この男は特別が嫌いだった。ただ人と違うから。自分にしか出来ないから。そんな理由だけで勝手に戦いに向かい、誰かを守り満足そうに笑っている特別な連中が憎かった。それはある意味で見下されているのと同じでお前は誰かに守られるほどに弱い人間だと言われているようでそれが嫌だった。
だからだろうか。彼は特別をずっと憎んでいる。そして、彼は特別ではない。何処にでもいるただの一般人。誰かに守られるだけの人間。その生涯において彼は特別になることはない。もし彼が特別になれるとしたらそれはきっと彼が死に新しい人生を手に入れなければ叶う事は一生無いだろう。
――――――
周囲は暗闇に包まれ人の気配は一切存在しない。いや、この言葉は正しくない。武に精通している人がいれば二人の男が夜に身を包んで相対しているのが分かるはずだ。気配は一切存在しない。ただ気配を消しているだけ。それだけに二人の気配は異様なものとなっている。二人の気配は
「久しぶりだな。弦十郎。元気にやってるか?」
「……警察庁長官殿。こんなところに呼び出してどのような御用件でしょうか?」
「硬いなぁ。久しぶりの家族の再会だぜ? もっと気楽にしてくれよ。……そんなに警戒する必要はないぞ」
「こんなところに呼び出されれば警戒せざるを得ない。それは勘弁してくれ」
弦十郎と呼ばれた男の言う通り、彼が呼び出されたのは廃工場。決して家族を呼び出すような場所ではない。それに風鳴アカは風鳴家の人間に何の用事もなく接することはしない。それは弦十郎自身が良く知っていた。最近ではF.I.S組の国際裁判の時に司法取引の話を持ち掛けてきたのが記憶に新しい。逆を言えばそれ以上に気楽に話すような関係ではなかった。お互いが仕事と言うクッションを挟まなければ決して話そうとはしない少し歪な家族の形がそこにはあった。
「それで今日はどんな用件なんだ? アカの兄貴。もう夜も遅い。出来るだけ手短の済ませてくれると助かる。明日の仕事に差し支えるのは出来るだけ避けたい。有事の際に寝不足で判断ミスをすることなぞ俺には許されてはいないからな」
「……じゃあ出来るだけ手短に。弦十郎。お前やりすぎたな」
「やりすぎた? 一体何を……?」
「S.O.N.G.が国連の管轄下であることはお前も知っているな?」
「ああ。それによりS.O.N.G.は国外でも活動できるようになりノイズ、錬金術師などの脅威の対処できるようになった。だが、それがなんだ?」
「じゃあその裏には何がある?」
「……国連が聖遺物、異端技術などを目に見える形の監視を行うためだろう」
「正解。此処までの現状は理解できているようでなによりだ。お前はそういうの苦手だったからな。分かっているようでお兄ちゃんは安心ですよ」
「此処までの? 現状は違うと?」
「ああ。S.O.N.G.の活動は確かに国外でも許可された。しかしな。それは
「なんだとッ! だが、国連からは許可が下りていたぞ。それが今更どうして……」
「許可? いったい何の話だ?
「……まさか……」
「やりすぎたとはそう言う事だ。国連が異端技術を監視するためにS.O.N.G.は組織された。だが、国連に加入していない国が異端技術について知ってしまった。これが致命的だった。お前らが介入した国は国連に強制加入させることで今は何とか収まった。けど、それが国連には痛手だった。その国はまあいわゆるいわくつきのお国でな。加入させたのは良いが、叩けば叩くだけ埃が出てくる出てくる。加入させるときに異端技術の公開をちらつかせるもんだから条件付けの加入も出来なかった。分かるか弦十郎? 国連は随分とお冠だよ」
「しかしッ! 俺たちが介入していなければアルカノイズによって人は大勢死んでいたんだぞ!?」
弦十郎と言う通りだった。ノイズに対処できるのはシンフォギア装者、そしてファウストローブを身にまとった者だけ。介入しなければ何故向かわなかったのかと言われるのは誰の目にも明らかだ。だから、アルカノイズを殲滅するために装者を派遣した。派遣しなければ人が大勢死んでしまうのであれば派遣しないという選択肢は取れない。組織としてもそうだが弦十郎自身もそう考えている。弦十郎の弟子も同じ状況であれば全く同じ判断をとるという自信もあった。
「ああ。だな」
だが、国連にはそんな事情は関係ない。いわくつきの国には条件を付けなければいずれ国連自身に牙をむく。それはひいては国連の信用に関わってくる。いずれ牙をむくと分かっている国に何の条件付けも加入させてしまった。だからこそ今回の一件の責任を誰かに取らせたかった。言葉を変えるとそれはただの八つ当たり。酷い理不尽だ。現場の判断を後から責めることが出来るお上様だけが出来る行動。
「さて、今日はお前の判断を聞きに来た」
「俺の判断?」
「国連では現在、S.O.N.Gにその責任を取らせようとしている。だが、その責任の取り方にも二種類の方法が議題に挙げられていてな」
「二種類?」
「1つ目がS.O.N.G.を解散し、シンフォギア装者をそれぞれの国に派遣すること」
「そんなこと認められるはずがないッ!」
装者の日常を守ると決めている弦十郎にはその選択肢は認められない。認めれば今までを否定することになる。それになにより自分の判断によって起こした事件の責任にあの子たちを巻き込むわけにはいかなかった。自分がしでかしたことにどうしてあの子たちを巻き込まねばならない。それは弦十郎の大人として必ず守ると決めていたものだった。装者は日常を犠牲にしてノイズと戦っている。これ以上装者には日常を犠牲にはしてほしくない。だから認められるはずがない。
「じゃあ2つの目選択肢だな。風鳴弦十郎。お前が今回の責任を取ることだ。俺としてもそれを選んでくれると大変助かる。お前の犠牲でS.O.N.G.を、シンフォギア装者を守ることが出来る。それは俺が約束するよ」
「……他に選択肢はないのか?」
「ある。だがまともじゃないうえに多くの犠牲が出る。この二択以外はオススメしないね」
「なら選択肢は他にあるまい」
「覚悟は決まったか?」
「……そのために俺を此処に呼んだのか?」
「お前ならその選択肢を選ぶと分かっていたからな。事は急を要している。するなら今しかない」
「分かった。俺一人の命で責任をとれるなら安いものだ。だが、これだけは約束してもらうッ!」
「一体なんだ?」
「S.O.N.G.を、彼女らの居場所を必ず守ってくれ。それだけは約束してもらうぞッ!」
装者たちは弦十郎にとってもはや娘に等しい子たちだった。その子らを残して先に逝くのは気が引けるが、これ以外の選択肢はない。だから彼女らの居場所だけは保証してほしかった。
「承った。その約束必ず果たすとお前の命に誓おう。それにさっき言い忘れたがな、今朝方、上から辞令を拝命し今の俺は警察庁長官ではない」
「では一体?」
「今の俺は超常災害対策機動部タスクフォース臨時特別司令官だ。要するにお前の変わりってことだ。任せろ。お前とは違うやり方で装者は守ってやるよ。……最後くらいお兄ちゃんを信用してくれ」
「……最後じゃなくても兄貴のことは信用している。心残りは多少はあるが、いずれ時間が解決するだろう。では一思いにやってくれ」
弦十郎は覚悟を決め、暗闇から姿を現した。改めて見る弦十郎は人とは思えない気配で満ち溢れており、それはまるで山を丸ごと削りだし岩のごとく圧縮したようだった。
風鳴弦十郎という男は簡単には殺せない。鍛え抜かれたその体はいかなる刃でも切り裂くことは出来ないだろう。
風鳴アカは自分が非力なことを知っている。自分は特別ではない。力で誰かに勝ったことは一度もない。弦十郎は勿論のことシンフォギア装者にも勝つことは出来ない。下手をするとS.O.N.G.のオペレーターにも負けてしまうだろう。
だから、弦十郎は困惑している。命を差し出すことは確かに容認したが、簡単にくれてやるつもりは無かった。しかし結果として弦十郎が死ななかったという結末は迎えられない。自分を殺す手段が何か想像がつかなかった。
風鳴アカは自分では弦十郎を殺すことが出来ないと知っていた。だから自分の力には決して頼らない。自分を信用しない。信じるのは自分以外のもの。
腿のホルスターから使い慣れたリボルバーを抜いて弦十郎に向ける。自分の力で殺すことが出来ないと知っているからこそこんな道具に頼らざるを得ない。このリボルバーはアカにとって非力の証明だった。
「リボルバー……。そんなもので俺を殺せると思っているのか?」
「俺もいつかそんなセリフ言ってみたいよ。それに殺せると思っているからお前に向けてるんだ。大丈夫。安心して殺されてくれ。……遺言はあるか?」
「遺言か……。急には思いつかないが……そうだな。彼女たちにこれからも元気に過ごすように伝えてくれ。そして、これは俺の決断だと」
「ありきたりだな。愛の告白とかじゃなくて良いのか?」
「そんな相手はもう居ないさ。さぁ、来いッ!!」
「……朴念仁が」
引き金に指をかけ後は力を入れるだけの状態にし、アカは弦十郎を見据える。
「それじゃあな。弦十郎。行く末に幸運があらんことを」
乾いた音が響いたと弦十郎の耳が知覚した瞬間、心臓に重い衝撃が伝わってくる。急激な重い衝撃に一瞬心臓が止まるが、ただそれだけ。弦十郎の心臓はすぐに動き出し、凶弾に倒れることは無かった。
「………………だよな」
アカはそれを当然のように受け入れていた。自分の力では殺せない。じゃあ拳銃だと考えたがそれも愚かな考えだというのは分かっていた。相手は完全聖遺物を退けた男だ。たかが拳銃ごときで殺せるはずが無かった。弦十郎はリボルバーで殺せるような男ではない。
「兄貴、これが殺す手段であるならやはり考えが浅はかだと言わざるを得ないぞ。それでは俺を殺せない。リボルバーを向けられた瞬間から少し気が緩んでしまった。これからどうするつ」
弦十郎の言葉が続くことは無かった。弦十郎の言葉を続けたのは山を砕くような爆発音だった。弦十郎の体は廃工場から勢いよく飛び出していき、何度か回転をして地面にたたきつけられた。
『目標に命中。対象沈黙』
「対象から目を離すな。第二射の準備もしておけ」
『しかし、対戦車ライフルですよ。しかもかなりの近距離です。当たったら肉片になるような代物ですよ』
「だが、あいつは風鳴弦十郎だ。油断はできない。そのまま対象を監視。少しでも動いたと思ったら俺の指示なく第二射を発射しろ。俺は死体の確認に向かう」
『了解』
そう。風鳴アカは自分を信用しない。信じるのは自分以外のもの。だから彼は一人では問題に挑まない。必ずそれを達成できると考える道具と人間を揃えてから問題の対処を始める。
「弦十郎。俺はお前の気が緩むのを待ってたんだよ。流石のお前でも意識外から狙撃には対処できないだろ。俺に警戒を向けた時点でお前は失敗してたんだ。お前が警戒するべきは俺が準備したナニカだ。俺に出来ることなんてそれしかないんだからな」
誰に聞かれるわけでもないのにアカは弦十郎の近くまで歩いていきそんな独り言を漏らす。それはある意味で悲しき独白で特別にはなれない彼の恨み言だった。地面に倒れピクリとも動かない弦十郎を確認しても目が覚めることはない。死亡したと判断しても問題は無い。
「対象の死亡を確認。各自撤収行動を始めろ。発砲音が響いている。根回しをしているとは言え、近隣住民に通報されては警察も来ざるを得ない。弦十郎の死体は俺が処理を行う。明日からは忙しくなるぞ。今日はゆっくりと休むように。以上」
『了解。通信終わり』
これで最初で最後の難関を乗り越えることが出来た。その達成感に気分が飲まれそうになるが、これはまだ序の口だ。残りは弦十郎を殺すことよりは難しくは無いが、クリアしなければならないことが山ほどある。浮かれてなどいられなかった。
「しかし……対戦車ライフルだぞ。何で人の形のままなんだか」
対戦車ライフルで撃たれたのにも関わらず弦十郎は人の形を保ち続けていた。普通撃たれれば肉片も残らない。それが自分とは次元が違う事を見せつけられているようで思わず死体を蹴りたくなる。
弦十郎を見続けていると俺の後ろから緊迫した気配が表れた。急に現れるその気配は見知ったものだった。
「さてと。緒川 慎次。君にしては随分と遅かったな」
「司令!? ……風鳴さん。説明を。でなければ」
「説明も何もない。弦十郎には責任を取って死んでもらった。ただそれだけ。目の前の現実が真実だ」
「せめて死体だけでも回収させていただきます。よろしいですね?」
「随分冷静だな。君の司令は死んだんだぞ。君が軽薄なだけか、それとも弦十郎は死んでも良いと思われていた人物なのか。どっちだ?」
「……それ以上司令の侮辱は許しません。これ以上口を開くならご覚悟を」
「こっわ。怖くて漏らしてしまいそうだ」
「……回収させていただきます」
「おっと。回収して良いと言った覚えはないぞ。しかし、これを目撃してしまったなら君を返すわけにはいかなくなってしまった」
「どういうことです?」
「君は有能だったから処理したくなかったんだがな。今回は君の忠誠心が裏目に出てしまったな」
「失礼ですが、貴方では僕を殺すことは出来ませんよ。それは貴方もご存じのはずです」
「だな。普通なら俺は君に返り討ちにあう。夜に襲われたら俺は身構えることも無く死んじゃうだろうな。だが、今の君には守るものがあるだろ?」
「……貴方は!!」
「緒川 慎次。君も死んでもらおう。でなければそうだな。風鳴 翼のスキャンダルでもばらまこうかね。そっちの諜報機関も優秀と聞くが、うちは生憎それ以上だ。もみ消すこともできないと考えた方が良い。君たちが相手しているのはそういう相手だ。風鳴 翼の歌手人生は絶たれ八紘は無駄死にとなる。君が風鳴 翼を大切に思うのであれば俺の要求に従った方が賢明だと思うよ」
「……最後に1つだけ聞いても?」
「なんだ?」
「貴方はこれから何をするのですか?」
最後にという言葉であればアカは従うしか他にない。死を認めた人にはそれなりの対価が支払わなければならない。その対価が質問の答えだというのであればその質問には答えなければならない。
「これからね……」
「司令を殺し、僕を殺す。それで貴方は一体何を達成できるのですか?」
「簡単だよ。俺の夢を達成できる」
「貴方の夢? それは?」
「君には到底関係のないことだよ。話しても君たちには理解できないだろうし、俺も理解してほしくない」
「そうですか……。――翼さん。すいません。緒川 慎次。此処までのようです」
「風鳴 翼のマネージメントは心配しなくても良い。君には劣るが、その界隈をよく知っている人に預ける。俺のお墨付きだ。仕事に影響が出ることはない。心配せずに死んでいけ」
右手に握り続けていたリボルバーを緒川にゼロ距離で心臓に突きつける。後は先ほどと同様に引き金を引くだけ。
「一応、聞いておくけど遺言は? あるなら伝えておくよ。恋人とかいるだろ?」
「幸運なことに居ません。それに忍には遺言は許されていませんから」
「……お前も朴念仁か。どうしてこう気が付かないかねぇ? まっいいや」
パンと乾いた音が周囲に響き渡る。倒れこむ忍と銃を握り続ける一般人。知っている人が見ればあり得ないと口にするであろう光景が此処には広がっていた。
「弦十郎だけでもラッキーだったのに、緒川まで釣れるとは。今日は運が良いみたいだ」
目の前には特別な人間が二人倒れこんでいる。自分の力ではないにしろ倒せたことは未だに信じられない。
「後はやり切るだけだ。――悔いはない」
彼の、風鳴 アカの夢への道はこうして始まった。その道がたとえ決められていたものだとしても彼は歩み続ける。ただ特別を殺すために。
原作を知っている人であればはぁ?となること間違いなしの内容でしょう。ンなわけないだろと思う人もいるでしょう。しかし、タグを見ていただきたい。それでなんとなく察しください。不定期更新なので続きを読みたいと思った方は首を細長くしてお待ちください。