最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった   作:うみじゃけ

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29.お面被って祭囃子!鬼退治フェスと本物の鬼?

 

 

 

—キタカミセンター—

 

 

 

 どこか懐かしさと物珍しさが交差する祭囃子。

 

 道行く人の誰もがお面を被っているその場所にはオモテ祭りが開かれているのだった。

 

「どーよ。こーんな大きな祭り、パルデアでもやってないんじゃない?」

 

「確かににぎやかでスター!」

 

 青い甚平姿のゼイユが誇らしそうに語る横でイレギアがいつものヘルメットに金ぴかの甚平という珍妙な恰好で思案顔を見せる。

 

「でもパルデアのケンタロス追い祭りの方がもっと盛り上がってるぜ?」

 

「はあーっ!? これだから都会人はムカつくのよ! もっかいアーボックツイストかけられたい!?」

 

「ぐえーっ、もうやられてまスター!」

 

 ゼイユとイレギアがじゃれている姿をアオイとスグリは引き気味で眺めていた。

 

「うわ、ねーちゃんのアーボックツイスト……おれ以外に仕掛けてるとこ初めて見た。なんか新鮮だべ」

 

「あわわ……と、とりあえず撮っとこ」

 

「いででででえ! 見てないで助けてくれー!」

 

「すごーい! ホントにお祭りだ!」

 

 アオイがどさくさに紛れてシャッターチャンスを捉えたところで階段の下からポダン、ナモ、プペー、そしてキンシバイが現れた。

 

「あ…………」

 

 スグリは言葉に詰まってからアオイの後ろに隠れてしまい、それと代わりになるようにゼイユがイレギアを解放してから笑顔を取り繕ってから4人に駆け寄った。

 

「あら? よそも……アカデミーの方々、とキンシバイさん! どうしてこちらに?」

 

「ひ、ひどい目に遭ったぜ……」

 

 一方でゼイユに締め上げられたイレギアはアオイの苦笑を真に受けていた。

 

「先輩に誘われたの。こんな面白そうなら着替え持ってくるんだった!」

 

「あれ……ブライア先生は?」

 

 アオイの質問に答えるのは一歩前に出たキンシバイだ。

 

「テラスタルの調査があるからと断られてしまいましてね。まあ、あの人はそのためにキタカミに来たらしいのですから理解はできますけどね」

 

「早く来て! ヨーヨー釣りがある!」

 

「あっ、待って待って!」

 

 ポダンの呼ぶ声にプペー、そしてナモが続き、キンシバイも『では、ボクも』と告げてから彼らを追いかけて行った。

 

「……やっぱりアオイ以外の人と話せる気しねえべ」

 

 アオイの後ろに隠れていたスグリは暗く俯きながらため息を吐く。

 

「でもイレギア先輩にはそれなりに話せてない?」

 

「う、うーん……なんかあの人には話しかけてもいいオーラっていうか……とにかくなんかズカズカいけんだ」

 

「それは、わかる」

 

「おおっ! それならスグリィ! スター団に入らねえか? 泣く子も笑うスター団によお!」

 

 イレギアが迫真のスター団ポーズを披露する姿にスグリは小首を傾げた。

 

「スター団……? いっつも言ってるすたーってやつに関係してんだべ?」

 

「よくぞ聞いてくれたな! スター団ってのはな——」

 

「あーはいはい。アホのこと聞いちゃダメよスグ」

 

 スグリが気になって尋ねるとイレギアが食って掛かる……しかしゼイユが間に入って止められてしまうのだった。

 

「それはそれとして、せっかく祭りに来たんだもの。記念にみんなで写真撮りましょ。あんた、ロトりぼう貸しなさい」

 

「スター団についてはまた後でにするか……ほらよ。どうやって撮るよ」

 

「あたしが中央でスグとアオイのチビコンビを隣に……あんたは適当なとこに映ってなさい」

 

「分かったぜ!」

 

 ゼイユはあくまでも自分最優先で、イレギアは雑に扱われているようにも見えるが本人は悪い気はしていなさそうだった。

 

(チビコンビ……確かに2人に比べたら身長は低いけど……)

 

(おれだって毎日牛乳飲んでるのになんでねーちゃんとこんなに……)

 

 それよりもアオイとスグリはナチュラルな正論に打ちのめされていた。

 

「2人とも突っ立ってないでこっち来なさいよー!」

 

 ゼイユがロトりぼうを掲げて画角を整えていると、アオイとスグリの2人がその両隣で脚を伸ばした。

 

「アオイ、スグも、もうちょっと寄って……あとあんたはちょこちょこ動き回んないで!」

 

「ゼイユが屈まねえから俺が映んねえじゃねえかよー!」

 

「ねーちゃん足踏んでる!」

 

「ちょっとぐらい我慢しなさい!」

 

「足がプルプルしてきた……」

 

「おっ、この角度いいんじゃね? アオイ、もうちょっと耐えてくれな!」

 

「行くわよ……はい、ピッピ!」

 

「ピッピ!」「ピッピ―!」「ぴっぴー……!」

 

 ——『パシャリ!』

 

 フラッシュとともに一瞬がスマホに切り取られる。

 

 それによって足を伸ばしていたアオイはふぅと一息つき、スグリがその隣に歩み、イレギアはゼイユに写真の程を見せてもらっていた。

 

「お祭り感満載で良い感じね……あんたはブレてるけど」

 

「うわっ、マジじゃん。撮り直さねえ……?」

 

「だーめ。写真2人に送っておくわね……オモテ祭りは3匹のともっこさまの雄姿を讃えるお祭なの。ともっこさまはかつてキタカミを悪い鬼から守ったポケモン! あたしとか村の子のお面もありがた~いともっこさまの顔なんだよ」

 

 ゼイユはスマホを操作しながらオモテ祭りとキタカミの伝説について得意げに話し始めた。

 

「ほえーっ。オリエンテーリングで全部の看板見たけど、確かに鬼は悪者でともっこさまの素晴らしさってのが描写されてたな」

 

「……ふふふ」

 

 素直に頷くイレギアの傍ら、スグリが意味ありげに俯きながら微笑む。

 

「ああん? なに笑ってんのよ」

 

「べ、別に! 鬼さまのこと、なんもわかってないなーって思って……」

 

「はー!? キタカミ伝説はあたしのほうがくわしいっての! 弟のくせにナマイキ!」

 

「うぅ……」

 

 しかしゼイユの一喝に萎縮してしまうのだった。

 

「スグはお子ちゃまだから、悪的な存在にあこがれちゃうのよねー。ともっこさまより鬼のほうが好きなの」

 

「でも伝説として語られる話ってのはだいたい歴史的な齟齬があるから、スグリの言い分も聞いた方がいいぜ?」

 

「…………」

 

 ゼイユが何の気なしにイレギアの手を掴み……次の瞬間、彼にアーボックツイストを仕掛ける!

 

「急に博識ぶって! 腹立つのよあんた!!」

 

「ぐえーっ! 2連続でスター!!」

 

「……あんま話してないけど、この人のこと大体分かった気がするべ」

 

「あはは……」

 

 人見知りなスグリが受け入れていることにアオイはイレギアのことを尊敬に近い感情を抱きながら苦笑いを浮かべていた。

 

「さーて、開放されたし……うっひょー! バトルに負けた分、遊んでやりまスター!」

 

「あたしは焼きそばでも食べますか……それと! あたしはアオイに負けたのであってスグに負けたわけじゃないからね!」

 

「う、うん……あっ、アオイ! りんごあめ食べよ!」

 

「りんごあめ……!? おいしそう、食べてみたい!」

 

 ここから4人の祭りが始まろうとしていた。

 

「――――」

 

 その祭囃子の裏で、ひょっこりと輝く緑の面を被った小さな何者かが現れた。

 

 

 

 

 

「ぐおーっ! チーゴあめ苦えー!」

 

「アギェー……!」

 

「クヌェー……!」

 

 祭りは人間もポケモンも楽しんでおり、特にイレギア、アオイはポケモンたちを解放して一緒に巡っていた。

 

「俺っ、スグリとおそろのお面にするー!」

 

「じゃあワタシは……イーブイにする!」

 

 アオイのウルガモスやフワライド、イレギアのイキリンコやギャラドスは空から祭りを眺めており、ウェーニバルとサーフゴーは音頭に合わせて踊っていて、デカグースやシビルドンはかき氷に頭を痛めたり……祭りに様々な彩りを添えていた。

 

「いいねいいね! みんな生き生きしてるよー!」

 

「ワタシも写真撮っとかないと……」

 

 サザレがその光景をカメラに収めていくのに続いてアオイもスマホを構えて撮影していった。

 

「こうやってたっくさんのポケモンに囲まれながらの祭りってのも、悪くないわね」

 

「んだな。それにパルデアから来ただけあった見たこと無いポケモンばっかだべ……」

 

「あはっ、ウルガモスが甘酒で酔ってる! 踊ってるみたい~」

 

「お前らキタカミセンターから出るんじゃねーぞー! ……ん? ありゃあ……」

 

 ヘルメットの側面に鬼のお面を被ったイレギアの目に留まったのは、『鬼退治フェス』と書かれた看板だった。

 

「『鬼退治フェス』ね。キタカミで人気のイベントよ。あんたちょうどライドポケモンいるしやってみたら?」

 

「なんか面白そうだしやってみまスター!」

 

「それなら特別にあたしが教えてあげてもいいわよ? まっ、あたしの点数は越えられないでしょうけどね」

 

「よっしゃ! 頼むぜゼイユゥ!」

 

「…………」

 

 やんややんやと騒ぎながら遠くに行っていくイレギア、そして特にゼイユを、スグリは黙ってどこか意味深に眺めていた。

 

「スグリ? どうしたの?」

 

「えっ、あ、ああ……」

 

 そこをりんごあめを食べ終えたアオイがひょっこり横から顔を出す。

 

「ねーちゃん、キタカミによそ者が来るってすげえ嫌がってたのに、案外仲良くしてるなーって……なんか変な感じだべ」

 

「ふーん……もしかして、やきもち?」

 

 アオイがイタズラに笑みを浮かべて尋ねると、スグリはぴょんとちょびっとだけ飛び跳ねて驚いた。

 

「なっ! そ、そんなわけねえべ! 別にそんなねーちゃんのことなんか……」

 

「えー? ホントにそうー?」

 

「ほ、ほんとにほんとだべ!」

 

「でも顔赤くない?」

 

「赤くない!」

 

「赤いよー」

 

「うぅぅ……アオイのいじわる……」

 

「あははっ、——ん……?」

 

 顔を隠すスグリとそれを追いかけるアオイ……ふと、アオイは視界の端に映った何者かを二度見して中央に据える。

 

「————」

 

 小さな子どもだった。緑色のちゃんちゃんこを被ったような姿で、足は足袋を履いているよう。そしてなんといってもここで売られているのとは違う、宝石で飾られているような緑のお面を被っていた。

 

「————あ」

 

 その子どもはアオイの目線に気づいたのか、キタカミセンターの外へ駆け出していく。

 

「アオイ……?」

 

「あっ、ごめんごめん、ちょっとワタシ行きたいところ見つかったからー!」

 

「行きたいところって……そっち祭りの外だべ……?」

 

 アオイはスグリを残して1人、子どもを追いかけていった。

 

「……いた」

 

 祭囃子が少し遠くに聞こえるその場所で、アオイは駆け出していった子どもを見つける。

 

 アオイが子どもを気になったのは特に理由などなかった。ただ己の勘がついていくべきだと感じたためだ。

 

「ぽに……?」

 

 不思議な子がお面越しにアオイのことを見つめていた。

 

「お祭り楽しい?」

 

 アオイはその子どもに近づいて、視線を合わせるべく屈んで尋ねる。

 

「ぽにおっ!」

 

「ふふっ、良かった!」

 

 知っている言葉ではない。だが、楽しんでいることが分かったのでアオイは嬉しそうに笑った。

 

「おおーい……」

 

「ん、あっ、スグリ」

 

 そこへアオイを追いかけてかスグリが姿を現す。

 

「急に走ってさどうしたべ。あの人の鬼退治さ始まっちまうぞ」

 

「…………!」

 

 スグリの言葉に反応してか、その子どもはキタカミセンター特有の三角の鳥居を潜って山へと駆けていく。

 

「え、あ、あの子は……?」

 

「分かんない。でも、山に行ったら危ないよー」

 

 アオイが手を伸ばして子どもに触れようとしたその時、子どもはそよ風のようにふわりと浮き上がり、軽業めいて一回転して階段を一気に飛び上がる。

 

 ……しかしその際に体勢を崩してしまい、輝くお面を階段下、つまりアオイたちの元に落としてしまう。

 

「が、がお……」

 

 子どもの顔はニンゲンとはかけ離れたオレンジ色で、その瞳には五芒星が映し出されている。

 

「落とし物……あ」

 

 アオイが輝くお面を拾って子どもに差し出そうとするも、子どもはそれよりも先に山へ姿を消してしまった。

 

「行っちゃった……」

 

「見たことない子だったべ。観光客だべか?」

 

「うーん……どっちかって言ったら、ポケモン?」

 

「ポケモン……山に、それにお面……あ、れ……」

 

 スグリがアオイの拾ったお面を見て自身の顎に触れながらぶつぶつと呟いて考察を綴る。

 

「公民館にあるお面に似てる……ってことは……本物の鬼さま!?」

 

 その結論に至るとスグリは真っ先に階段の先に駆け出すも、アオイが服の裾を掴んで引き留めた。

 

「ちょっ、ちょっと、夜の山は危ないよ」

 

「で、でも! 鬼さまがほんとにいたんだ! ほんとにいて……でも、ほんとかどうか確かめねえと!」

 

「前に夜の山に行っていっぱい怒られたって言ってたじゃん!」

 

「そ、それは……うぅぅ…………」

 

 アオイの言葉を聞き取ってスグリは引っ張られた裾に向かって数歩歩く。

 

「明日、一緒に行こっ。お面も返さないとだし」

 

「…………んだな」

 

「スグー? アオイー?」

 

 するとそこへゼイユが2人を呼びながら近づいてくる。

 

「何よあんたたちこんなところで、何してたの?」

 

「実は——」

 

「あっ、わーわーわー!」

 

 スグリがアオイの前に立って言葉を掻き消した。

 

「うるさいわねスグ! 手ぇ出すよ!」

 

「なんでもないから……そ、それより、あの人! あの人の鬼退治フェスさどうなったべ……?!」

 

 必死に取り繕うスグリを訝しげに見ていたゼイユだったが、やがて興味を無くしたのか振り返る。

 

「まあ? 鬼バルーン割り王と呼ばれたあたしに比べるとちょーっとそこそこって感じだけど、なかなかいい筋はしてたわ。落馬しまくってたけど。あんたらもやってみなさい。意外と簡単だから」

 

 それだけ言い残すと再び祭囃子に歩いて行った……姉がいなくなったのを確認すると、スグリは大きく肩を落としてため息を吐いた。

 

「あ、危なかった……!」

 

「どうしたの急にあんなこと言って……別に話しても良かったんじゃない?」

 

「……村のみんな、鬼さまを悪いやつだって思ってる。それなのにねーちゃんたちに知られたら、みんな、鬼さまを倒しに来るかもしんねえ……だから、このことはおれとアオイの秘密……な?」

 

「…………そうだね。わかった! 秘密!」

 

 アオイが小指を立ててスグリに差し出すと、スグリもまた小指を立ててその指に絡ませるのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「ぃよっしゃあ! 記録塗り替えてやったぜ! 俺とモトトカゲが合わされば百人力ってなっ!」

 

「嘘でしょ……あんな落馬しまくってたくせにあたしが長年維持してきた記録を塗り替えたですって!? どんなインチキ使ったのよ!」

 

「インチキとは失礼な。モトトカゲがきのみを集めて俺がポケモンを追い返す役割分担で解決したぜ!

 

「普通、逆だべ」

 

 戻ってきたスグリの冷静なツッコミ。アオイは苦笑いを浮かべていた。

 

「こうしちゃいられない……あんた付き合いなさい! あたしと競走よ!」

 

「競走だと!? うっひょー! バトルは喜んで受けてやりまスター!」

 

「先輩の走りに興味あるから行ってみない?」

 

「んだな」

 

 再びフェス会場へ駆け出していくイレギアとゼイユ、そしてそれを見物しに手を取り合ってアオイとスグリは追いかけるのだった。

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