オズマルゴ先生が扉を全開にすると、城の中が後方のさくら達にも見えるようになった。
玄関ホールは横も縦も高さも何もかも今まで見た建物と比べ物にならず、薄暗くも温かなろうそくや松明の明かり達が電気の明かりで生きてきたさくら達マグル育ちの者にとって異質でますます心を踊らせた。
ミンティアは扉の前に立つと「ここからがホグワーツここからがハリーの通った学校……」とブツブツと何度も呟いた。
汽車に乗っている間、嫌という程ミンティアのハリー話を聞かされたさくらとソニックは(と言ってもソニックはほとんど聞いているフリをしながら寝ていた)彼女がそうなるのも無理はないと思ったし、さくらはそんなミンティアを微笑ましいとさえ思っていた。
ただ少し扉の境目を越える心の準備をするのに時間をかけ過ぎた為、後ろで待っていた他の生徒に押されてホグワーツへの最初の一歩を終えてしまった。
オズマルゴ先生に導かれるままに生徒達がついて行くと、もう既に集まっているのであろう他の学年の生徒達のざわめきが物凄いボリュームで聞こえてきた。
あのボリュームなら100人以上は絶対いるに違い、と皆が思った。
オズマルゴ先生が案内したのはその声のする部屋では無く、ホールの脇にある小さな空き部屋だった。
1年生全員が入るには少し窮空なその部屋は、あまり心地の良い場所とは言えなかった。
「1年生の皆さん!」
部屋の前で中の生徒達に向かって、オズマルゴ先生が100人以上のざわめきに負けない程のよく響く大きな声でこれから始まる入学式の説明を始めた。
「ホグワーツへの入学おめでとう、心から歓迎します! 他の先生方や生徒達も貴方達の事を待っていたのよ。そう、これから皆さんの歓迎会が始まります。私は、ホグワーツの副校長、カサンドラ・オズマルゴです。グリフィンドールの寮監でもあるわ」
一人一人顔を見渡しながらゆっくりとしながらも遅過ぎない速度とはっきりとした口調で話すオズマルゴ先生は、何となく幼い頃絵本を読み聞かせてくれた母親を思い出させた。
もう日本に帰っているところなんだろうな。
さくらは、オズマルゴ先生を見ていると母親を思い出して仕方が無かった。
早過ぎるホームシックなのかも、とさくらは寂しさを忘れ去ろうと頭をブンブン横に振った。
オズマルゴ先生の歓迎会の説明や寮の話は幸い、先程ミンティアが丁寧に話してくれたのでうわの空でもなんら支障は無かった。
先生は説明を終えると、一旦部屋の前から姿を消した。
次にオズマルゴ先生がこの部屋の前に戻ってきたら、ついに本当のホグワーツの生徒として迎えられるのだ。
そう考えると急に胸の鼓動が早くなり胃もキリキリし出して、さくらはトイレに行きたくて仕方が無くなった。
ミンティアは相変わらずグリフィンドールと何回も呟いているし、ソニックはようやく私服でいる事が恥ずかしくなってきたのか身を縮めながらコリコリと隅っこの方へ向かった。
こういうもう少し心の準備が欲しいと思っている時程、時間の流れというのは早いもので、 オズマルゴ先生はすぐに戻ってきて先程と同じよく響く声で生徒達に呼びかけたので、皆びっくりして飛び上がった。
先生に言われた通り一列になって一年生達は、歓迎会という名の入学式が行われる大広間へとドキドキしながら向かった。
大広間では更に目を輝かせてしまう光景が広がっていた。
空中に浮かぶ無数の淡い光を放つろうそく達、天井に広がる本物と見間違える満天の星空、テーブルの上に並べられたピカピカでキラキラの金色のお皿とグラス……童話のお姫様でもこんな体験したことがない筈だとさくらはこの夢のような空間にうっとりした。
広間の一番奥には横に伸びた長テーブルが置かれてあり、ホグワーツの先生であろう人達が座っていた。
そこには先程城まで案内してくれたハグリッドもいた。
ホーと急にさくらの肩でおとなしくしていたスノウが鳴いたので、さくらも前後にいたミンティアや他の生徒も一気に素敵な夢が覚めてしまったかのような顔をした。
スノウはある一点をジッと見つめていた。
さくらがその視線の先を追うと、そこにはとある一人の20代ぐらいの男性の先生が座っていた。
他の先生達はお喋りをしたり、していなかったとしても歓迎会を心待ちにしているという顔なのに、この先生だけ葬式帰りなのかという程暗く隠気臭かった。
サラサラの黒髪にアジア系の顔立ちは他の先生と比べるとマグルにまぎれても気付かない程溶け込めそうな印象を受けるが、ただ一つマグルの世界でも魔法界でも変わった特徴を持っていた。
彼の瞳は黄色に輝いており、まるで暗闇に潜む猫のような変わった瞳だった。
「あの先生は私知らないわ。ハリーの時にはいなかった先生ね、というか変な目。ちょっと気味が悪いわ」
ミンティアはそう言ったが、スノウは彼から目を離そうとしなかった。
――そう言えばスノウも黄色の目をしてる……もしかして仲間だと思っているのかな?