さくらは自室のベッドの上で布団にくるまり、未だに怯え続けていた。
部屋に入ってからは、すっかり作り笑いをやめていた。
笑顔どころか、黒い瞳からは涙させ零れていた。
これが本来のさくらの姿だった。
どんなに苦しくても辛くても笑顔でい続け、誰にでも平等に接する、そんな天使のような完璧な少女など存在しなかった。
さくらはそんな少女とは、全く正反対だった。
彼女の心や性格は、そんなに単純ではなく、一言で表せないくらいにもっと複雑だった。
さくらもまた、ただの一人のか弱い少女にすぎなかった。
さくらの頭の中では、総の部屋で起きた出来事が何回も何回も繰り返し再生されていた。
本棚から本が落ちた時や照明が消えたり壊れた時に感じたあの感覚は、花を枯らしたと言われた時とも金魚を殺したと言われた時とも違った。
似ているとすれば、緑の光が見える時のあの感覚。
自分が……ポルターガイストのような現象を引き起こしたという確かなる実感にさくらは怯えていた。
火花は総の体に降り注いだが、総は何ともなくピンピンしていた。
もしあの時、総の身に何かあったら……総にもっと嫌われていたかもしれない。
総だけじゃない。もしかしたら、母や父にも……。
さくらにとって、孤独こそが最大の恐れるべきものであり敵だった。
皆から愛され慕われるような存在になる為だったら、自分の心さえずっと殺してきた。
何を言われても思われても、全てを受け入れるそんな完璧な天使のような神のような人間になろうとさくらはしていた。
誰からも愛されない孤独な人間になるぐらいなら死んだ方がマシだとさえ思っていた。
けれど何をしてもどんなに完璧になろうとしても日に日に人々は、さくらから遠ざかっていくだけだった。
それでも家族だけは、総は、態度はあれだとしても心は自分から離れないとどこか自信があった。筈だった。
さくらは布団から顔を出すと、天井を見つめ大きく深呼吸をした。
――そっか。今のままの私ではまだダメなんだ。こんな私じゃいつかお母さん達も私を愛してくれなくなっちゃう。もっともっと完璧にならないと。変な現象はもう起こさない……ようにしたいけど、どうすればいいのかな?
さくらは思考を巡らせたが、一時間経ってもその解決方法が思いつかなかった。
何も思いつかず煮詰まった時は気分転換をするのが良いかもしれないと、さくらはベッドから起き上がり、本棚から自分の一番好きな少女漫画の単行本を手に取り、読み始めた。
さくらは漫画に夢中で、ベッドの傍にある窓の外から黄色に光る瞳が部屋を覗いているのに全く気付かなかった。
窓から部屋を覗いているものは?
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良い存在
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悪い存在