最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
「…………遅い」
「遅いねえ」
「アギャギャ~」
イレギアがアオイに勝利した翌日、約束通り潜鋼のヌシの撃退のためにペパーと3人で集まることになっていたのだが……
「真面目ちゃんなハズのイレギアが遅刻とはな。何かに巻き込まれてるのかバカやってんのか……」
「ペパーってさ、イレギア先輩と知り合いなの?」
「知り合いっていうか……ただ単に同級生だな。クラスのお調子者枠って感じだけど、1年のうちに出られる授業は全部出るほどの真面目ちゃんだったぜ」
「ぜっ……全部っ……!? それって夜時間の授業も……?」
「だろうな。オレと違ってもう卒業できる単位は取れてるだろうな」
「…………そのうち勉強教えてもらお」
「教えるのも上手かったらしいぜ。クラスに溶け込もうとしないでマフィティフのことばっか考えてたオレにも絡んできて……オレも少しは相手してやれば良かったかな」
「ホント……アホだけど良い人なんだね」
「アギャ?」
『コライドンとも仲良いし』と暗に言いながら、コライドンの顎下を撫でていく。
「一応は先輩に対して辛辣ちゃんだな……」
その辺りもイレギアの為す技とも言えた。おそらく幼稚園児やらも彼に対してはタメ口になってぞんざいに扱うタイプだろう。
「そんでおチャラけて真面目——そんな2つの性質を併せ持つことから、ポケモンになぞらえてウェーニバルって呼ばれてたりもしてた」
「ウェーニバル……かぁ……」
アオイはひとつのモンスターボールを——相棒のウェーニバルの入ったボールを取り出して辟易する。
確かにやかましい動きながら、その行動の節々にはクワッス、ウェルカモで見られた誠実さやひたむきさが感じられた……それをあのイレギアと並び立たせるのは、なんか……違うような気がするが。
「アイツにはそれなりに恩もあるし、何かはしてやりてえが……さすがに遅えぞ?」
「おーいおーいっ! わりいなっ、遅れちまったぜー!」
遠くからイレギアの明朗な声が響き渡る……
「ようやくき——」
「なにかあ——」
……二人とも、彼の姿を見て唖然としてしまった。
「おいおいおいおい、どうしたオレをそんなに見つめて。まさか……俺から漏れ出る人気者オーラにビビっちまってるのかぁ~っ? ——とうっ!」
「アギャ!!」
コライドンのみが元気に出迎える——これはモトトカゲに向けたものだったのかもしれない——中、大袈裟な動きでモトトカゲから降り立った。
「…………一応聞くがイレギア。その頭は、なんだ?」
イレギアはヘルメットを被ってはいたが、セットしていた髪が漏れ出ており、星型ゴーグルがその珍妙さをより際立たせていた。
「リー……ゼント?」
アオイにとっては既視感の塊でしかないヘアースタイルであった。髪の色はイレギアのものである紫色のままだが……
「へっへっへっ……俺をただのイレギアだと思ってんのかあ~っ?」
ヘルメットを外してモトトカゲのハンドルに引っ掛け、星型ゴーグルを広がった額に取りつける。そして顔にはいつもと変わらず不敵な笑みが浮かんでいた。
「今の俺はそう……スーパーイレギアとでも名乗っておこうかッ!」
「スーパー……イレギア……」
「どうしよう、予想以上のアホになってた。元々バカさ加減は予想以上だけど、尊敬の意が示されないほどのアホになっちゃったよ……」
「アギャ~……!」
コライドンのみが興味を抱いていた。
「まっ、この反応も人気者であるが所以だなぁ……?」
「人気者って……昨日今日で何があったんだよ」
「昨日今日の出来事でこんなことがあったんだぜ!」
スーパーイレギアが差し出したのはスマホ——その画面にはハッコウシティの一角にて画面に見切れながら真顔のカメラ目線のイレギアが映し出されていた。
「ぶぶっ————!」
「どうしたアオイっ!?」
「へっへっへっ……! どうも改めて、バズり散らかして人気者に成り上がったスーパーイレギアだスター!! アオイという強敵を倒した勢いで進化したんだぜ~っ!」
大袈裟な動作でスター団ポーズを披露する! いつも以上に輝いている気がした。
「……なるほどな。言いたいことはだいたい分かったぜ。だけど……こんな人気でオマエはいいのか?」
そんなイレギアに訝し気な視線を送るペパー。
「なぁにいってやがる! これはクラスでッ、学校でッ、パルデア中でッ! 人気者になったってことを意味してるんだぜ!? ちなみにこのフレンドリィショップの店員に成り代わってる画像な、裏で『さいみんじゅつ』使って何度も悪事をしてた犯罪者だったらしくて、俺のおかげで明るみになったらしい……つまりっ! オレのお手柄! 裏付けされた人気者ってワケだぜ!!」
「へえ……」
「ペパー?」
自画自賛の止まらないスーパーイレギアに対し、ペパーはなぜか顔を暗くしてしまう。
「ちなみにナンジャモからサインも貰ったぜ」
「それは素直に羨ましい」
「だろ? 昔から見てた人だからもうめっちゃくちゃ嬉しかったぜ! まあジムリーダーのサインは今んとこ全員もらってるんだけどな。これでスクールカーストもシビルドン登り間違いなしッ……って説明はこの辺で——マジで遅れてすまんかった!!」
散々言い終えた後、スーパーイレギアは両手を合わせて頭を下げる。それはもう物凄い勢いで。
「あらら」
「…………」
「髪セットしてたら思いのほか時間食っちまって……焦ったら逆にダセえからカッコつけてここまで来たけどさすがに心苦しいからもうほんとごめんっ!! お詫びにこれをくれてやる!」
「ピケタウンだったかな。そこにいるコレクターにあげるとお宝と交換してもらえるってダチから聞いたぜ」
「くれるならもらうけど……どうするのペパー?」
「…………はあ。まっ、正直に言ってくれたんだ。今回は特別に許してやろう!」
ペパーの暗い顔が晴れたような気がした……なんだったのだろうかと、アオイは小首を傾げた。
「ッ……ありがとなペパーっ! そんでアオイ! 遅れた分も取り戻すために、張り切ってヌシ攻略しまスター!!」
「そういえばイキリンコは? いつも外に出てたけど……それと今日もアヤセさんと一緒じゃないんだ」
「イキリンコはヘルメットの上に乗りにくいからボールの中。アヤセは他のスター団のメンツで集まってるってよ!」
「アヤセ……? 誰だソイツ」
「そういえばアヤセさんとペパーって会ったことなかったっけ」
「いやいやいやいや、あるだろ……まぁ一瞬だしノーカンか——」
「ほえぇぇぇ……こりゃあどこもかしこも穴ぼこまみれ!」
「しかもどれも人間がすっぽりはいれちまうほどのな……ポケモンたちにとっても迷惑ちゃんだろうぜ」
「とにかく潜鋼のヌシを探さないと……でも地面に潜っちゃうのを見つけられるのかな」
「この穴ぼこ並にデカいヤツだろ? あいつじゃねえのか?」
「あいつ……? え、どれ?」
スーパーイレギアが指差す方向に注視するも、アオイは目を細めるばかりで見えなかったようだ。
「んーと……アレか? 地面から顔出してるヤツ。……ってかどんだけ視力あんだよ」
ペパーがスマホロトムの拡大機能を使ってようやく見える距離にヌシが潜んでいた。
「……イレギア先輩って何気にハイスペック?」
「スーパーイレギアな。そりゃ人気者の大抵は運動神経ヤバめだろ? 俺もそれ相応に恵まれてたし鍛えた! スポーツ特待生のヤツには負けたけどな!」
(スポーツってアーチェリーかなにか?)
「とにかく、だいたいの場所は把握した。あとは手筈通り……な」
「うん。まずは私とイレギア先輩で——」
「スーパーイレギア」
「……スーパー、イレギア先輩と挟み撃ちで追い込んで戦闘に持ち込む」
「その後は例のスパイス?のところに行かせて、見つけたところを今度は3人で倒す! 倒したヌシは俺が頂き、スパイスとやらはペパーたちが総取り! 完璧な作戦だぜ~ッ!」
「そりゃあどうも。それじゃあ……任せたぞ」
「行くよコライドン」
「俺たちについてこれるか試してやろうぜモトトカゲ!」
「「アギャス!!」」
「ライドポケモンの2匹はもうすっかり仲良しちゃんだな」
「よっしゃあ!! 潜鋼のヌシ撃破!」
「ズズゥ~…………」
スーパーイレギアの歓声の通り、潜鋼のヌシの正体であるミミズズが地響きと共に地面に倒れ伏した。
「ゴゴォォォォ————————ッ!!」
「おおっ! ギャラドスも『はねる』で喜びを表現してるぜ~っ!」
スーパーイレギアのギャラドスもまた勝利の雄叫びを吠えながら暴れ散らかす……その風圧にアオイとペパーはたじろいでしまうほどだ。
「あぶねっ!? 本当に『はねる』なのかこれ!?」
「『みきり』超えて『カウンター』っ!?」
「ワハハハハハハハッ!! ヌシもゲットしてこれでチャンプルジムは楽勝……——」
そこでスーパーイレギアが目を移したミミズズの体躯は大いに縮んでいたのだった。
「あっれええええええ!?」
ミミズズの中で比較してもかなり大きいサイズなのは変わらないが、それでもヌシだった頃に比べると彼を落胆させるには十分すぎるものだった。
「そういえば倒されたヌシがどうなるか話してなかったな」
「言っておいた方が良かったんじゃ……」
「そしたら協力し無さそうだし」
「それはまあ……でも、あれ……」
「ぐおおおおおおおおおお…………っ!!」
土下寝で落ち込みに落ち込んでいるスーパーイレギア。そんな彼の後ろでギャラドスは変わらず飛び跳ね回っている……中々にカオスな光景だった。
「ぶえっ————!」
「あっ……」
ギャラドスの振り回した尻尾がスーパーイレギアを巨石にまでぶっ飛ばされる!
「……どうしよ」
……アオイとペパーが立ち込む土煙を眺めていると、その中心からスーパーイレギアが『ドーン』と叫びながら立ち上がった。土に塗れてはいるがこれといった傷はない。
「不死身ちゃんか?」
「ワハハハハハハハ!!! 人気者の俺は無敵だぜッ! ちょ~……っとガッカリだったけど、挫折も楽しんでこその俺だ。心機一転ッ、とりまチャンプルジム再戦だ!!」
さっそくとスーパーイレギアはスマホを取り出してタクシーを呼び出す。
「もしもしー、はい。タクシーお願いしますー……チャンプルタウンまでです、はい。よろしくお願いいたしますー——よし!」
「低姿勢……」
「礼儀は大事だからな! そんじゃあ俺はこの辺で……お疲れ様でスター!!」
「アギャギャスギャーッ!」
「アギャギャスギャーッ!」
振り回されっぱなしの2人を置いたままスーパーイレギアは迫真のスター団ポーズを披露する! 未だ喜びまわるギャラドスを回収しながら『はがねタイプは確かに欲しいよなあ』と呟きながらモトトカゲに乗り込んで駆けていった……
「「…………」」
取り残された2人は互いに見合って……そして苦笑いを浮かべ合った。
「……とりあえずスパイス採るか」
「だね…………そういえばさ、先輩がスーパー? ……になってたのを見てなんか悲しそうだったけど、どうしたの?」
スパイスの自生する洞窟に足を踏み入れながらアオイがペパーに問いかける。
「別に大したことじゃねえ。まあ……調子に乗ったアイツがなんか気に食わなかっただけだ。嫌な方に変わっちまったなって思ったけど、そんなことなかったな。いつものアホなだけだったぜ」
「ふふっ……そうだね」
「アオキさん! 再戦お願いしまっす!!」
「…………誰ですか?」
「…………はぁ」
ビーチに備え付けられたビーチチェアに腰掛けながら、ネモはテーブルに肘を突きながら吐息をこぼす
砂浜でポケモンたちを鍛えようとしてきたものの、今はポケモンたちをビーチで遊ばせているだけになってしまった。新しい相棒のラウドボーンは『フレアソング』で奏でる歌で観衆を集めて拍手をもらってすらいる。イルカマンは子どもに大人気だ。
(どうしよう……なんだかポケモン勝負も戦りたくないな……)
アヤセとの会話から自覚した恋心を引きずったまま、ネモはひとり気だるげだった。気分転換に勉強をしようにも捗らず、それこそ大好きなポケモン勝負も仕掛ける気にならなかった。
(今まではこんなことなかったのに……何してるんだろ、わたし)
ネモはビーチチェアに身体を預けて、深呼吸しながら瞳を閉じる。
「え……あ……その、それっ、本当?」
イレギアがアオイに初勝利を飾ったその裏で、ネモはアヤセの話した言葉に動揺を隠せずにいた。
「はい……あたし、他にやりたいことができまして。先輩との旅も楽しいんですけど……それでも、あたしの宝が見つかったような気がしたんです」
アヤセの確かな物言いに、ネモは押し黙ってしまう。
「先輩に『キラッキラな青春を見せてやる!』って言わせた手前、非常に申し訳ないなって思ったんですけど……『面白そうだし楽しんでこい!』って逆に背中を押されまして」
「そう……なんだ……」
「先輩のおかげでそういう出会いもできて……なんだか、ネモさんが先輩のことを好きになった理由が分かる気がします」
「すっ、好きって…………確かにっ、そうなのかもだけど……」
「あはは~っ。——それじゃあネモさん。先輩のこと、応援してますねっ」
アヤセはとびっきりの笑顔で手を振りながらネモと別れた。
その笑顔は、嫌になるくらい輝いていた。
(やりたいことができた……か)
ふとスマホを手に取って、アヤセから送られた写真を映す——『ザ・ドガース』というバンドのポスターやグッズが大量に置かれた部屋で、アヤセを含めた5人の女子生徒——みんなスター団らしく星型ゴーグルをつけていた——が各々の変なポーズを決めている。
『チーム・シーで出来たあたしの仲間です!』
写真が撮られたのはしるしの木立ちに構えられたスター団のアジトの1つ、チーム・シーに建てられたテントの中らしい。
……とても、楽しそうだった。
スマホの電源を消して画面に映ったネモの姿はその逆で、そのことから逃げるようにスマホをポケットに仕舞った。
「ねえっ、あれって最年少チャンピオンじゃない!?」
「マジかよっ……ってことは俺が勝てば実質チャンピオンになるってことじゃね?」
「いやいや無理でしょ~」
「バトルっすか? いやっ、俺ってば実はポケモン持ってなくて……なあ?」
「さすがにチャンピオンとバトルはね……」
アオイがジムテストを受けている間、ポケモン勝負の相手になってくれる人を探したが……上記の通りに断られることが多かった。
「よーしようやく到着だー!」
そんな時、セルクルタウンにイレギアが到着した……嬉しくなって、居ても立っても居られず声をかけてしまった。
その後のチーム・セギンで出会う前でも、道中のトレーナー(自分のことを知らない人だけ)と戦ったが……それは相手のレベルに合わせて手を抜いたものばかりだった。
それでもイレギアは、イレギアだけは、全力でわたしと戦っても楽しそうにしていた。わたしもそれがたまらなく嬉しかった。
だからその後もイレギアの大きな声が聞こえると、わたしはつい彼の声のする方へと駆けてしまった。
体力がないのにも関わらず……けれどそうしなければ、前のめりに突っ走る彼に追いつけないと思ったから……
イレギアがわたしを追いかけて挑んでいるのに、なんだかわたしの方がイレギアを追いかけて挑んでいた。でもそれも、悪くないと思っていた。
だけど…………これは西1番エリアにてイレギアとセルクルジムへの特訓をしていた時のこと——
「イレギアってどれくらい前からポケモン勝負してるの?」
何気ない質問。ふと気になって聞いただけの何気ない言葉。
「んーと……半年前?」
「半年前っ!? イレギアって2年生だよね……去年はしてなかったの? 『宝探し』とか……」
「1年生の頃はアカデミーで学生生活謳歌しててバトルについてはからっきしだったし、宝探しとかそもそもなかったな。学生の人数が足りないとかで。ネモが入学してきた時に宝探しあったけど……俺がもう卒業できるレベルまで単位取ってたから学校の外に出てすらなかったぜ」
「そう、なんだ……始めたきっかけとかあるの?」
「きっかけ? ——楽しそうだったから?」
「ふふっ、イレギアらしいな~」
その時はなんでもない、ただ彼の一面を知れたことを喜んでいただけだった。
しかし——時が経つにつれて、この意味に気づいていった。
——彼が今よりも楽しそうなことに興味を抱いたら、ポケモン勝負を止めてしまうのではないか?
アヤセがスター団の活動を選んだときも、彼は彼女の『面白そう』『楽しそう』を優先して背中を押した。
彼自身もスター団に入ったのも『面白そう』『楽しそう』に惹かれたためだとアヤセが語っていたし、彼が1年の頃に勉強を優先したのも学校生活を楽しむため……
もしも、ポケモン勝負を優先している今から、それよりも『楽しそう』なものを優先させたら——
いや、それでなくとも——彼のポケモン勝負における技術は急成長を遂げていた。
わたしが教えた技術を更に昇華させるだけでなく、アヤセちゃんによると今までのバトル……道中でのトレーナーとの勝負すらも記録して研鑽を積んでいるらしい。
まだ実ってはいないとはいえアオイに勝利して見せたのがそれに表れていた。
——彼は天才だと思った。
幼い頃からポケモン勝負のことばかりだったわたしとは違って、すぐに最適解を選び、探し出すことができていた。蓄積した様々な知識に裏付けされた実力でもあるのだろうが、それでもトレーナーとしての強さは段違いだ。
いつか……近いうちに、イレギアがわたしに追い越してしまったら——
そうしたら彼はわたしを——置いて行かれてしまうのではないだろうか?
その時になったら——わたしは、
わたしは…………
——どうなってしまうのだろうか
「イレギア……」
吐き出してしましそうな言い知れぬ焦りから、ネモは彼の名を呼んでしまう。
「どうした?」
すぐに彼が返事をしてくれたような……あれ?
「あれ……!?」
ネモが驚いてビーチチェアから飛び起きると、彼女の目の前には何故かびしょびしょになっているイレギアが砂浜の上に立っていた。大口を開いて歌を中断したラウドボーンやその観客たちも彼に目を奪われていた。
ネモの心臓の鼓動が加速する——今一番会いたかった存在でもあり、今一番会いたくない存在との邂逅……
……ネモはまだ、答えを出してない。
そういえば元はネモ曇らせスレだったなってこと思い出したので、ここからちょっと曇らせていきます。