力化する! ララは援護を頼む!」
『……ずいぶん無茶をする。けれど作戦には同意した、援護は僕が引き受ける』
「サンクス! ララ!」
トレーラー左右に立つ強盗はライフルの銃口を俺達に向けて銃撃を放つ。
アムエネルギーをビームの弾に変換して放たれるエネルギーの雨、ラウルは先行して攻撃を引き付ける。
『囮には勿体ないけれど、引き付けるにはこれが一番だ。モトバイザー──ブリガンディモード』
これがバイザーの機能、アムエネルギーで稼働する高性能な乗り物、ビークルモードであると同時に、アムジャケットに装着して機能を強化するパワードスーツの役割を持つ。
ラウルの乗るモトバイザーは跳躍したか思うと、パーツは複数に分離する。まずは機体後部が二つに分離しホイール付きの脚部パーツが両足に装着される。そして装備した脚部のホイールで走行しながら、前部が両腕パーツに変形して上半身に装備、最後に胸部にモトバイザーのフロントが装着されてアーマーになる。
この形態こそ、バイザーのパワードスーツ形態、ブリガンディモードだ。
ブリガンディモードとなったモトバイザーを駆るラウル。ジャンクションを走りながら銃撃による攻撃を、シールドのような肩装甲で防御しながら両腕のガトリングで牽制を仕掛ける。僕達は公安組織、つまりは警察みたいなものだ。犯人の逮捕が仕事であるこそすれ、人を殺傷する事はしたくない。それは僕も、ラウルも同じだ。
『アムテクノロジーなんて、人には過ぎた力だ! 押収させて貰う!』
隙を捉えて、彼は強盗の持つライフルを銃撃で狙い撃つ。流石はラウル、両腕に装備されたガトリングを器用に扱い、強盗二人の手元から武器を弾き飛ばした。
これで二人同時に無力化に成功した。そんなラウルに、大型キャノン砲のアムギアを装備した強盗が狙いをつけて構える。あの装備の威力、当たればブリガンディモードの装甲でさえひとたまりもない。……けれど!
「させないぜっ!」
俺はその真横に躍り出て、キャノン持ちの強盗にガンナイフを突きつける。ラウルが注意を引いてくれていた隙に、トレーラーに飛び乗ってここまで迫ったわけだ。
「抵抗しなければ撃ちはしない。まずは大人しく、アムギアを解除して貰おうか」
犯罪者相手にはこれが一番の交渉だ。強盗は俺の言葉に従い、キャノン砲とアムジャケットの接続を解除して下に下ろす。
「そのまま大人しくしていろよ。余計な手間をかけさせるんじゃない───っ!!」
瞬間、左右から気配を感じて俺は横に飛び退いた。攻撃を仕掛けたのはさっきラウルの奴がライフルを弾き飛ばした二人の強盗だった。無力化したと思っていたものの、代わりにその手に電磁警棒を握り僕に迫る。
(二体一か。厄介ではあるけれど、問題ない!)
まずは一人、警棒で攻撃を仕掛ける。
俺の武器、アムギアは銃身にナイフのようなブレードを取り付けたガンナイフ型のものだ。強盗の横薙ぎ攻撃を僅かに身体を反らして避け、同時に俺は警棒を持つ右手に斬撃を放つ。
この武器は強盗が使う電磁警棒の半分程度の大きさで、威力もそこまで無い。けれど射撃と斬撃が両方扱えて、小回りが利きすぐさま攻撃を繰り出す事が出来る。俺にとっては一番扱い勝手の良い武器だ。
一人は手の甲に傷を受けてまともに警棒を扱う事が出来なくなった。が、もう一人が続けざまに連撃を仕掛ける。
「ちいっ!」
警棒の振り下ろしを、ガンナイフの刃先で受け止める。相手もアムジャケットにより身体を強化している、相当なパワーで押されているのが分かる。それでも相手は戦いの素人、ただの強盗がアムジャケットを着ているに過ぎない。力の扱いが下手な上に……ジャケットも五年前の旧式だ。
(あれからジャケットの性能も上がっている! 新型のアムジャケットの力──見せてやるぜ!)
鍔迫り合いになる中、俺はそれ以上の力で攻撃を弾く。そして態勢を崩す強盗に銃口を向けて、一発お見舞いする。ビームをまともに受けて相手はそのまま倒れた。
「出力は抑えてある。かなり痛いが、死にはしない。
──お前たちも大人しくしていろ」
今度は言う通りに従った。残る二人は両手を上げてホールドアップ、降伏の意思を示す。……よし!
「こっちは片付いた! ララ、そっちは?」
『僕の方は楽なものだ。ドライバーの方も、今からトレーラーを停車させるとの事だ。──そうだろう?』
見るとラウルもブリガンディモード、トレーラー前方の運転席近くに移動してガトリング砲を突きつけていた。
────
トレーラーは間もなくして停車し、銀行強盗は全員手錠をかけて取り押さえた。
「見ての通り、対象は無事に確保した。迎えの護送車を頼むぜ」
『はい。間もなく到着しますので、あと少しお待ち下さい』
「オーケー! ありがとうな!」
本部のオペレーターとの連絡を済ませて、俺はヘルメットを抜いて一息ついた。……やはりずっと付けていると、少し息苦しいものな。
それから相棒のラウルの所に。あいつもヘルメットを取り、ジャンクションの道路端に立ち景色を眺めていた。俺は傍に着て言った。
「よぉ! ララもお疲れ様!」
「……ああ」
少しくせ毛のある薄い茶髪に、細い眼鏡越しに見えるうっすらとした青緑色の鋭い瞳。愛想のない無表情さはいつもと変わらない、それが相棒のラウルだ。
「迎えを待っているのは暇なのは分かるけど、何してるんだ? じっと旧市街の方を見つめてさ」
あいつの視線の先には、かつて元々のクーロン・シティだった、荒廃するばかりの廃墟の都市が広がっていた。五年前、連邦とジャスティスアーミーとの戦争によって破壊され、そのまま放置された旧市街だ。
丁度このジャンクションの道路は境目に位置している。反対側には戦後新たにシティとして新設された、無数の照明と新品の建物で光り輝く新都市部が見える。
ラウルは廃墟となったかつての街並みを、ただ見つめていた。そして俺の声に振り返ってこたえた。
「何、少し景色を眺めていたにすぎない。──こうして僕達が守るシティの景色を」
いつもは無愛想だけれど、この時は少し思う所があるような表情で。ラウルの気持ちは分かる。戦争から何年も経って傷跡は大きい、けれど守るべき物があるから俺たちはアムドライバーとして、かつてとは違う形ではあるけれど役目を果たしている。
人々と社会の平和を守る、これが俺たち──A・P・Tの仕事だ。