2年が経った。
シャドウ様―――シド・カゲノ―様は、ミドガル王国魔剣士学園に入学した。
私は彼と違い、貴族ではないのだけど、実力が認められ、特待生として入学することが叶った。
本来なら私は王族として2年前に入学しているのだけど、そもそもこの世界にローズ・オリアナという少女はもういない。
私がヌル。ローズ・カゲノーとなってから、ローズ・オリアナは行方不明の王女となった。
身代金などの要求も無く、ただ忽然と消えた王女。
最初のうちはかなりの人数で探していたようだったけど、1年また1年と経つうちに、どんどん人は減っていった。
私がいなくなった場所が、盗賊や魔獣などの被害に遭いやすい場所だったのもあるのだろう。
そういう事に巻き込まれてしまったのだと、人々は諦め、結論を出していた。
私はこれからもローズ・オリアナを名乗ることは無い。
オリアナ王国が気にならないわけではない。でも、今はまだその時ではない。
ディアボロス教団はもう、深く、深く入り込んでいるのだから。
私がオリアナ王国を調べ始めた頃にはもう、終わっていた。
王だけではなく、王妃も、ディアボロス教団の手に落ちていた。
妹のクララも、病を理由に表に出てこないらしい。
血の繋がった家族を捨てる決断は、辛かった。
でも、捨てなければ私に未来はない。
オリアナ王国を守るためには、今ディアボロス教団と事を構えるのは悪手でしかないのだから。
助けようと動いて待っているのは、民や仲間が苦しむ惨劇だけ。
私が行方不明になった時点で、オリアナ王国はもう健全な状態ではなかったと思われる。
先代から少しずつ侵食していたディアボロス教団が、私の行方不明以降、王国中枢に根を張ってしまった。
過去の世界では、私が侵食を止める防衛線だったのだろう。
私の働きが、万が一にでもイレギュラーを起こす可能性があるからと、ディアボロス教団の動きを遅くさせていた。
だけど、今回私という防衛線が最初から無かった。
だから、全てが遅かった。
オリアナ王国は、私のせいで、間に合わなかった。
誰かを救って良い気になっていた、罰だ。
シド様の力を得て調子に乗っていた、罰だ。
未来を知っていたのに、未来を変えられなかった。
力があるのに、変えられなかった。
―――アレクシア視点―――
凡人の剣。
人からそう言われようと、人からそう蔑まれようと、私はそれを極め続ける。
5年前のあの日、アイリス姉さまが負けた日。
あの日は、私にとっての始まりの日。
魔剣士として、才能がなくても、姉さまと比べられても、あの日見た剣が私に希望を与えてくれた。
剣を振る。目を瞑ると想像のあの子が現れる。
ローズ・カゲノー。
私の目指す先、諦めなければ、いつか届くだろうと信じている剣の頂。
そこに彼女はいるはずだから。
―――クレア視点―――
入学式で久しぶりに顔を合わせて以降、中々顔を合わす機会がない弟、シドの元に行きたいのに、ローズが熱を出した。
剣の才能から特待生に選ばれ、弟と一緒に魔剣士学園に入学した、私の可愛い義妹。
弟も彼女には目をかけているし、私も彼女には対等に戦える(戦ってくれる)者として目をかけている。
弟がメイドとして連れてきた頃は、記憶喪失でメイドとしての仕事も不出来な子だったけれど、学習能力は高く、すぐに私を満足させるような仕事が出来るようになった。
それが剣術でも発揮され、私など敵わなくなるくらい強くなってしまった。
彼女が本気で戦えば、私は勝てないだろう。
悔しいけれど、弟が連れてきて、その弟に目をかけられる。強くなれる機会は……私より多いのだ。
私の前では、弟も義妹も自分を弱く見せているけれど、あそこまで絶対的な余裕で見られていれば、わかってしまう。
優しい目で、余裕な目で、こちらは本気で戦っているはずなのに、そんな目で見ているのだから。
だからだろう、その感情に目を向けたのは。
義妹は、弟を好いている。
同じように私のことも好いていてくれる。
信愛、友愛、敬愛。
様々な愛で、弟のことを、愛してくれている。
私のことも愛してくれてはいるのだろう、でも、少しだけ、弟―――シドに向ける愛の方が強く感じて―――妬いてしまう。
そこまでの感情を向けている相手に、シドは、アレは、少しも好意の対象として見てあげてはくれないのだから。
そんな朴念仁な弟のことなんてほっといて、私の方だけを見てくれたら良いのになんて……思ってしまうほど。
私も、彼女を愛しているのに。