1年生達は上級生の方に向かって一列に並ばされた。
100人は軽々と越している人数の生徒達が1年生の顔をジロジロと見る中、背後に座っている先生達の視線も背中に感じるのだ頭が真っ白になる程緊張し意識が飛んだっておかしくはない。
さくらも勿論そうだったので、生徒達のテーブルを行ったり来たりしている青白い人の形をした光をゴーストだとはその時気付かず、眩暈の時に表れる黒い点々が飛び交う症状に似たものだとか勘違いしていた。
オズマルゴ先生が1年生の前にソッと椅子を置いたので、皆そちらに視線が集中した。
椅子の上にはこれぞ魔法使いといった、とんがり帽子が置かれていた。
ただこの帽子は、つぎはぎたらけでボロボロだった。
新しいの買わないんだろうかとぼんやりさくらが考えていると、広間が一気に静まりかえっていた。
――全校朝会の時も思うけどこの何の合図もないのに同じタイミングで静かになるのどこの国でも一緒なんだ……。
その数秒後、帽子がピクピク動いた。
さくらは最初見間違いだと思っていた。
が、すぐにそれは間違いだと気付いた。
帽子の皺や破れ目だと思っていたところが急に目や口になり、なんの躊躇いもなく帽子は口を開き歌いだした。
私のような帽子は
どこに行っても見つからない
帽子にはそれぞれ違う役目あり
私はホグワーツ組分け帽子
私の役目は君達に
ふさわしい寮の名を告げること
さぁ私をかぶってご覧!
教えてあげよう寮の名を
君が勇気を重んじるならば
恐れ知らずのグリフィンドール
君は命かけても友に尽くすだろう
君が誠実さを重んじるならば
努力家のハッフルパフ
君は友と同じ道を歩むだろう
君が知識を重んじるならば
才能溢れるレイブンクロー
君は友と違う道を見つけ出せるだろう
君が違大さを重んじるならば
抜け目のないスリザリン
君はどんなことをしても友を守るだろう
さぁかぶってごらん! 怖がらずに! 真実を教えてあげよう、さぁおいで!
歌が終わると広問にいた生徒も先生達も割れんばかりの拍手を送ったので、さくらはその音を聞いて反射的に手を叩いた。
四つのテーブルそれぞれに帽子は恭しくお辞義をすると、再び静かな帽子に戻った。
さくらは帽子の歌を聞いても尚、どこの寮に入りたいか一切考えなかった。
ミンティアかソニックのどちらか、願わくば3人共一緒の寮が良いといったことだけを考えていた。
言うなれば、3人一緒ならミンティアは嫌がるだろうがスリザリンでもどこでも良かったのだ。
オズマルゴ先生が長い羊皮紙を手にして前に進み出た。
「名前の順に呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座ってちょうだいね……クエート・エイブリー!」
その名が呼ばれた瞬間、広間はシーンと物音一つしなくなった。
出てきた少年に憎悪の目を向ける者もいれば恐怖で震える者もいた。
さくらはその光景に嫌という程見覚えがあった。
――私が疑われる時と一緒。
皆いつもは見ないフリそこには誰もいないフリをするのにその時だけは違う。
私、クラスの人数だけでも息が苦しくなりそうなぐらい嫌なのに、これだけの人数にクエートは……。
しかし、クエートは臆することなく席につき帽子をかぶった。
しばらくした後、組分け帽子はこう叫んだ。
「グリフィンドール!」
広間中、さっきまでの静寂が嘘かのようにザワついた。
何かの間違いだというかのような顔でクエートは帽子を見た。
隣でミンティアは、彼が自分の入りたかった寮に入ったので悪態をついていた。
オズマルゴ先生はクエートをグリフィンドールのテーブルへ行くように促したが、クエートはショックのあまり歩くスピードが格段に遅かった。
グリフィンドール生達は呆気にとられたのか、そのテーブルから聞こえた拍手の数は2、3回程だった。
クエート・エイブリーは誰にも歓迎されなかったのだ。
「リンダ・アーウェリン!」
次に呼ばれたのは、死喰い人の子と言われたあの黒髪の女の子だった。
彼女が出てくるなり、至るところでヒソヒソ話が起きた。
さくらはその現状にも酷く胃を痛め、お腹をさすった。
どこからか「母親はロジエール……」という声が聞こえた気がした。
黒髪の少女は一切動じず、静かに帽子をかぶり腰掛けた。
「スリザリン!」と帽子が叫んだ。
スリザリンのテーブルと思わしき場所からパラパラと拍手が起き、少女はニコリともせず無表情のままそのテーブルに向かい座った。
隣でミンティアが「やっぱりね」と呟く。
「ミンティア・ブレンダ!」
ミンティアはパァと顔を輝かせると小走りで帽子の元へ向かい、すぐさま帽子をかぶった。
が、帽子はすぐに寮の名を口にしなかった。
ミンティアはグリフィンドールが良いと帽子に話しているようだったが、帽子は他の寮にするかどうか悩んでいる様子だった。
3分ぐらいかかった後帽子は「グリフィンドール!」と叫び、ミンティアは喜びの悲鳴をあげた。
グリフィンドールのテーブルからさっきとは比べ物にならない程の歓声と拍手が上がった。
ミンティアはクエートの隣の席には座らず渋々だが向かいの席に座ると、クエートの顔を1秒も見ないようにしていた。
それからも組み分けは続き、あのドジな男の子「ノック・ディペット」の番になると、数人の生徒が何故だか興奮し自分の寮に入って欲しそうにソワソワし出した。
組分け帽子は、ノックをレイブンクローにいれるかハッフルパフにいれるか迷っていたが、最終的にハッフルパフに決まった。
ノックを馬鹿にしていた金髪の女の子「サンジェリカ・ジルマン」はスリザリンになった。
次々に寮が決まっていく生徒達の楽し気な様子は、もうすぐ自分の番が来ると嫌でも実感させてくる。
どうしようどうしようもうすぐだ……さくらは吐きそうで仕方無かったが、いつもの作り笑いは崩さず緊張なんかしていませんよという風に取り繕った。
が、スノウは気付いていたようで心配そうな目でさくらを見た。
「スノウはなんでもお見通しだね」
さくらはスノウを優しく撫でた。
「カミシロ・サクラ!」
ついに、さくらの名前が呼ばれ、さくらはスノウをぬいぐるみのように抱きかかえながら帽子に向かおうとした。
「カミシロ……サクラと言いましたか?」
声の方を振り返ると、先生達のテーブルで一人だけ驚いた様子で立っている女性がいた。
テーブルの真ん中に座っていたエメラルド色のローブを着た厳格そうなその女性は慌てた様子で、オズマルゴ先生の元へ向かい先生が手にしていた羊皮紙を奪った。
「ミネルバ、何!? どうしたの?」
ミネルバと呼ばれたその先生は羊皮紙を上から順に小さく読みあげ、さくらの名前の前で止まった。
さくらはどうすればいいものか帽子をかぶってもよいのか迷った。
「彼女の名前は昨日確認した時は無かった筈ですよ!」
厳格そうな先生は真っ青な顔でオズマルゴ先生を見た。
「でも……今、載っているわ。ミネルバ、勘違いじゃない?」
オズマルゴ先生は事態が飲み込めず困惑した。
生徒達はなんだなんだと野次馬の如く、楽しそうにさくらや先生達を見た。
「ダメです……ダメなんです。彼女だけはとアルバスが……」
ブツブツとその女性の先生は呟くと、さくらに向かってこう言った。
「あなたが、ここへ来たのは何かの手違いです。すぐさま、おかえりなさい」