葎凛抄外伝『ナツシバのにほいに抱かれて』 作:コンスタンチノープル
「いやー、終盤の麗大の守備凄かったな」
「七回にサードの
「六回の
菫と稜が息吹を交えて売店で購入した唐揚げをシェアしながら後半の麗美大学に立て続けに飛び出した好守について話している。三人は更にカレーをそれぞれ購入して食べている。
「じゃあ、三人が帰ってきたから今度は私たちがお昼買ってくるわね」
理沙が言ったように三人が買ってくるのを待って怜、理沙、光、英詠が売店に行く。全員一度に席を立つと不都合がありそうだと思ったからである。
「私たちが荷物とか見ておくのでゆっくり選んできてくださいね」
「あ白菊ちゃん、それとこれ交換してもいい?」
「構いませんよ」
珠姫がヨミと自分の分の昼食は家で弁当を作ってきたのであった。ヨミは珠姫に作ってきてもらったのであるが苦手なおかずが入っていたのか同じく弁当を作ってきた白菊と交換している。
「あれ?あまねちゃんは?」
「御手洗いに行かれると仰っておりましたよ」
「芳乃も一緒に行くって言ってたわ」
ヨミが忽然と姿を消したあまねに気づいたが白菊と息吹が行方を知っていた。
「プロの試合で売ってる仕様のものもあるわね」
「うーん、迷うな」
「やっぱり息吹ちゃんたちと同じカレーと唐揚げにした方がいいんじゃない?」
「いや、唐揚げじゃなくてポテトにしましょう。別のにしたら交換できていいですから」
一方で理沙、怜、光、英詠の四人は売店に昼食の買い出しに来ていた。
芳乃は御手洗いを出たところであまねと先ほどまで行われていた試合の寸評をしているところであった。
「あまねちゃんはあの満塁での敬遠は正しかったと思う?」
「いいんじゃないかしら?でもあの場面一つをとってのことじゃないわ。状況はした側の麗美が一点ビハインドだったからその後の攻撃で逆転、最低でも同点に追いつける計算が立っていたからやったんだと思うわ」
「そうだよね…やっぱり岡田監督は麗美の攻撃力や宗田の投手力・守備力を考慮したんだと思う。もっと点差が開いていたら勝負させたんじゃないかな…」
あまねの考察を聞きながら芳乃は深く考察の沼に埋没していった。
「芳乃ちゃん?」
「
「それがその試合に勝つためのどんな最善の策か説明してくれるんなら、私は止めないわ」
この時、「満塁での敬遠」という選択肢が新越谷の策略家二人の中に外身だけではあったが構築されだしたのであった。
「ありがとう。そうだあまねちゃん、話があるって言ってたけど」
「うんそれは…次の試合のグラセン休憩の時にまたここで」
「芳乃ちゃん、あまねちゃん、こげん所でなんしよーと?もうすぐ次ん試合始まるけん席に戻らな」
あまり二人が話し込んでいたので希が呼びにやってきた。希はせっかく神宮に来たのだからと事前におにぎりや菓子パンなど歩きながら食べられるものを買い込み、球場内を散策しながら食べ歩いていた。席に戻った所で二人がまだ帰ってきていないと聞いて探しに来たのであった。
「ごめん、今話終わったところ。じゃあ戻ろうか」
「そうね」
少し急いで三人は席に戻っていった。
続く第二試合、月光大学対赤央大学、大学三年にして既に国民的なスター選手となっている長嶋氷苺望の人気も相まって球場のほとんどが月光大学の応援であったがこの試合は意外にも赤央大学の先発、三年生左腕の
「あまねちゃん、話ってなにかな?」
「芳乃ちゃんさ、この試合ってどっちが勝つと思う?」
「それは、やっぱり月光大なんじゃないかな?」
それは至極真っ当な答えであった。芳乃でなくとも十人に聞けば赤央大学の応援に来ている人しか、いや赤央大学を応援している人でもどこか諦めている人もいるかもしれない。
「やっぱり、それが普通なのよね…」
「あまねちゃん?」
「私さ、夢っていうかさ、野望があるんだ。絶対無理っていうかもしれないけどさ」
あまねは、十年来抱く大望を芳乃に明かしたのである。
「私は、赤央大学硬式野球部を全国優勝させたい」
「あ、
「無理だとか、馬鹿げているとか、散々言われてきた。それは重々承知。赤大は日本最高学府、まさに勉強一本の学校で、スポーツ推薦なんて当然存在しない。でも、十一年前に二位になっているでしょ?」
赤央大学野球部は百年近い六大学リーグの歴史上、唯一優勝経験の無い大学である。最高順位は十一年前の春季リーグ戦での二位であった。
「惜しいエラーだったよね。悠逢との試合の」
「あの試合さ、神宮で観てたの。それでさ、変な話だけど、赤央を優勝させるのは私だって言われているような気がしてね。今日の試合も、球場中長嶋選手の活躍を見に来た人ばかりだけど、私は赤央が勝つかもしれないと思っているんだ」
「そうだったんだ…何か、あまねちゃんは動いているの?」
十一年前の春季リーグ戦、勝てば悲願の初優勝という悠逢義塾大学との一戦、五回裏に赤央大学が痛恨の失策により喫した一点が響き、悲願の初優勝を逃していた。
その試合を現地神宮で観戦していたというあまね。その時感じた赤央大学を優勝させるのは自分だという啓示にも似た感覚。しかし、現在は選手ではなくマネージャーの一人として野球部を裏から支える立場のあまねであることから、芳乃はあまねが何か画策しているのかと聞いたのであった。
「よくぞ聞いてくれました。芳乃ちゃんは知ってると思うけど、私たちの世代って進学校に良い選手が沢山いるでしょう?だからその娘達がみんな赤大に進学すれば優勝のチャンス大なんじゃないかと思ったの」
「確かに、
「誘っているの。『一緒に赤大に行ってくれない?』って。今芳乃ちゃんが名前を挙げたの四人は結構乗り気だし、投手だけじゃなくて野手なら捕手と二遊間が重要になってくるから
芳乃たちの世代は全国各地の進学校に有力な選手であり頭脳明晰な学生という人材が数多く、場合によってはこの世代で高校野球の勢力図が変わるともいわれている。あまねは、中学の段階から彼女たちに赤央大学に進学しないかと数多くの有力選手に声をかけてきた。
「内村さんと東さんが乗り気なのは大きいね」
「そう、最初は殆ど相手にしてくれなかったけど、内村さんと東さんが乗り気になってくれたからそれを聞いて話は聞いてくれるようになってきてね。今じゃ本当にこの娘達が赤大に入学してくれたら優勝は夢じゃなくて目標になるって思っているわ」
全国屈指の左腕投手である内村
「じゃあ、英詠ちゃんのことも赤大に誘うつもりなの?」
「どうしようかな…ハリモトは私のこと嫌ってるし、医大に行きたいって言ってたでしょ?乗り気な娘も多いけど、今でも『医大に行きたい』とか専門的で明確な将来のビジョンを持っている娘には断られるし、特に関西圏や西日本の娘だと
朱央大学とは京都府にある赤央大学と並ぶ日本の最高学府である。明確な将来像を考えている少女たちにとっては単に『日本の最高学府』という肩書きだけでは赤央大学に行くとは言ってくれないのである。
「私にとっては…川口芳乃さん」
「えっ!?」
「貴女も是非とも赤央大学に誘いたい人材の一人であるの。確かに貴女と私じゃ野球観が違うとこともあって結構ぶつかることも多い、でも私たちが組んで良い選手が集まれば、赤大を優勝させることだって夢じゃないわ」
あまねはこの短い間に川口芳乃という人物を見極めていた。自分とは野球観の違いこそあれど、共に同じ目標に向かえば大きな力を発揮できると確信したのであった。
「私は…今は新越谷のことを考えたいかな」
「じゃあ、三年の夏が終わったら、またその時に答えを聞いてもいい?」
「うん、それまでに考えておくよ」
芳乃がそう答えると、二人は席に戻っていった。試合は、月光大学に長嶋氷苺望の二本のタイムリー、
帰宅の途に就く新越谷高校野球部一行、電車の中であまねは過去の大学野球の試合中継を見ていた。それは、十一年前の六大学春季リーグ、赤央大学があと一歩で優勝を逃した悠逢義塾大学との一戦であった。あまねは、この一戦を自身の野望と共に今も心に留め続けているのであった。
名前だけ登場したオリジナルキャラクターにも全員由来となった人物がいます。もし全員の元ネタを当てる事が出来たら外伝2話の前書きで凄いと言ってあげます。ただ、外伝2話までは間が空くので憶えていればの話になってしまうのですが、それでもよければ感想かメッセージで当てに来てください。
結構難しいですよ?