最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
「スター団……か」
『スター大作戦』——その名称を聞いたのは後日だったが、彼はその現場に遭遇した。そして即行で彼らの仲間になりたいと懇願したが……
「いや……もう、全部終わっちゃったよ」
終わった……何が、というのはすぐに分かった。
アカデミーに所属している半数の生徒が一斉に辞めたのだ。彼らの名前は知らない者もいたが、それでもいじめをしていた生徒だということは理解できた。
それに伴って教師陣が総辞職——まさに大事件であった。
「ちっくしょー……! そんな面白そうなのにこの俺が関われなかったなんてッ……なんたる不覚!」
「キィー……」
イキリンコが呆れる彼の独白とは裏腹に、彼は別のことを考えていた。
(俺のダチも何人かスター団に混じってるのが見えた……それにあの改造車に乗ってた5人組——スター団の目的は……まさか?)
彼は賢かった。そして他者を思いやれた。
「ボウジロウも辞めた生徒に逃がされたポケモンと一緒にアカデミーに渡しちまったし……まあその方が安全だし元居た場所だろうからいいんだろうけども。アイツんとこに返そうにも今どこにいるか知らねえし……」
彼の友人も数名戻ってきた。彼らにスター団について尋ねるも……彼らとは無関係らしい。
(謎のスター団……そして、俺が次にやるべきこと……)
イレギアは退屈そうに、しかししっかりと授業を受けながら思考を巡らせる。
「ここで王が作り出したのがそう……最終兵器だ。詳しい名称は不明なため、学者からもそう定義されている」
教師が総交代されて授業を受け継ぐのに数週間かかったが、それでも現在では不都合なく通えている。
「そして王は——……おっと時間だ。済まないが次の授業でな……」
「あの先生、授業終わったらすぐ出てっちまうよな」
「なっ。なんか裏で変なことしてんじゃねえの?」
「最終兵器とか?」
「はい出た授業にすぐ影響受けるやつー」
スター団のことを調べて、やがて再び半年が経過した。結果、知り合いに問い合わせてもだんまりだった。
(スター団……全くもって正体がつかめない……)
疑問符に脳を埋め尽くされ、今自分が楽しいのかなんなのか定義できないまま月日は過ぎていった。
「それでは新入生諸君、宝探し開始! ……いってらっしゃい!」
かくして新入生が入学したタイミングで宝探しが催される。
これは去年度、生徒人数が足りなかったのもあったため繰り上がった今に行なわれることになったという。
……そしてその事実をアカデミーが公表しないにせよ、それはウワサとなってアカデミーに広まっていった。
「なんで今になって宝探し?」
「それがさあ……スター団って不良の集まりが生徒の半分をいじめまくって追い出しちまったんだと!」
「スター団って……そんな悪い人なの……?」
「きっとそうに違いないわ……っ!」
彼自身、そうではないだろうことは察していたが……それでも、賢い彼は理由を求めてしまった。
スター団が何をしようとしたのか、スター団が本当に悪い存在なのか——
納得できる理由を求め、考え……そして、停滞していた。
「…………どうしよ」
気づけばあの日から半年過ぎていた。本来は宝探しでやりたかったことがあったのだが……何がしたかったんだっけか。
知りたいことは知れず、楽しいハズの友人との毎日はどこか溝が出来たようだった。
だから彼は宝探し中も勉強した。アカデミーに入学した時に決めたこと——計画上では残りの半年で単位が取り切れる。
既に入れてしまった授業を蹴ることはしたくなかったし、知識を付ければおのずとやりたいことも見つかるだろうと思っていたのだ。
楽観的に、しかし息が詰まりそうな退屈を腹の奥に抱えて……
「……おや、何かお悩みでしょうか?」
彼がグラウンドの端にある謎の木のはしご——名前を『肋木』といったか、とにかくそれに寄りかかっていた時だった。彼に少ししゃがれた男の声がかけられる。
「こんにちは。あなたは……たしか、美術の……」
「はい、こんにちは。小生、ハッサクと申します。お名前を伺っても?」
「イレギアです。2-D組の」
「ではイレギア君、どうされたのですか? 微力ながら小生が手助けしたいのです」
「…………」
「人の親切を無碍にしないように。特にイレギアは親切が過ぎるから相手を気遣って断りそうだしな」
父親の言葉が無ければ彼は適当にはぐらかして煙に巻いていただろう。
「悩みっていうか……人生に迷ってるっていうか…………」
「ふむ……」
言葉に詰まる彼の隣で同じくハッサクも肋木に背を預ける。
「とにかく……なんかやんないといけないんです。俺にはやるべきことがあるハズなのに……なんというか、いろんなこと考えて前に進めないっていうか、別に忘れちまえばいいのに、それを頭の隅とか喉の奥とかに置いておかないとどうにかなりそうな…………あんまよくわかんないんですけど」
スター団については語らず、しかし曖昧で抽象的な答えになってしまったことに半ば悔やんでいると——ハッサクは少しの思考の後、重々しくその口を開く。
「……少し、昔話をしても?」
「ええ、まあ」
「小生の家庭は少々……いえ、かなり複雑でした。古い伝統と規律を重んじる……それはそれは厳しい家庭でした」
「ポケモンつかいとか……ですか?」
「まあそのようなものです。若い頃の小生にはそのしがらみがとても煩わしかったのです……今もそうですがね」
「はははっ……(ばあちゃんが駆け落ちしたのもおんなじ理由なのかな)それで、先生はどうしたんです?」
「盛大に家出をしました。音楽で食っていくと言って」
「それは大胆な……」
自分にはそんな時期があったろうか……いや、なにかしらケンカしても夕飯までには買い出しして帰ってきそうな自信がある——そんな家族との信頼関係があった。
故に彼は他人の複雑な家庭だとかそういうのを知らずにいたので、ハッサクの話は実に面白く感じた。
「しかし現実は家の規律のように厳しく、とても自由に……その日すら満足に暮らせるものではありませんでした。街角でギター1本をかき鳴らしてスターに成り上がる……などと嘯いていられたのは3日となかったでしょう」
「後悔は……しましたか?」
「それはもう一日中泣くほどしました。泣いて泣いて……しかし、それでどうこうなることは無いと——皮肉にも実家の教えからそこで挫けることはなかったです」
「ありますよねそういうこと……それで、どうなりました?」
「無論、惑いました。小生の音楽では現状を打破することが出来ないと直感で悟り、ならばどうすれば良いのだろうか……それはもう『がむしゃら』でした。興味を持ったものに飛びついては失敗の連続……思い出しても恥ずかしい思い出ばかりです」
(目の前のことに全力……か。俺もそうだったな、いつもいつも……——そして、何かしら結果を残していた。失敗という失敗は……無かった気がする)
彼は要領よくなんでもこなしてみせた。その道のプロには及ばずともそれなりの成果を挙げていた。
だからだろう……今のような状況は初めてだった。
飽き性というワケではない。しかし何にも手がつかない。虚無の時間だった。
「そうして月日は流れ、反骨精神はとっくのとうに打ち砕かれ、立ち上がる力もありませんでした。しかし……イレギア君の言った通り、何かをしなくては——そんな使命感が小生の心にまだ残っていたのです」
「何かを……」
「ええ、何かを…………そして散々ダメだった自分に何が出来るのか、何が出来たのかをひたすら反芻し、絶望し、露頭に迷い……そうして小生はそれを目撃しました」
「ボォォォォォ————————ッッッ!!!!」
「岩山の上で咆哮するボーマンダでした。どこまでも雄大で揺るぎない、猛然たる竜の雄叫び——感動しました。自然と涙が止めどなく溢れました」
「竜の、雄叫び……」
「写真があれば見せたのですが、あまりに感動していたためその場で立ち尽くしてしまって。気が付いた頃にはボーマンダはおらず、どこかへと飛び立ってしまっていたのです。それにもまた後悔し、しかしなんとしてもこの感動を誰かに伝えたいと思い……小生は筆を取りました」
「それが……美術を志した理由に?」
「ええ。真っ白で巨大なキャンバスを小生の胸に残るあの時の感動を描き殴りました。荘厳な赤い翼、剛健たる四つ足、魂を震わせるあの咆哮……その全てを収めることが出来ました。小生には絵描きの才があったのです」
「その絵はどうなったんですか?」
「今は自室に飾っております。あの感動を忘れないように、あの感動を糧にするために」
「…………凄いっスね。なんか俺の悩みがもうちっぽけに思えちまいます」
「イレギア君はまだ少年から青年になったばかり。悩むことは当然です。そして見知らぬ何かを求めるのも当然のことです。しかしそこで停滞しては何も為せないままです。——失敗をするのです。全力で、精いっぱい失敗をすること——それこそが現状を打破する一因だと、小生は信じています」
「失敗……」
「幾多の失敗の後、何が為せるのか——小生の主観でしかありませんが、それでも何かは為せるのだろうと信じています。目的地は別の、しかし感動の訪れる場所にいつか必ず辿り着くことを……」
「っ……!」
「感動は人生を豊かにする。少なくとも小生は、そう思っております」
「…………ふぅ——」
ふと、空を仰ぐ。
零した吐息は震えて、頬が熱くなっていく。
グラウンドで生徒やポケモンがはしゃぐ音が少し澄んで聞こえる。
「すぅ……ふぅ————」
静かに……もう一度だけ吐息を吐き出す。
「——ありがとうございます、ハッサク先生」
彼はハッサクに向けて大きく頭を下げる。
「小生は少し昔話をしただけです。イレギア君が前に向けたのなら、良かった」
「さっそくですいません……俺、行かないといけない場所があります——失礼します」
「ええ……精いっぱい、失敗するのですよ」
「ええ! 精いっぱい、楽しんでみせますっ!」
彼は心からの笑みをハッサクに見せた。
「…………はぁ」
「おいそこのお前! 今、退屈だ……なんて思わなかったか?」
「えっ……いや、誰ですか?」
「へっへっへっ……俺はスター団のしたっぱ! 退屈してんならスター団に入らねえか!? みんなでワイワイ楽しもうぜ!」
「ええ……いや、別に1人でも……」
「うるせえ! たぶん……そうっ! 勧誘のノルマとかあるハズだから来てもらわねぇと俺か困る!」
「そんなぁ…………」
「どうせお前、暇だろ? 暇つぶしだと思ってさ……ああ、別に歩かなくたって良いぜ? 任せたぜイキリンコ!」
「キィッ!」
「えっ、なんですかこの——うわっ!?」
「ワハハハハハハハ!! パルデアの空のインフラを支えてるのはなんなのか身体で感じるんだな!」
「なんだって言うんですかっ! こっちが退屈してようがあなたには関係ないでしょう!?」
「ある!」
「なっ。何を根拠に……」
「俺はアカデミーの人気者になりたい! それなのに俺をちやほやしないでひとり寂しい思いをしてるなんて許せねえ……意地でも楽しい思い出を作らせてやる!」
「それは…………」
「——来いよ。俺がキラッキラな青春を見せてやるぜ! 独りぼっちなんて忘れちまうくらいにとびっきりのをなっ!!」
スター団についてだんまりだった友人にひたすら粘着して、ついに折れさせることに成功した。
そうしてスター団のことを聞き周り……活動理由、その目的、その他諸々——ヘルメットやゴーグルの材料費が思いのほか高いことなど——を知り、そしてようやくスター団を頭の中で定義する。
彼ら彼女らの本当の敵は『孤独』だったのだと。
マジボスの真の目的は『独りぼっちの居ない場所』を作りたかったのだと。
誰もが寂しくならないための組織なのだと——彼は勝手にそう解釈した。
「スター団が終わった? 何を勝手にヌカしてやがる……『淋しい』って思ってるヤツはまだこのアカデミーにごまんといるんだぜ? そいつらが青春を『楽しそう』とだけ思わせて良いのか? 『楽しそうだった』で済ませて良いのか——?」
なら俺がやるべきことはただ一つ! スター団の本当の良さを、『楽しい』を感じ合える場所を強引に教え導く——身勝手なしたっぱになってやろうとも!
賢い自分を取っ払い、まるで愚かに振る舞った。
余っているらしいヘルメットやゴーグルを買い(けっこう高かった)、上記のように勧誘しては少量の金を受け取って売り捌いていく。
周りから見たら強引でしかないだろう……しかし、勧誘後の誰もが数日して笑顔になった。
居場所がある。迎え入れてくれる人がいる。孤独を消し去るには十分だった。
ただまあそのせいでスター団が無理な勧誘をしている……という悪評が加速してしまった感覚はあったが——独りぼっちがいるよりはマシだと思えた。中には自分からスター団に加入する者も居たほどだ。
しかし同時にこれで良いのかと思う気持ちもあった。実際、スター団の多くはアカデミーに来ていないし。
ひょっとしてとんでもなく悪いことをしているのではないか? そう頭に過ぎるも、スター団に加入した生徒たちからは心の底から楽しんでいるという旨の連絡を受ける。
それを受けて彼はさらに調子に乗り——もうこのアカデミー全部をスター団のアジトにしてしまえば良いのではないかと、本気で思うようにもなった。
そんな思想に染まりかけていた頃——彼女のことを知った。
一年生という若さにしてチャンピオンランクを取得した功績を讃えられ、元々優秀な生徒であったのもあり、空いたままの生徒会長の席を譲られるに至ったのだ。
生徒会長——そうだ、これだ!
生徒会長になれば……元来の目的である人気者に加えてその立場すら手に入れたら、このアカデミーはスター団のものに——『楽しい』に溢れさせることができる!
入学当初からそれなりに優秀な生徒である彼はすぐにでも副生徒会長くらいにはなれるかもしれない……しかし彼はそれではダメだと、ネモに勝てるくらいではないとダメだと決意する。
常に他のものに興味を持っていたために、トレーナーを志したことは今までなかったが、ついに彼はそれを目指すようになった。
知識は十分にある。実践もそこそこにある。ならば実行するのみだった。
それでもスター団としての活動は忘れない。未来のことばかり見て、今の『寂しい』を見過ごしてはならないと思っていたためだ。
だからその日もいつものように勧誘していたのだ。
「ほれ、ここで人を見定めて勧誘するんだ」
「はあ……まさか毎日ですか?」
アヤセはここ数日前に勧誘したものの、他のしたっぱとは違ってアジトには行かなかった。単純に面倒だったのか、彼の行動に興味を持ったのかは不明だ。後者であれば、現在進行形で後悔していることだろう。
「ったりまえだろ? 毎回おんなじヤツが通るとは限らねえし、毎度おんなじ顔で通るとは限らねえ!」
「(あたしの学園生活間違えたかな……)それで、勧誘するコツとかは?」
「まずは明らかに寂しそうな顔のヤツを見つけて……」
「そこがまず無理でしょ……」
「そんで——……ぁ」
「……あの? どうし——」
彼が見つけたのは階段前を通りかかる女子生徒——どこで売っているのか聞いてみたかったイーブイのバッグを背負った——あの子だった。
「いくぞ後輩! 俺についてこい!」
「いやちょっ!? どうやって勧誘するんです!?」
「そんなの気合に決まってるだろ!」
「あーもーヤケよーっ!」
「いやならわたしと勝負だよ」
その時、世界の秒針が止まる。どこかにいるカミサマとやらが殊勝な彼のために許したのだろうか……とにかく全てが止まった。
——彼の思考以外は。
(なんで……生徒会長だろ? 学校で一番のヤツなのに、なんでこんな寂しそうな顔をしてるんだ……?)
再びの疑問符に脳を埋め尽くされる感覚——だがしかし、彼は心の中で不敵に笑った。
幼き頃の母親との会話が脳裏を過ぎる——
「母ちゃんはさっ、父ちゃんとケンカすることとかあるの?」
「ええあるわよ。何度も、この間もしたわ。些細なことだったけどね」
「そ、それで……どうやって解決したの……?」
「あら、ポケモントレーナーにそんなこと聞く? ポケモントレーナー同士、言いたいことがあったらやることと言えばひとつ——!」
俺も……今はポケモントレーナー。
そして相手はそう、超えるべき壁だ。
そうだ、思いっきり失敗してやんのさ。
勝てないなんて今はそうだろう。
でもここで挑まなかったら、きっと何も変われない。
どこまでも『楽しそう』を『楽しい』にするために、目の前の笑顔を見るために……!
「うっひょー!チャンピオンランクのネモに勝てればスクールカースト鰻登りだスターっ!!」
「——それでは次に、チャンピオンになってどうなさるおつもりですか?」
「意見は変わりません……みんなにちやほやされたいです!」
「ええ、そうでしたね。それでは最後に——ポケモンは好きですか?」
「はいっ!!」
「…………ええ返事や」
「ほえ?」
「これで一次試験は合格。おめでとさん」
「お、おおおおお……よっしゃあ!!」
「えらい元気なやっちゃな~っ。それでも一発合格……昨日もおったな」
「ありがとうございます! 次はいよいよ実技試験……あんちゃんも応援しててください!」
「なはは! 気合も十分やなあ……でもすまんな——最初の四天王はこのチリちゃんや」
「……っ!」
「それとチリちゃん女の子やから、その辺よろしゅうな~」
「…………ええっ!!?」
「なっはっは! 自分おもろい反応するなあー!」
——ようやくだ。
ようやく——アイツを心の底から笑顔にできる。
本当に楽しいって顔を見れるときが来たんだ。
必ず為せるとも、俺を誰だと思ってやがる……!
アクイレギア(オダマキ)の花言葉は『愚か』『断固として勝つ』、そして『必ず手に入れる』。
それと『泣く子も笑うスター団』って旨の言葉は最初しか語られなかったので、イレギアが勝手に言い出したことだと解釈しました。
次回、エリアゼロ編。……申し訳ないけどリーグ戦はカットで
リーグの概略としては——
チリ戦(手持ちひこうタイプばっかやし、なんとかなるやろ!)
ポピー戦(シビルドンって『ドレインパンチ』覚えんねん。……なんで覚えるん?)
アオキ戦(シビルドンって『いわなだれ』も……覚えるんかいな)
ハッサク戦(恩師とのバトルを省くのは居た堪れないけどカット)
オモダカ戦(5匹しかおらんけど……ワイが同レベルのエクスレッグで無双したし、ままええか)