そんなこんなで、ゴールデンウィーク初日。箒は実家である篠ノ之神社に顔を出してくるとのことで、朝から出かけている。一泊二日らしいから今日は帰ってこないだろう。
つまり一人っきりだ。相手が箒ちゃんとはいえ、女の子と同居生活というのはそれなり以上に気を使う。
だが、今日の俺は一人きり。思う存分に羽を伸ばさせてもらうとしよう。
……しかし同時に寂しくも感じる。
ここ一月ほど箒が一緒にいるのが当たり前のようになってきたからか、彼女がいない一人きりの部屋というのはどこか淋しい。同居してた彼女が出て行った後の部屋というのは、こんな感じなのかもしれない……いや、明日には帰ってくるはずなんだけどさ。
ここは一つ気晴らしに体を動かしに行くことにしよう。IS訓練用アリーナの解放時間は10:00からだから、そろそろ開く時間だろう。
部屋に備え付けられたタンスからISスーツを取り出し、服を脱いでから身に付ける。数日後には新しいISスーツが届く予定だから、これを身につけるのもあと数回なので、感慨深いものがあったり無かったり……特に無いな。
そう、新しいISスーツが来るのだ。ヘソの出るぴったりした半袖シャツにスパッツといった形の男性用試作型ISスーツは、着る側としてはかなり恥ずかしいものがある。上半身裸で水泳パンツ一丁の方がまだマシだ。これが着エロというものだろうか。だとしても自分が着てどうするという話である。
その辺りを束さんに言ったところ、じゃあ新しいのを作っちゃおうという話になった。開発者が身近にいるという事の有り難みをこんなところで感じるとは思わなかったが。なお、対価としてこのぴっちりとした試作型スーツを着ている俺の写真を要求されたことは完全な余談である。
ISスーツの上から制服のズボンと上着を羽織り、軽い荷物を持ってから部屋を出た。
束さんから新装備(とその他諸々)が届くのは4日後の予定だ。追加装備が届いてから白式の調整をまとめて行うつもりなので(と言うより、今調整を行っても追加装備の搭載後にまた調整を施さなければいけないので二度手間になってしまうのだ)、マシントラブルが起こらない限りはメンテはお預けである。
廊下をアリーナへと歩いていると、向かい側から見知った顔が歩いてきた。
「あれ、一夏くん?」
「ん? 清香か。お出かけかい?」
廊下で声をかけてきたのは、一年一組出席番号一番、ソフトボール部所属(だったはず)の相川清香だった。
茶色掛かった髪を肩口までのショートカットに切り揃えた彼女は、健康的に日焼けした肌と合わせていかにも「部活に打ち込む活発な美少女」といった感で、なかなかに魅力的である。
「うん、静寐たちと遊びにいこうと思って。い、一夏くんはアリーナに?」
うん、俺を下の名前で呼ぶときに照れが残っているのも初々しくてポイント高い。
「ああ、今日は予定が無いからな。明日からは数日間こいつを動かす暇が無さそうだから、今日のうちに動かしておこうと思って」
ぽんぽん、と左腕のブレスレットを叩いて示しながら言う。
「そうなんだぁ〜……。専用機持ちも大変なんだね……」
「そうでもないぞ? これはこれで楽しいぜ……まぁ大変なことも多いけど」
専用機持ちと言うのは、この世界では「その気になれば国を一個ぐらい滅ぼすことも出来る存在」であることと同義である。だから各国家は自国のパイロットを好条件を出すことで繋ぎ止めようとするし、国によっては家族などの大切な人を人質にして繋ぎ止めさせることもあるという。
ところが、俺は専用機こそ持っているが未だどこの国家にも属してはいない。それもその筈、俺の機体である「白式」はISの発明者である篠ノ之束のハンドメイドにしてハイエンド。最高峰と思われる技術を持って作られた、篠ノ之束の機体だ。
つまりどこの国の技術によって造られた機体でもないので、どこの国にも属していないということなのだが。
問題は、この機体が篠ノ之束の手によるものだという事。絶対的保有数が限定されているISを一機多く所有できる、というメリットも去るものながら、その機体がISの発明者である“篠ノ之束”の作ったISとなれば、喉から手が出るほど欲しいのも頷ける。
しかしながら生憎と、俺はどこかの国に所属する予定はない。「どこかの国の後ろ盾がある」というのは重要な事ではあるが、こちらの後ろ盾は“あの”篠ノ之束だ。後ろ盾という目で見れば、そのカードはほぼ最強といってよい。もっとも、束さん自身はそう行った政治的要素を絡めた駆け引きが苦手だし(宇宙開発を目的として作られたISが軍事用に転用されてしまっているのがその良い例である)、基本的には人と争うこと自体を嫌う人なので、そのカードを動かすのは俺の役目なのだが。
……もっと言えば、“篠ノ之束”というカードは強力過ぎて迂闊に切れない手札という、小回りの効かなさも内包している。もっとも、それに関してはどこかの国がバックに付いた場合でも同じか。基本的には、チラつかせて相手を動かすというのがこのカードの使い方である。
「そうなの? 頑張ってね!」
その辺りの事情を知らない清香は、明るく笑いながら言ってのけた。
「ありがとな。清香も、楽しんでおいで」
「うん! 行ってきます!」
輝くような笑顔で頷いてから、清香はおどけて敬礼しながら言った。
「……行ってらっしゃい」
ぱたぱたと走り去っていく清香を見送りながら、言う。果たして、俺の今の言葉は届いたのかどうか。
本当、見ていて飽きない娘だ。
清香を見送ってから、俺は当初の予定通りにアリーナへと向かった。
予め部屋でISスーツを着て来ていたので、更衣室の前を素通りしてそのままアリーナへと向かう。名目上は共学を掲げているこのIS学園だが、そのISを扱う事が出来るのが今まで女性しかいなかった……それが当然であると思われていたため、その実態は限りなく女子校に近い。何が言いたいのかと言うとこの学校は男子生徒が存在することを想定していない作りであり、具体的に述べるとそれは男子更衣室及び男性用浴場が存在しなかったり男子トイレの数が校舎の広さに対して極端に少ないという点となって表れている。
更衣室に関してはアリーナに備え付けられている幾つもの更衣室の内の一つを専用の更衣室として割り当てられているものの、男子浴場と男子トイレに関しては如何ともし難い問題ではある。なにせ部屋のシャワールームには文字通りシャワーしか付いておらず、それ故に毎日とは言わないでもたまには湯船にのんびりと浸かりたいと思うのは、無理からぬことだと思うのだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、のんびりと風呂に入りたい。……ゴールデンウィークの間に一回ぐらい、内地に戻って銭湯にでも行きたいものである。うん、そうしよう。絶対そうしよう。
アリーナに入ると、驚いたことに先客がいた。
「あ、あら、一夏さん?」
「……セシリアか。こんな早くから自主訓練かい?」
まだ午前10時30分を過ぎたぐらいである。十分に早い時間だと言えるだろう。
「ええ、まあ。でも、こんな早く…というのはあなたも同じでしょう?」
「ま、それもそうだ」
実にもっともな意見ではある。
「そういう事で俺もちょっとここを使わせてほしいんだが、いいかい?」
「構いませんわ。ああ、それと出来ればでいいのですが…後でわたくしの模擬戦の相手をしていただけませんか?」
「いいぜ。あー…それじゃあ午前中はお互い自主練って事で、模擬戦は昼飯食ってからで良いか?」
「承知しましたわ。では、それでお願いします」
そう言うと、セシリアは再びブルー・ティアーズからビットを分離させた状態でスターライトMk-3を構え、
「お行きなさいっ、ブルー・ティアーズ!」
ビットを操作しつつその手に持ったスターライトMk-3を使い、仮想ターゲットとして出現したバルーンを破壊していっている。しかし、
「っくう………! やっぱり上手くはいきませんわね……」
バルーンの周囲に展開するよう動いていたビットの軌道が突然乱れ、そのまま動きを止めた。どうやら、機体を動かすのと同時にビットも並行して操作しようとしているらしい。そういえば、と以前にクラス代表を決めるために行った試合を思い出す。そういえば確かにあのときも、彼女は機体を動かしながらのビット操作は行っていなかった。なるほど、確かにそれは克服すべき弱点だろう。
「そんじゃ、こっちもぼちぼち始めますかね……っと。いくぜ、白式」
左手首のブレスレットに右手を添え、念じるようにして白式を展開。
「菫、機体のコンディションは?」
《特に問題はありませんね。システム、オール・グリーンです》
「上等だ」
右手に雪片弐型をコールし、ぶん、とその場で軽く振って感覚を確かめる。よし、問題ないな。
「菫、この機体の詳細なスペックデータを出してくれ」
《了解しました》
目の前にホロウィンドウが展開され、白式のスペックデータが表示される。まだまだ俺はこの機体を扱いきれていない、って事がこうしてみると明らかに分かる。
「そう言えば牡丹、武装って他に量子化(インストール)できないの?」
《うん、普通のはね~? 篠ノ之束(おかーさん)が作ったやつ以外は受け付けられないみたい》
「不便だな」
《ちなみに、マスター以外の方が私たちのデータを閲覧したり調整しようとして端末と接続した場合、ウイルスによりその端末のデータは完膚なきまでに破壊されます》
「…なんともまぁ物騒な……」
《それだけ機密性に重きを置かれている、と考えて下さい》
「ま、当然と言えば当然か」
つまり追加装備が欲しければ束さんに頼めば良い、ってことか。
現状を確認したところで、改めて。
「じゃ、行きますかね」
ぐっ、と足を踏みしめてからジャンプするような動作で地面から急上昇。普通の飛び方に加えて、宙返りにバレルロールと曲芸じみた動きも試してみた。白式を動かすのはこれで10回目ぐらいだが……やはりすごいな、この機体は。イメージしたとおりに機体が動く。入試という名目のデータ収集で乗った打鉄とは運動性が全然違う。
それじゃあそろそろ、トレーニング開始と行こうか。
「菫、ターゲットバルーンを20個出して」
『分かりました』
菫がこのアリーナの訓練用プログラムにアクセスして、ターゲットバルーンを20個射出した。ふわふわと漂っているバルーンをすべて破壊すると訓練が終了となる。
訓練用のプログラムはこれ以外にも様々な種類があるのだが、何とIS学園に所属している生徒はこれらの訓練プログラムを無料で無制限に使用できるというのだから、なんとも気前のいい話である。
「さあ……振り切るぜ!」
全スラスターの推力を後方に集中展開。ウイングに内蔵されたスラスターも後ろに振り分ける。一息に25メートルほどの距離を詰め、すれ違いざまにバルーンを斬り裂く。そして背部のウイングで方向を変更し、またある時は手足を動かしてのAMBACと呼ばれる技術を使い、一つずつ正確に破壊していく。
そして。
「牡丹、タイムは?」
《64秒だよ。すごい!》
「いや、まだ遅い」
《それでも初心者で、しかも近接用ブレードのみの使用としてはありえないほどの早さです》
「まあ、確かにそうかもしれないけどさ……」
こんなんじゃ、千冬姉や刀奈姉にはまだまだ届かない。もっと強く、もっと速くならないと。
それから暫くランダムな位置に射出されるバルーンを落とし続けたが、
「でも、やっぱりブレード一本だけじゃキツいよなぁ……」
《射撃戦用の武器が欲しい、ってこと?》
「まあせめて、牽制ぐらいはできないとね。どうしても動きが単調になりがちだし、避けられ易くもなるし。絶対防御無効化能力のあのビーム、こっちのシールドエネルギーも消費するんだろ? だったら、必中を狙わないとな」
《なるほど、確かにそうですね》
束さんに依頼する武装を考えながら、俺たちはアリーナを後にした。
さ、昼御飯食べたらセシリアとの模擬戦だ。張り切っていこう。
どうもこんばんは、斎藤一樹です。何と11月2回目の投稿です。吃驚しましたか? 私はしました。ええ、作者本人が多分一番驚いてます。という訳で当初の月1投稿という予定を変更し、年内は巻きで行く方針で1つ。
中途半端なところで切られていますが、これは本来一話だったものが一万字を越えたため分割したからです。続きは明日、12月1日の20時に投稿予定ですのでしばらくお待ちください。
えーとなんだっけ、そうだ今回の話の解説でもいたしましょうか。今回はゴールデンウィーク一日目の午前の部です。清香ちゃんとかが来たりもしましたが、取り敢えずゴールデンウィーク1日目のイベントとしてはセシリアとの模擬戦がメインです。次回に続くぅ!
という事でまた明日お会いしましょう。ではでは。