でこぼこカルテット   作:莉瑠

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でこぼこカルテット②

 (ひょう)(ひょう)としたつかみ所のない様子だが、一度決めたことは曲げない頑固なところも持ち合わせている。

 そんな善の登場に拓斗の表情が完全に凍ってしまう。これは照ゐが善に告げ口したと考えるのが妥当だろう。

 

(終わった……)

 

 拓斗の中に絶望が生まれる。

 

「竜太郎とたっくん、ちょうどいいところに。実はさ……」

 

 善は二人に向けて口を開いた。

 この瞬間、竜太郎と拓斗はごくりと生唾を飲み込み、善の口から紡がれる言葉を待つのだった。

 

「最近、お前たちが仲良すぎるって照ゐが嘆いていてさ」

 

(……え?)

 

 思ってもみなかった言葉に、一瞬、拓斗と竜太郎を包んでいた緊張した空気が固まった。そんな二人の様子に気付かず、善は言葉を続けた。

 

「自分の知ってる二人じゃないって嘆いていたが、しょう君に対して何かあるのか?」

 

 何気ない善からの言葉ではあったものの、その声音の裏に喫茶内の人間関係にゴタゴタがあったら、その問題を善自身が一身に引き受けようとする気概が見えている。

 慌てたのは拓斗と竜太郎だった。

 二人は(とっ)()に否定の言葉を口にしていた。

 それを聞いた善は、

 

「俺からみても、お前たちは急接近してるように見えるんだよ」

 

 そう(くぎ)を刺してきた。

 だから、照ゐが疎外感を覚えても致し方のないことなのだ、と。

 しかし拓斗と竜太郎に照ゐを仲間はずれにしようとする意思は全くない。拓斗が驚いて目をしばたたかせていると、

 

「別に俺は、喫茶内の恋愛は禁止してないし、お前たちがそう言う関係ならそれとなく俺から照ゐに……」

「待て待て待て」

「どうしてそうなるんですか?」

 

 善が吐き出す言動の、雲行きの怪しさから思わず竜太郎と拓斗が口を挟んでしまう。

 喫茶内の恋愛?

 そう言う関係?

 何を言っているのだろうか、この男は。

 

 この瞬間、拓斗と竜太郎の感じた感情は同じだっただろう。

 拓斗がどうやって善の誤解を解こうかと(しゅん)(じゅん)していると、

 

「店長~。それ以上は馬に蹴られて死にますよ?」

「阪本っ?」

 

 驚いたのは拓斗だった。拓斗は一瞬、竜太郎に裏切られた気分になる。そんな拓斗の様子などお構いなしに、竜太郎が言葉を続けた。

 

「そういう訳なんで、店長、ちょっと席、外して(もら)っていいっすか?」

「いいとも!」

 

 竜太郎の言葉に善はウキウキとした様子で返事をすると、今にもスキップをしそうな軽やかな足取りでバックヤードを出ていくのだった。

 残された拓斗は善の気配がなくなったのを確認した後に思わず竜太郎に詰め寄ってしまう。

 

「阪本、どういうつもりだよ? 完全に店長、誤解した……」

 

 小さな怒りと絶望が入り交じった拓斗の声を受けても、竜太郎に動じる様子はない。それどころか、その目は自信に満ちていた。

 

「たっくん、たっくん」

 

 竜太郎は拓斗を(そば)に呼ぶと、拓斗の耳に小声で(ささや)く。

 竜太郎は今回、善が勘違いをしたことを利用して、壮大なサプライズを仕掛けようと考えたのだ。その内容を聞いた拓斗の瞳が大きく見開かれていく。

 しかし次の瞬間には不安の色をたたえ、

 

「そんなこと、()()くいくかなぁ?」

()()くいくかいかないかじゃない。()()くいかせるんだよぉっ!」

 

 拓斗の言葉にも竜太郎は自信満々だ。その根拠のない竜太郎の自信に、拓斗もゆっくりと口元を緩める。

 

(乗りかかった船、かな?)

 

 拓斗はそう思うと、竜太郎の立てた作戦に乗ることを表明するのだった。

 

 それからの数日間、善の誤解に(しん)(ぴょう)(せい)を持たせるために、拓斗と竜太郎はなるべく一緒にいるようにした。それは善や照ゐの目の前でも同じだ。

 照ゐからの視線が日に日に不安に揺れているのを感じながら、また、善の視線が暖かくなるのを感じながら日々を過ごしていたある日だった。

 

「たっくーん! 明日の昼過ぎいよいよデートだなぁ!」

「そ、そうだね、阪本ー!」

 

 二人は喫茶のバックヤードでこれ見よがしに大声で会話をする。そんな二人の耳にはバックヤードの扉の向こうで耳をそばだたせている照ゐの鼓動がしっかりと聞こえていた。

 竜人の生き残りである竜太郎と雷神見習いの二人の聴覚は、一般人よりも優れているのだ。意識すれば、その鼓動だけで人物を特定することも容易なのだった。

 

 

 

 ガタガタガタッ!

 

 

 

 耳を澄ませながら大声で会話をしていると案の定、バックヤードの扉の向こうで物音を立てながら慌てて駆けていく照ゐの気配を感じる。

 竜太郎が扉を開けると、角を曲がって走って行く見慣れた赤髪の姿があった。

 

「これで、照ゐが店長に話をして、明日、来るんじゃないか?」

「本当に二人、明日、来てくれるかなぁ?」

「俺に任せておけって!」

 

 自信満々な竜太郎の態度は変わらない。対して拓斗の方は、いよいよ始まるサプライズを前に緊張している様子だった。

 こうして『限りなく透明な喫茶店』の四名がそれぞれ心に思うことを抱えながら、運命の翌日がやってくるのだった。

 

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