「姉様、シド様が女神の試練に参加されるみたいですよ。行かれないのですか?」
ローズが朝から何度も女神の試練のことを聞いてくるけれど、私は行かない。
シドはいつだってそう。
自分は知らないところでそんな面白いことに参加しているのに、いつも私の時は見に来てくれない。
「今日はローズと出歩きたい気分なの。ローズも私と一緒にいるのが嫌?」
弟は、私のことを避けている節がある。
妹も、私には言えないことがあるようでバレないようにしているつもりだろうけど、わかってしまう。
これでも。
弱くても。
一応は二人の姉なんだから。
「姉様……そんなことはありません。お付き合いいたします」
ボーっと歩きながら、シドの好きそうなキーホルダーを買ってみたり、有名な作家だという女性のサイン会に参加したり。
ただ当てもなく聖地リンドブルムを観光する。
特筆何かあるというわけではなく、名前の通りの聖地のような場所という印象そのままという感じだった。
つまらなくはない。
義妹とこういったことをするのは、初めてかもしれない。なんて気づいた時、見る景色が違って見えたから。
ここで何を考えているのだろう。楽しいのかな。なんて、隣を歩く義妹の横顔を見ながら思っていた。
「ねえ、ローズ、もしも、もしもの話なんだけどさ」
観光中にまぐろなるどを見つけ、近くのベンチで座って食べながら、話す。
少し前に夢に見た内容から、語る。
「もしもローズがうちの家に引き取られてなかったら、どうしてたと思う?」
―――わかってしまった。
ローズの目が、体が、語っている。
「―――私が引き取られていたなかったら―――ですか」
考えているように見えて、心を落ち着かせている。
私だって、バカじゃない。
特待生に選ばれる程度には、誰かと戦って勝っている。
心理戦になっても、勝てる程度には相手を見ているわけで。
動揺した相手なら、どんな感情かくらいは読めはする。
ほとんど表情に出ないシドがおかしいだけ。
ああ……ごめんね、ローズ。
「ごめん、ローズ。聞かれたくないこと聞いちゃったよね。忘れて」
もしかしたら、なんて思っていたけど、そんなことはなかった。
たまに見る、シドへの視線。
あれも、憧憬や忠誠だけだとは思っていなかった。
好きだという感情もあるのだろうとわかってた。
でも、それ以上に向ける感情があるのもわかっては、いた。
ローズは、記憶があって最初からシドに付き従っている。
ということを。
シドは記憶がないと言っていたし、ローズもそうだと言っていた。
その時はそれで信用して、普段の働きからも信用できる子だと思えたから、それで終わっていた。
けれど、そうじゃなかった。
何か目的があって、何か理由があって、彼女は私たちに取り入っていた。
それが何かまではわからない。ただ、わかるとすれば。
それが私にとっては悪いことではなくて、今この時も、私に対して申し訳ないと考えていること。
メイドだからだと思っていたけれど、たぶんこれは、違った。
引け目を感じているのは、そんな理由じゃなくて。
私を騙していることに対しての引け目だったんだと。
―――泣くつもりは無かったのに、知らず涙がこぼれていることに気づいて、拭う。
―――何度拭っても、何度心を落ち着けようとしても、涙は止まらなくて。
―――もしかして、夢の通りなら彼女は、ローズは――――――。