最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
「よーし、やってやるぜ……!」
昼食を終えて気合を入れなおしたイレギアが迷路の高台で準備体操を行なう。彼の目の前ではオリーブを模した巨大なクッションが仁王立ちしていた。
セルクルジムのジムテスト——オリーブころがしである。
「それでは、オリーブころがしスタートです!」
「よっしゃ! ぶっかましてやるぜえ!」
ジム役員の宣言を受けてイレギアは両頬を叩き、ゴールのカゴとオリーブ玉を一直線上に捉えて距離を取る……
「ま……まさか先輩、あの距離からシュートするつもりですか!?」
「これでも俺は……ラグビーやったことあるんだぜえええええええええ!!!」
とても裏付けられない理由を叫びながら、イレギアの渾身の蹴りがオリーブ玉をぶっ飛ばす!!
「いけええええええええええええええええ————————っっっ!!!」
熱血スポ魂漫画の名シーンの如く空を舞うオリーブ玉に向けて声を張り上げる!
キレイな放物線を描き、理想的な回転を繰り返す……!
「……いけっ」
「え?」
「いけえええええええ————————!!」
「なんか感染してる!?」
大して動いてないのに汗だくの2人の声に押され、オリーブ玉は見事! ゴールのカゴの真ん中にシュート!!
「ゴォォォォォォ————————ルゥッッッ!!」
「っしゃあああああああああああああああああ!!!」
興奮冷めやらぬまま高台から飛び降りたイレギアはジム役員の元に駆け寄り、涙ながらに笑っている2人は熱烈な抱擁を交わすのだった……!
「…………なに、これ」
「ナニコレ」
アヤセと頭に留まったイキリンコが肩を竦めたのはごもっともだが——ともかく、ジムテストクリアである。
「へっへっへっ……このままジム戦も突破してやるぜッ!」
「ぐおおおおおおおおお…………っ!」
イレギアはポケモンセンターの床にうつ伏せで倒れていた。
「せめて四つん這いになって悔しがってくださいよ……なんで土下寝なんですか……」
勢いだけは良かったが、それだけで上手くいくほどジムリーダーは甘くはなかった。
「まさか初っ端から敗走するとは思いませんでしたよ。ここのジムリーダーのカエデさんって、一番簡単なジムなんでしょ? しかもイキリンコで弱点をつけるむしタイプに負けるなんて……——うわあイキリンコから嫌な視線」
イレギアの頭に留まっているイキリンコから、アヤセを非難するような視線が飛んでいた。
……この状態のイレギアの通り、初のジム戦は見事なまでの敗北を喫した。
アヤセの言う通り、イキリンコの『つばめがえし』で無双する予定だったのだが……
「そもそも撃たせてもらえないとは思わなかったぜ……」
「何発かは当たったじゃないですか。まあ……この結果ですけど」
最初に出してきたのはマメバッタ。イキリンコの一撃が当たれば容易く倒せる相手だった。
そう、当たれば——
「は~い。お願いしますね~」
「よっし! 俺の脚力はバッタ以上! 故に楽勝で勝てる! んじゃ作戦通りに行くぜイキリンコ!!」
「イクゼ!」
勢い十分のイレギアとイキリンコだったが、そんな1人と1匹にカエデは淡く微笑んだ。
「うふふ〜……むしポケモンを甘く見てたら、痛い目見ちゃうかもですよ〜」
「がんばれせんぱ~い」
「見てろよアヤセ、先輩の活躍をっ……観客席で菓子食ってんじゃねー!」
「疲れたんで糖分補給してるだけですよ。『ムクロジ』のお菓子ってなんでこんなおいしいんだろ。いくらでもいけちゃう……!」
「「バーカ!」」
「あらあら、ありがとうございます~」
マイペースな彼らに呆気に取られていた審判だったが、咳払いをひとつ挟んだから右手を掲げる。
「それではっ、勝負……開始!」
「やったれイキリンコ! 『つば——」
「『ツバメガエシ』!」
事前の作戦通り、イレギアの指示を聞くより早くイキリンコがマメバッタに襲い掛かる! 張り切ったその翼にひこうエネルギーを蓄えながら加速するも——
「マメちゃん、『いやなおと』!」
「メメメメ……!」
マメバッタが攻撃を受けるより早く、不快な羽音を鳴り響かせる……!
「イギッ……!?」
その音にイキリンコはひるんでしまい、翼に集まったエネルギーが散らし、空中で動きを止められてしまった。
「続けて『とびつく』!」
そこを狙ってマメバッタが逆に襲い掛かった! むしタイプの攻撃はひこうタイプであるイキリンコにとって相性はあまり良くないが、『いやなおと』で防御が薄くなった彼にとっては無視できないダメージである。むしだけに。ごめんなさい。
「今だ! もう一度『つばめがえし』!」
「『ツバメ——」
「マメちゃん! 後ろに『とびつく』!」
「ガエ……ッ!?」
『つばめがえし』は攻撃を外したと思わせて、攻撃の向きを急激に変化させてひこうエネルギーを叩き込む……いわば必中技と名高いが、それは攻撃の間合いでの話。
イキリンコの翼が届く範囲外からいち早く離脱したマメバッタには当たるハズもなかったのだ。
「ちいっ……つ、強え……っ!」
「言ったでしょう? むしタイプを甘く見てたら痛い目見ちゃうかも……って」
その後もマメバッタ本来のスピードに翻弄され、『とびつく』でのヒット&アウェイを繰り返されることになった。素早さが下がった状態では接近することが難しく、倒すのに手間取ってしまった。
「メバッタ……!」
「マメちゃんお疲れ様です~」
「ぜえ……ぜえ……ようやく1体かあ……!」
「キィー……キィー……」
「あらあら~? まだまだこれからですよ。出てきてタマちゃんっ!」
カエデが次に繰り出したのはタマンチュラ。小さな見た目ながら先ほど同様油断はできない。
「まだまだイケるかイキリンコ……!」
「イ……イケル……ッ!」
「いい子だ。またまた『つばめがえし』!」
「タマちゃん、『いとをはく』~!」
「なに~っ!?」
なんとかしてマメバッタを突破するも、タマンチュラの『いとをはく』で疲労したイキリンコが絡め取られてしまい、何もできず、じわじわと『むしくい』で倒されてしまった。
「よ、よし……次もとっぱぁ…………」
「グー……!」
ヤングースがノーマルタイプに《テラスタル》してタマンチュラを倒すも、またもや『いとをはく』で体力を奪われてしまう。
「これで最後です。クマちゃ~ん、出番ですよ~!」
最後のポケモンはヒメグマ……ノーマルタイプのポケモンで、むしタイプのジムリーダーが繰り出すポケモンには思えないが……。
「ふう~……っ!! ヤングース、『ふるいたてる』で気張りなおせ!」
「それじゃあクマちゃ~ん! あなたの羽化した姿を見せて~」
「しまった《テラスタル》もあるんだった!」
ヒメグマはむしタイプに《テラスタル》! 動きの鈍ったヤングースは『れんぞくぎり』の猛攻に耐えきれずあえなくダウン。
「まだだ……まだ終わってねえ! 頑張れコイキング!!」
「ココゴ……」
イレギアの最後の手持ちはコイキング……何ができると言うのだろう。
「『はねる』!」
(ビチ……ビチ……)
「…………!」
「…………」
イレギアはその姿を固唾を飲んで見守り、カエデは地母神のような優しい笑顔で眺めていた。
「……ひと思いに!!」
「はい~」
後は言わずもがな。
「ちくしょー……このままじゃネモだけじゃなくアオイにすら追いつけねえ……!」
実は少し前にジムにてアオイと再会し再戦し敗北している。彼女もまたジムを終えたところらしい。
イレギアが柄にもなく焦燥感に駆られている姿に、アヤセは『ええと——』と戸惑いながら言葉を紡いでいく。
「とはいえ、どうします? 現状できそうなことと言えば……なんとか対策立てて、レベルを上げるしか無さそうですけど……」
「対策……かあ」
……数秒、ぶつぶつぶつぶつ。
「対策、タイサク……? ……そうだ!!」
「ソウダ!」
イレギアが頭のイキリンコを振り払う勢いで顔を上げる。その顔はいつものように不敵な笑みが浮かんでいた。
「むしタイプの対策! それなら専門家が近くにいるぜ!」
そのままのテンションで飛び跳ね起きる。既に目には闘志が宿っていた。
「専門家? 害虫駆除業者とかですか?」
「お前とんでもねえこと言うな……」
「コワー……」
アヤセの爆弾発言にさしものイレギアとイキリンコもドン引きの様相を呈した。
(あたしが悪い感じに……いや、今のはあたしの失言っぽい)
「そういう対策じゃあねえよ。弱点をつくだけが対策じゃない——逆だ。むしタイプが弱点のタイプのエキスパートに対策を聞けばいいのさ!」
「へえ……先輩にしてはなかなか良さそうな対策方法。ええとむしタイプの弱点はくさ、エスパー……」
「——あく! しかも我らがスター団の1つ、チーム・セギンの本拠地に行くぜ!」
「ふう……この辺はポケモンが強くなってくるから逃げないとキツいぜ……」
暗くなった夜道を駆けるモトトカゲのハンドルを握りなおし、イレギアが苦々しく呟いた。
「それにこうも起伏が激しい土地だと簡単には行きませんよねえ」
彼の後ろに陣取っていたアヤセはゴーグル越しに視線を一瞬だけ上に移す……そこにはイキリンコの姿はなかった。現在、モンスターボールで休んでいるためだ。
チーム・セギンのアジトまではセルクルタウンから橋を渡り、風力発電機の林立した丘を越える必要がある……流石のモトトカゲの体力ももたないため何度か休憩を挟むことになったが、その休憩中に野生のポケモン襲ってくるのだ。
ここまで来ると野生のポケモンのレベルは最大で18にまで上がっているため経験値は多く鍛えがいはあるものの、その分のダメージ量も多くなってくる。当のイキリンコも、揺れるヘルメットの上に留まっている場合じゃないらしい。ヤングースは休憩中にサンドイッチを食べたまま眠ってしまった。
これに加えて他のトレーナーに勝負なんて仕掛けていたらいつまでたっても辿り着かなかっただろう。飛び出してくれたイキリンコの『でんこうせっか』に感謝。
「そろそろポケモンセンターが……あっ、見えました!」
「よっし、ラストスパートだぜモトトカゲ!」
「アギャッギャギャ~!」
ウォーボンネットを被ったモトトカゲが元気よく答えた。
これはイレギアがアオイと別れた後、テーブルシティのデリバードポーチにて良さそうなのを見繕ったのだという。モトトカゲ自身、とても気に入っている様子だった。そのうちもっとインディアンになるのだろう。
「お預かりしたイキリンコたちはみんな元気になりましたよ! またのご利用お待ちしておりますね!」
「よーし。モトトカゲも回復したが……まあ、もう歩いて向かえば十分だな。しばらく休んどいてくれ」
「アギャス!」
手持ちのポケモンを回復してもらったイレギアはモトトカゲをモンスターボールに戻して残りは歩きで向かうことにした。
「そりゃ、もうここがアジトっ! ……って感じですよね」
岩壁を穿ったような道の両脇、2つの岩山の上には黒布にスター団マークが描かれたチーム・セギンの旗がでかでかと掲げられていた。
2人はそれらを仰ぎながら道を進んでいく。
「あの旗なんで取られないんです? あっきらかに不法占拠ですし……」
「さあ? 俺がスター団やってるのはだいたい学校の中でだったし、そもそもアジトなんて行ったこともなかったわ」
「え……学校で何すんですか?」
「授業受けるに決まってんだろ? お前なんのために学校通ってんだよ。それと通わせてくれる親父の迷惑になりたくもねえしな。単位はもうそろ大丈夫そうだし」
「うわ、先輩が真面目だ……いや、そういうのに対しては真面目なんだった……」
「でも素行はそれこそ、生徒会長に怒られる程度には悪かったぜ? ……まあ前の人が厳しすぎたってものあるかもけどな。さーて、確かこの封鎖されてる道を右に曲がったら……んん?」
チーム・セギンのアジトの前に誰かが居る……緑の制服から同じアップルアカデミーの生徒だった。
「誰でしょう。スター団……じゃ、無さそう?」
メガネをかけた初老の男性のようだが、ネクタイを付けずに胸元を開いた短パン姿というのはややミスマッチに見える。
そして何より特徴的なのは……
「り、リーゼントって……今の時代に、ねえ……?」
「ふぃ~っ、イッカす~っ」
「マジですか」
頬を緩ませるイレギアが目の合った謎の男の元へと歩いていくと、対する男もまたこちらへ歩み寄ってきた。
「おや……? オレに何か用か?」
「おいおいおいおい。そこのイカしたリーゼントのアンタ!」
開口一番、イレギアは彼のヘアスタイルを少々ケンカ腰で褒める。
「ほう! このリーゼントの良さが分かりますか!」
やけに丁寧な口調で返事をされてしまう。
「もっちろんだぜ! まさに男の象徴って感じがしてな!」
(そういえばイキリンコもリーゼントっぽかったし、そういう意味で先輩とは気が合うのかな)
「それよりも、だ……アンタ、スター団じゃあないな? 何者だ?」
イレギアが柄にもなく眉に皺を寄せて男に詰め寄るも、年季のある男の顔は眉1つ動かなかった。
「ああそうさ、オレはスター団じゃない。ネルケという……まあ、ただのいち生徒だ」
(あれ口調が……)
「なるほどな。俺はイレギア。こっちは後輩のアヤセ。スター団になんの用だ。組の中がどうやら騒がしいが……まさか、カチコミってワケじゃあねえよなあ~っ?」
「…………っ!」
イレギアの声が一段と低くなり、周囲の雰囲気がより重いものとなった……
「もしそうなら……どうする?」
「決まってんだろ——俺とバトルして、勝ったら手を引いてもらおうか!」
「先輩……!」
「おおっとアヤセは下がってろ。コイツは俺一人でやる。せいぜい俺の勝利を祈ってくれ」
「(先輩……やっぱりスター団の一員としての意地ってやつなんですね!)……はい!」
「アンタを倒せばカチコミしてきたヤツをぶっ倒したとして俺の団内での評価がぐーんと上がり! ひいては組のボスを任され! あわよくばマジボスの座も貰いまスター!!」
「がっかりですよ」
「そっちにどんな都合があるか知らないが、オレにも引けない訳がある……全力で向かい討つぜ。オレが勝ったらそっちが手を引いてもらう」
ネルケは自身のリーゼントを両手で撫でつけ、腰のモンスターボールの1つを手に取った。
「もちろん——よっしゃあ! やってやりまスター!!」
イレギアは自身を鼓舞するようにスター団ポーズを披露する!
「この道中で鍛えたお前の力を見せてみろ! いっけえイキリンコ!」
「イッケー!!」
「頼んだぜニャオハ」
「ハニャ!」
「ニャオハ……?」
向き合う2人の横で、アヤセはネルケが繰り出したポケモンについて引っ掛かる。
「イキリンコ、『つばめがえし』!」
「ニャオハ、『マジカルリーフ』で牽制してください」
そして時々顔を出す丁寧な口調……ネルケの正体に目星がつく。
(てか、あれ……よく見たら…………校長じゃね!?)
辿り着いたその答えに『どうしてこんなところに』だの『いやちょっと考えればわかる変装じゃん』だのと疑問が脳内を支配して答えを探っているうちに——
「ちいっ、戻れコイキング……!」
(ビチ……ビチ……)
「お疲れだぜヤバチャ。ゆっくり休んでくれ。さて……オレの勝ちだ。約束は守ってもらおう」
「せっかく『たいあたり』を覚えたってのに……ああ、しょうがねえ……ヤングースが起きてりゃあな……いや、帰るきゃねえぜアヤセ。すまねえ……どーしたそんなにネルケの方を見て。まさかっ! もしかして俺の仇を!?」
「いや……あの、校長先生ですか?」
アヤセの質問にネルケはバツが悪そうに目を逸らす。
「……さあな。オレはネルケ、それだけだ」
「はー? お前よく見ろよ、ネルケのこのイカした髪型! 自分色を出した服装っ! どっからどう見ても学生じゃねーかよ! 確かにちょっと歳は行ってるのかもしんねーけど、そういうやつも見たことあるだろ!?」
「ええ……?」
「——あれ? イレギアにアヤセちゃん? それに……誰?」
アヤセがどうしたものかと考えていると……一難去ってまた一難。今度はネモが現れた。
「おおっとここで会ったが百年目! ここを通りたくば俺に勝ってからにしてもらいまスター!」
「そっか! それじゃあ早速戦ろう!」
目が合った瞬間ポケモンバトル——とはいかずにアヤセが仲介に入る。
「いやいや先輩、さっき戦ったばっかでポケモンたち全滅でしょう」
「うっ、確かにそうだった…………へっへっへっ……!」
「なんでまた不敵な笑みを……」
「確かに俺は戦えないが、俺を倒したところで次はアイツ……ネルケが相手になるぜ!!」
我が物顔でイレギアがネルケへと顎をしゃくって見せる。
「ネルケ……?」
(まずいっ……いや別にバレても特に問題は無さそう……いやいやっ、先輩のことだから下剋上だのなんだの言ってまた校長に挑みかねない!)
アヤセが独り焦燥に駆られていると、ネルケがフッと優しく笑ってネモにウィンクする。
「……なるほど」
ネモは何かを察したように呟くと、顎に手を添えて少し考える素振りを見せる。
「うーん……わたしはどっちかっていうとイレギアと戦りたいな~。この短期間でどこまで強くなったも見てみたいし!」
「そうか……そうかあ! そんならっ、俺の伸びしろに驚きすぎて失神すんなよー? 脅威の成長でぶっ倒してやりまスター!」
「ふふっ……楽しみ! それじゃあね、ネルケさん……?」
「おう! じゃあなネルケ、お疲れ様でスター!」
イレギアがスター団ポーズを決める隣で、ネモはネルケに向けてウィンクを返した。
「あ……あれ……?」
「おーいどうしたアヤセー! おいてっちまうぞー!」
「はっ、はーい……(バレて……ない?)あと一応、お疲れ様でスター」
「ええ。……イレギアたちによろしくな」
——イレギアには悟られなかったが、ネモはしっかりその正体に気づいていた。
(あれはきっとクラベル校長先生……先生はスター団のことがずっと気がかりみたいだったし、たぶんああして生徒に扮してスター団の動向を探ってるんだと思う)
ネモがここに来たのも、生徒会長としての責務からスター団をなんとかしようとしたのが起因していた。
近くのトレーナーたちに片っ端からバトルしていたところこの辺りまで来ていたので、ここらから響く騒音被害も収めようとしていたのだが……おそらくすぐに解決するだろう。
(そこに生徒会長であるわたしが一緒にいたり、同時期にスター団を刺激しちゃったら、先生のやりたいことも出来なくなっちゃうよね。——うんっ、スター団のことは先生に任せよう! そうした方が安心だ! それにわたしもその方が伸び伸びポケモン勝負できるし、イレギアとも……あれ?)
(いやっ、あれはそういう意味で言ったんじゃなくて……うんっ、そう……!)
「なあネモ?」
「ひゃっ……!」
考えていた人に話しかけられたものだから、ネモは思わず高い声で驚いてしまう。
「あっと。なんか考え事してたか、すまねえ」
「うっ、ううん……! それでっ、どうしたの?」
「実は俺……まだセルクルジムを攻略できてねえんだ。敵であるネモに聞くのは正直、気が引ける……だがっ、プライドが邪魔して成長できないよりマシだ! そんなわけでなんか教えてくれねえか?」
本来はチーム・セギンで聞く予定だったのだが、それが現在叶わなそうだと判断したイレギアはネモに両手を合わせて依頼した。
「それならわたしに任せてよ! ふふふっ……うんと厳しく教えてあげるねっ!」
「うっし! ——へっへーんだ! 教えられた要素を生かせばネモを超えるのに何歩も縮まるってもんだぜ!」
「簡単には超えさせないったらっ……——あっ」
ふと甦ったのは、チャンピオンになったあの瞬間のこと——
「なるほど、クエスパトラをこうも簡単に超えますか」
「あ……あれ……?」
最初に繰り出されたポケモンを容易く倒した瞬間、ネモの中にあったチャンピオンへの憧れにヒビのようなものが走った。
勝てないはずなのだ。チャンピオンは強者の称号……勝てたとしても、最初から最後まで気を張り詰めていなければ追いつけないものだと考えていたのだ。
それなのに……それを既に追い越していた。
その瞬間から加速する周囲の人々との大きな隔たり。たとえ手を抜いていたとしてもギリギリの勝負が出来ればそれでも構わなかった。
しかし、今ではそれすらも叶わなくなってしまっていた。
そんな中、自分に匹敵するであろうアオイと出会えたのは僥倖と言えた。
……しかし、それでも、何か——足りなかったのだ。
自分自身、言葉に出来ないその感情……それが、あの時——
対等な存在ももちろん欲しい。しかしなによりも、挑んでくれる存在の方が欲しかったのだろう。
イレギアとの出会いで足りない何かが埋まった……その感覚が、ネモにはとても暖かく感じられた。
「ちょっと先輩たち~……なんで早歩きなんですか~……!?」
「そりゃあ早くネモと勝負したいからに決まってんだろ!」
「子どもか! ……子どもか」
「そっか……そっか、そっか」
この感覚は、いったいなんなのだろうか。
ネルケ戦は本編に無いですけど、どうにかしてBGM補完しといてください。
ネモがストーリー上でスター団に関わらなかった理由に関しては上記のようにしておきました。この方が自然そう。