私のお父さまは、昔武神祭で優勝した人らしい。
らしいというのは、そんな姿を見たことがなかったから。
私のお父さまは、今はもう歩くことすら出来ないのだから。
私がまだ幼い頃に、仕事中に崖から落ちてしまい、下半身の麻痺と、記憶喪失になってしまった。
どれだけ手を尽くしても、お父さまの仕事仲間だというお医者さまに来てもらっても治ることはなかった。
お母さまはその仕事を任せたのが自分だという責任もあったのだろう。
お父さまと婚姻を結び、懸命にお父さまを支え続けた。
そのおかげか、記憶は戻らないながらも、元々の魔剣士としての力量や、お父さまの努力により、私が学園に入学する数年前。ミドガル魔剣士学園の副学長になることが出来た。
それを機にお母さまは研究者を辞め、お父さまに付き従う秘書となって、常に一緒にいることも増えてきた。
そのおかげで、最近は家族三人一緒に過ごすことも多くなってきた。
たぶん、これが幸せなんだと思う。
過去に色々あったけれど、家族の愛を受けられる幸せ。
大好きなお母さまと、お父様。
幸せな時間。その時間はずっとずっと続くんだって思ってた。
―――ルスラン視点―――
酷い頭痛。歩くことが出来なくなった足も痛む。
私が記憶喪失となった事故が原因と言われている後遺症だ。
足の痛みに関しては、以前から起きていたことだったのだが、頭痛についてはつい最近はじまったこと。
ミドガル魔剣士学園の入学式の時に、見知った顔らしき人物を目撃した。
その時からだ。
記憶に無いのに記憶がある。その感覚は、記憶喪失になる以前に知り合った方々と会うことで起きていたので、慣れたものだった。
しかし、頭痛はその時からだ。
痛みに唸ってしまうほどの頭痛。その度に何かを視る。
記憶が無いのに思い出す。
写真のような一瞬の風景、情景、光景。
一度も行ったことのない場所でも、失う前に行ったことがあるのだろう。
視えることがある。
何かに駆られていたことも、視える。
自分が何に駆られているのかは、わからないまま、なのだが。
―――アイリス視点―――
『王国随一の頭脳』
シェリー・バーネットは妹と同じ年齢ながら、そう呼ばれている。
元研究者の母と、武神祭優勝者の父。
その二人の愛を受けて育った彼女は、母と同じ道を進むことを選んだようで、その頭脳で王国を発展させるだろうと父も期待していた。
私の妹と比べると、少しドジな部分はあるにせよ。可愛い子だと思う。
先日の誘拐事件の現場で見つかったアーティファクトの解析を依頼した時に話してみたけれど、両親に凄く甘えているようで、見ていて微笑ましさを感じるほどだった。
研究熱心で、依頼したその場で仮説を立ててしまうほどの頭脳明晰さと、両親への深い愛。
彼女は今、幸せなのだろうなと思う。
そんな子を、悪い人間の手から守りたい。
ディアボロス教団、シャドウガーデン。
事件の時に聞いた名前。そんな危ない奴らから、守ってあげたい。
そのために、少しでも私は前に進まなければならない……絶対に。