49 スリザリンの優等生
「見て見て」
「あの黒髪の子」
「昨日のふくろうの子?」
「そうそう」
「スリザリンの」
「どんな汚い手を使って入学したの?」
翌日、さくらが寮を出た途端、ヒソヒソと囁く声がつきまとってきた。
廊下を歩くだけでジロジロとつま先から頭のてっぺんまで見られ、クスクスと笑われた。
大広間で食事をとっていても、広く複雑な校内で教室を必至に探していても、生徒達はおかまいなしにさくらを指さしクスクスと笑うのだ。
こんな風に注目を浴びるくらいなら前の学校の方がマシだったかも、とそんなとんでもない事を考えてしまう程には疲弊しきっていた。
ただどうやら疲れてストレスが溜まっているのは、さくらだけではないようだ。
魔法の授業というのは、さくら達一年生が想像していたものとは悪い方に全く違っていた。
普段のマグルの授業と同じように黒板に書いてある用語をノートに書き写したり、 暗記したりばかりだった。
杖を振ったり呪文を唱えたりする機会は少なく、拍子抜けした。
小学校と何ら変わり映えのしない授業にさくらは少々退屈気味だった。
他の生徒達もそうらしい。
ノートや教科書に落書きをしたり、先生にバレない程度に隣の席の子とぺちゃくちゃお喋りをするのに夢中だった。
退屈な授業はまだ良いが、さくらにはもっと苦痛な授業があった。
それは、生き死に関係無く身の毛のよだつ生き物を鍋に放り込んだりして使用する授業だ。
そう、つまりさくらや今時の子なら大嫌いな人の方が多数である、虫だ。
特にスラグホーン先生の魔法薬の授業は、さくらにとってとてつもなく苦痛な時間だった。
虫や爬虫類などを使ったり、薬の匂いが強烈で吐き気を催す事を除けば、この授業は悪くは無いのだが。
この授業では2人一組になって薬を調合するのだが、大体余りもののさくらとリンダ・アーウェリンが同じ組になる。
リンダは、虫などお構いなしにテキパキと薬を調合してくれるので、さくらはほとんど何もしなくて良かった。
内心ラッキーと思いつつも「手伝うこと、何か無い?」と聞いてみるが、リンダは無言で首を横に振るだけだった。
リンダに任せておけば良い評価を貰え、先生からも褒められるので良い事尽くしなのだが、自分の成果ではない為少々複雑だった。
かといって、虫を触ったりして手伝う気も起きない。
魔法薬でもそうだがどの授業に関しても、リンダは一年のスリザリン生の中で最も 優秀な生徒だった。
皆が四苦八苦しているのに、彼女は卒なくこなすのだ。
だが、それを鼻にかけずいつも一人でひっそりと読書を嗜んでいた。
スリザリン生の中には死喰い人の子である彼女を称える者も少なく無かった。
さくらは、どうやらこの寮は犯罪者を英雄視するという異常な思考の持ち主が多少なりともいるらしい事に気付き、ミンティアの言っていた事は正しかったのかもと思い始めた。
リンダはというと、親の話をされると明らかにムッと不快そうな顔をして無言で立ち去った。
リンダはスリザリン生からチヤホヤされ、あのサンジェリカ・ジルマンにさえ友達にならないか(彼女の場合、友達というのは取り巻きの事だろうが)と誘われる程だった。
だが、リンダは誰からの誘いも受けず冷たく断った。
これには皆カンカンでそれ以来、リンダはほとんど誰からも話しかけられる事は無くなり、ぼっちに戻ったのだ。
さくらは、初日のリンダの態度で自分の事を嫌っているのかと勘違いしていたが、彼女はどうやら好き嫌い関係無しに全ての人を自分自身から遠ざけているように感じた。
入学式以来、何か不正をして学校に入り込んだマグルなんじゃないかと言われ続けているさくらにとって、リンダの行動はとてつもなく理解し難かった。
――友達がいらないなんて変わった子。なら私に一人ぐらいくれたっていいのに。