最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった   作:うみじゃけ

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16.よっしゃ円満解決!みんな一緒にお疲れ様でスター!!

 

 

 

—テーブルシティ バル・キバル—

 

 

 

「ええーっ!? おうち帰っちゃうの~!?」

 

「ああ。毎月おんなじ日に帰るようにしてんだ」

 

 ネモとイレギアの2人はレストランで夕食を摂っていた。

 

「そうなのー……? せっかく明日はアオイがポケモンリーグに挑む記念すべき日だったのにぃ……」

 

「アオイのことだ。きっと一発でチャンピオンになるんだろうな。俺も鼻が高いぜ……!」

 

 イレギアの帰郷にネモがあからさまに落胆していた。しかし後方先輩面のイレギアはうんうんと頷くばかりだった。

 

「それに、アオイがチャンピオンになって……チャンピオン同士のポケモン勝負をみんなに見せたいの。アオイの凄さをみんなに……イレギアにも見せたかったのにっ」

 

「そいつはすまねえ! でも、こればっかりは外せねえからな……夕飯食ったらテーブルシティに向かうから——」

 

「……ううん。家族で過ごせる日なんだもん、ゆっくりしてって」

 

 イレギアは『おう!』と白い歯を見せびらかして頷いた。

 

「ふふっ、その代わり——イレギアがチャンピオンになったら、わたしたちの勝負はわたしが独り占めしちゃうからっ! イレギアのホントの強さはわたしだけが知ってるってことで!」

 

「ほえ~っ。そいつはいいな! ネモと2人で気兼ねなく戦れる——へっへっへっ……! 今から楽しみになってきたぜっ!」

 

 気合を入れ直したイレギアがパエリアをぺろりと食い切ったその時だった。

 

 

 

ロトロトロトロト……

 

 

 

「あれ? イレギアのスマホ鳴ってるよ?」

 

「ああホントだ……宛先は——……っ! たびたびすまねえネモ! 俺、行かなくちゃなんねえっ!! ここは俺が奢る! おつりは次会ったときに渡してくれっ!」

 

「えっちょっと……!」

 

 ネモの静止も聞かず、イレギア紙幣を何枚かテーブルに置くと店から出て行ってしまった。

 

「ふふっ……そそっかしいところも、なんか——……あ」

 

 

 

イレギアがチャンピオンになったら、わたしたちの勝負はわたしが独り占めしちゃうからっ! イレギアのホントの強さはわたしだけが知ってるってことで!

 

 

 

「あっ…………」

 

 先ほど自分が口走ってしまったことを今になって思い出しては赤面してしまう。お冷を呑んでも顔の熱さは無くなりそうにない。

 

(きっと……イレギアなら、笑ってくれるよね……?)

 

 淡い期待も水と一緒に飲み込んでしまった。

 

 

 

—アップルアカデミー グラウンド—

 

 

 

「これで……おわり」

 

 《テラスタル》の光が散ってニンフィアがモンスターボールに戻される……肩の重荷が下りたように、ボタンは小さく呟いた。

 

「終わったよ、みんな……」

 

「ボタン……」

 

 ボタンが目を閉じ……すぅと息を吸って、吐き出す。夜風が冷えていく身体によく染みた。

 

「ありがと……アオイ……ネルケ……」

 

 ボタンがネルケへと視線を向ける。彼はスター団の全員にボタンとアオイの決闘を配信していたのだ。

 

「確かに……見届けたぜ」

 

「これでうちも、スター団も終わ……——」

 

「待ってくだ……くれないか? 改めて確認したいことがある」

 

「確認?」

 

「マジボスであるあんたが何故、『スターダスト大作戦』を企てた?」

 

「解散しようって言ったのに、誰も団やめないから……」

 

「マジボスが命令しても?」

 

「お願いはしても命令はしない……そういう団の掟だし」

 

「掟……ボスたちも掟を大事にしていた」

 

「だから掟使って団を解散させようと思った」

 

「団で決められた理由ならみんなスター団をやめると?」

 

「そう……掟にのっとって戦わなくちゃダメだった」

 

「それで『スターダスト大作戦』を……」

 

 ネルケが大きく息を吸って、意を決してボタンに尋ねる。

 

「カシオペア……最後にひとつ、聞かせてくれ。あんたにとってスター団……団の仲間たちは——どういう存在なんだ?」

 

「……………………」

 

 ボタンが……マジボスが大きく深呼吸し、告げる。

 

「………………大事な……——宝物だよ

 

「…………よかった。それが聞けて」

 

「アオイ……」

 

 アオイがボタンに微笑みかけ、それにボタンもまた笑みを浮かべる。

 

「よろしい。――よく分かりましたボタンさん」

 

 ……一方のネルケは規律正しく踵を合わせて両手を後ろに回した

 

「……はっ?」

 

「あらら……」

 

 面食らったままのボタンにネルケ……が歩み寄る。

 

「私からボタンさんにお話ししたいことがあるのです」

 

「え、しゃべり方どうした!? 急に怖……」

 

「まさか……気づいてなかった? いや初対面だしそれもそっか……」

 

「気づ……え、なんなん?」

 

「……そうですね。まずは正体を明かしましょう——……ハッ!」

 

 ネルケが制服を脱ぎ捨てる——そして現れたのは……!

 

「こっ……校長————————ッ!?

 

「カシオペアがボタンさんならば、ネルケはクラベルだったのです」

 

「……いや、なんで!?」

 

「スター団のみなさんときちんとお話するためです。教師と生徒……まして校長が相手では皆さんの本音が聞けないと思ったからです」

 

「だからって、え…………変装までする!? ヅラのチョイスも意味わからん……」

 

「しかしおかげでスター団についてはよく学べました。その中で友達も出来ました」

 

「思いのほか馴染んでる……」

 

(校長も先輩のこと良く思ってくれてたんだ。なんか安心)

 

「……コホン。そろそろいいでしょうか。皆さんもいらしてください」

 

「みなさ……——え!?」

 

 グラウンドの入口から現れたのは——見知った5人組。

 

「なんで…………え?」

 

 ともにスター団を、『スター大作戦』を企てた仲間たち。

 

 

 

かつて、独りぼっちだったみんなだった。

 

 

 

「久しぶりだねマジボス!」

 

元生徒会長の彼が気さくに話しかけてくれる。

 

「……ピーちゃん」

 

 

 

「久しぶりってか初めましてだろ? 本当の名前も今知ったしさ」

 

団の相談役である彼女がぶっきらぼうに告げる。

 

「……メロちゃん」

 

 

 

「初めて見るマジボスのご尊顔、誠に眼福でござるな」

 

気の合う彼が冗談交じりに頷いている。

 

「……シュウメイ」

 

 

 

「えーと本名ボタンだっけ? 元気にしてたの?」

 

気の強い彼が頬を掻きながら問いかける。

 

「……オルくん」

 

 

 

「やっと会えたね……すっごく心配してたんだよ……」

 

誰よりも優しい彼女がそう声をかけてくれる。

 

「……ビワ姉」

 

 

 

「まさかアンタがマジボスだったとはな……流石のオレも驚いたぜ」

 

そしてしたっぱ衣装の彼が締めくくり——

 

「…………」

 

 

 

 

 

(…………………誰ぇぇぇ————————ッッ!!???

 

 

 

 

 

 

いやマジで誰っ!? なんで『いつものメンバー』って面で隣に居られるん!? したっぱじゃん——しかもいつから居た!? 5人でみんなが入ってきたときには見えてなくて……ええ? 誰なん……?)

 

 

 

 

 

「キキィー!!」

 

「痛ってえっ!!」

 

 いつの間にかボールから出ていたイキリンコがイレギアに向けて痛烈な『でんこうせっか』を喰らわせる!

 

「なんだよイキリンコ! 俺も陰ながらスター団を支えたメンバーなんだぜ!? あっ、校長こんばんは——おい引っ張んなってお前コラ————————…………!!」

 

 イキリンコに騒ぐイレギアの襟を掴み、空を飛んでどこかへと行ってしまった……

 

「あのイキリンコ……ああ、あの問題児くんかあ」

 

「あれ、意外と有名人……?」

 

「どうりで、あの時のボウジロウから甘い匂いがしたと思ったぜ」

 

「メロちゃんまで……!?」

 

「『クリブラ(※クリティカルブラザーズの略)』にて名実ともにウェーニバルであった彼でござるな」

 

「シュウメイですらも……っ」

 

「ああ確か、アイツとその友達にピアノ弾いてみせたんだっけ」

 

「うちも聞いたことないのに……」

 

「わたしは……毎回コテンパンにしてたな」

 

いやなんなんあいつは! そんなにみんなと関わりあるん!?」

 

「…………ぷっ」

 

 思わず吹き出してしまったアオイ……彼女にこの場にいる全員の視線が突き刺さり——

 

「……ははっ」

 

 スター団全員の笑い声が響き出した。

 

 どこまでも喜びで溢れた、心からの笑い声だった。

 

「——それじゃあせーので……!」

 

 

 

 

 

お疲れ様でスター!

 

 

 

 

 

「…………お疲れ様でスター」

 

 

 

—アップルアカデミー 廊下—

 

 

 

「へっへっへっ……どうやら俺のおかげで上手くまとまったようだな!」

 

 不敵な笑みのイレギアが3階の窓辺からグラウンドを眺める。

 

「キィー……」

 

「なんだよその不服そうな顔はよお~っ? ……それに実際、まさかアオイと出会って——ネモとの勝負が始まるきっかけになったあの子がマジボスだったとはな。縁ってのは恐ろしいもんだぜ……——あの時、ようやく話しかけられたしな

 

「ハナシ?」

 

「まあその辺はおいおいな。さてまっ、俺たちは適当に荷物整理して……スター団の衣装のまま帰るわけにはいかねえけど、それは明日着替えるとして——」

 

「先輩……?」

 

 蛍光灯が照らす廊下を歩みイレギアを呼び止めたのは——

 

「おっ、ようアヤセ! なぁんかひっさしぶりだな~っ!」

 

「お久しぶりです。実際は数日しか経ってませんけどね……」

 

 アヤセはスター団の衣装ではなく普通の緑の制服で、右肩にはギターケースがかけられている。

 

「久しぶりに飯奢ってやろうか?」

 

「お言葉に甘えて」

 

「即決だなこの野郎」

 

 

 

—アップルアカデミー 食堂—

 

 

 

 夜中とはいえ寮暮らしの生徒がほとんどなため、食堂は意外と賑わっていた。

 

「アヤセちゃんっ、バンド頑張ってねー」

 

「いつかステージで見せてよっ」

 

「気長に待っててね~」

 

「おう、持ってきたぞ」

 

 アヤセの隣にイレギアが腰掛ける。イレギアはスター団の衣装のままであったが、他の生徒から避けられることなく、しかし溶け込むことなく良い意味で異彩を放っていた。

 

「ようウェーニバル! 生徒会長には勝てたか~?」

 

「もうちょっとだなっ! 俺がアカデミーの頂点を取る日も近いってこった……震えて眠りな!」

 

「ははっ、言ってら言ってら~」

 

「ほれっ。アヤセはピクルスサンド、俺はピーナッツバターサンド」

 

「ご飯の好みはお互い変わりませんよね~」

 

「その辺はな。出てこいデカグース」

 

「グゥーグゥー!」

 

「半分やる。今日の夜食だ」

 

「相変わらずの食欲旺盛……あたしのタギングルもドオーも、気がついたらご飯漁ってるから大変ですよ」

 

「初めてポケモン育てるってなったらまずはそれが問題になるからな。そんならひとまず手を合わせぇ——」

 

「「いっただきまーっす!」」

 

 そうして2人と1匹は各々のサンドイッチにガブリつき、舌鼓を打っては顔を綻ばせた。

 

「クレェ……?」

 

 そこへイレギアの肩から下げた麻袋からコレクレーが顔を出した。

 

「あらかわ。先輩のポケモンですか?」

 

「一応な。コインはあと10枚で最大……何が起きるか目撃したときッ、俺はついにネモに勝利する!」

 

「……ちょっと前まではアホらしいって思ってましたけど、今の先輩ならやり遂げてくれるんだろうなって思っちゃいますね」

 

「実際、《テラスタル》を使いこなした俺がアオイに勝ったしなっ!」

 

「いつ聞いても驚きですよ。サンドイッチ食べる?」

 

「クレ?」

 

「ちょっとだけならいいぞ」

 

「クレー!」

 

 テーブルの上に乗ったコレクレーは、アヤセからピクルスとパンを一口ずつもらっては頬張る……実に美味そうだった。

 

「その様子だと……やっぱりバンド活動帰りってとこか?」

 

「ええ。今日も練習練習……未だにロクに弾けやしないですよ」

 

「ワハハハハハッ! ……バンドは楽しいか?」

 

「それはもう……すごく、楽しいです」

 

「それなら何よりっ! それにしても楽器かあ……ガキの頃にピアノで銅賞取った以来だな」

 

「ピアノも出来るんですか……」

 

「まあどれを押せばどの音が鳴るか分かれば案外楽しいもんだぜ? 指が攣ってから楽しくなり始めて……サッカー始めた辺りでやめたな」

 

「どんな幼少期ですか……まあ先輩らしいですけど」

 

「あっ! そういやハッサク先生が昔は音楽やってたらしいぜ! バンドになんか役に立つんじゃねえか?」

 

「ハッサク先生って確か美術の……なんというか熱血っていうか、先輩に似てる……いやそれは先生に失礼か」

 

「なんだよその言い方はよ~」

 

「あははっ、すいません…………先輩は——チャンピオンになるんですよね?」

 

「まぁな。ネモと約束したし、アイツと同格になったら伝えたいこともあるし」

 

「伝えたいこと?」

 

「おっとぉ! それは後輩の頼みと言えど話せねえな!」

 

「はあ……なんだか——チャンピオンってほら、もっと遠い存在だと思ってました。同学年だけど生徒会長のネモさんなんてまさにそれで……でも、先輩との出会いを通して……意外とネモさんが普通の女の子だったり、あたしには縁がないと思っていたバンドなんかやったりして…………ありがとうございます」

 

「……なんだ? そんな改まって」

 

「あたし自身……えと、なんていうのかなあ……? 先輩にスター団に無理やりだったけど勧誘されて良かったなってちょくちょく思うんです……それで、その、あの…………はい」

 

「何度も言ったろ? いや言ってないかもだけど。アヤセを誘ったのは独りぼっちで寂しそうだったからだ。実をいうと勧誘したのもアヤセだけじゃないんだぜ?」

 

「ええまあ……どく組でも先輩に誘われてスター団に入ったって子も居ましたし。その子もアカデミーでの生活が退屈だったりしてたところを先輩に強引に誘われて……結果、気の合う友達が出来たって言ってました」

 

「そいつはなによりだ! ——ごちそうさん!」

 

「ごちそうさま」

 

「グルル……♪」

 

 サンドイッチを食べ終えたデカグースはその大きく重い身体を床にのっそりと横たえた。

 

「おいおいおいおい……こんなとこで寝るなっての。戻れデカグース」

 

「クレ~!」

 

「あらら丁寧にお辞儀まで……きみも、先輩に見つけてもらえて良かったね」

 

「クレ!」

 

「コレクレーも袋に戻れ! そんじゃなアヤセ、お疲れ様でスター!!」

 

 イレギアが席から立ち、いつものように迫真のスター団ポーズを披露する!

 

「はい。お疲れ様でスター!」

 

 恥ずかしながらもアヤセもまたスター団ポーズで返事をする。

 

 

 

 

—翌日、プラトタウン ポケモンセンター—

 

 

 

「よおしボーマンダ、この辺でそう……うっし無事着陸だぜ! 慣れたもんだなボーマンダ!」

 

「ボォォォ~~~~!」

 

「ゆっくり休んでくれ……——さて、ひと月ぶりだな。プラトタウン」

 

 ネモたちの住むコサジタウンの隣に位置する小さな町。そここそがイレギアの生まれ育った故郷でもあった。一度、スマホを見て自分の姿を検める……制服ではなくひさしぶりの私服で、スター団のヘルメットやゴーグルはアカデミーに置かれていた。

 

 

 

—プラトタウン イレギアの家—

 

 

 

 軽く周囲を見渡しながらイレギアは彼の家の前にまで辿り着く。

 

 たったひと月なためそこまで町に変化という変化は無かったが、それでもこのひと月のことを思い返すと感慨深いものがあった。

 

 それと彼の服装であるが、スター団の衣装でも制服でもなくただの私服となっている。

 

「よし着いた……とと、ようサーナイトにエルレイド!」

 

「サナ? サナー!」

 

「エル!」

 

 彼の母親のポケモンである2匹が庭の手入れをしていたのをいち早く見つける。サーナイトはイレギアへと駆け寄り、エルレイドは家に戻って彼の主へと伝えていた。

 

「良いっすよ荷物は少ないですし、ただまーっ!」

 

 甲斐甲斐しいサーナイトに断りを入れながらイレギアは彼女に開けてもらった玄関を通る。

 

「おかえりアニキー!」

 

「ラルルー!」

 

 2階から駆け下りていた弟と彼のポケモンであるラルトスがひょっこり顔を出していた。

 

「弟よー! 元気してたか~?」

 

「まあねっ——ねねっ! それよりも早くアカデミーのこと教えてってばっ!」

 

 5歳下の弟が目をキラキラさせながらイレギアに迫る。歳的にはアカデミーに通えるのだが、家庭の都合からまだ通えていない。

 

「おういいとも! このひと月で俺がゲットしてきた仲間たちを紹介するぜ!」

 

 

 

 

 

 

 プラトタウンの真ん中にある盛り上がった草原でイレギアは両手いっぱいにモンスターボールを握りしめ――

 

「よっしゃあ! みんな出てこーい!!」

 

 ——その呼びかけとともに一斉にそれらを放り投げた!

 

「キィー!」

 

「グゥーッ!」

 

「アギャス!」

 

「ゴゴォォォォォッ!!」

 

「ビビビッ……!」

 

「ボォォォ————————ッッ!!!」

 

 6匹のポケモンの咆哮がプラトタウン中に響き渡り、周囲から歓声が沸き上がった!

 

「すっごぉっ……やっぱりアニキはすげえや! モトトカゲもなんか改造されてるしー!」

 

「アギャギャ!」

 

「ラルル……ラル?」

 

 モトトカゲとじゃれる弟だったが、ラルトスが何かを察知してイレギアがかけている麻袋に近づいていく……

 

「さっすがラルトス、そこに気づくか! 実はそいつは……」

 

「クレー?」

 

「ルル!?」

 

 すると袋から顔を出したコレクレーに驚いて、弟の元に駆け寄ってしまった。

 

「どうしたんだよラルトス……あれ、そいつもアニキのポケモン?」

 

「まあな! いずれこの中の誰よりも強くなる——そんな気がする!」

 

「え~? そんなちっこいポケモンなのに?」

 

「このギャラドスだってボーマンダだって最初は比較的に弱かったぜ? だが今のこいつらを見てみろ……」

 

「ゴゴゴ……!」

 

「ボォォォ……!」

 

 おそらく2匹にはそんな気はないのだろうが弟とラルトスを威嚇するように睨んでいく。

 

「ひ、ひえ~……っ!」

 

「ラルッ……!」

 

 青ざめる弟とラルトス……しかしラルトスは守るように彼の前に立っている。小さすぎて守っていないように見えるのはご愛敬。

 

「ほらほら、脅かすのもそれくらいになさい

 

 そこに圧のある言葉とともに横入ったのは彼の母親であった。彼女の左右にはサーナイトとエルレイドが控えている。

 

「アギャ……!」

 

「シビビ……!」

 

「ラルル~!」

 

 その威風堂々としたオーラから、イレギアのポケモンたちが思わず身震いしてしまうほどであった。しかし2匹の子どものラルトスはよちよちと近づいては優しく迎えられる。

 

「母ちゃん、ただいま!」

 

「はい、おかえり。これはまた……元気な子たちを育てたね——」

 

 母親が1匹ずつ彼のポケモンを眺めていく……その力強い眼差しにはシビビールですら目を背けてしまうほどだ。

 

「おいおいおいおい……ビビりすぎじゃあねえかあ~っ? 見てみろよイキリンコとデカグースをっ」

 

 幼少期から世話になっていたイキリンコと、何度か出会っているデカグースは平然と彼女の視線を浴びるどころか気さくに話しかけてすらいた。

 

「クレー……!」

 

 改めてコレクレーはイキリンコたちに尊敬の念を抱いた。

 

「お前らにも紹介するぜ。こちら俺の弟とそいつのポケモンのラルトス! そんで俺の母ちゃんとそのポケモンのサーナイトとエルレイド! 母ちゃんは由緒正しきポケモンつかいなんだぜ~? 他にもすんごいポケモンを持ってんだ!」

 

「まあ、この平和な現代に必要な仕事はほとんどないけれど……ともかく、イレギアはその子を連れてもっと広いところで遊んでらっしゃい! ピクニック用品はあとで持っていくから。夕方になったらお父さん来るからそれまでね~!」

 

「はーいっ!」

 

「よっしゃお前らついてこい! 俺の秘密基地跡地に連れてってやるぜえ!!」

 

 アカデミーに入学する時に必要なもの以外を取っ払ってしまった秘密基地にて、空が赤らむまでみんなで遊んではイレギアの旅の思い出を語っていった。

 

 

 

—空飛ぶタクシー ハッコウシティ上空—

 

 

 

「いいなあ~おれも早くアカデミーでいっぱい冒険したい~!」

 

 夕焼け空の中をタクシー内で2人が横になって話をしている。彼の母親と言えば、彼の父親とともに空飛ぶタクシーの運転席に座って2人だけの話をしていた。

 

「父ちゃん母ちゃんから言われてるだろ? ラルトスを1人で進化させるまで入学はさせないってさ」

 

「お母さんってばあんなに強いのになんにも教えてくれないんだもん。わざの使い方も戦い方も自力で学べって……なんかもう挫けそう」

 

「ワハハハハハハッ! でもこの間、『サイケこうせん』覚えたって言ってたじゃねえか。だったらもうすぐだ。来年こそ入学だな!」

 

「ホント!? よーしっ……おれもアニキみたいなポケモントレーナーになる!」

 

「へっへっへっ……まっ、俺がお前くらいの頃はポケモントレーナーになるなんて自分でも思ってなかったけどな」

 

「アニキがおれの年の時は……あっ、プリンアメでケーザイ回してた!」

 

「よく覚えてたな~! よしよしよしよし〜っ!」

 

「おーいお前ら~っ、もうすぐ着くぞー」

 

「「はーい!!」」

 

「バイキングだって! 何食べようっ?」

 

「おいおいおいおい……そんなの全部食うに決まってんだろ~っ!?」

 

「さっすがアニキーっ!」

 

 

 

—コサジタウン ネモの家—

 

 

 

「ネモお嬢様っ?」

 

「えへへ……ただいま」

 

 アオイがポケモンリーグにて試験を受けている間、ふとネモは空飛ぶタクシーを呼んで自宅に帰っていた。あまりに突然のことだったためか、家のお手伝いもネモの姿に驚いていた。

 

「どうなさったのですか連絡も入れず……」

 

「えっと、急に帰りたくなっちゃって」

 

「はあ……ですが、はい。おかえりなさいませ」

 

 ネモは自室の扉を閉め、ベッドに腰掛ける。長い間、開けているはずなのに丁寧に掃除されていた。

 

(…………空っぽだ)

 

 大切なものは寮に持って行っているだけに、部屋には何もなかった。自分がここで暮らしていたのかすら危ういほどに。

 

(イレギアは……今頃、何をしてるんだろ…………会いたいな)

 

 幼い頃、家族に思っていたことだ。寂しいが……彼には彼のやるべきことがある。それを邪魔したくはない。

 

 目を閉じようとして……扉からノックが響く。

 

「失礼します、ネモお嬢様。お夕飯は如何致しましょう?」

 

「あー……いいや。友達と食べてくるから」

 

「っ……! 左様でございますか。では、ごゆっくり」

 

「はーい。…………あ」

 

 友達——そう言えば今まで、友達なんて……いなかったな。

 

 ネモの脳裏にお向かいであるアオイ、そして同日に出会ったイレギアが過ぎる。まさか2人がチャンピオンになるかもしれないだなんて……あの頃の自分は信じるのだろうか。

 

「アオイはもう実ってる。イレギアもきっと……そう」

 

 期待は十分。自然と笑顔になってしまう。

 

「イレギアと……友達…………か」

 

 けれど同時に虚しさのようなものが心を締め付ける。

 

 理由は……まだ、分からない。




次回、チリちゃん面接を少々と唐突に過去編。自己解釈の腐敗したアカデミー、そしてスター団との出会いまで。
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