最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
「学校最強大会! 参加者募集してまーす!」
「バトルスクールウォーズ、良かったら見てってくださーい!」
「お前らも最強になってみねえかー!」
ネモと有志の生徒たちがビラを配っていく。
「へえ~見るだけでもいいかも!」
「新たなチャンピオンが生まれた記念に……先生たちも戦うの!?」
——あの日から、数日経った。
わたしの提案がまさかここまで発展するなんて……とても嬉しい反面、気がかりがあった。
アヤセちゃんに聞いてもどこにいるか分からないという。
「そもそも先輩がどこにいるかなんて誰がわかるっていうんです?」
それは……たしかに。
「それに、そんなに知りたいんだったら直接聞けばいいじゃないですか」
「スマホで聞いても……言えないって」
「あらま……でも、先輩ですよ? きっとそのうち知らん顔して帰ってきますよ……それよりっ! 聞いてくださいよ〜! ハッサク先生にバンドのこと聞いたら、なんだって大会で演奏してみようって! 場所までセッティングさせてるし……なんですかあんなに張り切っちゃって! なんとか言って中止させてくれませんか!?」
「あはは……問い合わせておくねー……」
今、彼はどこで何をしているのだろうか。探したい気持ちはあるけれど、自分の一言で始まってしまった学校最強大会の事務作業が山程あるのでほっぽり出すわけにはいかない。
「こういう時、生徒会長って面倒だなって思うな〜……」
誰もいない生徒会室で、1人呟く。
「…………」
……彼がいたら、なんて返してくれたんだろう。
『ようネモ! 困ってるなら俺が助けてやろうかあ〜っ? なんたって俺はアカデミーの人気者! ここで生徒会長を助ければさらに人気も爆上げでスター!』
だろうか。
『だったら俺に席を譲ってみまスター? トーゼン厳正たるポケモン勝負で俺が勝ったらな!』
だったり、するのだろうか。
「ふふっ……」
思わず笑みがこぼれてしまう。同時に静かさが耳に響く。
「…………」
呼吸がしづらくなって鼻を啜る。少し、湿っている。
「…………〈会いたいな〉」
震える指で送信しようとして——削除する。
「ん〜っ……! 終わったぁ……!」
暗くなるまで事務を終えていよいよ明日、学校最強大会が催される。
……企画書のほとんどにバトルスクールウォーズと銘打たれていたのは少し癪だったけど、気にするほどでもない。
ベッドに腰掛けて……ほっと一息。
ふと、静かな部屋を見渡す。
「…………なんにもない」
実家に帰った時の自室と同じ……空っぽだった。詳しく言えばポケモンフードのダンボールが山積みになってるのと、チャンピオンランク取得のトロフィーとか色々と飾られている。
しかしそれでも——人が住むには、少し足りない。
趣味という趣味はなかった。生まれてから家の中で、スポーツをこれといってしたこともなければ友達もいなかった。
1人でずぅっとポケモン勝負ばかりだったし、それでもボールを投げる力も弱いから腕のサポーターは欠かせない。
「…………」
私には……ポケモン勝負しかない。今までも、これからも。
そのポケモン勝負も幼い頃からの成果に過ぎないし、イレギアはそれをすぐさま駆け上がっていった。
イレギアの一歩は、わたしよりも遠い。先に歩いていた分わたしは先に居たけど……もう追いつかれてしまってると思う。
ふとベッドに倒れる。疲れた。眠い……お風呂に入って、着替えて、寝て、目覚めて。
「わたしも戦りたかったな」
当日も忙しい。見回りもあれば他の仕事もある……大会に煽られて生徒が模擬店を出したりもしていたのだ。
「イレギアと、周りたかったな……」
目を閉じる。意識が沈みそうになって、再び開く。大きく息を吸って、身体を起こす。
何気ない動作。生徒会の仕事も、それと同じようにこなすだけだ。
淡々と、いつも通り、ひたすら……
——入学してからやってきた通りに。
ネモはずっと独りだった。
幼い頃から身体が弱く、家の敷地外に出ることは少なかった。しかしポケモンたちが居たから楽しく過ごせていた。
楽しく……ひたすら楽しく過ごしているうちに、チャンピオンにまで昇り詰めた。
しかしその『楽しい』は理解されることなく、何をしても『才能があったから』『家が裕福』だからと一蹴される。
ネモの心の孤独は拭えなかった。彼女の理解者は訪れなかったのだ。
イレギアはずっと一人だった。
幼い頃から志が高く、どこにいても楽しんで活躍してみせた。しかし彼にずっとついていくような人はいなかった。
楽しく……ひたすら楽しく過ごしていくうちに、チャンピオンにまで昇り詰めた。
しかしその『楽しい』は理解されることなく、何をしても『お前ならなんだってやれる』『驚くけど納得』と一蹴される。
イレギアの心の孤独は拭えなかった。彼の理解者は訪れなかったのだ。
「お祭りの後ってしんみりしちゃうけど……こういうのもいいんだねっ」
「ワタシも……今日はいっぱい楽しめたよ。ありがとう、ネモ」
「良いって! それじゃ……また明日!」
「うん、じゃあね!」
ライバルの彼女が手を振って別の道を進む。
窓辺の夜闇を蛍光灯が照らす。静かな廊下ですぅっと一息零す。
——学校最強大会は盛大に盛り上がった。
先生たちのポケモン勝負を見たのは初めてだったし、こういう文化祭……とは違うけどお祭りムードなものも初めて経験した。
裏方だったし忙しかったけど……それでも、楽しかった。
楽しかった…………ハズだったんだけどなあ…………
——イレギアと、楽しみたかったな。
彼と観戦して、あの戦法は自分ならどう突破するかなんて——彼と出店を巡って、全部攻略していく彼にヘトヘトになりながらついて行ったり——結局アヤセちゃんたちがバンド演奏してるのを見て、すごいすごいって言い合ったり——……それで、それで、それで————
「————」
窓がネモの姿を映し出す——こんな顔を彼に見られたら心配させちゃうな。心配するのはわたしの方なのに。
……ふと、導かれるように歩き出す。
向かう場所は……頭になかったけど、決まっていた。
「ふう…………!」
階段途中で休んだりしながら階段を駆け下りていく。
すっかり日は落ちて、生徒たちも捌けてしまっている。
一陣の風が汗ばんた額を撫でる……少し冷たい。季節の変わり目を感じさせる。
そろそろ生徒会は林間学校の準備をしなければならない。行先は確か……なんだったっけ。
何処だっていい。彼と……過ごせるなら——何処だって楽しくなる。
「…………」
どうしてここに来たんだろう。ここからさらに下ればテーブルシティのバトルコートがある……でも向かう場所はそこじゃない。今立っているこの場所なんだ。
ここは……そう——彼と出会った場所。
会えるかも——なんて、思ってもみたけれど……
やっぱり無理なのかな…………
「…………はあ」
ふと、溜め息が零れる。
急に全てが億劫に、退屈に思えてしまった——
「おいそこのお前! 今、退屈だ……なんて思わなかったか?」
——そんな心を勝手知らず、わたしに声がかかる。
「あ——…………」
振り返って……その姿を認める。
スター団のマークが描かれたヘルメット、特徴的な星型のゴーグル、決まった着崩し方のある制服……そして、何度だって見たあの不敵な笑み。
「あ、ああっ……えと……」
言葉が出ない。色々と喉につっかえて苦しい。
「へっへっへっ……俺は泣く子も笑うスター団のしたっぱ! 本来は勧誘したいところだがもうスター団は無くなってるから誘う居場所がねえ……そこで天才的な俺は考えた——見よっ……!」
大袈裟な動きで彼が振りかえって、それを見せる。
それは——いつも使っている空飛ぶタクシー。ただしイキリンコは留まっていなかった。
「行き場所はお前に選ばせてやる……おっと拒否権は無いぜ? 逃げようもんならこの場でポケモン勝負でスター!」
「……っ!」
彼の言葉で、全てを悟る——わたしが伝える言葉は決まった。
「それなら……うん、ぴったりの場所があるよ……」
ゆっくりと噛み締めるように告げる。約束したもん——誰にも邪魔されない場所で二人だけで戦ろうって。
「おっ! それならさっさと席に乗りな! ただしイキリンコじゃなく——ボーマンダだがな!」
「よっ……と! 無事とうちゃーく! ……ここで合ってるよな?」
「うん。大丈夫だよ」
運転席から彼が飛び降り、運んでいたボーマンダをボールに戻す。わたしも席から降りて、バトルコートへと歩いていく。浜辺の音が心地よい。
「っていうか大丈夫なのか? ここ……あの豪邸の敷地内なんじゃ?」
「あっ、そういえば教えてなかったね——んジャカパーン……ここ、わたしの家なんだーっ」
「マジかよ……ってことはつまり俺が勝てばこの屋敷もぶんどれたり?」
「それは……どうだろ?」
「へっへっへっ……俄然やる気が湧いてきたぜ。チャンピオンになった俺なら更なる上を目指せるだろうからな!」
「ふふっ……うん、きっと……出来るよ」
「もちろん! ネモにも見ててもらうからな……オレがどこまでも上を目指すところを——隣で!」
「————……わたしも、どこまでも上を目指す姿を見てたいな」
そんな会話を波音に流して、わたしと彼はバトルコートに立った。
「…………そう言ってもらえて嬉しいぜ」
心臓が……はち切れそうだった。
「俺はついにチャンピオンになった。ネモに並び立てるそんな存在に……!」
ずっと楽しみにしていた。
「だから再び名乗ってやろう! それももっと盛大にな!」
この瞬間は……2人だけのものにしたかった。
「俺の名はイレギア! これからアカデミーで、いやパルデアで、いやいや世界で! 誰よりも一番強くなる男だっ!!」
「世界で一番か……やっぱりいいね! わたしはあなたのライバル、ネモ! ——実りある勝負にしよっ!」
戦闘開始を受け、イレギアはヘルメットとゴーグルを外して放り投げた!
時刻はお昼時、学校最強大会からさらに数日過ぎてほとぼりが冷めた頃だった。
「先輩…………はあ、今頃なにしてんのか」
「お前の後ろ」
「うぎゃあああああああああああああああああああ!!?」
ランチを待つ列に並んでいたアヤセのぴったり後ろにイレギアが立っていたのだ。
「キィーキッキッキッ……!!」
彼の頭に留まってイキリンコが爆笑している。
(うわめちゃくちゃむかつく……!)
「んだよ。そこまで驚くか普通」
「驚くでしょ! バカ! バーカ!!」
「おいおいおいおい……事実は悪口にならねえぜ?」
「ああちくしょうこの無敵野郎っ……で、今までどこでなにしてたんです? わりと普通に心配してましたけど」
「ああそれがな? エリアゼロについて母ちゃんに報告してー……は別にいいか」
「めちゃくちゃ知りたいんですけどっ!?」
「まっ、おいおい話すぜ。まずスマホが壊れちまってな。連絡とかは奇跡的に無事だったんだけどそれ以外バキバキでな。新しいのに買い替えてた」
『おかげで中に居たロトムにどやされた』とも語る。
「さらにその後、1年前の宝探しでやりたかったことをふと思い出してな。免許取ってた」
「さらっと……そんな数日で取れるもんなんですか……?」
「全部の試験に一発合格すればほとんど一日で終わるぜ?」
「うそぉ……」
「まあガチりすぎてスマホの連絡見てなかったから、その辺はめちゃくちゃネモに怒られたな」
「そりゃあそうでしょう……」
「それより学校最強大会なんてのがあったんだって? うわー……俺も参加するんだったぜ! まるまる免許取ってるのに時間割いちまったぜ……」
「ああそれなら定期的に行うってハッサク先生が……——」
「なにっ!? なら早速エントリーしてくるぜ!」
「あっ、ちょっと先輩!? お昼ご飯どうするんですかっ!」
「ん? アヤセはダチと食うんだろ? 俺が居たら楽しみにくくね?」
「え……いやまあ、バンドのこれからについて話しますけど……」
学校最強大会での演奏がわりと好評だったらしく、校内でライブを催すことになったという。ハッサク先生は泣いた。
「だったらお前らで楽しんでけ! というか俺はネモと昼食べる約束してっからさ。そんじゃお疲れさまでス……はもういいか。じゃあな!」
「ジャーナー!」
イレギアたちは足早に、しかし廊下を走らずに食堂から立ち去った。
「はあ、お疲れ様です…………あれ? そういえば先輩がスター団じゃない恰好だったの初めて見たな」
「今回も始まりました学校最強大会!! それではさっそく第一回戦! 注目のカードは……!?」
「よーし、今回も頑張るぞー!」
「1-A チャンピオン、アオイVS……」
「相手は……——え!?」
「2-D 最強“副”生徒会長、イレギア!」
「いきなりアオイかあ〜っ? だがッ、今の俺たちなら勝算しかねえぜ!」
「いつか出てくるだろうとは思ってたけど……っていうかえっ、副生徒会長!? あとスター団の格好じゃない……!?」
「ネモから聞いてなかったか? それなら、んジャカパーンっとサプライズだ!」
「何があったのかはこの後聞きます——でも今は……!」
「おうともよ! チャンピオン同士のポケモンバトルを見せてやりまス……ぜ!!」
その日から、テーブルシティとコサジタウンの間でボーマンダの空飛ぶタクシーが頻繁に見られるようになったという。
「成り上がろうぜ《テラスタル》! 勝てば栄光は俺らのものだ!!」
彼のアホみたいな向上心は留まることを知らない。
2人のバトルの行方は……どうした方がいいですか? 適当に考えといてください。
しんみりした形ですがこれで一旦エンドです。ありがとうございました。