翌日。
待ち合わせの時間ピッタリに拓斗は事前に打ち合わせていた待ち合わせ場所へと到着していた。待ち合わせ相手である竜太郎の姿はまだ見当たらない。
しかし少し離れた所に、店長である狙ノ塚善の鼓動が聞こえていた。
(本当に来てるよ……)
拓斗はその鼓動を聞きながら、竜太郎の計画が動き出したことに驚いていた。
「たっくーん! 待ったー?」
そうして竜太郎の登場を待っていると、遅れてウキウキした声で竜太郎が姿を現す。それから拓斗の
「照ゐ、連れてきた」
言われた拓斗はもう一度、聞き耳を立てた。すると店長である善のすぐ傍で照ゐの鼓動が聞こえてきた。遅れて二人の話す声が聞こえてくる。
「俺の計画通りだったろ?」
竜太郎は自信満々の笑みを浮かべてそう言った。こんなとき、竜太郎を敵に回したくないな、と拓斗は思うのだった。
それから二人は背後の気配と話し声に意識を向けながら、本日の目的地である水族館へと歩いて行く。遅すぎず、早すぎないその絶妙な歩幅に、尾行をしていると思っている二人が拓斗たちを見失うことはなかった。
そうして
「うわっ、人、多っ!」
想定外のことが起きてしまった。
平日にわざわざデート日を設定したにも関わらず、今日に限って水族館は人で
「どうする? たっくん」
「どうしよう……」
二人はこの予想外の状況にしばらく棒立ちになっていたのだが、
「いいのかっ? こんなベタベタな展開で、本当にいいのかっ?」
「しょう君、ベタがいちばん安パイなんだよ」
背後から聞こえた善と照ゐの会話に、せっかくだからこのまま予定通り水族館へ入館することを決めるのだった。
入ってすぐに目に付いたのは、巨大水槽だった。その迫力に思わず拓斗と竜太郎も目を奪われる。
「こりゃ、すげぇわ……」
竜太郎がじーっと魚が作るトルネードを見ていると、
「あの魚、食べれたりすんのかな?」
遅れて入ってきた善の声が拓斗の耳に届いた。
(店長……)
拓斗が内心
「あっ! あのデカイ魚なら食えるだろうっ?」
はしゃいでいる善の声が響く。照ゐはそんな善をいさめているようだったが、
「たっくん、次、行こうぜ」
竜太郎の言葉に拓斗も巨大水槽の前から移動を開始する。そんな二人に気付いた善と照ゐも慌てて二人を追うのだった。
次々と水族館の展示物を見ていると、拓斗と竜太郎の後方から聞こえる声も大きくなっていく。その声には興奮の色が混じっており、二人が本来の目的を忘れるほどにこの館内を楽しんでいることが伝わってきた。
「とりあえずの作戦は、成功ってところか?」
そんな後方の二人の様子を尻目に、竜太郎が拓斗に声をかける。拓斗はそんな竜太郎に小さく
水族館の展示物が終盤に差し掛かる頃、
「たっくん、たっくん。イルカショー、見ようぜ!」
「阪本……」
突然の竜太郎からの提案に拓斗は少し
「いいじゃん! 俺らも少しくらい楽しもうぜ」
竜太郎はそう言うと、イルカショーが行われる
(ま、阪本の言うことも道理、か)
拓斗はそう思い直すと、ゆっくりと後方を気にしながら竜太郎の背中を追うのだった。
そうして二人がイルカショーの席を取ると、少し離れたところで善と照ゐが座ったのが確認出来た。
「たっくん、はい、あーん」
拓斗が善と照ゐを確認していると、隣に座っていた竜太郎が突然、手に持っていた串焼きを拓斗に差し出してきた。
拓斗は一瞬、何をされているのか理解が出来ない。それでも竜太郎はずっと、
「ほら、あーん」
そう言って串焼きを拓斗の口元に運ぼうとする。そこでようやく理解が追いついた拓斗は、思わず顔を赤らめながら、
「阪本! 悪ふざけが過ぎる!」
そう言って慌ててしまう。
そんな二人の様子を善と照ゐはしっかり見ていた。照ゐは、
「何やってんだぁ! あの二人ぃー!」
そう言ってギリギリと自分の下唇を
「仲良いねぇ……」
のほほんとした口調で、新人バイト二人の様子を眺めているのだった。
そうして間もなく、イルカショーが始まった。観客たちの視線は一気に目の前のプールに集まる。
それは『限りなく透明な喫茶店』のメンバーである四人も例外ではなかった。
イルカが織り成す様々なショーに、四人は
中でも照ゐは、目をキラキラと輝かせながら開いた口が
イルカショーが終わり、観客たちが一斉に立ち上がる。竜太郎と拓斗も、善と照ゐが自分たちを見失わないように多くの人と少し時間をずらしてから席を立った。
遅れて善と照ゐも立ち上がり、コソコソと竜太郎と拓斗の後を追う。
「この後、どうする気だろう?」
「付いていけば分かるやろ」
照ゐの言葉に善はどこから出る余裕なのか、のほほんとした声音で返事をする。しかし照ゐはイルカショーが終わってから一気に現実に引き戻されたのか、不安そうに瞳を揺らしている。
「ほら、しょう君、早く行かないと見失うよ」
善は目の端で拓斗と竜太郎を捉えながら、顔色が少し悪くなり始めている照ゐへと声をかけて歩み始めるのだった。