その子の救済になります。
―――どこまでッ!どこまでディアボロス教団は卑劣なんだッ!
ルスランを拷問(魔力で脳を刺激して無理矢理秘密を喋らせる)をした私は、シャドウ様のいる場所へと走った。
今、七陰かシャドウ様と戦っているであろう人、オルバ・■■■■
間もなくシャドウ様に殺されてしまうであろう彼には、娘がいた。
ディアボロス教団入団の理由であり、亡くなった妻の忘れ形見。
事情は違うけれど、父と娘の物語が終わる―――そんなのって。そんなのって。
今なら―――今ならまだその人と娘を助けられるかもしれない。
だから願う。
助けてほしいと。
七陰は嫌がるかもしれない。
シャドウガーデンは陰に潜む者たち。
そこに異物を放り込むリスクを考えると、ディアボロス教団関係者ということも含めて、あまり良いことではない。
でも、それでも。
私みたいな終わりを迎えてほしくない。
父をこの手で殺め、自国を揺るがし、民を苦しめた愚かな女王。
大切に想っていた仲間の664と665は私のせいで命を落とし、自身もアイリス王女の手で殺された。
苦しかった、悔しかった、申し訳なかった。
どんなに私が道を違えても、どんなに選択を間違えても、許し、信頼し、ついてきてくれた人たち。
だから今回は。
助けられる命があるなら、助かる命があるなら。
私のこの手で救える命を、救い上げたいんだ―――。
―――アルファ視点―――
七陰の零・『ヌル』
彼女は、異常だ。
強弱の話ではない、その話をするなら七陰の中に勝てる者はいるだろうし。
異常なのは、彼女の精神性について。
『救済』
という行為において、彼女は異常とも呼べるほどの嗅覚を持っている。
私だって悪魔憑きが発現した者たちを、出来るだけ助けようとしてきた。
その中で、シャドウガーデンがここまで大所帯となったのは、彼女の異常な嗅覚も原因の一つだ。
この三年、彼女はシドの側仕えのメイド『ローズ』と、シャドウガーデンの『ヌル』としての仕事を、身を削って行ってきた。
イータは、一種の強迫観念からそのような行動を起こしているのだろう。と言っていたが、仲間として、シャドウ様から直接の救済を得た者として、彼女のことが心配で仕方がない。
誰かを助けられなかった時、折れてしまわないか。
誰かを助けようと、自分の命を投げだしてしまわないか。
私だけじゃない。シャドウ様や七陰が彼女を想っているのに、彼女は自分の命まで天秤に懸けようとする。
先にどんな困難が待ち受けていようと、突破できる力があるから。
後に私たちがいるから、何かあれば全て任せられるから。
信頼してくれるのは嬉しい。
でも―――そんなあなたの心と体は、誰が守るの?
悲劇が起きてからでは、遅いんだから―――。
―――ヌル視点―――
迫りくる終わりの攻撃。
あれをまともに受ければ、死は免れない。
あれをまともに止めれば、死は免れない。
絶死の斬撃。
それでもッ!それでもッ!
それでもまだッ!万に一つでも助けられる可能性があるのならッ!
体が避けろと命じても、心が恐怖に怯えていても。
まだッ!まだあの人は生きているんだッ!
全ての魔力を使って、全てのスライムを総動員して、迫りくる死を止めるために使う。
青紫の光―――あれは、私にとっての生の光。
青紫の光―――あれは、誰かにとっての絶望と、誰かにとっての希望と、誰かにとっての救済の光。
「シャドウ様!お待ちくださいッ!」
糸が伸びる―――斬撃の向かう先へ。
1ミリでも良い、彼の体に届かせないために、全ての力を使う―――。
お願いッ!
お願いッ!
届けッ!届けッ!届け――――――ッ!
命が燃える感覚。
膨大な魔力を止めるために、命が燃える。
シャドウ様を止めようと思うなら、自分の魔力を全て使っても止めることなど出来ないだろう。
彼は私などには到底たどり着けない境地に。
二回目の人生でも、追いつくことのない高みに彼はいる。
それでも、届いた。
命が燃える感覚があった。それは救済の力が届いた証。
私はまた―――誰かを助けられた――――――。
それを感じ取ると、感覚がひとつ、ふたつと少しずつ消えていく。
視覚、嗅覚、聴覚……。
全ての感覚が失われて、私の意識は闇へと吸い込まれていった――――――。
―――ある少女の未来の話―――
さいしょはくるしかった
つぎはいたかった。
そのつぎはかなしかった
ないているおとうさん たのしそうにわらうしらないひと
どんなすがたになっても わたしをなでてくれるおとうさん
すこしして おとうさんはいなくなってわたしはどこかにつれていかれた
うらぎりもの にげた いろんなことばがわたしにとんできて いじめられた
なんどかいじめられて いたいおもいをして
そしたらきれいなおんなのこがとなりにきた
そのこはちゅうしゃされて そのままそれがわたしにちゅうしゃされた
また いたいのがくるのかな
あ じゆうになった
じゆうにされたから このこだけでもたすけてあげたい
じゆうになって このこといっしょにどこかにいく
だれかにみつかって いたいおもいをした
でも もうこわくないよ
わたしをどこかにつれていくひかりがきた
これはきゅうさい。
このひかりが わたしをすくってくれる。
―――ある男の未来の話―――
白い髪の少女が、私の体を支えてくれる。
あの時の後遺症で右手を失い、体の半分はもう、動くことがない。
少女に助けられたこの命。ディアボロスの雫を使用した私の命は然程長くはないだろう。
あれは未完成品で自分のような末端の人間に完成品が手に入るはずがないのだから。
車椅子に乗せられて、いつもの散歩道を歩く。
彼女は私のところに来ると、こうして散歩に連れて行ってくれる。
優しい笑みを浮かべながら、時折寂しそうな、悲しそうな顔をしながら。
「■■■さん」
彼女が私の名を呼ぶ。
「今日は特別良い日になりますよ」
顔を見ると、笑顔を浮かべている彼女が向こうを指差す。
視線の先、やはり後遺症で少し見づらくなった目を凝らす。
「あれは、あれは―――嗚呼ァあ―――ッ!」
気づいた瞬間、涙が溢れた。
もう亡くなっているかもしれない、もうダメかもしれない。
何度もそう思って、諦めそうになったもの。
「ありがとう―――ありがとう―――」
光り輝いていた日々に見たあの姿とさほど変わらない姿。
変わったのは、私だけ。
少し身長が高くなっただろうか、魔剣士になって騎士団を目指すと言ったから、制服だって買ってあげて。
将来はどんな騎士になるだろう、なんて思い描いた日もあった。
成長したらこんな子になっているのかなと、助けてもらってから、ずっと、ずっと思い浮かべていた。
それが今、私の目の前で、目の前で笑ってくれている―――。
「ただいま、お父さん」
小山力也さんは絶望ボイスが似合う、でも救済された時の声も間違いなく合う