最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
「んっ——んん~っ! 朝っ……生活リズムもなんか矯正されてる感じ~」
アヤセがカーテンを開いたその時、スマホから電話がかかってくる……連絡先が片手で数えられる程度しかない彼女に電話してくる相手なんてたかが知れていた。
「はい、先輩ったら朝っぱらからなんですか?」
「10時だぞ」
「…………あの、今どこに?」
「ハッコウシティ」
「スゥ————————…………すいません」
「いや別にそこまでじゃねえよ。昨日も見かけたから一緒に来てもらってるだけだし」
「それでもなんかホントすいません……それで、なんの用ですか?」
「ああそうそう……急ですまねえがちょっと力を貸してくれ! お前じゃないとダメなことだ!」
「……お礼になんかグッズ買ってもらってもいいですか?」
「もちろんいいぜっ! ホミカちゃんグッズな! 使ってたギターピックとかめちゃくちゃ高いもんじゃなきゃ大歓迎だぜ!」
「そんな伝説的なもの持ってる人いるわけないでしょ。居るもんなら会ってみたいですよ」
「俺のダチに居るぜ?」
「うっそでしょ……」
100万ボルトの夜景——夜の帳の下りたこの街はそう形容されている。
「それじゃあ挑戦者氏~? この映像のどこかにジェントルさんが潜んでいるぞ! 目をコイルにして存分に探してくれたまえー!」
しかし現在は昼時。
そんなハッコウシティのジムリーダーにして人気配信者のナンジャモがジムテストを行なっていた。その挑戦者は——
「はーい!」
前日の夕焼け時にチーム・シェダルを壊滅させたアオイは、ナンジャモの配信をスマホロトムで見ながらジェントルさん……もとい、クラベル校長を見つけようとしていた。
(とは言ってもすぐに見つけちゃったけど、即答っていうのも味気ないし……もうちょっと周りの景色を——)
そうして画面全体に視界を広げたその時だった。
「…………」
画面の左端……ちょうどナンジャモがいなくなったその場所に、画面に見切れているイレギアがこちらを見ていた。
決して動かず、ただこちらを伺っている。
(…………映像、だよね? なんでここに……正解しとこ)
アオイはたまらずクラベルを発見しクリア。
「はい勝利ー! 挑戦者氏お見事ー! んじゃカメラ変えるねん」
(よし、突破した……なんだったんださっきの)
ジムトレーナー兼ナンジャモのファンを倒したのち第2問となった。
「次の舞台はこちら! みんな大好きポケモンセンター!」
(うーん。今度はすぐにはわかんないな)
「ここにも……——え"っ」
説明途中のナンジャモからド低い声が漏れる。
(ナンジャモさんどうし…………あ)
ポケモンセンターの担当がクラベルだったことを見つけ——その隣のフレンドリィショップの担当がイレギアになっていた。しかも衣装もショップ店員の制服という徹底ぶりで、同じくカメラ目線のまま動かない。
(え……なにこれ、ミーム汚染?)
「あ、え……こっ、ここにもジェントルさんが潜んでるから躍起になって探してねーっ!」
ナンジャモが早口でまくし立てると画面から姿を消した……
(あっれクラベル校長気づいてない? なんでそんなところにまでいるの……なんかお客さん来てるし……あの、反応してあげてよイレギア先輩! あとこっち見ないでっ……)
再びたまらず正解してクリア。
「……おや? うまく溶け込めたと——」
(動かないでって先輩! またカメラ目線に……っ!)
「じぇ……ジェントルさんまたもや発見……フヒっ」
(もうナンジャモさんも困惑して……なんか笑ってる?)
アオイ自身も笑いを堪えながら再びジムトレーナーと戦闘を行ない、そのまま勝利する。
(よし……戦ってたら笑いも収まってきた)
「さすが挑戦者氏ー! 探しっぷりもバトりっぷりもカイデンの如しー!」
(ああよかった……ナンジャモさんも元に戻ってるっ……!)
このまま進めることに安堵しながら、ナンジャモがカメラを変える。
「最後の舞台はこちら! 激闘渦巻くバトルコートだー! 果たしてこの人だかりからジェントルさんを見つけ出せるのか!?」
(さっきネモと戦った場所だ……コートっていろんな人に利用されて——)
その瞬間、またも見つけてしまう。
——手すりを背に預けてうなだれているイレギアの姿を。
「——ぶっ……!」
アオイはついに噴き出してしまう。
「ぶふっ……! あっはははははははは————っ!!(怒られてたっ……絶対っ、ぜったい裏で怒られてたっ……!)」
スター団の装いに戻ったまま肩を落として虚空を見つめる彼の姿に、アオイが笑いが止まらない。
ひーひー言いながら視線を彷徨わせるが、ときどき目に入る悲し気なイレギアの姿にまたもや噴き出してしまい、どこを探したのか頭から吹き飛んでしまう。
——結局、数分後にえずきながらクラベルを見つけることができたのだった。
「くくくくっ……! (やっと、やっっ……と見つかった……!) ひひひひひひっ……!」
「イヒヒヒヒっ……! ヒーヒーヒー……!! 3回目も見事っ、フヒっ……! チャンネル登録数どころかトレンド1位になっちゃった……っ!! ヒーヒー……もうこれジムテストクリアしかないジャンっ……!」
画面に現れたナンジャモも笑いが止まっていなかった。
「それじゃっ、いつでもバトル待ってるからっ……一旦ここまでぇっ、ヒー……——あなたの目玉をエレキネットっ、何者なんじゃあの人は——……じゃなくてっ、ナンジャモでした~……フヒヒ」
アオイはこの日の夜にナンジャモとのバトルを済ませた。その時の両者の雰囲気はとてつもなく浮ついたものであった。
——そうして日は経って夜の帳が下ろされる。
「うわ……ナンジャモさん、昼の配信で映りこんでたあの子めちゃくちゃバズってますよ」
「フヒヒっ……うんうんっ、ボクも昼からその子で笑いっぱなしだよーっ」
ジム受付を務めている中年の職員が通話しているジムリーダーのナンジャモに話しかける。スマホの端にはナンジャモの姿が映し出されている。
「このフレンドリィショップの店員からの落ち込んでる図が芸術的……いやいやー、その前の見切れ真顔が逆によく映えるっていうか……!」
切り抜かれた3つの画像を見比べながら笑みをこぼしていた。
1枚目は自分の後ろから現れた微動だにしない少年。ヘルメットに星型ゴーグル、着崩した制服という奇抜な出で立ちからのカメラ目線で真顔、そして顔半分が見切れているのに笑いが込み上げてくる。
2枚目ももしや見切れるのではないかという予想を裏切って、次はなんとフレンドリィショップの店員に扮しているという謎すぎる展開。それでもカメラ目線で真顔なのを欠かさないというのに更なる笑いが押し寄せてくる。
そして3枚目の落ち込みようで笑いを爆発させる完璧な流れ。カメラ目線でも真顔でもなく、手すりに腰掛けてたそがれている姿がこの間に何があったのかを物語っている。
全て見終わった後に再び1枚目に戻ってはクスリと笑う……いつ見ても飽きないシチュエーションであった。
「すいませーん、ジムテスト受けに来ましたー!」
しかしジムの自動ドアが開かれ、夜だというのに明るい少年の声が叫ばれる。
「おっとと次の挑戦者氏かな——」
その少年の顔を見ようとして、スマホロトムが見切れ真顔の画像からそちらに視線を移すと——見切れ真顔の彼が目の前に立っていた。
「——ブフォ!」
「ええっ!? なんスか急に!」
スマホ越しにナンジャモが噴き出したので流石のイレギアも困惑してしまう。
「ヒひひっ……あの、今日はっ、ははっ……!」
「なっ、なんなんスか……? まあ今日はジムを受けに、そんでジムテストまだなんでそれからよろしくお願いします」
「あっ、ジムテストねっ……! いやもう合格でっ……!」
「はいっ、受理します……!」
「なんなんスかさっきからっ!?」
(珍しく先輩が押されてる……)
後を追ってきたアヤセが不思議な光景を眺めていた。
「みなのもの~! 準備はいーいー? あなたの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモです! おはこんハロチャオ~!」
コメント欄では返事するリスナーが物凄い勢いで流れている。ゲリラ配信の開始時点で1万人いるのだから、彼女の人気は計り知れないだろう。
「ナンジャモの~? 『ドンナモンジャTV』の時っ間っだぞー! さてさて~今回のお相手は……昼の配信にて映りこんではビリリダマの如く爆発的にバズり散らかしてる謎の少年の正体っ——イレギア氏だぞ~!」
バトルコートの対面で準備運動をしていたイレギアの元にスマホロトムが急接近する。
「俺ってばいつの間にそんな有名になってたんだ……」
立ち上がったイレギアは突然の状況にむず痒い気持ちになりながらも平然と対応する。場慣れはしているようだ。
「有名も有名だよー。そもそもなんでフレンドリィショップの店員になんてなってたのさ! 臨時バイトとか?」
「俺もあの時、実のところ何があったか分かってないんスよ……なんで俺あの時あんなところに居たんですか? めちゃくちゃ怒られたし……」
「自分でも分かってなかった!? なかなか面白い人が来たね~」
「警察の人に相談したら『さいみんじゅつ』を使われた形跡があるらしくって、失踪したショップ店員を捜索してるらしいです」
「思いのほか大事件!? なにこの逸材っ……でもでもっ! ボクより目立とうとしてるこの少年には負けてられないねー……さっそくバトっちゃおっか!」
「きたきたきたきた! 望むところだぜ!」
「気合十分! そいじゃ、バトルスタートだ!」
イレギアは現状を割り切れていないためか、スター団ポーズも決めずにモンスターボールを手にしてしまった。
「先鋒はお馴染みこの子! 出てきて、カイデンっ!」
「カイデン……やっぱり最初はそう来るか。でもこっちも最初から秘策をぶっこむぜ」
カイデンの甲高い声を受けながらも、イレギアは不敵な笑みを欠かさない。
「俺の先鋒はコイツだぜ! 任せたぜドオー!」
「おおっと! 最初からでんきタイプ無効のじめんタイプとは! ボクの動画見て対策してきたようだねー」
「そりゃあもちろんですとも! ……アヤセ!」
「は、はいっ……!」
イレギアは観客席で呼吸荒く息を呑むアヤセに呼びかける。
「助かったぜ! じめんタイプ持ってるヤツが俺の知り合いにはお前を含めて5人ぐらいしかいなくてな! 真っ先に話しかけたアヤセに来てくれてマジ感謝!」
(わりと多い……)
「それで——コイツのわざって何!?」
「聞いてから挑んでくださいよっ!」
「あれれー、早速トラブってる様子ー? でもでもっ、ボクは容赦しないぞ! カイデン、『ついばむ』!」
「うわっ! どうしよアヤセ!」
「あーもー! とりあえず『ポイズンテール』!」
「だってよドオー!」
「ドオー」
アヤセの命令を受け、ドオーは短く鳴いて短い尻尾に溜まったどくエネルギーがカイデンの『ついばむ』と打ち合う!
「セーフ……!」
「こうなるだろうと事前にスマホにデータ載せましたから! あとはそれ見てください!」
「何から何まで恩に着るぜー!」
「あとっ、あたしからも、ひとつ……いいですか?」
「なんだ? ……ってかさっきからなんか汗やべえけど」
イレギアの指摘通り、アヤセの顔は見るからに委縮しており、今にもこの場から逃げ出してしまいそうなほどだった。
「……あたしの後ろに何がいるか分かってるんですか?」
アヤセは恐ろしさから振り返らない……しかし、彼女の後ろには圧倒的にこちらを威圧するオーラが溢れていた!
「ゴゴゴ……!」
青いボディに冠のようなヒレ、金色の髭が夜風になびいている……そうそれは——
「何ってそりゃあギャラドスだろ? コイキングから進化したんだぜ!」
「そりゃあそうでしょうよ! ボールに戻していいですかっ!? こっち見てきてめちゃくちゃ怖いんですけど!!」
イレギアはアヤセのドオーと自身のギャラドスを交換していた。みず・ひこうとでんきに滅法弱いため納得できる交換相手ではあったが……
「それはダメだ! 今は俺の手持ちじゃないけど、俺の仲間なんだから最後まで仲間の雄姿を見届けてもらうんだ! 見てろよギャラドスーっ! お前の応援で俺たちはさらに強くなれる!!」
「ゴゴオォォォォ————————ッ……!」
(こ、こええええっ……!)
先輩命令を振り切ってしまいたいが、それでも高いグッズを半分カンパしてくれた絶大な恩からそんなことをする気にはなれなかった。
……それに——
「ちょっとイレギアーっ! 後輩を怖がらせ過ぎじゃないのー!?」
「うるせー! ドオー、『あくび』!」
イレギアが紹介してくれた、『ザ・ドガース』のファンと知り合うことができた。しかも同じスター団に所属している同性の先輩だったのだ。
「アヤセちゃん……だっけ? 大丈夫? あんなのに連れまわされて」
「もう慣れ……るわけはないですけど、なんだかんだ面倒見てもらってますかね……」
「あっははっ! まっ、見てれば分かるよ。それにしても……同じファンがいて嬉しいな。人気のバンドだけど、なかなかコアだし別の地方だしで、なかなか同士が見つかんなくてさ~」
「それは……まあ、自覚してます。グッズも色んなバンドの中に埋もれてた感ありましたし……」
「……そうだ。アヤセちゃん、チーム・シーのアジトに来ない?」
「どく組ですよね? これまた突然……」
「『ザ・ドガース』のファンは私だけじゃないのっ。みんなにもアヤセちゃんのこと紹介したいし……それに、ホミカさんのギターピック、見たいでしょ?」
「なっ……! ぜひ! もちろん! お願いしますっ!」
「ホント!? ありがとうっ……他にもお宝グッズあるんだよ? ほとんど壊されちゃったけど……」
「…………?」
「あっ、ぜんぜん、なんでもないなんでもない! ほらほらイレギアー! さっさと終わらせちゃえーっ!」
(一瞬、顔が——泣いてたような……?)
彼女の真意に気づくのは、後のことだった。
「ふう……今日も1日頑張ったなあ」
ネモは制服のままベッドに横たわった。
アオイと次に戦うのは5つ目のジム——チャンプルジムになるだろうか——その辺りのレベルにまで手持ちを調整した後、授業を済ませて自室に戻って今に至る。
(昼にアオイと戦ったけど、順当に強くなっててよかったよかった。あのまま強くなれば本当にわたしのライバルになっちゃうかも……!)
ハッコウシティにて出会ったアオイとポケモン勝負を行なって彼女の強さを解析したところ、やはりそのポテンシャルには目を見張るものがあった。
(アオイが実るのが楽しみだけど……やっぱり、イレギアの方も気になるな~)
次に浮かんだのはイレギア。彼にはアオイほどのポテンシャルはないものの、それでも自分に負けても何度も挑んでくるその執念と精神がなによりネモには嬉しかった。
いつ思い出しても笑みがこぼれてしまう言葉……
(わたしも、もっと強くならないと……イレギアが追いかけてくれるんだから)
ふとネモは目をつむる……思い出すのは幼少期のこと——
「ごめんね、ネモ。お父さんたちこのあと予定が入ってしまって……」
「明日のディナーには戻るわ。バースデーパーティーはその時にしましょうか」
「はいっ。それにお気になさらず。お姉さまも、お手伝いさんたちもいます。それに、わたしにはポケモンたちがついています。——さみしくなんてありません」
ネモの両親は、良く言えば放任主義であった。
ネモの欲しがるものはなんでも与えていたし、なんの不自由もない幼少期を過ごせていた。
しかし、彼女には心の繋がりが不足していた。
両親からの愛情は確かに認識していたし、家のお手伝いたちからも愛されていることも知覚し、姉と仲睦まじく生活していた。
しかしそれでも仕事を優先する両親や、言わば仕事での付き合いであるお手伝いたち。姉に関してはアカデミーの寮に行ってしまったためネモの遊び相手にはならなかった。
彼女は寂しかったが、それを言ってしまえば迷惑になるだろう、我儘を言ってもどうにもならないだろうと諦めていた。
それに……ひたすらに寂しいわけではなかった。両親から送られてきた様々なポケモンが遊び相手になってくれていた。
「フカマルっ、『たいあたり』! パチリスっ、『でんこうせっか』!」
そうして彼女はポケモン勝負を楽しむようになった。
自分とポケモンの心が1つになってわざを繰り出し、動きを合わせる様は、ネモに心の繋がりを感じさせるのには十分なもの……では、無かった。
箱入り娘で、家の外にあまり出たことのなかったネモには対戦相手がいなかった。たまにお手伝いさんが相手をしてくれるが、本気で戦ってくれたわけではない。相手からの心の隔たりをその身に感じていた。
しかしそれに対して、ネモは文句も我儘も言わなかった。言ったところで、困らせてしまうだけだと悟っていたのだ。
——月日が流れ、彼女もまたアカデミーに通うことになる。
姉はもう卒業してしまっていないが、それでもトレーナーになるための学校である——ポケモン勝負をもっと楽しめるのだとネモは期待に胸を膨らませていた。
今年は入学早々宝探しが始まった。昨年は学校をやめてしまった人があまりに多かったために中止になったのだという。
周りの級友と切磋琢磨して研鑽する……その過程にはもちろん負けることもあった。しかし『負けても得られるものはある』——そう考えるネモはひたすらに楽しんで行った。
楽しんで、楽しんで、心の底から全力で笑って喜んで……
——ふと、周りの声を聞いてみる。
ネモのレベルは同級生はおろか、上級生にすら圧勝してしまうほどになってしまった。
『負けても得られるものがある』——確かにそうだろう。しかし手も足も出ない相手から得られるものは自尊心を壊された虚無感でしかなかった。
ネモは心の繋がりを求める過程で、人の表情から心情を読み取ることが上手くなってしまった。故にそのことも察してしまう。
そうしてネモは誰かとポケモン勝負をするときは手を抜くようになった。みんなで楽しむために、決して自分だけが楽しむことのないように。
みんなに合わせて、みんなを楽しませるようにして……
けれど、それでも、心の繋がりは得られなかった。
ポケモン勝負は楽しい……それは変わらない。しかし、なにか……相手との距離を埋めるのには、何かが足りなかった。
今はこの言葉が何より救いだった。全力で戦っても誰か1人でも傍にいてくれている……それが何より嬉しい。
けれどイレギアがいつまでも挑んでくれるとは限らない……その日が来て、アオイだけになってしまったら——いや、彼女は旅をしたいと言っていた。きっとわたしとも戦うことはなくなってしまう。
また、1人になってしまったら……わたしはどうなるのだろう。想像もできない。
「…………」
再び目を開く。このまま寝てしまいたいが……まだ寝るには早すぎた。お風呂にも入っていない。
「何か……しないと……」
そうしてスマホを手に取って、ネットに投稿されたポケモン勝負の動画に目を通していく。
ふと気になったのは人気配信者のナンジャモ。どうやらジム戦のようだ。
彼女のバトルスタイルは大体が配信通りであり、対策は容易だがその方法は挑戦者による。そのためネモも自分と違った戦闘を見ることができるため定期的に視聴するのだが……
「えっ——イレギア!?」
ベッドから飛び起きるほどの衝撃だった。
何も彼が映っていたことに驚いたわけじゃない。彼のレベル的にハッコウジムを受けるのは間違いではない。
何よりネモを驚かせたのは——
「いっけえドオー! そのまま『マッドショット』だ!」
イレギアが使っていたのはドオーだった。
「やるねえイレギア氏、ルクシオっ『かみつく』!」
(あのドオーはアヤセちゃんの……! どうしてイレギアが……?)
ネモは培われたトレーナーのスキルから、ポケモンそれぞれの個体を見ただけで判断できるようになっていた。それも実際に触れあったポケモンなら尚更である。
カメラが移り変わると、観客席にいるアヤセが見える——なぜかギャラドスを引き連れているが、そんなことを気にする余裕は今のネモには無かった。
(なんで……いやっ、イレギアの手持ちはひこうタイプが2匹だし、ギャラドスは4倍弱点だからアヤセちゃんと交換したんだってことは分かる。理にかなっているし…………でも)
ネモはいつの間にか、胸の辺りを抑えていた。
(苦しい……)
感じたことのない胸の高まり、頭が熱せられるような感覚に動揺を隠せず、ネモはスマホの電源を切ってベッドに再び横たわった。
「…………」
鼻で息を吸って、そして吐いて……それでも心臓の高鳴りは収まらない。
(どうしちゃったのかな、わたし……)
振り返ればそこにいた存在が、ふとある時いなくなっていた。
この気持ちはなんなのだろうか……