深く、濃く、一年中晴れることのない霧。
龍が残した呪いだとか、龍のブレスの残滓だとか言われているそれは、人にとっては猛毒で。
鬱蒼とした森林がそこにあることもあって、一度入れば二度と帰ってはこれないと言われる深淵の森。
私とシド様は、その森を凄まじいスピードで駆けていく。
吸えば猛毒、一時で死。
迷えば帰れず、禁足の地。
シド様の魔人としての力に耐えることの出来る私は、ここで戦っている。
耐えることが出来るだけで、戦えるというわけではなく、ほぼ一方的な鍛錬に付き合ってもらっているだけにしか過ぎないのだが。
魔人となった私と魔人だった彼には大きな差があって。
彼は目を瞑っていても木々の間を駆け抜けられるけれど、私は木にぶつかるか、木を切り倒さなければ追いつくことなどまるで出来ない。
戦闘にならず、遊ばれているだけ。
でも、それでも。
魔力を追うという、今は私だけだろう感覚で彼を追う。
一太刀でも、一触れでも、彼に届けるために。
早く、速く、もっと
もっと速く、早く!
―――シド視点―――
へー……ヌルって凄いや。
僕が年単位で鍛えに鍛えて手に入れた力を1年かからず手に入れるなんて。
転生者である僕と、そもそもこの世界で生まれてきたこの子だと魂からして強度が違うのかな。
僕だって体はこの世界の人間だけど、魂は別の世界の人間だ。
たまたまここに転生して、たまたまシドという体に入っただけ。
霧龍の毒って目茶苦茶キツイ毒だし、そもそも霧っていう性質のせいで森林を走り回るのだってキツイはずなのに。
僕には効かないけど、普通の人間なら霧を吸い込んだ時点で衰弱してまともに動くことすら出来ない。
僕は普通に動けるけど。
ただまあ、いつまでも追いかけっこだけじゃつまらないよね。
「ヌル、見ててね―――」
魔力をスライムに伝え、薄く、うすく、うす~~~~~く、引き伸ばしていく。
蜘蛛の糸のような細さにしていく。
緻密な魔法制御が出来て、スライムの制御も簡単に覚えたヌルならこれくらいはすぐ出来るだろう。今も見様見真似で真似しているくらいだし。
斬ッ!っと。
とりあえず、目の前の木を切り倒してみる。
これくらいは当然。
陰で糸を操る実力者っぽいかなと思って前世でも練習してた甲斐があったよ。
魔力があるこの世界じゃこうも簡単に糸使いになれちゃうんだから。
細切れにしたり、糸を使った移動を教えてあげたり、糸に伝う魔力から周囲の状況を察知したり。
僕が編み出した糸術を彼女に教えていく。
やろうと思えば陰で人を操って悪いことしたりとかそんなことも今なら出来ちゃう。我ながらいつか使おうと思ってたんだけど、使う場面がなくてね。
ここまで筋のいい子なら教えたら使いこなしてくれるだろう。よしよし。
―――ヌル視点―――
魔力の線が、縦横無尽に走っている。
魔力をより集めて作られた、魔力の糸。
それが、全てを切断し、動きの補助となり、知覚範囲を広げるものとなっている。
攻撃だけではなく、防御にもサポートにも使える万能な陰の叡智。
七陰の者ならそう呼ぶだろう。
魔力の線は視えているから、同じように糸をより合わせる。
上手くはいかないけれど、形としては出来ている。
実戦で上手く行くかと言われれば、まだ完成の域にはない。
精々移動の補助と知覚範囲を少し広げる程度。
やはり―――悔しいけれど……まだまだ彼には届かない。
高く、険しく、厳しい、彼の頂。
過去に戻り、力を得たとしても届かない絶対的な頂点。
今はまだ、彼には届かず。ただいつか―――。
修行回です。隙あらばイチャイチャさせようとしてしまう。