知らない記憶。
夢だとは理解できるけど、誰かの記憶だと理解して見ている。
覚めようとは思えず、ずっとその記憶を見ていると、それが誰なのかを知る。
ローズ・カゲノー。
記憶を見る限りでは、その記憶と今の彼女には差異があって。
あぁ……と気づく。
これは、彼女の後悔の記憶だ。
過去の記憶なのは間違いない。ただ、前世と呼ばれるものがあるとすれば、これがそうなのだろう。
燃える学園。私の記憶では、私が意識を失うまでは学園が燃えることなど無かったはずで。
そもそも私が彼女の記憶には登場していない。
アーティファクトが解除されたことを認識してはいるので、私が解除してはいるけれど、その後の行動や起きたことが違う。
だから。
だから、気づく。
彼女が見た記憶で、この世界は、時間が戻った世界なのだと。
信じられない現象。でも、強い感情、記憶。それを見ていると、妄想の類だとは思えない。
だからといって、そんなことがあるものかと思ったことが、ひとつ。
勇者と呼ばれながら魔王へと転じ、人類の敵と化したのが、私であるということ。
何が、何が起きればそんなことを起こしてしまうのか。
―――ローズ視点―――
魔力を制御し、操作し、他人を癒すこと。
その危険性について、考えたことがある。
ルスラン・バーネット。
彼から情報を引き出した時に、癒すことと弄ることは似通った部分があると気付いた。気づいてしまった。
そこまででは、癒しの力としてただ使っていたものだけど、他人と魔力を合わせるということは、他人の想いを知ってしまう危険性があった。
癒しの力自体がそうなるわけではなく、魔力で無理矢理にでも癒すという、難しいとはいえ存在する癒しの術とは別の方法だから起きてしまうこと。
そう。シェリー・バーネットはその無理矢理を起こしてしまった。
だから―――危険だ。
私のことを、知られる危険性が―――ある。
私の素性を知られるということ―――それは、オリアナ王国の王女であったこと。
それは、シャドウガーデンの七陰・『末席』のヌルであること。
そして、前世の記憶の全て。
それこそ、シェリー・バーネットの情報すら、何かが起きるかもしれないという危険性を孕んでいるのだ。
弄ってしまおうか、ルスラン・バーネットと同じように。
それとも、無理矢理にシャドウガーデンへと連れて行ってしまうか。
――――――殺してしまおうか。
そう、考えてはいた。
でも、出来なかった。
彼女の純粋な想いを知ったから、両親へのとても、とても真っ直ぐで綺麗な愛。
ふとしたきっかけで知り合った、シド様。
初めてだったのだろう、家族以外の誰かを、好きになること。
私もそうだった。
シド・カゲノーを愛した前世。
辛く別れ、捨てたはずだったのに。
再会してしまった。
そして、愛しいと、また振り向いて欲しいと。請うてしまった。
初恋は叶うことがないまま、終わってしまったけれど。
今はまだ、どうにか出来る。
でも、こんな純粋な想いを知ってしまったら、そんなこと出来るわけがない。
排除してしまうのは簡単だ。どんな方法でも使える状態なのだから。
でも、そんなことは、したくない。
歪かもしれない。私だけを愛してほしいと願うのが、当たり前なのだろう。
でも、私はそうじゃなかった。
私の愛するシド・カゲノーを、あなたも愛してほしいと。
アレクシア王女との束の間の婚約話も、嬉しかった。
シド様を愛してくれる人が増えたのだから。
だから、シェリーにもそうなってほしいと、そうあってほしいと、思ってしまった。
目を覚ましたら、聞いてみよう。記憶について。
目を覚ましたら、問うてみよう。今後のことを。
まあ、まずはルスラン・バーネットのことを含めた、今の状況について話さねばならないが。
―――アレクシア視点―――
涙を流すのは、シェリー・バーネット。
ベッドで眠る副学長の娘。
私を助け、私に全てを見せてくれたルスラン副学長は、所謂植物状態と言われる状態で。
過剰な魔力行使と、急激な肉体の酷使。
歩けなかったはずの人間が歩けるほどの、魔力行使と、歩けなかったはずの人間が、剣豪としての力を使う。
どれほどの揺り戻しがあるかなんて、想像に難くない。
命を燃やす感覚、最近理解できるようになったその感覚。
燃え尽きたらどうなるかなんて、考えたこともあった。
だから、理解できるのだ。副学長のこの状況を。
命の燃え尽き。
生きているのが不思議なほど、何もかもが弱っている。
ただ生きているというだけで、その命はロウソクの火のようにか細く、いつ消えてもおかしくないほどで。
娘であるシェリーの癒しの力を流し込んでも、風船が萎むように抜けていってしまう。
どうやって生きているのか、不思議な力が働いていると思えるほどの状態。
それが今のルスラン・バーネットの状態で。
こうなったのは、私が原因。
いくらでも恨んで良いと、私に出来ることならなんでもすると宣言してしまうほどに、私に責任がある。
しかし、彼女は私の提案……願いを聞くことはなかった。
私に自分の戦い方を見せることが、父の願いであったからと、目指す先へと進んでほしいからと。
自分の夢を私に託したのだと、そう父から聞いたと、彼女は言った。
癒しの力によって、記憶を見ることが出来たおかげで知れたのだと。彼女は言った。
その言葉で、今度は私が涙を流す番だった。