特別を殺す一般人   作:カフェオレW

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お待たせしました。いや、お待たせしすぎたかもしれません。


失うものと手に入れるもの

「アンタが頑張れば私は幸せになれるの。ううん。アンタは私を幸せにしないといけないの。それが貴方の生まれた意味。それ以上のものは無いし、それ以外の理由は私が認めないわ」

「……どうして頑張らないの!? 私を幸せにしたくないの? 母さんのことが嫌いなの?」

「――アンタのせいよ。アンタが生まれてきたせいで私は今こうなってるの。アンタなんて生むんじゃなかったわ」

「お前が特別な子だったら良かったのに」

 

 何度聞いたか分からない言葉が延々とリフレインされている。その言葉を発している人物は俺を憎しみに満ちた目で睨みつけている。そこには愛情と慈しみという感情は一切見られない。いつも通りの目だった。

 

 これは夢だ。誰かの幻に言われるまでもなく自分で自覚してしまうあたり俺はなれたもんだ。夢という名の憎しみをぶつけられるのはもう何度目だろうか。まだ痛みを感じているが、そのうち痛みも感じなくなるだろう。そして、痛みを感じなくなったその時は俺がその憎しみを受け入れてしまったときだろう。

 

 好きの反対は無関心という言葉があるが、俺はそれを間違いだと確信している。好きの反対は間違いなく憎悪だ。好きの反対が無関心であれば人間の行動はもう少し極端になっているはずだ。好きな人物が徐々に自分が想像していた人物像から少しずつ離れていく、もしくはズレていくことで好きの矢印がプラス方向からマイナス方向に走っていく。この時マイナス領域に入っていった感情が0で止まることはない。マイナス領域に入っていった感情は無関心の0ではなく、マイナスの感情、憎悪や嫌悪に変わっていく。

 

 このように考えてしまうのは俺が甘えているからだろうか。そうだとしても、この考えが正しいと俺は信じている。でなければ……誰も救われない。

 

 ――――――

 

「悪いな。数日間此処に缶詰してもらって。ストレスだったろ?」

「いえ、きちんと理由を説明してもらいましたからボクは大丈夫です。それに此処は本部と遜色ないほど設備が整っているので仕事がはかどります」

「そう。なら良かった……とは言えないけど、救われるよ」

 

 コンクリートが剥き出しになっている部屋にアカとエルフナインはお互いに苦笑の顔を浮かべながら話をしている。コンクリートが剥き出しになっている部屋の中コンクリートには似つかわしくない技術の最新鋭を詰めた研究機材が所狭しと並んでいる。安価と高価がアンバランスに存在しているこの部屋は急増品という言葉を思いつかせるだろう。

 

 そしてエルフナインがこの部屋に良い言い方をすると警護、悪い言い方では幽閉されてから一週間が経過していた。その一週間の間にアカは初めに会ったとき以外はエルフナインのもとに訪れたことは無かった。そのアカが久しぶりに訪れてきたのだ。何か状況が変わったのかとエルフナインが考えるのは当たり前の事だろう。

 

「それで今日はどうしたんですか? ボクが此処にいるのはボクを狙った錬金術師が襲ってくるという情報が入ったからですよね? 貴方が此処にいるという事はそれはもう終わったんですか?」

「ああ。そっちはもう終わった。けど、別件がまた面倒なことになってきててな。それで今日は君と取引しに来たんだ」

「取引……ですか?」

「君にあることを頼みたい。けど、俺の頼みを聞いたら君はしばらくの間S.O.N.Gから離れていてもらい、しばらくは俺の管轄下に居てもらう。まぁ、これが俺からの条件かな」

「それは……少し嫌です……」

「君の気持ちは分かる。けど、取引だと俺は言った。きちんと対価も用意してある。もし君が俺の条件をのんでくれたら君が弦十郎に申請して拒否された例の件を許可しよう」

「!!」

「許可を取りに回るの大変だったんだぞ。君の立場は内外ともに微妙な立場にいる。そんな君から申請された例の件はほとんど爆弾みたいなものだ。もし弦十郎が申請を通していたら君はかなり危なかっただろうね。しかし、この許可も君が俺の頼みを聞いたらだ。嫌だというなら許可は降ろさない。……半ば脅迫のようになってしまったがどうする?」

 

 エルフナインの立場は日本としても、国連としても微妙な立場にある。S.O.N.Gにおいてはエルフナインの活躍は誰もが知っているが、それはあくまでS.O.N.G内での話。日本政府の見解としてはS.O.N.Gの一員ではあるが、未だに信用の置けない人物として知られている。国連では日本政府よりも信用の置けない人物とされている。日本と比べると向こうの国々は錬金術師に随分と引っ掻き回されている。錬金術師というだけで信用できないのに、挙句の果てに世界を解剖しようとしたキャロルの体を引き継いだとなると信用しろというのが無理な話だった。

 

「……貴方が取引だというのならボクからも幾つか条件を付けてもいいってことですか?」

「それは勿論。俺の頼みはかなり面倒なことだからな。多少無茶な条件でも受け入れよう」

「ではボクからは3つ条件を付けさせてください」

「1つ目は?」

「1つ目は貴方の頼みを終えたらボクをS.O.N.Gに戻してください」

「ああ。それは必ず約束しよう。この件が終わったら君を必ずS.O.N.Gに戻す。2つ目は?」

「ボクに頼みたいことって何ですか? 先に教えてください。それを聞かないと判断できません」

「それもそうか。と言っても頼みたいことは1つだけだ。ある設計図を渡すからそれを解析して、それを壊す装置を作ってほしい」

「……どうしてボクなんですか? ボクの専門は錬金術です」

「何の為に君にこの話をしていると思ってるんだ。その設計図が錬金術関連なんだよ。国内を探せばそりゃ錬金術師の一人や二人は見つかるだろうが、知識の量では到底君にはかなわないだろう。頼むのであれば君以外に居ない。だから君に頼む。――納得いったか?」

「まだです。その設計図って?」

「一度見たらもう後戻りはできないぞ。見るならこの取引を了承したと俺は判断する。安心しろ。世界を破壊するとかそんな物騒なものじゃない。悪用されるという心配はしなくて良い。だから、その前に君の最後の条件を聞こう」

「――貴方の連絡先を教えてください」

「……はぁ? それはまた……どうして?」

「しばらくこの部屋に一人でいたら……その本部での日々を思い出して少し……寂しくなったんです。でも、あなたからの頼みを聞いたらボクはしばらく本部には戻れない。だから、せめて貴方とお話をしたいんです」

「……」

 

 アカは迷う。決して仕事以外の用事で端末を使わないアカにとってプライベートで誰かに連絡を取ると言ったことはあまりしたことが無かった。エルフナインとの通話を仕事と割り切れるのであれば喜んでアカはその条件を飲んだだろう。しかし、エルフナインが電話をする用事と言うのは寂しくなったからだという理由だ。その理由であれば仕事と割り切ることはアカには出来ない。

 

 寂しいという理由で連絡をかけて事務的に返される虚しさをアカは知っている。その虚しさが人を蝕むこと。傷つけることを知っているからこそアカは迷う。経験が無いから無理と否定することは簡単だ。手を伸ばすことよりも切り捨てることの方が簡単だという事も。しかし、アカ自身先ほど何と言っただろうか。

 

「……自分で言ったことには責任取らないとなぁ……。俺も仕事があるから全部電話に出られるとは限らないぞ」

「大丈夫です。勤務時間以外に連絡しますから!」

「分かった。後で連絡先を教えるよ。連絡端末も後でこっちに持ってくる。電話をするときはその端末を使ってくれ。じゃないと俺は出ないからな」

「ハイ!」

「じゃあ交渉は成立だな。早速だけどこれ。例の設計図。これを無効にする装置を頼む」

「これって……!?」

「ではな。俺は仕事に戻る」

 

 驚くエルフナインの表情には驚きだけでなく、恐怖と疑問が残っている。到底信じられないといった表情だが、その表情を浮かべるのも無理はない。その青図には希望と絶望が同時に存在している。それはまるでパンドラの箱のようだった。

 

 解析に励むエルフナインをその部屋に残したまま本部へ向かっていると胸ポケットに入れていた携帯端末が震えだした。その震えに驚き慌てて胸ポケットから取り出すと仲良しさんからの着信だった。若干イラっとはするものの出ないという選択肢は取れない。周囲に人がいないことを確認してから着信に応じる。

 

「もしもし?」

『まだ見つからないのか?』

「これはまた急ですね……」

『あのホムンクルスは今何処にいる?』

「以前も申しましたが目下捜索中です。やはり弦十郎を先に殺したのが間違いでしたねぇ。アイツならきっと居場所を知っていましたよ」

『そんな御託はどうでもよい!! 何故どこにも姿が見えない!? あのホムンクルスの存在は我々にとって邪魔な存在となるんだぞ!!』

「S.O.N.Gのオペレーター曰く『世界を見るために旅に出ます』と言ったっきり連絡が途絶えたそうです。俺もまさかこんなタイミングで旅に出てるとは思いもしませんでした」

『……分かっていると思うが、見つけ次第処分しろ。その件に対してはこちらも超法規的な措置をとる。この言葉の意味が分からない君ではあるまい』

「……」

『幸いにもあのホムンクルスにかぶせる罪など掃いて捨てるほどある。錬金術師共に逆らえばこうなるという見せしめと言う意味でもうってつけの存在だ。必ず処分しろ』

「分かりました。捜索網を広げて探索を行わせます。次に連絡するときには吉報をお届けできるように努力します」

 

 アカの言葉を聞いて電話の相手は何も言わずに通話を終了させた。アカの耳に届くのは通話が終了したことを示す耳障りな音。アカはげんなりとした表情で端末を元の場所に戻し、ズボンのポケットから見るからに高そうな煙草を取り出した。その手には煙草と今時使う人を見ることが珍しいマッチも携えている。

 

 そのまま自分の車に戻るとそこには警戒態勢で待機している志郎の姿があった。志郎の目はどんな異常も見逃すまいと装者たちに銃を向けていた時よりも鋭くなっていた。

 

「おつかれ。どう?」

「お疲れ様です。今の所、異常はありません。しかし……」

「しかし? なんだよ?」

「上の方から情報が下りてきたんですが、どうもエルフナインを捕らえる様に上の上から圧力がかかっているようで少しうちの内部がピりついています。危ない感じになってきました」

「あぁー……。それでか。俺も直接連絡がきたよ。エルフナインを捉えろ、手段は問わないとさ」

「――やはり()()()()()()()()したのは正解でしたね」

「ああ。エルフナインが俺たちの嘘を信じてくれるか不安だったが、何も疑われなかったのは拍子抜けだったな。将来のあの子が心配だなぁ。……吸っても?」

「構いませんが……貴方タバコ嫌いだったんじゃないんですか?」

「嫌いだよ。服は煙草臭くなるし、呼吸しづらくなるし吸って良いことは何にもない」

「それなのに吸うんですか? 矛盾してるでしょう」

「……今吸っとかないと後悔する気がしてな。それで泣く泣く吸ってる」

「言っている意味が分かりませんが」

「理解させるつもりは無いよ。さて……」

 

 たどたどしい手つきでマッチ棒を引火させ口にくわえた煙草に火をつける。煙草の先端に見える茶色の葉が焦げるとともにアカの口から白煙が漏れ出す。アカは左手で口に咥えた煙草を放し、口内に溜まった煙を吐きだす。そして、もう一度口に咥えて息を吸う。

 

「……何で煙草の煙は紫煙って表現されるんだろうな。どっからどう見ても濃い白、もしくはグレーだ。何処にこの煙の中に紫が隠れてるんだよ」

「科学的には煙草の煙は紫で合っています。簡単に言えば、光の屈折率の関係で煙草から出る煙は紫に見えるらしいです。貴方の口から出している煙は紫煙とはまた少し違うのでグレーっぽい色に見えるんですよ」

「へぇー……。よく知ってるな。何で?」

「こういう知識を知っておくとコミュニケーションが取りやすいんです。理由としてはそれだけですよ」

「そういうの良いな。俺には到底真似できないけど、憧れるわ」

「……何故あなたがエルフナインの保護を? デメリットの方が多いでしょう。それこそ弦十郎さんたちを殺す前に保護を依頼するなど方法は幾らでもあったでしょう。それなのにあなたが保護を行った。どうしてです?」

「知ってどうする。それになんでわざわざ俺が答えないといけないんだ」

「聞かれたことに私は答えたでしょう。それにあなたが言う特別の中にあの子も入っている。いつものあなたなら絶対に直接関わることはない。それが今回は誰かに頼むこともなくあなたが直接関わった。理由を知りたいと思うのはおかしいことではないでしょう」

「そうか。普段の俺を知っている人ならそう考えるのか。笑わない?」

「特別にくだらない理由でなければ笑いません」

「ただの俺の意地。それと俺でも出来るってことを証明したかった。……笑うか?」

「笑ってほしいのであれば大笑いしますよ」

 

 車内には副流煙が充満し、どちらの表情も伺えない。微かに笑っているのか、それとも質問の答えに納得している表情かは分からないが、それでも分かることが1つだけある。それは二人ともお互いの本心を見据えているという事だ。決して目をそらすことも無く、お互いの本心に真剣に向き合っている。間違っても嘘をつくことだけはしていなかった。

 

「次はそうだな……。面談でもするか」

「面談って誰の?」

「んなもん決まってるでしょ。あの子たちしかいないでしょうが」

「……弦十郎さんを殺したことをカミングアウトしてからかなり避けられていますよ。特にクリスさん。あの子に至ってはあの時以来口も利いてくれていないでしょう。自覚あります?」

「あるよ。ないとヤバいだろ。けど、しとかないといけないことなんだよ。嫌われるのは結構。それは慣れてる。問題はどうやって面談のセッティングをするかだな。何か案ある?」

「早速私にぶん投げるんですか……。間違いなく言えることは貴方の名前を使って呼び出したら装者たちはまず来ないでしょうね……」

「だよなぁ。かといって志郎の名前でもなぁ」

「銃を向けてしまっていますからね。――あっ!」

「おっ! 何か思いついたな? 一体なんだ?」

「オペレーターの友里さんの名前を使えばいいのでは? あの人なら装者たちから信用も得ていますし、メンタルケアの一環として装者を呼べば来てくれるんじゃないんですか?」

「その手があったか……。しかし、勝手に名前を使うのはマズいよな」

「だから友里さんをまず説得する必要がありますね。まぁ、装者たちよりは話しやすい筈です。――きっと」

「最後の言葉が無ければ完ぺきだったな……。だが、それ以外に方法も無いか。まぁ、最悪クビをちらつかせれば何とかなるだろ」

「貴方も最後の言葉が無ければ完ぺきでしたよ」

 

 することは決まったとばかりに車の窓を開け、副流煙を空気中に逃がすと車内の視界はクリアになった。視界がはっきりするとアカは車を運転する準備をはじめた。

 

「私が運転しますよ?」

「いや、気分転換に俺がしたい。それにこれMTだぞ。免許持ってんのかよ」

「当然持ってますよ。なんなら俺フルビットですよ」

「……今時MT取ってる俺が言うのもなんだけど、お前変態だな」

「失礼な。ただの資格マニアですよ」

「じゃあ行くぞ。友里、本部にいれば良いけど」

 

 先ほどの煙草に火をつける動作とは逆にアカはMT車を慣れた手つきで発進させた。中途のギアチェンジもエンストは起こらず、ギアからも耳が裂けんばかりの不快な音は聞こえなかった。タイヤが高速で回転する音を聞いていると、胸ポケットから連絡が来たことを告げる着信音が聞こえてきた。

 

 その着信音は赤スーツでもなく、仲良しさんでもなかった。着信音はアカが狙っていた獲物が釣れたことを告げる福音だった。

 

「誰です?」

「バカ」

「バカ……ですか」

「どうやら友里よりも先にこっちに会った方がよさそうだ」

「私の出番は?」

「ある。でも、弦十郎たちに使った麻酔弾の威力よりは弱めておけ。あいつらに使った弾を使ったら寝るを過ぎて永眠だ。……何で象が一週間は眠り続ける麻酔弾を食らってあいつらは一時間で目が覚めるのかねぇ……」

「目が覚めてからは本当に生きた心地がしませんでしたよ。まさか部下全員吹っ飛ばされるとは……」

「じゃあ本部まで行くぞ。お前は外で部下と一緒に待機。合図があるまで待っててくれ」

「了解です。何かあったらすぐに呼んでくださいよ。目の前で言うのは申し訳なく思いますが、貴方ビックリするくらい弱いんですからね」

「――言われなくても自覚してるよ」

 

 アカの言葉には苛立ちが含まれていたが、アカには反論することは出来ない。反論できない代わりにか、車のエンジンが不機嫌そうな音を吹かしながら道路をふてぶてしく走行してった。

 

 ――――――――

 

「司令は何処にいるんですか?」

「人をいきなり呼び出したと思ったら突然なんなんだよ?」

 

 司令室に座って待っていると連絡をしてきた件の人物が突然訳の分からないことをアカに尋ねてきた。その件の人物は藤尭 朔也。S.O.N.Gでは主に情報処理を担当しているオペレーターだ。

 

「どこにいるんです?」

「どこって……。まぁ、人によっては違うと思うが、あいつのことだ。お空の上で今頃ゆっくりしてるんじゃない」

「そう言う事ではありません。司令の居場所を聞いているんです」

「だから答えたろ。まさか、お前は下の方に行ってると思うのか? 弦十郎は極悪人じゃなかっただろ」

「死んだ後に行く場所の話をしているんじゃないんです。もう一度聞きますよ。司令は今どこで何をしているんですか」

「……君は弦十郎が死んでない。そう言いたいわけか?」

「ええ、そうですよ」

 

 弦十郎は死んでいない。藤尭はそう確信しているかのように強い眼差しでアカを見ている。此処でアカが生きていると答えるのはとても簡単だ。その代わりに、すべてを失うことになるが。

 

「君がそう信じるのは自由だよ。装者にもそう言ったしね。でも、証拠もないまま自分の信じることを相手に強要するのはどうかと俺は思うぞ」

「証拠はありますよ」

「……」

 

 アカにとっては此処からが勝負だ。藤尭が掴んだ証拠がアカがわざと残したものであるならそれでいい。しかし、万が一、億にも無いと思うがそれ以外から弦十郎が生きているという証拠を見つけてしまったときはそれ相応の対処を行わなければならない。

 

「その証拠は?」

「まず1つ目がこれです」

 

 そう言って藤尭がアカに示したのはアカが装者たちに見せた弦十郎の遺体の写真だった。

 

「これがなんだよ? これは生きてる証拠じゃなくて死んでいる証拠だろ」

「違います。何故この写真の中の血は明るい赤なんですか?」

「そりゃ血なんだから赤に決まってるだろ。まさか、弦十郎の血は緑色だから違うとか言わないでくれよ」

「俺も司令が同じ人間だと思ったことはありませんけど、それはありません。きちんとあの人に流れている血は赤色ですよ」

「じゃあ……」

「でも、遺体を撮った写真なのに血が明るいのはおかしいんですよ。死体の血は赤黒く変化するんです。けど、この写真に写っている血は明るいまま。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだ」

「君が言いたいことは分かった。確かにこの写真に写っている血は明るいままだ。でも、即死を確認したからすぐに写真を撮ったという事もあるだろう。ただ血が明るいから生きているというだけでは証拠としては弱い。誰も生きているとは考えないぞ」

「ええ。これだけでは生きていると確信するには根拠が弱い。だから2つ目の証拠。それがこの死亡診断書です。この死亡診断書を発行した病院は調べたら風鳴機関の息が掛かっている病院でした。そして、極めつけは死亡診断書にサインした医者はその病院には存在しない医者だった。これならどうです? 此処までそろっていれば司令が死んだとは思えない。何か必要があって死を偽造する必要があったと考えるのは何もおかしいことではないですよね?」

「それ機密情報のはずなんだけどな……」

 

 アカは自分の右手で口元を覆い、笑みを藤尭に見られないように隠す。此処まではアカがわざとS.O.N.Gの面々に向けて残した証拠だ。暴かれるのは分かっていた。というよりは暴けない場合はそれまでの組織だったとして組織の改編を行うところだった。だから、予想通り。問題は此処から先に藤尭が何をしゃべるかだった。

 

「証拠はそれだけか?」

「いえ。あと2つありますよ。ひとつは貴方の口座からかなりの金額が使われていることを確認しました。そして、その額はまるで人を3人くらい養っているかのような額でしたよ」

「俺の口座まで調べたのかよ……。立派な犯罪だな。で? 最後の1つは?」

「失礼な言い方になりますが、それでもいいですか?」

「此処まで立派に俺の敵になってるんだ。今更遠慮するのか?」

「――貴方は()()()()()()()()()()()()()()()()()? 貴方が風鳴を名乗っていること。これが最後の証拠です」

「……」

「貴方は風鳴の人間じゃない。貴方は……」

「ストップ。一応だが、俺は風鳴の人間だよ。本当に一応な。しかし、そこまで調べたのか……。やっぱり君はウチに欲しい人材だったなぁ」

「その言い方だと認めたということになりますよ」

「白旗が無いから右手をお前に振ってやるよ。その通り、弦十郎は生きてるよ」

「どうしてこんなことを?」

「理由は言えない。――弦十郎が生きてるかもしれないと装者たちに伝えたか?」

「……」

「だよな。もし本当だったらぬか喜びさせちまうもんな。希望が見えたと思ったら実はただの絶望だったなんてパターンは一番まずいしな。だからまずは一人で真相を確かめに来た。――予想通りだ」

「! まさか」

「そのまさか。ご苦労さん。君の此処での役目は終わりだ。ではな。お前の行く末に幸運が有らんことを」

 

 アカが藤尭にそう伝えるとプシュッと空気の弾ける音が聞こえたかと思うと藤尭の首に怪しい液体の入った極細の注射針が刺さっていた。

 

「しばらくはぐっすりお休みさ。じゃあ、おやすみ」

「く……そ……」

 

 そう言って藤尭はバタンと勢いよく音を立て床に倒れてしまった。アカが何度ゆすっても起きる様子はない。即効性の薬と効いていたが、まさか此処まで即効性があるとは思っていなかったため、若干の心配が籠っていた。

 

「志郎」

「はい」

「藤尭を弦十郎たちの所まで。あと書類ももう渡しても良いぞ」

「了解です。では」

「あっ! ちょっと待った」

「どうしましたか?」

「調べられるとは分かっていたが、まさか銀行の口座まで見られるとは思っていなかったんでな。少し腹が立っている」

「はぁ……」

「という訳で、俺の腹の虫がおさまりそうにないんでな。藤尭はケージにでも入れて運んでけ」

「…………悪趣味ですね」

「これで収まるんだからマシだと思うがな」

 

 志郎は藤尭を担いでから部屋から退出していく。残されたのは腹の虫が鳴いているアカだけ。

 

「風鳴の人間じゃないか……」

 

 藤尭の言葉を思い出し、色々な思い出が甦ってくるがそれを意思でねじ伏せ自分の原点をアカは見つめなおす。

 

「嫌な役目だよ本当に」




感想ありがとうございます。緊張するのでコメントは返せませんが、かなり嬉しかったです。
……次の更新はいつになるのか……
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