ハンナは果たしてモントに協力し蘇りの石を求めている者の一人なのだろうか。
そもそも本当に死の教徒なんかに入信しているのだろうか。
ネビルには彼女がとてもそんな事をするような人間に見えなかったが、死の教徒への入信の方に関しては一つだけ心当たりがあった。
ホグワーツの6年生だった頃、ハンナ・アボットは自身の母親が死喰い人に殺されたと知らされ、家へ戻りしばらく学校に帰って来なかった。
その時は丁度薬草学の授業中で副校長だったマクゴナガル先生に呼び出されたバンナは、顔面蒼白で教室を飛び出して行った。
異様な光景だったので今でも当時の事を、記憶力の乏しいネビルでも薄っすらと覚えていた。
ネビルとハンナには大して接点が無かったどころか、在籍中「あれ? 喋ったことあったっけ?」と思ってしまう程、特に興味も無い他人同士だった。
だから、ハンナが教室から飛び出して行った時も「あぁ、身内に何があったのかな」と ぼんやりと考えながら薬草学の授業の課題をこなした。
授業が終わった後、ハンナとマクゴナガル先生の会話を聞いていた生徒が
「ハンナの母親が殺されていたって」と他の生徒達に話していたのが聞こえた。
話はあっという間に校内に広がり「死喰い人に殺されたらしい」「ハンナの母親はマグル生まれですって」という他の情報をバラまいている者も大勢いた。
確かにマグル生まれというだけで母親を殺されたハンナ・アボットが不憫でたまらない。
だが多くの者は、というよりきっと例外なく全員こう思っていた筈だ。
――次は自分だったらどうしよう、あぁでも自分じゃなくて良かった。
彼女への同情よりも、恐怖と安堵。
死が身近に迫っているのにその恐怖に耐えられる人間なんかいないに決まっている、とネビルも当時は怯えていた。
――これ以上家族に何かあったら……ばあちゃんに何かあったら。
そんな状況で一体、誰が可哀想なハンナ・アボットを顧みる事が出来るというのだろうか?
しかも他人である彼女を?
彼女が次の年になるまでホグワーツに帰らなかった事が、より一層恐怖を増長させた。
おそらくその間、残された家族と共に身を隠していたのだろう。
今あの時よりも成長し、恐怖に支配されず冷静になれる環境であるからこそ色々と気が行き届く。
ハンナは何を考えているのだろう?
ハンナはホグワーツにいない間、何を考えていたのだろう?
悲しみ? 孤独? 後悔? それとも……憎悪?
ネビルは、ハンナ・アボットという人間の感情やら何やらを簡単に想像出来る程、彼女の事をほとんど何も知らなかった。
何を考えているか分からない女性、魔法を使わなくなった女性。
彼女の事を想像出来ないなら、自分に置き換えて考えてみようとネビルは思った。
――もし、ばあちゃんが死喰い人なんかに殺されたら。
想像しようとしたが、ネビルには出来なかった。
そんな悲しい事、考えたくもない。
――そうだ。考えたくもないよそんな事。
忘れてしまいたい。でも……忘れたくないんだ。
僕が……ママとパパに抱く感情のように。
忘れる事はとても悲しくて。忘れられる事はもっと悲しくて。
でも誰か他の人に2人の事を覚えておいて欲しいわけではなくて。
でも忘れて欲しいわけでもなくて。覚えていてくれたらきっと二人も嬉しい。
でも……誰かに話したいわけではなくて。
分かって欲しいわけじゃないんだ。
……怖いんだ。
話して、もし……誰かが心無い事を言うかもしれないと考えると。
それが頭をよぎると。
2人を恥ずかしいとか思っているわけじゃないんだ。
僕がどう思われるかとか、そういうのの為に2人の事を誰かに話さないわけじゃないんだ。
忘れられる事よりも怖いのは……心無い人間。その人達が発するその言葉。
もしそんな事を言われたら、僕自身が僕のせいだって責めるんだ。
いや、ずっと自分のせいだって責めている。
僕がいなければ、2人は幸せに暮らせた……?
だから隠すんだ。自分の心情も含めて何もかも。
馬鹿にしたりしないだろうっていう人にでさえも。
これ以上、現実を突きつけられるのが怖いから。
両親がああなってしまったのは、僕のせいだと。
そんな現実をはっきりと告げられるのは怖いから。
いっその事、僕も含めて家族全員マグルだったらこんな事にはならなかったって。
……そうだ。
マグルだったら、魔法が使えなかったら?
魔法界に関わりなく、マグルの世界で平和に生きられた?
家族皆で……幸せに?
死喰い人に狙われる事無く?
君も……そう考えた事があるのかい、ハンナ。
いや、君は今もそう考えているのだろう?
君が憎んでいるのは死喰い人じゃない。
君は魔法自体憎んでいるのだろう?
そして君は……自分自身を一番憎んでいるのだろう……。