―――ハデナ視点―――
簡単な仕事のはずだった。
ディアボロス・チルドレンの起こすテロに乗じての暗殺。
元ラウンズで、今は記憶喪失と体の麻痺で教団としての活動が一切出来ないルスラン・バーネット。
そいつの始末をするだけ。
元は武神祭の優勝者だったはずなのだが、ある事件の対応をしている際、何者かに襲われて、あのような状態になってしまった。
そのおかげと、ゼノン・グリフィの任務失敗により、私がこの第十二席になれたわけなのだが。
「クソッ!クソッ!クソッ!ふざけるなッ!!」
ディアボロス・チルドレン、全滅。
学園に入り込んでいた関係者も連絡が取れない状態。これも始末されているのだろう。
魔力封じがあると侮っていた私の失態だ。ここまでのことになったのは、十中八九、シャドウガーデンとかいう奴らの仕業だろう。
魔力封じが解けると同時に、一気に形勢が逆転した。
それまでは、一部の動ける魔剣士が蠢いているだけの最期の抵抗だったのに。
帝国貴族の嫡子として産まれ、望まれた通りにその道を歩み、自分以外の後継を様々な手を使って放逐した。
今そいつらはどこで何をやっているかは知らないが、最初に追放した無能な弟は傭兵となり、最期は盗賊に間違われて倒れたと聞く。
無様である。その話を聞いた時は、そう思っていたのに。
ディアボロス教団の一員となり、自分の恵まれた才能と帝国貴族としての伝手でラウンズにまでのし上がったのに。
何故!何故!何故!何故この私が、こんなにも醜態を晒さねばならない!
私は奪う側だぞ!なぜ奪われねばならない!
私は、ナイツ・オブ・ラウンズ第十二席『ハデナ・セーネン』であるぞ!
―――アレクシア視点―――
肩で息をする。
さすがに消耗しすぎているのか、体が限界を迎えていると警鐘を鳴らす。
筋肉も、関節も、臓器も、悲鳴を上げている。
魔力封じの中で魔力を使わずに戦い続けた反動もあるのだろう。
どこもかしこも痛みを伴って、休め、休め、と悲鳴を上げているようだった。
まだまだ、鍛錬が足りない―――。
魔力を使うことは、悪いことではない。
むしろ自分の強さを底上げしてくれる。
でも、思い描いた強さには、ならない。
あの日見たローズ・カゲノーの強さには、まだ届かない。
自分の剣で、自分の強さで、あの子に勝ちたくて。
だから、今見つけた、強そうな男にまた、戦いを挑む。
「―――あなた、強そうね。」
明らかな異物。学生でも、騎士でもない、異物。
私が倒してきた者よりも、少しは強そうな男。
「―――チィッ―――!クソがッ!ガキの相手なんてしてられねぇんだよォ!!!」
嗚呼、私と対等に斬り合える奴が、目の前にいる―――!
―――ルスラン視点―――
動かぬ足。
動かぬ頭。
魔力封じの効果が、私に重くのしかかる。
動かぬ体を支えていたのは、魔力で、その魔力が封じられればその体は弱っていく。
知らず知らず、自分は魔力で生かされていたと知る。
テロリストたちから、見つからぬように逃げて、逃げて、どうにか状況を変えようと動き回った。
時には這いずり回り、時には転げまわり、体はボロボロになっている。
記憶を失うまでは、こんなに苦労することはなかったと聞いているが、その記憶がない以上、私にはこの状態が当たり前だった。
スッと、私を蝕んでいた魔力封じが消えた感覚がする。
魔力が制御できるようになり、重く感じていた体が軽やかになっている。
外からは、誰かの声。
騎士だろうか、学生だろうか、助かった!と喜ぶ声と泣くような声。
あぁ……私は、助かったのだと安堵する。
ただ逃げ回っていただけではあったけれど、それでも、もしかしたら私を狙っていた可能性もあったから。
良かった。娘は、妻は無事だろうか。
車椅子を置いていた場所まで戻り、人質になっていた学生たちがいた講堂へ行こう。
そうすれば、二人の無事も確認できるだろう。そう考えて、疲れた体を押して、声のする方へと向かっていく。
魔力封じの後遺症か、頭の中でチラつく幻影が引き起こす頭痛に苛まれながらも。