文化祭のライブ中に降ってきたロックなやべーダイブの人について   作:きこり

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『閑話休題』

 

 

 ここ数日、朝のルーチンと化していることがある。

 ……いや、ルーチンなんて言ってしまうと義務的な表現になってしまうので、本当は日常とか一幕だとか、もっとマイルドな表現を使いたいのは山々なのだ。

 山々なのだ、けど。

 

「おっす、おはよう後藤さん」

「……え、あっ、ど、どうもありがとうございます」

「なぜにお礼を……??」

 

 隣の席に座っている後藤さんに朝の挨拶をすると、お決まりのようにお礼を言われて会話が終わってしまう。

 これがここ数日の朝のルーチンであった。

 先日の教科書イベントで多少は距離を縮められたのではと喜び勇んで声をかけたものの、どうやらそれは俺の思い違いというか、勘違いだったらしい。

 なんというか、ほんのちょっぴり凹んだ。

 

「というわけで昼休み中に悪いけど、協力してくれないか岡山」

「え〜、痛い勘違いをしちゃった藤田さんにトドメを刺すなんて、私そんな酷いことできないよ〜」

「もうしてるよ!! 酷いこと!!!!」

 

 こいつ、人が恐れていた展開をこうもずけずけとっ。

 俺の前の席に座る岡山は、我らが1年2組のクラス副委員長である。ややウェーブのかかった黒髪をツインテールにまとめており、文化祭では現場の取りまとめと最終連絡役を担ってくれていた。聞けば結束バンドの先輩方を引き込んだのも彼女の提案だという。

 間延びした柔らかい話し方をする彼女だが、時折りこのようにして毒を吐く。まるで取り扱い要注意の劇薬のようなやつだ。

 しかし、俺とは違う感性を持ち、また後藤さんと同じ女子である岡山なら、現状を打破するような策を授けてくれるのではないかと──そんな淡い期待を抱いた俺が馬鹿だったようだな。

 

「そもそも、なんで急に後藤さんと〜?? やっぱり秀華祭で押し潰されたときに距離感バグっちゃった??」

「やっぱりってなんだよ。まぁきっかけが秀華祭ってのは、否定しないけど。俺は純粋に、後藤さんとお近づきになりたいだけであってだな」

「だから〜、どうして近づきたいのって話ね」

「それは、その……」

 

 それは俺自身が答えを先延ばしにしていた問題でもあった。

 答え、まだ出てないんだけどな。

 考えても答えが出せない問いに時間かけても仕方ないというか。

 俺はまたもや答えを先送りにした。

 この話だって後藤さんが席を外している今だからこそできるんだ、時間を無駄にしている場合ではない。

 

「とにかくっ、後藤さんと仲良くなりたいんだよ俺ぁ。あんなにギター上手い人がクラスでひとりぼっちってそれこそバグじゃんね」

「けど〜、後藤さん1人が好きなのかもだし、声かけてもそっけないってことはもう答え出てるんじゃないの〜??」

「……やっぱ、そうなのかなぁ」

「うーん、私が聞いてるかぎりね、ひとりちゃんは『1人の時間』を大切にしたい派ではあるけど、友達はいらないってタイプじゃないのよね。むしろ欲しがってるっていうか」

「なるほど〜。流石喜多ちゃん、後藤さんのことよく分かってるんだね〜」

「それほどでも……あるかも?? 藤田くんのことも、最近クラスでも話しかけてくれる人がいる、ってちょっと嬉しそうだったし」

 

 マジかよ、そいつは朗報だ。

 嬉しい知らせを運んできてくれた喜多さんに礼を言うべく、窓際の席へ腰掛けた彼女へと向き直る。

 って、どぉわ!! キタサン?! なんでここに?!

 俺はガターンっと椅子ごとひっくり返り、背中を打ちつけ悶絶した。

 

「ふ、藤田くーん?!」

「あはは〜、藤田さん驚きすぎ、リアクション芸人みたーい。ウケる〜」

 

 ウケんな。

 俺は両腕の力で強引に椅子ごと体を引き起こした。

 

「ところで喜多さん、さっきの話の続きなんだけど」

「そして何事もなかったように話し始めるのね……」

「ほら、藤田さんフィジカルモンスターだからさ〜。でも珍しいね喜多ちゃん、後藤さんが留守のときに来るなんて」

「さっきまでギターの練習に付き合って貰ってたの、ひとりちゃんは後から戻るって言うから、それまで席で待ってようと思って」

 

 な、なるほど??

 でもそれ俺たちに気取られず窓際の席へと座れた理由にはなっていない気が……まぁ、それは別にいいか。

 本題はそこじゃないしな。

 

「それでね、ひとりちゃんも環境の変化に戸惑っているだけで、きっと本心では喜んでるはずだから」

 

 これからも声、かけてあげてね。

 と、喜多さんは優しい顔でそう微笑む。

 とても同級生とは思えない包容力を感じさせるその笑顔に、俺は不恰好に頷くしかなかった。

 

「分かった、そうさせてもらうよ。でも、なんでそこまでして──」

 

 気を遣ってくれるのかと、そう尋ねようとした俺の言葉へ被せるように、喜多さんは目を輝かせて二の句を紡ぐ。

 

「ひとりちゃんを盛りあげる会の一員として、これからもお互い頑張りましょう!!」

 

 どうやら俺は、俺の知らない団体へと、俺の知らぬ間に籍を置いていたらしい。

 そういや、初対面の時に見る目があるとか、なんとか言われた気がするなぁ。あれってそういうこと?? いや、まぁ吝かではないんだけどさ。分かる、分かるよ、つまりは推し活的なやつでしょ。

 ……うん?? というか、むしろ俺が後藤さんへ抱いている感情の答えが、まさにそれなんじゃあないのか。

 ピッタリと、欠けてたパズルの欠片(ピース)を見つけたような、そんな充足感が俺の心を満たしていく。

 そう。

 そうか、そうだったのか。

 答えはそこにあったのか。

 俺はただ、後藤さんを推したかったんだ。彼女がどれだけ凄い人なのかってことを、周りの人達にも分かって欲しかったら、そのために後藤さんへの理解を深めるべく距離を縮めようとしていた……っコトだな。俺はそうやって自分を納得させた。

 答えを得た俺は、それをもたらしてくれた恩人を正面から見据える。彼女もまた、俺のことを真っ直ぐに見ていた。

 

「任せてくれ喜多さん。1年2組の担当として、僭越ながら全力を尽くさせてもらう」

「頼りにさせてね藤田くん、一緒にひとりちゃんを盛りあげていきましょ!!」

「あぁ、そうだな!!」

 

 力強くお互いの手を握り、頷きあう俺たち。

 その横で、なぜか岡山は口と脇腹を抑えこみ、椅子に深く座り込んでいた。

 

「うぷ、うぷぷ〜。お、面白すぎる……いや、藤田さんがそれでいいならイイんだけどさぁ〜」

「なんだよ、含みのある言いかたしやがって。最近はウケないらしいぞ、そういうキャラ」

「まぁまぁ〜、私としても面白いのは大歓迎だし〜。後藤さんを盛りあげる会、だっけ?? 私も協力させてよ〜喜多ちゃん」

「えっ、いいの岡山さん!! ひとりちゃんと同じクラスに2人も会員がいるなんて、心強いわ〜っ」

 

 かくして、俺は『後藤ひとりを盛りあげる会』の会員として後藤さんを支えるべく、明日の朝も声をかけようと心に誓うのであった。

 

 

◀◀ ◇ ▶▶

 

 

(あっ、あれ……私の席に喜多さんが座ってる。と、トイレに寄りたかったから早めに練習切り上げたけど、去り際の「またあとでね」ってそういうこと?? け、けど喜多さん、藤田さんと、えと……そ、そうだ岡山さんと盛り上がってるし。はっ、入り辛いなぁ……なんて声をかければいいんだろう。でも私が話しかけて微妙な空気になったら耐えられないぃ。それに、今日も藤田さんにはきちんと挨拶できなかったし、きっと怒らせちゃってるよね。い、今話しかけたら喜多ちゃんにまで迷惑ががが。岡山さんだってまだ話せたことないし。……でも、楽しそうだなぁ、なんの話してるんだろう。わ、私もいつか、あんな風に……)

 

 

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