宇宙の中で無数の閃光が弾ける。一つ、また一つと光の花が咲き、味方の反応が消えていく。
三十対一。これがこの戦場の戦局だ。
通常であれば負ける訳がない。負ける理由がない。
だが、俺たちが相手をしているのは普通の敵では無い。正真正銘の、白い悪魔だ───。
スコープ越しに見える戦闘の風景。青いサザビーがファンネルを展開し、同時にビーム・ショット・ライフルを放つ。それぞれのファンネルがガンダムを狙い撃つが、ライフルの射撃を盾で防いだガンダムは最小限の動きでファンネルを交わし、60mmバルカンとビーム・ライフルで次々と破壊していく。ガンダムがビーム・ライフルをリロードする隙を狙いサザビーはビーム・トマホークを構え接近戦を挑むが、切りかかろうとした瞬間、腹部を蹴られ体制を崩した所を撃ち抜かれた。
《BREAK OUT》
コックピットの画面に映るログに、サザビーのダイバーが撃破された事を示すメッセージが流れる。
「白い悪魔の名は伊達じゃないな…」
まるでアムロ・レイとシャア・アズナブルが最初に戦った時の再演だ。最も、作中のアムロとシャアの決着はつかず、機体もサザビーではなくシャア専用ザクで、蹴りを入れたのもザク側なのだが…。
スピーカーからノイズがしたかと思うとボイス・チャットの音声が流れる。
『狙撃部隊に通達。目標の攻撃が思っていたよりも激しい。我々コンスコン隊がヤツの動きを止める。味方ごとでいい!狙える者から撃て!』
今回のミッションでダイバーを集めた主催者兼作戦リーダー、フォース・コンスコン隊の《首領・コンスコン》からの指示であった。
コンスコン隊は《機動戦士ガンダム》に出てくるコンスコンをオマージュした部隊である。全フォース隊員が何らかのドムをベースにした機体の使い手であり、そのチームワークの良さと多種多様な戦局に対応出来るドムのバリエーションからフォース・バトルで猛威を奮っている部隊だ。実力的にもNPCに負けるようなフォースでは無いのだが…。
各ドムが連携を取りながらガンダムを囲い込む。総勢十二機による集中砲火だ 。だが、どの攻撃もかする事は無く、逆に次々と落とされていく。
撃墜までが早すぎてとても狙撃部隊が狙える余裕などなかった。
『ええぃ!原作同様に三分で全滅などさせるものか!なんとしてでも落とす!』
コンスコンが乗る脚なしのドムがガンダムに近付く。ビーム・ライフルを構えようとするガンダムに対して、周りのスナイパーが射撃を行いコンスコンを援護する。牽制にしかならないが、ドムが近付くには十分であった。ヒート・サーベルを握った腕が伸び、ガンダムへと接近する。正面からはヒート・サーベルが近づき、背後には有線式5連装メガ粒子砲を装備した腕が回り込んだ。
『貰ったぁ!』
コンスコンが乗るドムはリック・ドムをベースにサイコミュ高機動試験用ザクを合わせた機体だ。有線式ではあるが、腕を伸ばせるため視覚外からの意表を突いた攻撃を仕掛ける事も可能である。しかし、間合いが長いという事は当てるまでの隙も大きいという事だ。
ガンダムは盾を囮にしてメガ粒子砲を防ぎ、ヒート・サーベルが振り下ろされるよりも早く有線をごと本体も切り伏せた。
『十二機いたドムが全滅だと!?ものの三分も経たずに…』
ドムの胸部から腰に掛けて赤く融解した切断面から煙が溢れ、光を放ち爆発する。
《BREAK OUT》
これで残っているのは狙撃部隊だけだ。ガンダムが射撃を続けるスナイパーに標的を変える。当然接近されるまでに何とか落とそうと各機体が奮闘するが、それでもガンダムの動きを捉え当てられる者はおらず、次々落とされていく。
アレを倒すには一瞬の隙を突くしかない。こちらに背後を向け、敵を撃墜するために脚を止めたその隙を。
狙撃を交わすには狙撃手のいる位置を知ればいい。位置さえ認識しているのなら対処は可能だ。あのニュータイプさながらの動きをするガンダムも、NPCがセンサーなどで認識していたとしたら対処出来る理由がつく。なら、センサーすら認識出来ない位置から攻撃したらいい。
超長距離ロングレンジ・スナイパーライフル。この日の為に作成した、スペック上では10km先まで狙撃出来るスナイパー・ライフルだ。それを8km地点から狙い撃つ。
いくら反応速度が良くても、認識できない攻撃には対処のしようがない。それは人もNPCも同じだ。認識できないと言うことは、そこに存在しないのと一緒だからだ。
息を止め声を押し殺し、スコープの中で動くガンダムの姿を中心に捉えながらゆっくりと引き金に指をかける。
勝負は一発だけだ。狙撃は得意では無いので、二発目以降に当てられるとは思えない。わざわざそのために狙撃用のミラージュ・コロイド使用のアーマーも仕上げた。外す訳にはいかない。
そして、その瞬間はやってくる。一機のジム・スナイパーに切りかかる瞬間、目の前まで近づいたほんの一瞬。カメラがスコープの中心に狙いを合わせたと同時に、俺は引き金を引いた…が、ビームが銃口から放たれるよりも先に外れた事が分かった。
「なっ…?!」
気付く筈がない。気が付かれる訳が無い。このミッションが始まってから俺はこの場所を離れなかった。その間近くに味方が寄って来たことも、攻撃したこともない。ましてやミラージュ・コロイドが発生しているため、8kmも離れた位置から認識出来る訳が無い。それなのに、確かに今、スコープ越しに目が合った。ガンダムはこちらを認識し、引き金を引くよりも先に交わしたのだ。
銃口から放たれたビームは真っ直ぐに目標へと向かい、ジム・スナイパーのコックピットを貫いた。融解した機体が爆発し、ブレイク・アウトの音声が流れる。
「どこに消えた!?」
視界を動かし消えたガンダムの姿を探す。センサーが捉えたのは上空から真っ直ぐこちらに向かってくる一つの機影。まだ距離はあるが、確実にこちらに近付いてきている。
直ぐに視線をそちらに向ける。白い悪魔。アムロ・レイが乗る、ガンダムが近付いて来る。
銃を構え二発、三発と放つと撃つが、引き金を引く前に射線を読まれ交わされる。…というよりは、事前にビームが飛んでくる起動が知られている。その動きはまるで、映像の中で見ていたニュータイプそのものだった。
放たれた一発のビーム・ライフルによってスナイパー・ライフルが精確に撃ち抜かれ爆発する。残る兵装はビーム・サーベルのみ。だが、やるしかない。
天運が味方をするかのように、ガンダムのビーム・ライフルは弾切れのようだった。
この距離だと相手のリロードは間に合わない。
ミラージュ・コロイドに使用していたエネルギーを全てブースターに回す。宇宙に溶けていた装甲に色が付き、徐々に機体の姿が顕となる。
灰色の鎧を身に纏い額にV字のアンテナが付いたモビルスーツ。一つ目のバイザーがスライドし、二つの黄色い目が光る顔が現れた。
左腕に仕舞われているビーム・サーベルを引き抜きガンダムとの距離を詰める。相手も逃げるのではなく、盾を構えながら前に出てきた。
出力を全開にし振るったサーベルは、盾ごと本体を易々と切り裂くはずであったが、二つに切断された盾の向こうにガンダムの姿はなかった。
不意に機体に影が降りる。ガンダムはダイブするように頭上を通り背後へと回り込む。
反応が間に合わない。
身を捻るように機体を旋回させるが、それよりも早く向けられたビーム・ライフルの銃口が光り…。
《BREAK OUT》
コックピット内が暗くなり、撃墜された事を示す音声と文字が流れる。それと同時にミッションが失敗した事を告げるメッセージが表示された。
張り詰めていた気が抜け、力なく項垂れて目を閉じる。
勝てるとは思っていなかった。だが、何も出来ないとも思っていなかった。
接敵してから撃墜されるまでの時間は僅か十秒。そのうちの半分は相手がリロードを行っていた時間だ。自分の実力で言うと殆ど足止めすら出来ていない。世界ランカーは倒せずともある程度やり合えると聞いている。
「まだまだ遠いな…」
これでは到底目標に辿り着くなんて夢のまた夢だ。
自分の実力の無さを噛み締める。顔を上げてため息をつき、パネルを操作してミッションを終了する。コックピットがデータの粒子となって散っていき、視界が開けロビーが現れる。
「三十機いたモビルスーツ部隊が全滅だと…!? ものの五分も経たずに…? バ、バケモノか…!」
「しっかりしてください隊長。また挑戦しましょう…」
どうやら戻ったのは自分が最後だったらしい。他のダイバーたちはミッションの感想を言い合ったり次の対策を立てたりと色々な会話をしている様子が目に入った。
「ソウマくんお疲れ様」
「お疲れ様ですコンスコンさん」
「すまないねぇ。誘った側が不甲斐ない姿を晒してしまって…」
口に蓄えた青髭を指で撫でながら、コンスコン隊の隊長であるコンスコンが申し訳無さそうに話しかけてくる。
「いいえ。こちらこそ力になれず申し訳ないです」
「そんな事はない。メインのスナイパーライフルを破壊されてからの機転は中々だったぞ。銃のリロードが見えていたとはいえ、あそこで踏み込める者はあまり多くないだろう」
あそこは兵装がビームサーベルしかありませんでした、とは言えなかった。本心かどうかは分からないが、相手の気遣いは無碍に扱うものではないからだ。それに、いくら言葉で取り繕っても何も出来なかった事は自分が一番よく知っている。
「ありがとうございます。だけど…」
「だけど?」
口から出そうになった言葉にハッと気が付き直ぐに飲み込む。
自分の悪い癖だ。自己評価なんて望まれない限り相手に言わなくてもいい。余計な言葉でマイナスなイメージを付ける必要も無い。
「いいえ、何でもないです。自分はやる事があるので、これで失礼します」
「あぁ、そうか。すまないな。またこういった事をするつもりなので、その時は参加してくれると有難い。次こそは年長者の意地を見せよう」
ふくよかな体を揺らしながら笑うコンスコンに向かい軽く会釈をし、メニュー画面を操作してログアウトを選択する。再び周囲の景色が離散し、視界が白い空間で満たされたかと思うと、意識が現実へと引き戻された。
目を覚ます様にゆっくりと瞼を開け、微かな光に照らされるモニターの黒い画面を見つめる。ゆっくりとヘッドギアを頭から外して枕元に置き、ダイバー・ギアから発せられる光を遮る様に顔を腕で覆う。
GUNPLA BATTLE NEXUS ONLINE、通称GBN。ディメンションという仮想空間に作られた電脳世界であり、今最も世界中で熱狂しているVRオンラインゲーム。人々が夢を見て、夢を現実にする場所であり、俺にとっては、幻想しか残されていない場所だ。