文化祭のライブ中に降ってきたロックなやべーダイブの人について   作:きこり

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ぼちぼちアニメ12話以降の話なのでご注意を


『飛ばねえぼっちは、ただのぼっちだ』

 

 

 後藤ひとりは自他共に認めるコミュ障である。

 

 人の目を見て話すことができず──そもそも学校で会話をすること自体が稀なうえに、言葉を発しようものなら頭に絶対「あっ」と付けてしまう。さらに帰宅するまでの電車の中でその日の会話を思い出し、あそこであぁ言っておけば良かったな。と、延々と終わることのない不毛なひとり反省会を繰り広げる。

 そういう類の、重度のコミュ障だ。

 その歴史は幼稚園児時代まで遡り、母親のお腹に戻りたいと願い幾星霜、彼女は気がつけば小学校を卒業していた。

 流石にこのままではマズイと感じたものの、そこで打開案がパッと閃く人間はそもそも小学生時代をひとりぼっちで過ごしたりはしない。

 転機となったのは、ひとりが中学校に入学して暫く経っての、とある平日──夕方の出来事だった。

 テレビに映っていたのは、その頃流行っていたロックバンドで、インタビュアーに学生時代のことを尋ねられたギタリストは、なんの臆面もなくこう言い切った。

 『僕──学生時代、教室の隅で本読んでる暗い人間だったんですよ』

 その姿に、後藤ひとりはどうしようもなく憧れたのだ。

 バンドは自分のような暗い陰キャでも輝ける場所なのではと、そう思ってからは早かった。

 気がつけば父親にギターを借りていて、中学生の青春と指先の皮膚を擦り減らしながら練習に練習を重ねる日々。

 毎日6時間の練習を雨の日も、風の日も、雪にも夏の暑さにも負けないなぜか丈夫な身体を以て、続けた。

 それでも折れそうになる心を何度も、何度も、何度も叱咤して、ひとりはギターに没頭し、程なくして始めたギター練習動画へ次第にコメントがつき始め、その暖かさにも彼女は大いに救われた。

 それから2年が経過し、ようやく人前でギターを披露する自信がついた彼女は──

 

 

◀◀ ◇ ▶▶

 

 

「よっす、おはよう後藤さん」

「あっ、お、おはようございます藤田さん。今日も挨拶ありがとうございます……」

「あはは……そんなに畏まらなくても大丈夫だって」

「あっはい。あっ、いや、違くてっ。ごっ、ごめんなさい、せっかく話しかけてくれてるのに」

「なんも、全然気にしてないから。いやホント俺が言うのも何様って感じだけどさ、後藤さんは頑張ってると思うよ」

「あっはい、どうも……です」

 

 後藤ひとりは自他共に認めるコミュ障である。

 しかし、それはもはや過去の話だと彼女は確信しつつあった。

 伊地知虹夏というドラマー少女との運命的な出会い。それが全ての切っ掛けだ。

 下北沢で活動するガールズバンド『結束バンド』の一員となったことを皮切りに、結束バンドの拠点である『STARRY』でバイトを始め、生まれて初めての路上ライブでチケットノルマの完遂、初ライブも終わってみれば無事成功、夏休みにはバンド仲間と神奈川屈指の陽キャスポットである江ノ島へ乗りこみ、極めつけに文化祭ライブへの参戦だ。

 文化祭ライブ。 

 そう、文化祭ライブである。

 中学生時代にあれほど切望し、それでも色々とあって参加できなかった文化祭ライブで、ひとりは結束バンドの仲間たちとステージに上がったのだ。

 

(ま、まぁ最後にはアクシデントもあったけど、そ、それがあったから今があるわけで……)

 

「あー、また藤田さんが後藤さんにダル絡みしてる〜」

「言いかたぁ!! 他にもなんかあるだろっ?!」

「おはよ〜後藤さん、後藤さんも嫌なときは嫌って言っていいんだよ〜??」

「あっ、おはようございます岡山さん。い、いえ、全然嫌じゃないです。ふ、藤田さんも、それに岡山さんも、毎日話しかけてくれるから嬉しくて」

 

 あの日から、つまり秀華祭でのライブを終えた日から、後藤ひとりを取り巻くクラスでの環境は大きく変わった。

 なんと驚くべきことに、登校して朝の挨拶を、「おはようございます」を言う相手が、そして言ってくれる相手ができたのだ。それも2人。

 

「なぁ、しかと聞き届けたか岡山よ。こんな風に言ってくれる相手に朝の挨拶をすっぽかすなんて真似ができるか?」

 

 そう言って自身がひとりへ挨拶することの正当性を主張したのは、藤田という名の190cm近い大男である。

 右目の下に悪目立ちする古傷があるせいか、身長と相まって初対面の相手にはほぼ間違いなく不良と誤解されるであろう人相をしている──漏れなくひとりも実際にしていた。

 しかし、その実態は押しも押されぬ1年2組のクラス委員長であり、フレンドリーという言葉が服着て歩き出したような陽キャの鑑である。と、少なくとも後藤ひとりはそう思っている。

 そんな藤田を、よりにもよって文化祭ライブ中に押し潰してしまった際には、高校生活終了のお知らせとばかりにバンド仲間と家族へあてた遺書を認めようとしたひとりであったが、今の彼女は知っている。

 藤田というクラスメイトが、顔に似合わず優しい性格をしていることを。教科書を忘れて困っていた自分に、迷わず手を差し伸べてくれた優しい人だと、後藤ひとりは知っている。

 

(そ、それに文化祭ライブのこといっぱい褒めてくれたし、毎日挨拶してくれるし、ふ、藤田さんいい人ぉ〜。こんな陽キャオーラ持ちの、そ、それも男の子とも話せているんだし……これならコミュ強を名乗っても過言じゃないよねっ(過言))

 

 後藤ひとりはちょろかった。

 隣の席になった時には確かに抱いていたはずの苦手意識はどこへやら、今では1年2組きっての陽キャ男子である藤田(後藤ひとり調べ)との関係を、ある種のステータスのように考え始めるほどだ。

 もっとも、散々述べたように藤田は男子である。男子と1対1でまともに会話を行えるレベルにまで到達する、などという高度なミッションをひとりが単独でこなせる訳もなく……その裏に、というより表に彼女の存在があったことは否めない。

 

「も〜、冗談だよ藤田さーん。後藤さんが挨拶返してくれて私も嬉しいよ〜」

「あっ、えと、ど、どういたしまして……??」

「うんうん、ありがとね〜」

 

 クラス副委員長の岡山はフワフワとした掴みどころのない女子である。というのが、後藤ひとりなりの分析だった。

 藤田がクラスの陽キャ男子代表なら、岡山は陽キャ女子代表。バンド仲間である喜多とも仲がいい時点で、ひとりにとっては決定事項のようなものだ。

 

(た、たまに目線が怪しいことあるけど……)

 

 それでも、こうして自分に話しかけてくれる。こんな自分に話しかけてくれるのだから、いい人に違いないと、後藤ひとりはそう思う。思ってしまう。

 

「そうだ、そうだった。俺、後藤さんに話しときたいことがあってさ」

「あっはい、なんでしょう……」

 

 藪から棒に藤田から言葉をかけられ、ひとりは藤田の机上に視線をやる、これが今の彼女にとっての精一杯だった。

 まだ目線を合わせるのは怖いけど、いつかは……と、そんな風に考えながら。

 

「さっき校門のところで女の人に絡まれてさ、本人はネット記事を書いてるライターって名乗ってたけど」

「それ私も見たかも〜、なんか変な格好してよねー」

「うん、まぁでも格好より問題なのが──あの人、たぶんだけど後藤さんのことを探してた」

「へっ、あっ、え、えと……なんで」

 

 赤の他人に探されている、言い換えれば追われている。というのは少なからず人にストレスを与える。それがコミュ障相手なら尚のことだ。 

 ガタガタと不定期に揺れながら冷汗を流すひとりの姿を見て、岡山の手がゆっくりと、相手を刺激しないように、ひとりの肩へ乗せられる。

 

「大丈夫だよ〜、ここなら私たちが守ってあげられるし〜。バイト先までは喜多ちゃんが一緒なんでしょ? 先生たちもいるしさ」

「あっ、は、はい。ありがとう、ございます岡山さん」

「んー、気にしないで〜。てか藤田さーん、もっとマイルドに伝えるとかさ〜」

「わ、悪い。先に伝えるべきだったな、話しかけられたあと先生に連絡入れたんだ。んで連れてかれたとこまで確認済み」

「藤田さーん、そういうことだぞ〜?」

「だから悪かったよ……ごめんな、後藤さん」

 

 ひとりは手を合わせて謝罪する藤田の姿を見て、それから優しく肩を支えてくれる岡山の顔を見る。

 少なくともここには2人、味方がいる。

 それに同じ校内にはバンド仲間の喜多がいて、STARRYまで行けばもっと沢山、味方してくれる人がいる。

 

「あっ、その、大丈夫です。そ、それでその人はどうして……」

「それが、どうも文化祭ライブの……その、最後のあれが原因ぽくて」

「あ〜、私察しちゃったかも? そっかぁ、トゥイッターにも転載されてたもんね〜」

 

 そこまで聞けば、ひとりにも大まかな予想はできる。

 文化祭ライブの終盤に突然のマイクパフォーマンスを求められた(そこまでは求められてない)後藤ひとりは、混乱の末に観客へのダイブを敢行、たまたまダイブ先にいた藤田を押し潰すというアクシデントが起こり──その様子の一部がネットに流出した。

 先日ひとりが確認した範囲内だと、顔をぼかしが入っていて個人の特定は難しそうに見えたが、あれだけ写り込みがあれば学校の特定はそう手間のかかることではない。

 

「まぁでも〜、学校側から警告入ったなら向こうもそこまで無茶できないでしょ〜」

「でっ、ですよね」

「……だな。ちょっとしたハプニングもあったけど、今日のライブ楽しみにしてるぜ、後藤さん」

「あっはい、が、頑張ります」

 

 自分には一生浮かべることができそうにない爽やかな笑顔の藤田に、ひとりはつっかえながらも返事をする。

 今日のライブには藤田が来ることになっていた。学校の、しかも男子のクラスメイトをライブに呼ぶなど、後藤ひとり史上最大級の快挙であり、彼女の内心は有頂天であった。

 

(虹夏ちゃんとリョウ先輩、きっと驚いてくれるよね……わっ、私にもこんな陽キャの知り合いがいるんだって知ったら。も、もしかしたら私も陽キャ認定してくれるかも、うぇへへ……い、いやぁ、私なんてまだまだですよ〜)

 

 ひとりの脳内では『陰キャ卒業式』が盛大に執り行われ、彼女はバンドメンバー、ライブハウスSTARRYのスタッフ一同、家族及び藤田岡山さらにはイマジナリーフレンドといった面々に「おめでとう」の言葉と共に胴上げされている。全員が貼り付けたような笑みを浮かべており、その様子はまるで一種の宗教画のようであった。

 

「……なんだろう、急に後藤さんが遠いところへ行っちゃった気がする〜」

「喜多さん曰く『自分の世界に入り始めた場合、様子見して幸せそうなら放置で大丈夫』とのことだ」

「あ〜、そういうこと? にしてもライブね〜、私もバイトなかったら行きたかったのに、どっかの誰かさんが先に休み取っちゃうから〜」

「こればっかりは早いもの勝ち、悪いな」

「まぁー、次は私の番だからいいけど〜」

 

 口を尖らせる岡山に、藤田が肩をすくめてそう答える。

 

「あっ、ふ、2人は同じ店でバイトしてるんでしたね」

「そうそう、喫茶店ね〜。今度遊びにおいでよ、バイト中の藤田さんは一見の価値ありだよ〜、基本厨房に引きこもってるけど」

「人を見世物みたいに言うな、そんな面白いもんでもないだろ?」

「私的には最高に面白いんだけどな〜。あ、でも今日ライブ行くなら見られるかもね〜。後藤さん、仲良くしてあげてね」

「あっ、え、えっと……??」

 

 バイト中の藤田がいったいどうしたと言うのだろう。

 なにやら含笑いが止まらない様子の岡山は、ネタバレ厳禁だからとそれ以上話してくれそうにない。また、ひとりも自分から追求できるような性格をしておらず、それっきり会話は流れてしまった。

 そして、流れてしまった会話の続きが漂着するその場所が、よもや自身がホームとするライブハウスであることなど、今の彼女には知る由もない。

 

 

◀◀ ◇ ▶▶

 

 

「そういえば、今日はぼっちちゃんのクラスの子が来るんだっけ?」

「あっはい、そうです」

「そっかー。いやぁ、文化祭終わってからクラスにも馴染めてるみたいで、なんか私まで嬉しいよー」

「あっ、えへへ、つ、次のライブにはクラスメイト全員連れて来ちゃおうかな〜なんて」

「うん、そこまでは期待してないからね」

 

 流石にそれは無理があるでしょ。とドラムの伊地知虹夏に諭され、ひとりは無言で『調子に乗ってすみませんでした』のプラカードを首から下げ、ピチョンと床に横たわり、つい先ほど着たばかりのパーカーのフードを深く被る。

 

「あ〜、ごめんごめんっ。ぼっちちゃんは頑張ってるよ、この調子で友達が増えるといいね!!」

「あっはい、友達100人目指して頑張ります」

「ほんと0か100かだよねぼっちちゃん……」

 

 やや呆れ顔になりつつも、虹夏にとっても今回の件は喜ばしいことだった。

 ひとりの対人性能は破滅的に壊滅的で、すでに日常生活に支障をきたしているうえに、彼女が持つ本来の演奏力──『ギターヒーロー』としての技能に蓋をしてしまっている。

 だから、こうやって少しずつでもいいから、人と関わり交わることで、彼女自身がキツく締めてしまった蓋を緩めていければいいと。

 

「ちなみにぼっち、今日来るクラスメイトって女子? それとも男子?」

「あっはい、男の子です」

「おぉ……ぼっちに男が」

「ちょっとそこー、言い方で事実を捻じ曲げないー。ぼっちちゃんにだって男友達の1人やふた……男の子ォ!?」

「目が、目がぁ……っ」

「えっ、あっ、あれ」

 

 それはまぁ言い過ぎかもだけど〜、などと繋げようとしていた虹夏の口から驚きのリアクションが飛び出す。主に飲みかけのミックスオレで構成されていたそれは、必然的に彼女の正面にいたベースのリョウを直撃。瞼を閉じる暇がなかったらしく視界を潰され悶える彼女と、どうしたらいいか全く分からず狼狽えるひとり。

 こうして、一瞬にして作り上げられた収拾不可能なシチュエーションを軌道修正すべく、1人の女子高生が手洗いから戻ってきた。

 

「ちょっと目を話した隙に大惨事〜っ?!」

 

 叫びつつも喜多郁代の動きにこれといった迷いはない。取り出したタオルで敬愛するベーシストの顔面からミックスオレを取り除き、狼狽えるあまり足が8本になってしまったひとりを人型に整える、最後に咽せてしまったバンドリーダーの背中を優しく叩きながら問いかける。

 

「伊地知先輩、一体全体なにがあったんですか??」

「あははー、ありがとね喜多ちゃん。その、ぼっちちゃんが今日のライブにクラスの男の子を招待した。なんて言い出すから、ビックリしちゃって」

「はい、藤田くんのことですよね??」

「えっ、喜多ちゃん知ってたの」

 

 虹夏の呆然とした声に、結束バンドのギターボーカルはあっけらかんと言う。

 

「藤田くんは『ひとりちゃんを盛りあげる会』のメンバーなので!!」

「なんのメンバーって??」

「『ひとりちゃんを盛りあげる会』ですよ??」

「あちゃー、聞き間違えじゃなかったかー」

 

 文化祭終わった辺りから喜多ちゃんからぼっちちゃんへの感情ベクトルがおかしなことになってるんだよね……と、内心そんなことを思いながら遠い目をしている虹夏の横で、むくりと影が起き上がった。

 

「その藤田って、もしかして文化祭のときにぼっちがダイブした人?」

「そうなんです!! あんな事にはなっちゃったけど、ひとりちゃんの演奏カッコよかったって言ってくれて〜」

「ふーん。まぁいいけど、客は客だし」

 

 それだけ言って、リョウは自分の世界に入ってしまう。

 

「素直にちょっと心配、くらい言えばいいのに。ねぇぼっちちゃん、その藤田さんってどんな人なの?」

「あっ、えと、藤田さんはクラス委員長で、私のクラスの中心にいる陽キャ中の陽キャで……ホントなんで私に声をかけてくれてるのか分からないくらいの真人間というか、話してるとたまに自分の陰キャ具合に嫌気がさしてきて……」

「ちょとぼっちちゃーん、質問の途中だから帰ってきてー?」

「はっ、あっ、つまりいい人。ですっ」

「なるほど、いい人かー。ざっくりまとめたねぇ」

 

 ひとりの返事を聴きながら、聴き取りながら、伊地知虹夏は考える。さっきから少し考えてはいたものの、今のやりとりを踏まえたうえで、もう一歩踏み込んで考えてみる。

 ひとりの話と、そして彼女の性格から察するに、件の男子と深い仲……というわけではないのだろう。そんな積極性とコミュニケーション能力はひとりに無いし、仮に相手にはあったとしても後藤ひとりという少女が持つ心の障壁は難攻不落である。

 むしろ、まだお互いに当たり障りのない会話で距離感を測っている真っ最中、といったところか。

 ひとりはあれで周りをよく観ているし、話すことがあれば話すタイプだ。そんな彼女の総論が『いい人』なら、つまりはその通りなのだろう。

 文化祭ライブのステージで結束バンドに興味を持ってくれた学生が、同じクラスのひとりを頼ってチケットを手に入れた。それがたまたま男子だった。これで話の筋としては通るのだから。

 

「まぁヤバい人なら喜多ちゃんが黙ってないだろうし、ちょっと過保護だったかも」

「あっ、えっと……虹夏ちゃん?」

「んーん、なんでもないよー。そろそろ開店だし、ライブ頑張ろう!」

「あっ、はい」

 

 時刻はちょうど17時を指しており、STARRYのスタッフが表の札をcloseからopenへ引っくり返す。

 すると、開店前から待っていたのだろう、数人の客が階段を降りてきた。

 その中に1人、一際目を引く人物がいた。

 まずシンプルにでかい、身丈190cmには届きそうな長身。さらに強面だ、右目の下に大きな古傷があり目付きも悪い、率直に言って不良にしか見えない。極めつけに背負っている空気が重い、彼の周囲だけ重力が増しているかのように他の客たちの足取りまで重い。

 それでも、ズンズンズンっと件の巨漢は歩を進める。階段を降り、そしてなぜか結束バンドの方へと。

 

「えっ、えええ?」

 

 虹夏は動揺しながらも、チラリと他のメンバーの様子を伺う。

 もれなく全員が固まっていた。

 

(だ、大丈夫。大丈夫。そうだよ、人を見た目で判断なんてしちゃいけない。い、意外と話したらフレンドリーだったりするかもだしっ)

 

 いざとなれば自分がメンバーを守らねばと、伊地知虹夏は率先して男の前に立った。

 当然、身長差があり過ぎて真正面を向いていては男の胸下までしか見えない、なので見上げる。

 するとそこには虚な、まるで死んだ魚のような目をした男の、今にも捩れ始めそうなくらいに歪んだ顔が──あった。

 たまらず叫ぶ。ついでに泣いた。

 

「お、お姉ちゃ〜んっ!!」

「…………ぁ、ぁの、俺。ご、とうさんの」

 

 なにやら男がボソボソ言ったような、そんな気もしたが、今の虹夏にはそれを聞き取る余裕などあるはずもなく、結果として。

 

「人の妹に、なにガンつけてんだよ。おい」

 

 数分後の彼らからしてみれば、考えうる限り最悪といっても過言ではないシチュエーションが、そこに爆誕したのだった。

 

 

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