ちゃんと杖に意味を込めていたり。
スノウは、剥がれかかった金色の文字で「オリバンダーの店―紀元前三十八年創業 高級杖メーカー」と扉に書かれた小さな店の上をぐるぐると旋回していた。
スノウと共に店の中に入るとチリンチリンと奥の方でベルの鳴る音が聞こえた。
店の棚には数えきれない程多くの細長い箱がぎっしりと山のように詰まっていた。
「いらっしゃいませ」
柔らかな声がした方を振り向くと、そこには老人が立っていた。
「今年ホグワーツに入学する生徒かね? 先程も新入生の少年がこの店で買っていきなさった。三十一センチ、イトスギとドラゴンの心臓の琴線で出来ている、硬い杖。あの杖は英雄となる素質の持ち主を好む。杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃからな」
さくらは何もかも全く呑み込めなかった。
「あの、ごめんなさい。私、この店へはスノウ……この子が連れてきてきれたんだけで、この店が何のお店なのかも分からないんです。でも、はい。今年ホグワーツに入学するというのは、はいそうです」
さくらは申し訳なくなった。
「おお、なんと! これはこれは、マグルの世界で育ったお客さんだったかね?
あぁ、マグルとは魔法族ではない人々の総称でな。大変失礼したもんじゃ。ここは、魔法の杖を扱う店でな。ホグワーツに入学する生徒なら必ず一本は必要なのじゃ」と店主のオリバンダー老人は丁寧に説明してくれた。
魔法の杖、その響きだけでさくらの鼓動は高まった。
オリバンダー老人は、まずさくらの名前を聞き、杖腕を聞き(おそらく利き手の事だろう)、腕や頭の周りなどの寸法を巻尺で測った。
測り終わると、オリバンダ―老人は棚から箱を一つ持ってきた。
「これをどうぞ。ハンノキと一角獣のたてがみ。二十六センチ、硬い。さぁ、手に取って、振ってみるのじゃ」
さくらは言われた通り杖を取り、チョンと振ってみた。
と、その矢先にオリバンダー老人はさくらの手から杖を取った。
「ふむ……サクラに不死鳥の羽。三十二センチ、とても振りやすい。さぁ、どうぞ」
自分と同じ名前の木の杖だと思いながら、さくらは振ろうとした。
が、振り下ろすか否かすぐに老人はその杖を取り別の杖を試させた。
何度も何度も取っては別の、取っては別の杖を試させるが、一向に老人のお気に召す杖は見つからないようだった。
「中々、難しいお客さんじゃ。さて、これはどうかな? サンザシと不死鳥の羽、二十一センチ。しなやか」
難しいと言いながらも、老人はその言葉とは裏腹にウキウキしながら杖を渡した。
さくらが手に取った瞬間、杖の先端に蠟燭の火のように儚げに揺れる緑の光が灯り、どこからともなく冷たい風が店内に吹き荒れたかと思うと、徐々に暖かい風に変わり、緑の光は赤へと変化した。
「なんと、興味深い……興味深い! 見た目だけで全てを理解できないとは、まさにこのこと!」
すっかり元の何の変哲もない棒に戻った杖を箱に戻し茶色の紙でラッピングしながら、オリバンダー老人は言った。
「えっと、どういうことですか?」
「この杖は、中身と外見があべこべな人間を好むのじゃ。緑から赤、冷気から暖気……今はまだ性格に少し難があるかもしれんが、あなたならそれを乗り越えられるかもしれん。良い方に変わることを願っておるよ」
ずっとさくらの杖選びをおとなしく待っていたスノウは、さくらが持っていた袋をくちばしで取り、中身をオリバンダー老人の手のひらの上にばらまいた。
金貨はどうやら杖の代金として使えるようだ。
「なんと! ここまで人のように賢いふくろうは見たことがない!」と流石の老人も驚いていた。