義妹は、料理が得意だ。
メイドとしての仕事も覚えが早かったこともあって、それ以外の仕事も出来るようにメイドの仕事以外のことも様々な人間に師事して覚えたらしい。
最近流行りのチョコというお菓子も彼女は作れるようになったらしく、今日はそれを作るために知人を連れて集まった。
「で、来たのが弟を殺しかけた王女様と、そのお姉様と」
元々は他にも何人か参加するはずだったのだけど、急に予定が入ったと言われてしまい、この2人だけになってしまった。
「シドの体なんていくら切ったって問題ないでしょ。目の前でダメージ無さそうに帰ってったの見た私が言うんだから大丈夫よ」
「いやいやいや、アレクシア。人間の体が切られて問題ないだなんてことありませんよ!?」
事前にある程度まで義妹が作ってくれていたこともあって、今は雑談しながらのチョコを混ぜる作業だ。
だらだらと喋りながらも温かい雰囲気で、言っていることは不穏だけど、弟を好きでいてくれているのは感じる。
友達として……だとは思いたいけど。
「普通あんな出血したら意識失ったりふらついたりくらいするはずなんだけど、アイツこの間騎士団に拷問されても次の日には普通にしてたらしいし、おかしいのよね」
「シド様は私を拾っていただく前から鍛えてらっしゃいますからね。並大抵のことで倒れられはしません」
王女二人には、弟の異常性は少しだけ伝えてある。あと義妹の過去についても。
ずば抜けた耐久性、身体能力など。
ただ魔剣士として、才能がないだけだと。
おかしいとは思うけれど、実際にあまり良い成績で入学していないのだから、社会的にはそうなのだ。
アレクシアは何か知っているかのように、なるほどね。とは言っていたけれど、何がなるほどねなのかはわからずじまいだった。
「アレクシア、チョコ作り終わってからでも良いのでちゃんとシド君に謝りに行きましょうね!そうじゃないとこの国の王女は民間人に手を出す王女なんて言われてしまいます!」
「大丈夫よ姉さま。誰も見てないわ。バレたらバレたで、何かの既成事実にしちゃっても良いと思うわよ。アイツこの国から逃がしたら絶対に損なんだから」
私とローズを見ながら笑みを浮かべるアレクシア。
まあ……そういうことなのだろう、とは思うけど。
「姉は卒業したら姉さまの騎士団。義理の妹のローズだっていずれはそういうところに。なんて言われてるのに弟だけ平凡なワケないじゃない。この間の剣術大会だって優勝者相手に一番健闘したって言われてるくらいなんだから」
先日行われた剣術大会。
弟は一回戦負けだったものの、相手が優勝候補。というかその大会の優勝者だった。
内容としては、何度倒されても立ち上がり続けての判定負け。
だけど、優勝者がその後のトーナメントにおいて、一太刀二太刀ほどで試合を終わらせているため、その相手に一番健闘した選手として少しだけ話題になっている。
「確かにシド君はクレアさんからの評価もありますし、ローズさんの成績を考えると、おかしい部分もあります……。それに騎士団でのこともこちらの負い目にはなっていますからね……」
騎士団での拷問の話を聞いて、謝罪にしきたのは他ならぬアイリス王女だった。
私が紅の騎士団に入ることも含めて、何度か顔を合わせていたので知らぬ仲ではなかったけれど、自分の管理できる範囲を越えたところで動いていた騎士団のことを謝罪する必要などなかったように思う。
騎士団で冤罪の容疑をかけられ拷問されたことについては、外に出ないようにはなっているとは思うけれど、この国の汚点になりかねない事態だとは思う。
理解はしているけれど、弟がそんな目に遭わされたことは許してはいない。
「なにそれ。もしかして姉さまの騎士団にシドを入れる気なの?それって外堀を埋めてからとかそういうの?」
王女の問いに、顔を真っ赤にして否定する王女。
紅の騎士団に弟が入ってくれれば、私は嬉しいけれど。
「違いますっ!何かで便宜を図れることがあればするとかそういうのですよ。それは……クレアさんの弟さんが紅の騎士団に入ってくれれば何かと助かるとは思いますけど……そういう特別扱いをしたところでお父様や大臣などからは受け入れてもらえないでしょうし」
アイリス王女の作った騎士団というのは、外から見れば良いものには見えるけれど、その実、あまり良い環境ではないと私が知る限りでは思っている。
先日の誘拐事件の時も、まだ騎士団を作り始めたばかりとはいえ、思うように動けなかったと聞いているし、そこで起きたことで無力感を覚えていたことは知っている。
暴れる魔獣と、それに対して無力な私と王女。
私たちは蚊帳の外で、そこで暴れるシャドウガーデン。
自分たちは何も出来ないまま、事件は解決してしまって、顔は見れなかったけれど、肩が震えていたのを覚えている。
弟と義妹のことで、無力な私と、王女という立場なのに何も出来ず無力だったアイリス王女。
似た者同士の私たちは、思いもたぶん一緒なのだろう。
自分たちで少しでも何か誰かのために出来たらって。