新しい生き物の誕生はその生き物の危険性によるけど、大抵の場合は祝福されて生まれてくるものだ。でも、それにも様々な条件がある。祝福されない、または親からしか祝福されず、周囲から疎まれながら生まれてくる命もある。
「キュー!」
私の目の前にいるドラゴンもその一つの例だ。然るべき場所で生まれず、一人を除いて数人からは歓迎されずに生まれてしまった。
「……本当に……生まれちゃった……」
ーー
時間は少しだけ遡る。
ハグリッドがドラゴンの卵を持っていたことが発覚した後、私達の生活は特に変化すること無く過ぎていった。次々に出される宿題と格闘する日々。何かしらの大事が起こることも無く、ただ平和な日常が続いていった。
「おはようグレイ、昨日の宿題どこまで進んだ?」
大広間にいくとロンが林檎を齧っていた。
「おはようロン、終わったけど見せないからね」
「……まだ何も言ってないけど?」
「あなた昨日ハーマイオニーが手伝ってくれてたのにあまり進んでいなかったじゃない。だったら一人じゃまったく進まないのは目に見えてるわ」
事実、ロンの宿題はハーマイオニーがやってるようなものだった。わからず手詰まりになった問題をロンが聞いてハーマイオニーが答える。ロンの為になっているかも微妙な方法だった。
「提出期限はまだ先なんだし、ゆっくりやれば?」
「それじゃあ殆どの時間を勉強して過ごすことになるじゃないか!僕はそんなの御免だね」
「私達、一応学生でしょ?勉強するのが仕事みたいなものよ」
「ハーマイオニーみたいなこと言うなよ」
「ごねないの」
私がロンに勉強の大切さをハーマイオニーのように説いていると、ハリーが談話室にもの凄い勢いでやって来た。良く見ると手には手紙を持っている。
「ハグリッドからだ!」
ハリーは開封した手紙を私達に突きつけて来た。手紙にはたった一行、『いよいよ孵るぞ』と書かれていた。
「薬草学はサボろう!スプラウト先生は僕達がいなくてもさほど気にしないさ!」
「そんなこと駄目に決まってるでしょ!?」
「あ、おはようハーマイオニー」
まあロンの提案をハーマイオニーが呑むわけがないのは分かりきってたことだった。
「だって、ハーマイオニー! ドラゴンの卵が孵るところなんて一生に一度だって見られるものじゃないんだ!それは君も分かってる筈だろ?」
「確かに一生に一度あるかもわからないことだわ、でもサボったら面倒なことになるわ。だけど、それ以上にハグリッドのしていることがバレたら、私たちの面倒とは比べものにならないぐらい、あの人がひどく困ることになるのよ!」
二人はここがどこなのかも忘れて重要な秘密を大声で溢していった。それに私にはマルフォイがメートル先で立ち止まり、こちらの話にじっと聞き耳を立てていたのが見えた。
「ハーマイオニー声が大きい!静かに!」
「ロンちょっと黙って!」
私とハリーで二人の口を塞ぐが、既に時遅しだった。恐らくさっきまでの会話はマルフォイにばっちり聞かれてしまっただろう。マルフォイを見ると、あいつは憎たらしい笑みを浮かべたままスリザリンのテーブルに戻っていった。
「……どうするの?確実にあいつ聞き耳立ててたけど…」
「そんなの決まってるだろ。薬草学をサボってハグリッドの所に向かおう」
「どうしてそうなるのよ!?」
「マルフォイにさっきの話聞かれてるんだぜ?一刻も早くこの事をハグリッドに知らせないと、もしかすると彼クビにされちゃうかもしれない!クビになって当然のことしてるけど…ハーマイオニーだって彼がいなくなるのは嫌だろ?」
「…それは…そうだけど……」
「よし、決まりだ」
「…でも待って。ハグリッドの小屋には行くけど午前の授業には出席しましょう。マルフォイにタイミングを悟らせないようにしないと」
きっとマルフォイは、私達がグリフィンドールだから即決断して即行動に移すと思っているだろう。その裏をかくハーマイオニーの提案には私も賛成だった。
午前の授業の終わりを告げるベルが塔校内に響き渡るやいなや、私達は移植ごてを放り投げ、校庭を横切って森の外れへと急いで走った。温室を出るときにスプラウト先生の怒鳴り声が聞こえた。後片付けをしっかりしなかったから減点されるかもしれないが多分一点か二点だ。スプラウト先生には悪いが、そんなことハグリッドのことに比べたら塵芥に等しい問題だ。気にすることじゃない。
「はあ、はあ……間に合った、よね?」
「ああ、恐らく今から孵るところだ。ギリギリセーフだな。運が良いなお前さん達」
ハグリッドは興奮で頬を紅潮させていた。それがこれから生まれてくる命の誕生の喜びか、今まで体験したことのない未知への興味によるものかは私には分からない。
「もうすぐ出てくるぞ」
招かれた部屋の中央のテーブルの中央に卵が置かれており、卵には深い亀裂が入っていた。中で何かが蠢いている。コツン、コツンと殻から自力で抜け出そうとしているのが伺えた。
椅子をテーブルのそばに引き寄せ、私達は息を潜めて成り行きを見守った。そして、『きぃい』とガラスを引っ掻くような音がしたかと思うと、次の瞬間には卵がぱっくりと割れ、生まれたてのドラゴンがテーブルにころりと転がり出てきた。
ーー
現実逃避気味についさっきまでのことを思い出していると、いきなりドラゴンが私に向けて火を吐いてきたので我に帰った。赤ん坊であることも相まって威力も火の粉くらいだけど……なんだこの野郎?
「おお…生まれたばかりで囲まれててびっくりしただけだ。許してやってくれ」
「え、あ、う…うん」
「それにしても美しいだろう?本当に素晴らしい」
感嘆の声を呟きながらハグリッドが手を差し出してドラゴンを撫でようとすると、ドラゴンは尖った牙を見せてハグリッドの指に噛みついた。
「こりゃ凄い、ちゃんとママがわかっとる!」
「やっぱりこれ、軽く受け止めて良い問題じゃないよ!これがなんだか本当にわかってるの!?本当にノルウェー・リッジバック種なのかは半信半疑だったけど、本物じゃないか!」
「ハグリッドあなた、ノルウェー・リッジバック種がどれくらいの早さで大きくなるのかわかってるよね?」
「ん?そりゃもち………………」
「……ハグリッド……?」
ハグリッドは急に黙り込んだ。顔をよく見てみると、顔から血の気が引いていた。そして弾かれたように立ち上がって、窓際に駆け寄った。
「どうかしたの?」
「カーテンの隙間から誰かが覗いとった……子供だ……学校の方へ駆けて行った」
「……なんですって?」
慌てて窓に駆け寄って外を見ると、遠目だけど見覚えのある後ろ姿が見えた。最悪の事態だ。マルフォイにドラゴンを見られてしまった。
「……嘘でしょ?」
マルフォイは恐らく、朝から私達の行動を監視していたのだろう。私達がハグリッドのところに行くのを尾行していたに違いない。兎に角、面倒なことになった。
次の日から、私は目の前にある問題に頭を抱える日々が続いた。マルフォイの薄笑いを気にしたり、ハグリッドを何度か説得しようと試みた。
「ハグリッド、その子を外に出してあげたら?自由を与えるのもこの子の為よ」
「そんなことは出来ん。まだこんなに小さいんだ。安易に外の危険に晒すことは出来ん、死んじまう」
「ドラゴンにとっての危険って何?」
ドラゴンはたった一週間で生まれた時の三倍に成長していた。鼻の穴からはずっと煙が噴き出ている。ハグリッドはドラゴンのお世話に夢中になって家畜の世話の仕事もろくにしていなかった。ブランデーの空き瓶や鶏の羽が床のそこら中に散らかっていた。完全に職務放棄だ。ドラゴンのことと関係無くハグリッドをクビに出来る理由が出来上がってしまった。つい最近までの頼もしかったハグリッドはすでにどこかに消えていた。
「この子をノーバートと呼ぶことにしたんだ。もうおれのことをはっきり認識出来るらしい。見ててごらん。ノーバートや、ノーバート!ママちゃんはどこ?」
これはひどい。言葉が通じないペットに話しかけるまでは私にもわかる。ビートルにもよくするし。でもハグリッドは自分の意図すらノーバートに伝わっていないようだ。ノーバートはハグリッドを固くてうまそうな肉としか認識していないだろう。がっつり噛みついているのがその証拠だ。
「もう彼は駄目だ。完全に頭がイッちゃってる」
ロンがハリーに囁きかけているのが、私の耳にも聞こえてきた。悔しいけど同意見だ。
「もうやめようよ、ハグリッド。本で読んだけど、あと二週間もしたら、ノーバートはこの家ぐらいの大きさになるんだよ。いつまでもこの家の中で飼うわけにはいかないだろう? それに、マルフォイがいつダンブルドアにいいつけるか分からない状態なんだ。」
「それに仕事だって最近はまともにやっていない、今のあなたはとっても危うい状態だよ」
私とハリーで、ノーバートに夢中になっているハグリッドの耳にも届くように、大声で叫ぶようにして諭した。
「そ、そりゃ……おれだってずっと飼っておけんぐらいのことはわかっとるが、だけんどほっぽり出すなんてことは出来ん。どうしても出来ん。え?そうだろう?」
ハグリッドはとても悲しそうに語った。でもこの小屋で飼うのはいくらなんでも現実的じゃない。このままノーバートが大きくなっていけば、この小屋を圧迫して他の先生達に見つかるのも時間の問題だ。おまけにマルフォイにも知られてしまっている。
「ハグリッド、ここは一度冷静になっt「チャーリーだ!!」ハリー?」
突然、ハリーが大声で叫んだ。最近ハリーはいきなり大声を上げることが多くなっている気がする。
チャーリーは確か、ルーマニアでドラゴンの研究をしているロンのお兄さんだった筈だ。…ん?ドラゴン?……ああ、そういうことか。
「君もとうとうおかしくなっちゃったのかい?僕はロンだよ。わかるかい?」
「わかったよハリー。ルーマニアでドラゴンの研究をしているロンのお兄さんのチャーリーにノーバートを預けるわけね」
「そういうこと。これならハグリッドも安心出来るだろ?」
「……ああそういうことか!名案!ハグリッド、どうだい?」
「…………」
ハグリッドは最後まで渋っていたけど、『ノーバートの安全のためだから仕方ない』と説得してチャーリーに頼みたいというふくろうを送ることに、ようやく同意をしてくれた。大急ぎでグリフィンドール寮に戻り、ロンがチャーリー宛に手紙を書き、それをハリーのヘドウィグに持たせて飛ばせるところまで、ざっと一時間もかからなかったことだろう。方針が決まってからは事が順調に進んだ。
だというのに、次の週はのろのろと時間が過ぎていった。チャーリーからの返事を待つことしか出来ない私達は、毎日空を気にしていた。
「事を運ぶのって意外と難しいね」
水曜日の夜、ロン以外の私達三人は誰もいない談話室に残っていると、ハリーが突然呟いた。
「焦る気持ちもわかるけど、だからって力みすぎちゃ駄目だよ」
「わかってるよそんなこと。心配しないで」
「……なら良いけど」
「…話は変わるけどさ、さっきからグレイは何をしてるの?ホグワーツのスケッチ?」
ハリーは先程から私の手元にあるホグワーツが描かれたノートをまじまじと見てきた。
「ああ、これ?お父さんが参考に描いたのを送って欲しいって言うからやってるの」
「グレイのお父さんって、確か小説家だっけ?」
「そうだよ。お父さんはいろんな場所に取材に行って執筆するタイプの人だけど、ホグワーツには来てないから絵を見て本の内容を考えたいのかもね」
「ふーん」
「グレイのお父さんの小説、何度読んでも面白いわよ。今度ハリーも読んでみたら?」
「機会があったらね」
暫くの間、談話室で他愛の無い雑談を繰り広げていると、壁掛時計が零時を告げたと思ったら、肖像画の扉が突然開き、ロンが酷く疲れた様子で戻ってきた。普通なら生徒が夜のホグワーツを出歩いて良いわけないが、ロンはハリーの透明マントを借りていたので先生達に見つからずにハグリッドの小屋に行ってノーバートのお世話を手伝って帰ってきたみたいだ。自分の手を血だらけにして。
「どうしたのその手?」
「ノーバートにやられたんだよ。これじゃ少なくとも一週間はまともに羽ペンを持てないよ。まったく、あんな恐ろしい生き物は今まで見たことないよ。なのにハグリッドの話を聞いていたら、不思議なことにふわふわしたちっちゃな子兎にかと思っちゃうよ。あいつが僕の手を噛んだというのに、僕があいつを怖がらせたからだって叱るんだ。僕が帰るときには子守唄を歌ってやってたよ」
『あの大男、相当イカれちまってるらしいな…とっちめるか?』
サファイアの危ない話は無視して、今はロンの手だ。見ていて痛々しかった。私は部屋の棚から医療箱を持ってきて包帯を取り出すと、今日の魔法薬学の授業で作ったウィゲンウィルド薬を包帯に染み込ませてロンの手に巻いた。
「ありがとうグレイ、助かったぜ」
「お安い御用だよ」
かんかんかんかん!と、窓が数回叩かれる音がした。窓を見てみるとそこには手紙を咥えた見慣れた梟がいた。ヘドウィグだ。
「チャーリーからの返事が来たんだ!」
ハリーは嬉しそうに窓を開け、ヘドウィグを談話室に招き入れた。
受け取った手紙の内容はこうだった。
ドラゴンは喜んで預って貰えるらしいが、ルーマニアに連れて行くのは簡単ではなく、法律を犯して羽化させたドラゴンの子を運んでいる現場を見られてはいけないので、土曜日の真夜中に一番高い塔にドラゴンを連れていき、そこで引き渡しを行ないたいという内容だった。
「先生やフィルチに見つからずに天文台の塔に向かわなきゃいけないってこと?」
「ハリーの透明マントがあるから、そこまで難しいことじゃないと思う」
「でもグレイ、それはちょっと無茶じゃないかしら?」
「できなくははないと思うよ。僕ともうひとりとノーバートぐらいなら隠せるんじゃないかな?」
「よし、決まりだね」
確かにハーマイオニーの言うとおり、この小屋で作戦は無茶かもしれない。でも実行するしかない。一刻も早く、ノーバートをホグワーツから出さないくてはならない。ハグリッドの為にも、私達の為にも。
ーー
「……ロン、その手……」
翌朝、ロンの手の包帯を外してみると、赤く腫れ上がっていた。
「マダム・ポンフリーに診て貰った方が……」
「それは駄目だグレイ。マダム・ポンフリーに傷を診られたら一発でそれがドラゴンによるものだって気付かれる。そうなったら終わりだよ」
ロンは強がっていたけど、その強がりが続くのもお昼までだった。ロンが朝よりも痛そうにしていたので見てみると、傷口が気持ちの悪い緑色になっていた。どうやらノーバートの牙には毒があったようだ。授業が終わってすぐに、私達は医務室で横になっているロンのもとに向かった。
「実は、酷いのは手だけじゃないんだ。もちろん、この手は千切れるくらい痛いけど、それどころじゃない。ここにマルフォイが来たんだ。あいつ、僕に本を借りたいって言って、マダム・ポンフリーを騙して入ってきやがった。何に噛まれたのか本当のことをマダム・ポンフリーに言いつけてやるって、僕を脅すんだ」
「でも、それも土曜日の真夜中ですべて終わりでしょう?」
確かにマルフォイはノーバートのことを知っているけど、ノーバートを受け渡す計画のことは知らない筈だ。そこまで気にすることじゃない。
「土曜零時!」
「わっ!?…ビックリしたぁ……」
突然ロンが叫ぶものだから思わずビックリしてしまった。
「ああ、どうしよう! 大変だよ! 今思い出したけど、チャーリーの手紙をあの本に挟んだままだ。僕たちがノーバートを処分しようとしていることがマルフォイに知られてしまう!」
………………は?
「……冗談でしょ?」
「……ごめん、本当……」
「…はぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!!」
「あなた達!そんなに騒ぐなら即刻出ていきなさい!」
「あ!?ごめんなさい!!」
マダム・ポンフリーは私達を医務室から追い出した。私が騒がしくしてしまったのでされて当然だけど。
「ロンがあんな状態だけど、今さら計画は変えられないよ。チャーリーにまたふくろう便を送る時間はないし、これはノーバートを何とかするための最後の手段だ。それに、こっちには透明マントがあるってことをマルフォイは知らない」
ハグリッドの所に行くと、ボアハウンド犬のファングが尻尾にぐるぐると包帯を巻かれて、小屋の外にしょんぼりと座り込んでいた。きっとノーバートに酷い目に遭わされたに違いない。
「ああファング、痛かったね、可哀想に…」
私が駆け寄ると、ファングはングは鼻元をローブに押し付けて切なげに鳴いた。
「すまねぇが、中には入れてやれねぇんだ」
「ファングがこんな目に遭ってるのに、まだノーバートをかばうの?ロンみたいに」
「ノーバートは難しい時期でな、ちぃと俺以外にはどうしようもねぇ状態なんだ」
私はハグリッドを責めるが、ハグリッドはハグリッドで涙目だった。多分ノーバートに足を噛まれたのだろう。ハグリッドといえども、ドラゴンを手懐けるのは困難を極めるようだ。
私達の生活はノーバートという異物のお陰で滅茶苦茶だ。私は一刻も早く土曜日が来てほしいと願いながら城へ戻った。
「それで、誰と誰がノーバートを運ぶの?透明マントはノーバートと、運ぶ二人しか被れないんでしょ?」
「ノーバートを小さく出来ないかな?グレイはサファイアを小さくしてフードにいれてるんでしょ?」
「サファイアに使ってる魔法はサファイアにしか効果がないの。ホーンド・サーペントは大抵の魔法を弾いちゃうから、特別な魔法で小さくしてる。お婆ちゃんに教えて貰った魔法だよ」
「えっ、じゃあノーバートには効果がないの?」
「多分ね…」
「そっかぁ……」
「……で、誰が運ぶの?」
「私とハリーが行くわ。グレイは寮にいて」
「ハーマイオニー?」
ハーマイオニーが自分から名乗り出た。それだけで驚いた。ハーマイオニーもノーバートをどこかへ移したくて焦っているのかな?
「ハーマイオニー、無理しなくても良いんだよ?」
「ありがとうグレイ。でも今回は私がやるわ。トロールの時もあなたに頼りっぱなしだったから。今回は私が頼られる番よ」
「……」
ハーマイオニーは本気だった。どうやらすでに覚悟を決めているみたいだった。
「…わかった。ハーマイオニーに任せるよ」
「ありがとうグレイ」
「…ねぇ、僕は?」
「ハリーは男の子でしょ?男の子は女の子の為に体を張りなさい」
「なんて無情なんだ」
ーー
土曜日の零時、ノーバートをチャーリーに受け渡す日がやってきた。ハリーとハーマイオニーは今頃、ノーバートを運んでいる最中だろうが、お留守番の私には出来ることがなかった。
『心配か?あの二人が』
「ピピィ?」
「うん、まあね…」
透明マントを持っていても、心配なものは心配だ。ノーバートが突然暴れたり、足音でフィルチにバレてしまったら一貫の終わりだ。マルフォイのこともある。不安にならないほうがおかしい。
「サファイアを連れて行かせれば良かったかな」
『俺の言葉はあの二人にはわからないだろ。ついていっても無駄に終わるさ』
「…それもそうね」
私はただ、二人の帰りを待ち続けた。それだけしか出来なかったから。不安に駆られるのを必死に堪えて、二人が無事に帰って来るのを祈り続けた。
二人を待ち続けて二時間くらい経った頃、ようやく二人が帰ってきた。ただ少し、行く前よりも空気がどんよりしていた。
「お帰り二人共……どうかしたの?」
ハリーは俯きながら私の横を通り過ぎて部屋に戻っていった。
「?…ハーマイオニー、どうし………っ?」
ハーマイオニーの顔を見てみると、彼女の顔は涙と鼻水で大変なことになっていた。彼女はゆっくりと私に近づいて、私に抱きついてきた。ハーマイオニーはまるでハロウィーンの時のような状態だった。
「うぐ……ひっく…ぐすん……」
「ハーマイオニー?一体どうしちゃったの?」
「……フィルチに……見つかって……マクゴナガル先生に罰則を受けろって……言われちゃったぁ……」
「えぇ………ノーバートは?どうなったの?」
「……私のことより……あのドラゴンのほうが心配…なの?」
「そんなことない、そんなことないから。ハーマイオニーの方が百倍心配だから。ね?」
「……ノーバートは……ひっく……ちゃんとチャーリーに預けた……」
「……そう…頑張ったねハーマイオニー」
「……うん…私…頑張った……」
「うん、偉い偉い」
私は静かに泣き続けるハーマイオニーをあやし続けた。聞くところによると、ノーバートをチャーリーに受け渡した後に透明マントを失くしてしまったらしい。ノーバートを手放した後に、気分が高揚してうっかりしてしまったみたいだ。
「あれ…ネビル?」
ハーマイオニーから事情を聞いていると、後から何故かネビルが談話室に入ってきた。
「グレイ、どうして君が?」
「それはこっちの台詞だよ。外に出てたの?」
「うん。僕、ハリー達が外に出ていることをマルフォイが先生に言いつけようとしてたのを止めようとしたんだ。でも逆に先生達に見つかっちゃって…」
「それは……面倒なことになったわね」
ハーマイオニーによると、一人五十点減点されたそうだ。三人で五十点ではなく、一人で五十点、全員で百五十点。せっかく首位に立ったグリフィンドールは最下位まで落ちてしまった。
「僕…なんて言ったら良いのか…」
「大丈夫よネビル。あなたも休みなさい」
「……わかった。そうさせてもらうよ」
ネビルも自分の部屋に戻って行った。私達ももう部屋に戻ったほうが良いだろう。
「ハーマイオニー、部屋に戻るよ……ハーマイオニー?」
呼び掛けても、ハーマイオニーからの返事はなかった。どうやら泣き疲れて眠ってしまったみたいだ。
「…インセンディオ」
仕方ない。私にはハーマイオニーを持ち上げることもできず、身動きが取れない。今日はここで朝が来るのを待つことにしよう。
「アクシオ」
暖炉に火をつけて部屋を温め、大きめの毛布を引き寄せてハーマイオニーと一緒にくるまった。鼓動が聞こえる、よくお母さんにこうしてもらいながら、他人の鼓動を聞きながらだとよく眠れると昔聞いたことがあったけど、どうやら本当みたいだ。
「…おやすみ、ハーマイオニー」
次第に眠気がやってきた。明日からは大変だ。ホグワーツの殆どからハリー達は罵倒されるだろう。私は三人の為に、出来ることをしなきゃ。
誤字報告、遠慮せずにガンガンください。よろしくお願いします。
一部修正しました。
章の名前を変えるべきかどうか
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変える
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変えない
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どうでもいいからはよ投稿しろ