後遺症だったのだろう。その症状も抜けてすっきりとした頭で、道中で拾った剣で相手との鍔迫り合いに持ち込む。
体も麻痺など無かったかのように万全な体調で、それどころか病に冒される前と同じような感覚でいられる。
側には、アレクシア・ミドガル。
この国の第二王女が魔力を極限まで使い、倒れこんでいる。
斬られたわけではなく、あまりにも魔力を使い過ぎ、疲労も積み重ねって、立てるような状況ではなくなっているだけ。
私は、間に合ったのだ。
そして、彼女に剣を向けた男を―――視る。
雰囲気だけで、わかる。あいつは、ラウンズの席に座る者だと。
ナイツ・オブ・ラウンズ―――だったか、私が以前いたはずの場所だ。
もう戻る気はないし、戻ろうとも思っていない。
あれほど追い求めたのに、あれほど失うことを恐怖したのに、もう私には必要のない場所。
私という存在は、もう妻とシェリーのためにあるのだから。
私という屑のために、夢を捨てた妻ルクレイア。
私という屑を父と慕う、シェリー。
記憶を失い、体の一部も使えなくなっていた時、私は幸せだった。
武神祭で優勝しながらも、その後、病に冒され、ラウンズを追われた私が求め続けたのは、返り咲きだった。
優秀な研究者であったルクレイアを利用し、アーティファクトで自分の病を治せないかとそう思っていた矢先、私は、私を知る何者かによって、一度、殺された。
その瞬間だけならば、不幸だったのだろう。
不幸の連続でもあったその瞬間が、私の転換点だったのだろう。
愛などなかった、ただ、協力関係を結ぶためだけの協調だったルクレイアとシェリーとの関係。
そこで、私と彼女たちは繋がりを持った。
ただの協力関係でしかなかったはずなのに、ルクレイアは私を愛してくれた。
私の血など一滴も入っていない義理の娘、シェリーも、不甲斐ない私を、愛してくれた。
だからこそ、その愛に報いるため。
その愛を失うようなことなど、許してはいけない。
何度か斬り結ぶ。
ラウンズとして、魔剣士として申し分ない実力を、この男は持っている。
それこそ、何年かすればラウンズの上位とも張り合えるような、そんな実力。
その上で、自分で編み出したのだろう。魔力を声にのせる技術も持ち合わせている。
だが、そこまでだ。
私にとって、それは当たり前のものでしかない。
ラウンズとして、強くあることは当然のこと。
一部を除けば、並の魔剣士など足元にも及ばない実力はあって当たり前。
次は、斬り結ぶことなく弾く。
相手の膂力を活かして、その力を戻してやる。
そうすると、私が少し力を入れるだけで相手にその力を返すことが出来る。
「アレクシア王女。あなたはお強い。この学園に敵うものなどいないかもしれません。ですが、剣の頂を一つ越えたところで、その頂には続きがあるんですよ」
山を一つ越えても、山はいくつも存在している。
その頂は一つではなく、いくつもある中の一つでしかない。
「私の短い命。あなたのために使いましょう」
わかっている。私はもう長くはない。
体も、心も、何もかもが、もう手遅れだ。
ただ、剣の頂に届こうとしている者が、ここで倒れることなど許されない。
武神祭で優勝した者として。
剣豪・ルスラン・バーネットとして。
彼女を、高みへと、頂へと登らせるために。
この命、燃やし尽くすことが天命だったのだと、ラウンズと彼女の戦いを見て、気づいてしまった。
忘れてしまっていた記憶も、体の封じも、全てがこの時を彼女に与えるために存在していたのだと。
私の剣に怯えはじめた男に私から斬りかかる。
魔剣士学園で教えられる当たり前の剣術としての動き、とは違う、剣豪としての技術。
剣だけの技術はではない。
体全体を武器と為す、体術としての剣。
剣を受けようとする男の肘を、蹴る。
魔力で強化された状態で蹴られれば、骨など簡単に折れてしまうだろう。
現に右腕が、曲がってはいけない方向に曲がっている。
そのまま、音を立てて地面に足をつける。
当たり前のように地面が陥没し、相手が体勢を崩す。
戦うための剣の術。
少しでも彼女が受け継げればと、技術を、心を、時間が許す限り彼女へと見せつけた。
私を燃え尽くそうとも止まらない命のリミットは、もうあとわずか。