極力無くそうとは思ってるんですけど、どうしても出てきてしまうので大変ありがたいです。
あと見間違いでなければランキング載ってました。
電車の中で「えぇ……?」と呟くほどには衝撃でした。
「よく撮ったね」
店内の清掃をしつつ、僕は机に並べられた結束バンドのメンバーの写真を眺めてそう言った。
写真には詳しくないものの、いろんなバリエーションがあって、彼女たちなりに趣向を凝らした様子が見受けられた。
「むっ、どういうこと」
僕の言い方が気に食わなかったのか、伊地知さんが頬を膨らませた。
「あぁ、ごめん。変な意味じゃないんだけど、結構な場所行ったんだなって」
「まあねぇ。いろいろ試してみないと」
「でもいいと思うよ。例えば……ほら、このジャンプしてるやつとか」
僕はなんとなく目に入った一枚の写真を指差した。視界の端で紫色の髪が揺れた。
「ほら虹夏、やっぱりなんでも跳べば神になるんだよ。アニメもバンドも」
「そんなわけはない」
「何の話かわからないけど、いささか同意」
「さすがリョウ先輩です!」
相変わらず目を輝かせる喜多さんに苦笑いをしながら、僕はその写真を手に取り、今度はしっかりと観察する。
みんないい笑顔……なのは喜多さんと伊地知さんだけだった。山田さんはいつもの無表情で、後藤さんにいたっては、顔に謎の影が差してるし、みるからに体調悪そうだった。
さすがに気になったので、聞いてみることにした。
「後藤さんの顔色が悪いけど、なにかあったの?」
「あ、それは……」
喜多さんが言い淀んだのをきっかけに、一瞬だけ静かになった。伊地知さんに顔を向けると、彼女もまた言いにくそうに苦い笑みを浮かべた。
最後に山田さんを見ると、写真に向けていた瞳がこっちに向いた。
そして、一言。
「ぼっちのパンツが見事に写ったから」
「リ、リョウ!」
「はぁ、パンツ」
無意識に復唱。話が明後日の方向へ飛んでいってしまったみたいで、いまいち結び付かない。
「見苦しいもの見せたって落ち込んでた」
「あ、そういう。それは災難だったね。机の上の写真の中に混ざってなければいいけど」
「だいじょうぶ。その場で消したし。ね、虹夏?」
「え、あ、たぶん……?」
「そっか、よかった」
「…………なんか、思ってたのと違う」
「それ、後藤さんのときも言ってましたよ」
山田さんは再び写真に目を落とし、僕は僕で掃除を再開した。写真に写っている後藤さんの顔は病み上がりの次の日みたいな表情をしていたから、今も後藤さんだけが来ていないことも相まって、てっきり持病の発作でも起きたのかと勘違いしてしまった。
でもよくよく考えてみたら、後藤さんが限界なときはわかりやすく身体に変化が起きるから、まぁ今回は大丈夫なのだろう。少なくとも、スライム化したときよりかは。
……そういえば、そういう現象ってどこの診療科にかかればいいんだろうか。皮膚科? 門前払いを食らいそうだ。*1
「お、遅れました……」
噂をすれば影が差す、とはよくいったもので、それから数分経たずして後藤さんがスターリーにやってきた。
目の下には
「歌詞ができたので……見て、ほしくて」
そう言って彼女はおそるおそる、一冊のノートを差し出した。
とりあえず彼女を適当な椅子に座らせて、僕は紙コップに水を注いでそっと後藤さんに差し出した。
軽く頭を下げたあと、包み込むように持ちながらコップをゆっくり傾けた。
彼女が一息ついたのを見計らって、喜多さんが心配の色を滲ませながら尋ねた
「後藤さん、隈すごいけど大丈夫?」
「あ……はい。ここのところ作詞に夢中になってその……寝るの忘れたりして……」
「どれどれ。ぼっちちゃんの力作、拝見しましょう~」
伊地知さんがノートを開くと、山田さんと喜多さんも彼女の傍に近寄って覗き見た。
彼女たちから数歩離れた位置からその様子を静かに見守る。後藤さんは口を固く閉じたまま目を伏せている。
その間にも、伊地知さんたちは歌詞に目を走らせている。
「うん」
山田さんの涼やかな声が、ほんのわずかな空白を縫った。
「──いい
「でも、その。暗すぎるかも……」
「確かに暗いね。でもぼっちらしい。少ないかもしれないけど、誰かに刺さるんじゃないかな」
そこまで聞いて、ようやく後藤さんの表情の力が抜け、安堵の息がもれた。
「へへ……」
「ふっ……」
「へへ……へへへ……」
「ふふふ……」
「なんで急に仲良くなってるのー!」
暗い笑みを交える二人に、喜多さんは羨ましそうに声を張り上げる。そんな光景はどこか微笑ましかった。
心音、微かな痛み
けれどなぜか、僕は素直に笑うことができなかった。そんな顔を向けて間を壊すようなことをしたくなかったから、僕は数秒だけ彼女たちの視界から外れるように移動した。
「でもこれ本当にいい歌詞だよ、ぼっちちゃん!」
「あ! 私ここのフレーズ好きです!」
「私も」
「えへへ…………あっ」
後藤さんは忘れていた何かを思い出したように声を上げ、伊地知さんたちとやり取りをするとなぜか僕の方に向かってきた。
ゆっくりと、しかしじりじりと距離を縮め、目の前に彼女がやってきた。
そしてそっと、緩慢な動きでさきほどのノートが差し出された。
微かに震える手。それは紛れもなく彼女の恐怖の表れだった。
「……僕?」
無意識の問いかけに、彼女の桃色の髪が揺れた。
「でも、僕は」
「そのっ! 先輩にも見て、もらいたくて。私のありのままのことを……か、書きました。それで……」
僕の声にかぶせるように、後藤さんがたどたどしく言葉を紡ぐ。
この人はなんてずるいんだろう。そんな姿をされると、言おうとしていたことも留めておかなくちゃいけなくなる。
「……うん」
「それで、自信なんてないですけど、でも今度はちゃんと伝えたいことが書けました」
「そう」
「……気がします、はい」
「そ、そう」
途端に心配になってきた。
無地のノートを手に取り、破くことがないよう慎重にページを捲る。白紙が続く、その前のページ。いくつもの消し跡を残しながらも、彼女の言葉がひっそりと佇んでいる。
僕はそれに目を通し、静かに脳裏に詩を思い浮かべる。旋律はない。もちろんハーモニーも、メロディすらない。
──けれど確かに、彼女の
最後の一行を読み終え、閉じる。手紙の封を閉じるように、同じ温度を込めて。
それから少し自分の中に彷徨う言葉をまとめた。
ノートに落としていた視線を戻す。
瞳が僕を射抜く。
吹けば消えてしまいそうな、灯のような光を宿して。
それとも、何億光年離れた名もなき星の光だろうか。
どちらにせよ、僕が彼女にかける言葉は変わりない。
「いいと思うよ。それも、すごく」
「ほ、ほんとですか?」
「うん。頑張ったね、後藤さん」
「あっ。どどドッキリとかじゃない……ですよね? "大成功!"みたいな看板とか持ってたり……」
「しないよ? なんでそんな心を抉るようなことを僕がすると思ったの?」
後藤さんのノートを返す。彼女はしばらくそのノートを見つめ、胸に抱いた。
「先輩。ありがとう、ございます」
「うん……後藤さん。君の気持ちは十分伝わったよ。だからさ」
「はい……!」
「とりあえず、土下座はやめよっか」
地面に伏してる女子高生と、その前に立ってる男子高校生って、絵面的に非常にまずいからね?
ほら、じゃないと僕が店長さんに怒られちゃうから。
というかたった今見つかって、すごい目で見られてるから今すぐやめてくれると助かるな。
ついでに一緒に説明もしてくれるともっと助かるかも。
あと山田さん。君は今すぐ写真撮るのをやめてくれる? 『私を見捨てたいつの日かの恨み』じゃないでしょ。あれは君が無断で休憩室でサボったのが悪いんだよ。*2
「あの」
「機材。倉庫」
「はい……」
「あの……」
「ドリンクサーバー。補充」
「はい……」
「店長さん」
「床掃除」
「やりました」
「ゴミ出し」
「それも」
「便所掃除」
「終わってます」
「……食器洗い」
「そもそも洗う食器がなかったです」
「……夕食」
「それは……ん、えっ? それも僕がやらなくちゃいけないんですか?」
「本気にすんな、冗談に決まってるだろ……で、なに。弁明?」
「違います」
「虹夏たちに事情は聞いたから不問で……ん? 今、違うって言ったか?」
「あ、はい。
「……んん! うん。や、まぁそうだな。
「ですよね。でも言っておかないといけないと思ったので。今日はもうあがります」
「ん、お疲れ」
「はいお疲れ様です……あ、最後に一つだけ」
「なんだよ」
「その、人選は――」
「……」
「……やっぱりなんでないです。忘れてください」
「お姉ちゃん夕飯でき……え、なんでうなだれてるの?」
「や、猛烈に大学やり直したくなって、後悔してるところ」
「でも、お姉ちゃんがまた大学行っても二留しそうだからヤダ」
「おいぶっとばすぞお前」