母と別れ、スノウに続いて柵に突進したさくらは今、紅色の蒸気機関車が停車する9と4分の3番線のホームに立っていた。
9と4分の3番線のホームには先程までいたホームに負けず劣らず人が大勢おり、さくら達のようにしばしのお別れをしている家族ばかりだった。
バサバサと羽音をたてながらスノウはさくらの周りを低空飛行し、さくらの持っているトランクの上部にうまいこと着地した。
さくらがそんなスノウの頭を一撫すると、スノウは嬉しそうにホーと鳴いた。
機関車の煙が風によって辺り一帯に立ち込め、煙たくなってさくらは咳き込んだ。
さくらは出来るだけ煙が少なそうな後方の車両へと足早に向かった。
どちらにしろ先頭の数両は生徒で満席だった。
生徒達は久しぶりの友人達との再会に歓喜し、お喋りが止まらない様子だった。
生徒達はほとんど皆、まだ普段着と思わしき服を着ていて、ホテルから制服をきっちりと着てきたさくらは何だか少し恥ずかしくなった。
後方の車両まで足を進めると、だんだん混雑が緩和されてきた。
ちょっとした喧嘩もたまに見るが楽しそうな雰囲気に、さくらは心惹かれると同時に不安も募った。
ここでもうまくいかなかったらどうしよう。
そんな想いが頭の中をグルグルとしていると、いつの間にか最後尾の車両に着いていた。
最後尾はほぼ人がいなかった。
既に座席に一人座っている黒髪のボブの女の子と、父親らしき人物とホームで話をしている銀髪の少年だけだった。
さくらは、その少年に見覚えがあった。
少し不愛想だが、落とした金貨を拾ってくれた子だった。
大して知っている仲というわけではないが、ほんのちょっとでも見知った人物がいて先程までの不安が一気に吹っ飛んだ。
あの時のお礼まだ言えていない。
父親と話しているようなので少し躊躇ったが、さくらは少年にお礼を言おうと彼の元へ駆け出した。
が、急に左腕を引っ張られる感覚がして立ち止まるしかなくなった。
後ろを振り向くと、赤毛に黒いメッシュを入れたロングウェーブの髪の女の子がニッコリとした顔でさくらの左腕を掴んでいた。
彼女はさくらの腕を離すと、ズレ落ちかけていた眼鏡をクイッとあげた。
「あなたマグルの子でしょ? 最後尾は行っちゃダメよ」
女の子はさくらの手を取り2両ほど前の車両まで連れて行った。
「私、もう乗っていたんだけれど、窓から最後尾の方へ行くあなたを見て慌てて追いかけたわ! 間に合って良かった! あ、私ミンティア・ブレンダね。あなた半分マグル? それとも生粋のマグル?」
「えぇと……よく分かんない。私は神白さくら」
ミンティアは、かなり早口な上によく喋る子で考える隙を与えてくれないが、根は素直で良い子のようだった。
さくらは戸惑いながらも、こうやって見ず知らずの自分に話しかけてくれるミンティアに好感を持った。
「カミシロ、変わった名前ね。カミシロは東洋から来たの? なんかそんな感じがするわ! だったら、もしかしてサクラが名前?」
「うん、日本から。さくらが名前で神白が名字」
「クィディッチが強い国よね! 東洋は名前と名字が反対の変わった国があるってなんとなく知っていたけれど、ニホンって国がそうなのね! ね、ね、ニホンってどんな感じ? 鳥に乗って学校に行くってホント? あぁ、でもお母さんが鳥も場所も不便だとマグルの子の親達がクレームを入れるようになったからニホンの学校は改革を始めたとかナントか……」
さくらは返答に困った。
鳥で学校に行くなんてことがある筈がない。
けれど、もしかして日本にも魔法使いの学校があってミンティアがその学校の話をしているならさくらは知る由も無い話だ。
「ねぇ、ミンティア。ちょっと聞いてもいい?」
なんと答えれば良いのか分からないので、さくらは話を逸らす事にした。
ミンティアは快く頷く。
「どうして最後尾に乗っちゃダメなの?」
すると、ミンティアはなんてバカげた事を言っているのだろうという様な驚いた顔でさくらを見た。
「決まっているじゃない! だって死喰い人の子達があそこにいるのよ!」