最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
一通りオモテ祭りを楽しんだゼイユとスグリは、アオイとイレギアを公民館に送ったのち帰路についていた。
「んー! 楽しんだわねー!」
「……んだな」
祭りの熱気も冷めやらぬゼイユに対してスグリは何かをひた隠しにするように暗い印象を姉に抱かせていた……さしものゼイユも唇を尖らせて弟に詰め寄る。
「何よ、しけた面なんてして。あたしとの祭りが楽しくなかったっていうの?!」
「べ、別にそういうワケじゃないけど……それより、ねーちゃんに聞きたいんだけど、どうしてあの人……イレギアって人に仲良くしてんだ?」
スグリが急な話題の変更にゼイユが眉を顰めるも、出された話題が話題なこともあり、ゼイユは顎に手をやって空を仰ぐ。空には都会よりも星がよく見えていた。
「行く前はあんなによそ者よそ者ってうるさかったのになーって……」
「そうねー……まっ、あいつが面白い奴だからかしら?」
「面白い……確かに面白い、けど……?」
予想外の返事にスグリは困惑したが、ゼイユはイレギアのアホ面を思い出し笑いしながらどこか晴れやかな気持ちで語っていく。
「喋ってると案外気が合うってことが分かったし。それに知ってる? あいつにも弟がいるんだって。その辺でもなんか似てるーって」
「ふ、ふーん……」
スグリはどこか不安気に視線を逸らす。
姉が他の誰かと話していることについては別に悪い気持ちはしない……むしろ姉が自分を守ってくれているようでうれしくもあった。
ただ今回は少し事情が違う……ように見える。生まれ故郷に土足で入られているのに嫌がっているようにも見えないし、加えて猫を被っているようにも見えない。本心で語り合っているように見えた。
スグリ自身、キタカミによそ者が来ることに悪い気はしていない。むしろアオイという友達が出来たことに嬉しく思っている。
ただ……イレギア。彼が姉を取っていってしまうのではないか、などと考えが過ぎって仕方がないのだ。
「————」
前を行く姉の二歩後ろをとぼとぼと歩いていく。
あまり近いと怒られるし、遠くても怒鳴られる……だから自然とこの位置が体に染みついた。
だがもし、姉がこの距離より離れて歩くことに対して何とも思わず、そのままどこかに行ってしまったら……漠然とそんな不安が心中に黒く渦巻いていった。
「——スグ」
「ん……なに、ねーちゃん」
「なにも何も、家についたわよ。いつまでそんなしょぼくれてるのよ」
ゼイユは家の扉に手をかけて帰り道ずっと様子がおかしい弟に溜め息を零す。
「別に……」
「はーっ!? ねーちゃんにたてつくってワケーっ!?」
「うぅぅ……怒んねえでくれよ……」
「そうだぜゼイユ。あんまし怒ると美容の敵だぜ」
ゼイユが手にかけていた扉が自然と開き、その奥から相変わらずスター団のヘルメットとゴーグルをつけたイレギアが出迎えた。
「おかえり2人とも」
「ん。ただいま。あんた——」
ゼイユがなんでもないような手つきでイレギアの肩に手を置き……思いっきり力を入れてから押し倒す!
「——なんでウチにいるのよおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぐえーっ! 新技でスター!」
「お、おれも見たことない……」
「いつかスグに仕掛けようと修得しておいたのよ! それよりなんで! あんたが! ここにいるのよ!!」
「イレギアせんぱ……は、やられてる」
玄関でゼイユに締め付けられているイレギアを呼んだのは、家の奥から顔を出したアオイだった。
「あ、アオイ……!?」
甚平のアオイの姿を見つけたスグリは目を丸くして驚く……一方でその足元でイレギアはしめつけられている!
「甚平返そうとして寄ったら先輩もついてきて……で、えーと、ゼイユ放してあげたら?」
「…………ふん」
ゼイユは鼻を鳴らしながらイレギアを解放するのだった。
「お、お星様になるところでスター……」
「てかなんで公民館で別れたはずなのにあたしたちより先にここに来れてるのよ」
「アオイのポケモンが『テレポート』持っててひとっ飛びだったぜ」
「アオイあんた……割とアグレッシブじゃない」
「えへへ……」
「わやじゃ」
ところ変わってゼイユの部屋。
「ここがゼイユの部屋か! 趣味が出ていいな!」
2人の祖父母から入れられたお茶——茶菓子は夜遅くということもあってない——を用意したちゃぶ台に乗せて4人がそれに座布団を引きながら周りに座っていた。
「あらそう? まっ、ゲームは一台しかないから半分スグの部屋でもあるわよ」
「何があるっかなー……うおっ、Wii! なっつかしいなこれ! そんでやると言ったらやっぱスポーツだよな!」
「なに普通に物色してんのよ。てか帰んなさいよ、アオイの甚平返すために来たんでしょ?」
「実は甚平くれるっておばあちゃんが言ってくれてさ。どうせお下がりだからって」
「そうなんだべな」
夜も更けていたが、祭りで火照ったままの空気はゼイユも思うことがあったのか、イレギアの誘われるがまま一緒にゲームすることになった。
「せぇのぉ……ダンクシュート!」
「ぐおー……これで10点目でスター……」
「しかもこれでタイムアップ。口ほどにもないわねー」
「ちぇーっ。一番得意だった奴だったのに、全敗かよー」
「ふふん♪ スグにも圧勝だったし、あたしゲーム上手いかもねーっ」
「それならワタシのゲーム強い知り合いとやってみる? パルデアにいる——」
『パルデア』という他所の地域が出たことにゼイユの視線が一瞬だけ鋭くなる。
「あー。まっ、また今度考えてあげるわ。それよりもう帰ったら? あたしもう眠いんだけど」
「そうだな。夜も遅いし……ところで」
イレギアが自分に向けて親指で差す。その顔は実にドヤ顔と形容するに相応しいものだった。
「俺、こう見えて甘党でな。月に一回はパフェ食わないと禁断症状が出るんだぜ」
「どうしたのよ急に。それにそれ病院行った方がいい奴じゃないの?」
「よし、俺の秘密を言ったな! じゃあ次スグリな!」
「えっ、おれ!? な、なんで……」
「そーだなー、具体的には『祭りの最中にあった隠し事』を話してもらいたい!」
「「っ…………!」」
イレギアの一言にアオイとスグリは思わず互いに目を合わせてしまう。
「そういえばあんたたちキタカミセンターから離れたところで2人でなんかしてたわねー。何してたのよー」
「普段俺は他人の秘密をむやみやたらに探ることはしねえ……だが! お前たちからは実に面白そうな匂いがプンプンしやがる! そこに俺がいなくてどうすんだ!」
「そ、そんな隠し事なんて……ね?」
「んだんだ! 秘密なんてなんもねえべ!」
「ふーん……スグ、ねーちゃんに隠し事しようってワケ?」
「え、あ……」
ゼイユの覇気にスグリがどもってしまうが、その隣ではアオイが『がんばって!』と言わんばかりに両手を握りしめている。
「どうしても隠すって言うならいいわ。それならあたしだって考えがある……あんた、手ェ貸しなさい」
「おう」
「あ、わわわわわわ」
スグリは背の高い2人の陰に気圧され、臆することしかできない。
そうしてスグリは……
「あはははははははははははははっはあはははははは!!」
「こちょこちょこちょこちょ~~~~!!」
……めちゃくちゃくすぐられていた。
「ほら! とっとと観念して秘密を吐きなさい!」
イレギアがスグリの両手を縛り、そのがら空きの脇をゼイユがくすぐりまくっているというのが現状だ。アオイはその姿をどうしたものかと困惑していた。
「ど、どうしよう……と、とりあえず撮っとく……」
「えっ!? だっ、だめぇっ……うっひいひひひひいっひひひひ!!」
目の端に涙を浮かべるスグリだったが、それでも姉の手は止まりそうにない。
「話す気になったかスグリィ! そろそろ掴んでる俺の手も疲れてきたぞ!」
「あっ、は、話す……話すからぁ……や、めっへぇ……」
「——って、ことがあったんだ」
ついに観念したスグリは祭りの最中、アオイと鬼に出会った経緯を語った。その流れでアオイもまた鬼が落としていったみどりのめんを彼らに見せるのだった。
「……なるほどね。事情はだいたいわかったわ」
「うっひょー! 鬼ってマジにいるんだな! 会ったらダチになりてえ!」
「アホのことは置いといて、そーねえ……ふぁあ」
ゼイユが考えようと腕を組むも、盛大なあくびがそれを邪魔する。
「もうダメ。眠いわ。詳しいことは朝やりましょ」
「……それもそうだな。俺たちも用があって邪魔しに来たんだし、さっさと帰った方がいいか」
「だね。スグリ、また明日ね」
「うん、また明日……な」
スグリは秘密を守れなかったこと、そしてなにより友達に恥辱を見られたことに恥じらって目をそらしながらアオイにしばしの別れを告げるのだった。
——翌日。
「おはようございまスター!」
「おはよう先輩!」
子供特有の回復力によって朝から元気はつらつなイレギアとアオイ。
「昨日のお祭り楽しかったねキンシバイくん!」
「でしたね。ですが浮かれすぎず、最後の看板を目指しましょう」
「プペー君たちもう最後なの? ぼくたちまだ一個しか終わってないや」
「わたしたちは速さより楽しさとか安全に進んでるから別にイイのよ」
彼らのみに留まらず次々と現れる生徒たちは誰も元気な様子を見せていた。
「うぅ……いててて、年甲斐もなくはしゃぎすぎたかな」
「少しは節操を持つことです……まあ、私も祭りは存分に楽しみましたけれどね」
対してサザレはブライア先生に肩を貸されながら呻きながら現れる。
「さてと……俺たちはとりあえずゼイユたちのとこに行くか。さっきメールで徴集があったからな」
「あれ? 先輩とゼイユって連絡先交換してたんだ。ワタシとはしてないのに」
「そうだったっけ? ……そうだわ。アオイとは道すがら出会うから別に良かったからなあ。とりま交換するべ」
イレギアはスグリの訛りが移りながらもアオイのスマホロトムとの交信を進めていく。
「ネモとはしたけど……思えばペパーともマジボスともしてないな。パルデアに帰ったらしとこ」
そんなことを呟きながらイレギアとアオイは公民館を出る……出てすぐ目の前にはゼイユが立っているのだった。
「待ったわよアオイたち! 待ち合わせしてないけど! ……てかあんたまだそんなテカテカ甚平着てるワケ?」
「おう! カッケェだろ!」
3人とも甚平姿だが、イレギアのヘルメットとゴーグルを装着したその姿は実に異質だった。
「管理人さんからも『ハイカラでいいですね!』ってお墨付きをもらってるぜ」
「あの人、アホから変な影響受けてないといいけど……それより、昨日のこと……言ってないでしょうね?」
「昨日のこと? もしやゼイユが鬼退治フェスで最高記録を塗り替えたことか?」
「それは大いに広めなさい! そうじゃなくて鬼の……って! 言わせるんじゃないわよ! シメるわよ!」
「そ、それは勘弁でスター……」
「それはもちろん言ってないけど……」
イレギアとゼイユのやり取りをもはや日常として受け取って苦笑いすら浮かばなくようになったアオイだったが、それに対してゼイユがそのままのテンションで噛みつく。
「本当でしょうね!? もしウソついてたらドガース丸飲みだかんね!」
「…………」
ゼイユの爆弾発言に通りすがりのドガースがドン引きした様子を見せている。
「おいおいおいおい。俺のドガースがマジかよって顔で見てるぞ」
「わ、悪かったわよ……! っていうかあんたドガースなんていつゲットしたのよ」
「オモテ祭りのときにな。キンシバイから譲ってもらったんだ。『君に似合うと思って』ってさ!」
「ふーん……ま、いいわ。それで昨日のことなんだけど、うちのじーちゃんに色々相談に乗ってもらうことにしたわ。じーちゃんキタカミの歴史に詳しいからさ。うちの場所知ってるでしょ。あのお面持ってとっとと来なさいよ」
「分かった。出てきてサーナイト——」
「足で! ちゃんと! 来なさいよ!」
「…………はい」
アオイは釘を刺されてしまった。