水族館の終わりに待っていたのは土産物売り場だった。
「阪本、店、見てっていい?」
「何で?」
「ちょっと……」
土産物売り場へ来た拓斗は少しもじもじした様子だ。こうなった拓斗には何か考えがあるのだろう。
竜太郎は長年の付き合いからそう踏むと、拓斗の好きにさせることにする。竜太郎は背後の気配に気を配りながら、拓斗の動向に注目する。
拓斗はペンギンとイルカのぬいぐるみを前に何やら迷っている様子だ。
「たっくん、どうしたん?」
「照ゐと店長に、今日の記念に何か買おうかなって……」
しかし、どちらを買うかで迷っているのだという。
「たっくん……」
くそ真面目に悩んでいる拓斗の手元を
「どっちも買えば?」
そう言った。その声音は少し
「店長がペンギンで、照ゐはイルカでいいんじゃね?」
「あ……」
竜太郎の言葉に拓斗は目から
確かに、善はペンギンの展示でもの
対して照ゐは、イルカショーで目を輝かせていた。
「それもそうか」
拓斗はそれぞれにそれぞれのぬいぐるみを買うことを決意すると、商品を手に持ってレジへと向かった。
こうしてプレゼントも用意した二人は水族館を後にする。間もなく日が沈みそうだ。チラチラと街に明かりが
そのまま二人は歩いていき、水族館の近くにある夜景の見える
「阪本……」
明らかにいい雰囲気になるであろうこの場所に、拓斗は
「ここで、店長と照ゐをおびき出すぞ」
「え?」
竜太郎は拓斗にしか聞こえない声でそう言うと、目の端で善と照ゐの姿を捉える。
二人は急に振り向いた竜太郎に慌てて姿を隠そうとしていた。
(バレバレだよ)
竜太郎はそんな二人の様子に苦笑いを浮かべながら、
「たっくん、絶対にそこから動くなよ?」
「何する気?」
「いいから、いいから」
拓斗は竜太郎から言われた通りに棒立ちになる。
遠くから騒いでいる照ゐの声が聞こえてくる。
棒立ちになっている拓斗へ、今度は竜太郎が
「たっくん、目、閉じて」
「は?」
「いいから!」
竜太郎の言葉に拓斗は恐る恐る目を閉じた。すると遠くから、
「
悲痛な照ゐの声に、
(え?)
思わず閉じていた目を開く。すると目の前に迫ってくる竜太郎の顔があった。
拓斗は思わず竜太郎の腹を殴ろうとしたのだが、
「ちょい、ちょい、ちょーいっ!」
間髪いれずに照ゐが姿を現した。それを確認した竜太郎が拓斗から顔を離す。
「な? 出てきただろ?」
竜太郎はそう言うと、余裕の笑みを浮かべた。
「ホント、阪本の読みは的確だなぁ」
拓斗は竜太郎の笑みに苦笑した。
今回の計画は本当に、竜太郎の読み通りに動いている。拓斗はそんな竜太郎に心の中で感謝していると、
「ちょっと、しょう君! 急に出ていかないでよっ! って、あれ? 何、この空気」
「店長まで出てきた」
思わず口をついて出た拓斗の言葉に、善の頭には疑問符が浮かんでいる。そんな善の姿に、
「ま、ここまで俺の計画通りってところか」
竜太郎はニヤリと笑った。そんな竜太郎の笑顔がかんに障ったのか、
「ちゃんと説明しろよ」
照ゐは不服そうに唇を
そんな照ゐと善へ、竜太郎がことの経緯を説明した。つまり今回、店長である善の勘違いを逆手に取っての計画であった、と言う旨だ。
それから拓斗に、先程、水族館で買ったペンギンとイルカのぬいぐるみを渡すように促した。
拓斗はその言葉を受けて、二人へと土産物を渡した。手渡された二人はその中身を確認し、目を丸くしている。
そんな二人に、今回拓斗が礼を言いたかっただけで、別に照ゐが危惧するように仲間はずれにしている訳ではないと説明した。
そんな説明を聞いた照ゐがガクッと肩から崩れ落ちる。
「なんだよぉ~! 俺、もう、ハブられたのかって心配しちゃったよぉ~!」
その心底安心したような照ゐの言葉に、拓斗の口角が自然と緩んでしまう。それから拓斗は二人に、
「店長、照ゐ、いつも、ありがとう。俺、あまり役に立ててないかもしれないけど、頑張るから」
そう言葉を紡いでいく。
「店長、泣くぞ~?」
「泣きません~!」
照ゐの言葉に善は震える声でそう反論した。
「阪本も、何かあるだろう?」
突然のことに竜太郎が目を丸くする。それからすぐに、
「俺? 別に、俺は何もないし」
そう答えるものの、拓斗には竜太郎がここまで拓斗に付き合ってくれた本当の理由を知っていた。
竜太郎は竜太郎で、照ゐや善に対して思うところがあるのだ。だから拓斗はわざと、
「かーらーのー?」
「ウザっ! ま、まぁ、俺も日頃から店長には感謝してるし!」
拓斗の言葉に本当に
「竜太郎はツンデレだなぁ」
「何か言いましたか?」
ほのぼのとした声音で言う善を、竜太郎が
全ての誤解が解け、いつも通りのゆっくりとした時間が四人の中に流れ始めた。
いちばん安心した照ゐは、
「安心したら腹減ったぁ~! たっくん、何か作って~!」
そう甘えたような声を出す。拓斗は苦笑いを浮かべると、
「はいはい。じゃあ、買い物して帰りましょう」
拓斗の言葉に善もウキウキとした声音で、
「やった! たっくんのご飯!」
そう言うと、今にもスキップをしそうだ。
四人はすっかり暗くなった街を、異世界にある『限りなく透明な喫茶店』に向けて、肩を並べて歩き始めるのだった。