最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
——耳鳴りがひどい。
ゼイユは何者かに押し倒された衝撃で目を瞑ってしまった。
そしてその直後に立っていた辺りに鳴り響いた爆音と圧力が止んでから目を開く……そこには自分に覆い被さるように押し倒しているイレギアの姿があった。
「ばっ! バカっ! なっ、ななな何やってるのよ!」
ゼイユが乙女らしく顔を赤らめて叫ぶ……だが目の前のイレギアの真剣な表情、なにより森に立ち込める敵意の密度に全身に緊張が走る。
そして、理解する。
「大丈夫だったかゼイユ! 怪我はないか!」
……守ってくれたのだ。この男が。
「ワギビィ…………!」
ゼイユのひとまずの無事を確認したイレギアはほっと一息つくのも束の間、彼はすぐさま立ち上がって苦しそうに呻くアカツキに向き直った。
アカツキの額が紅く光ってから轟音が鳴り響いた……上体を起こしたゼイユがふと背後を見てみれば——地を抉り、木々を薙ぎ倒してぽっかりと道が出来上がっていたのだ。
名が表すような赫月めいた残光が未だ空間に残るそのわざは『ブラッドムーン』。凄まじい威力をこの土地に刻んでいた。
「もしこんなの受けたら……ちょっとあんた! 逃げるわ——えっ?」
ゼイユは繰り出していたモルペコが怯えて胸に飛びつくのを感じながら、さらに上から頭に何かが被せられる……気になって空を仰げば、ヘルメットを外したイレギアの姿がそこにあった。
「ゼイユ、動けるか?」
「あっ…………ごめん……足が……」
恥ずかしいことに足がすくんで動けそうになかった。
「そうか。ならとりあえず距離を取るッ——ボーマンダ! ギャラドス!」
目と鼻の先に仁王立ちするアカツキから距離を取るべくイレギアは手持ちにいた体力自慢2匹を繰り出して押し込みにかかる。
「ボオッ!」「ゴゴゴ……!」
ギャラドスとボーマンダはアカツキに【いかく】しながら全身の力をこめるも、まるで巨岩を相手にしているかのようにびくともしない。
「ワギビィッ……!」
アカツキは鈍重な巨体でもって受け止め、相撲がごとく押し合いに入った。
「2匹で競ってる……! ならモトトカゲ!」
「アギャス!」
「ゼイユを抱えて出来るだけ遠くに行ってくれ!」
繰り出したモトトカゲにそう指示を飛ばすと、彼はすぐさま行動に移してゼイユを優しく持ち上げて鬱蒼とした森の中を駆けていく。
「あんたヘルメット!」
「ゼイユが持っててくれ! ……さて」
ゼイユの声が遠くに消えていくのを耳に入れながら、イレギアは目の前の強大な敵に生唾を飲み込んだ。
見ればアカツキは押し込みにかかるギャラドスとボーマンダを力任せに投げ飛ばしていた。わざではなく、単なる力だけで跳ね除けたのだ。
「ギャラドス! 『はねる』と『アクアテール』で牽制! 戻れボーマンダ!」
ボーマンダが手持ちに戻っていくのを横目にギャラドスは再びアカツキに襲いかかる。
今度は全身をゆらめかせて簡単に捕まらないようにしながらも鞭のような動作で攻めにも転じており、アカツキも空を掴むばかりで攻めあぐねていた。
「アカツキは確かリングマの進化系……ならノーマルタイプ、物理型……!」
イレギアはスマホロトムを素早く操作してボックスにアクセスし、すぐさま手持ちを整える。そしてアカツキがようやくギャラドスの身体を掴んで『アームハンマー』の要領で一本背負いしたところで4つのモンスターボールを投げた。
「シャンデラ、『おにび』! サーフゴー、『リフレクター』!」
右手から繰り出されたのはシャンデラとサーフゴー。
アカツキがギャラドスから意識をイレギアへと持っていたところでシャンデラが妖しい紫の火の玉をアカツキに飛ばして火傷を負わせ、サーフゴーは味方全体に物理攻撃に強くなる壁を貼った。
「キリキザン、『かわらわり』! ルカリオ、『はどうだん』!」
次いで左手から繰り出されたのはキリキザンとルカリオ。
ギャラドスが負けじとアカツキの片足に身体を巻きつけて一瞬だけ動きを鈍らせたところでキリキザンは身体を回転させながらアカツキの頭にチョップをお見舞いし、ガラ空きの胴にはルカリオの波導の一撃を叩き込んだ。
「続け! 『ストーンエッジ』、『ゴールドラッシュ』、『オーバーヒート』!」
ギャラドスが大地から岩石を打ち出してアカツキを攻撃しながら拘束し、その隙にサーフゴーが数百のコインをアカツキに差し向けると、シャンデラの煉獄がコインに纏わされて灼熱の弾丸となって襲いかかった。
「ワギッ……ビィ!」
アカツキは攻撃の嵐にたじろぐも、しかし大したダメージにはなっていないのか、すぐさま攻撃に入る——岩の拘束も力ずくでねじ伏せてから地面に手をつき、そこから大地の力を相手に襲わせる!
「『だいちのちから』……!? まさかの特殊……っ!」
冷静なフリだった。思えば初撃も特殊わざで見聞きした常識に囚われていた。
『リフレクター』も意味を持たず、なんとかして避けようとするも、シャンデラが攻撃を受けてしまい吹き飛ばされる——一撃で戦闘不能になる。
「ワギィ————!」
イレギアが手をこまねいている隙にアカツキは再び額を赤く染める……!
「また来る……! 仕方ないっ……キリキザン、『メタルバースト』!」
出し惜しみはしていられない。
イレギアはキリキザンが耐えることに賭けて指示を飛ばす。キリキザンもまた自身の硬さを信じてアカツキの射線の前に立って防御を固め——極太の紅光が放たれる!
「キリ、キ…………!」
ほんの一瞬耐えて見せたが、横薙ぎの力の奔流に地面が先に持たずに一際太い樹木に叩きつけられ、幹をぶち抜いた先の巨石をこなごなにしながら叩きつけられる。
「ザ、ン…………」
結果は言うまでもなく——戦闘不能。しかし耐えた一瞬によってイレギアや他のポケモンは回避に間に合ったのだ。
「戦闘員補給だ! 『ゴールドラッシュ』と『テラバースト』で目眩し、ルカリオはその間に倒れたヤツらをボールに戻してくれ!」
サーフゴーが空中にばら撒いたコインにギャラドスの輝く光線が反射して森を閃光弾めいて明るく照らす。
ルカリオは波導を読み取ることで目を瞑っていてもポケモンの居場所が分かるのでシャンデラとキリキザンを手持ちに戻し、イレギアはギャラドスの巨体の影に入ってスマホロトムを操作する。
しかしアカツキもぼうっとしているだけではなかった。
なんとアカツキの双眸は目眩しの類は効かず、今現在もイレギアたちが行なっていることを見据えていた。
……仕掛けてこない。それを理解したアカツキは『つきのひかり』でもって戦意を高めていった。
「マズイ……このままじゃ押し切られる——!」
そしてイレギアはその高まる気力を感じたか作戦を練り直しながらも指示を飛ばす——そこから先は長い長い消耗戦であった。
サーフゴーの『ひかりのかべ』をものともせずにアカツキの猛攻は続いていき、イレギアもまたポケモンたちへの指示を休みなく行なっていく。
まだ戦闘経験の浅いドガースと先ほど捕まえたピッピを参加させても焼け石に水なので、それ以外……さらに言えばモトトカゲをゼイユの護衛に任せているので5匹で戦う必要があった。
やがて——ラスト3匹にまで追い詰められた。
「そこだッ! イキリンコ、『ブレイブバード』!!」
《テラスタル》したイキリンコの猛然とした一撃。【はりきり】の補正もあってかつ急所に当たったのかアカツキは大きくたじろいだ。
「アトハ、マカセタ……!」
「重ねて攻めろシビルドン、『でんじほう』!」
イキリンコは反動のダメージで倒れてしまうも、イレギアは更にそこに繰り出したシビルドンの電撃の砲弾を浴びせ――電撃がアカツキに触れた途端に霧散する。
「なっ……じめんタイプだったのか!?」
焦りと疲れによる失念。速く倒さねばと急ぐことで相手のタイプを確認するのを忘れてしまったのだ。
「ワ、ギ、ビィ…………!」
イレギアが失ったその一瞬は何よりも彼に重くのしかかる――アカツキは既に『ブラッドムーン』を発射する準備を整えていた!
「くそっ、逃げろ2匹とも――」
最悪の未来を回避するべくシビルドン、そしてもう1匹に指示を飛ばす……しかしそのもう1匹は射線から逃げるどころかむしろ無謀にもアカツキに向かっていったのだ。
「デカグース!?」
そのポケモンはデカグース。イキリンコの次にイレギアが手に入れたポケモンだ。
そんな彼は散々痛めつけられたことに腹を立てていたのか、元来の噛みつき癖によるものか、アカツキの額に向けてその大口を開いて跳び上がっていった。
「っ――やるってんなら任せたぜ! 『かみくだく』!」
「グゥゥゥウウウウウッ!!」
そして赤々と煌めくアカツキの額をデカグースは力の限り噛み砕く!
エネルギーの出口を失った『ブラッドムーン』――紅い閃光が周囲を照らした直後、爆撃めいた衝撃が迸る!
「ぐわっ……!!」
イレギアもまたその鮮烈な光と圧力に吹き飛ばされてしまうも、光が止み、空から土埃が散っていく静寂が訪れると飛び跳ね起きて戦況を確認する。
「アカツキは……デカグースは……大丈夫かシビルドン!」
同じく衝撃に吹き飛ばされたシビルドンを地面から抱き起すと、彼女は少し呻いてから意識を取り戻し、驚いた様子で彼の腕から跳び上がった。
「お前は大丈夫みたいだな……っ、デカグース、アカツキ!」
イレギアはほんのひと時だけほっと胸を撫でおろすも、黒煙が晴れて露わになった爆心地へと急いだ。
そこには――大の字に倒れているアカツキとデカグースがいた。
両者共倒れ、戦闘不能である。
「ワギ……?」
「グゥウウウ!」
アカツキは正気を取り戻したように目を覚まして周囲を伺い、デカグースもまた口から煙を出しながら元気よく起き上がった。
「良かった……ったく、デカグースよぉ! お前のやんちゃっぷりには驚かされたぜ!」
「グーグー!」
戦闘終了。
緊張を解いたイレギアがいつもの笑顔でデカグースを起こしに行き、疲れを労って身体を撫でる。デカグースは今更ガクガクする顎を撫でている。
「アカツキも、スゲェバトルだったぜ!」
「ワ、ギ…………?」
起き上がったアカツキがイレギアの告げた言葉に対して不思議そうに首を捻った。
「なんだよ……まさか、さっきまでのこと覚えてないのか?」
「……ワギ」
アカツキは痛む身体をさすりながら首を縦に振って見せた。
「てっきりバトルに張り切りすぎたのかと……なんて、そんなわきゃねえよな」
イレギアは最初、アカツキが見ていたであろう方角を見つめる――ファイアロー並みの視力でも暗がりと披露による霞みでよく見えなかったが、確かにあの時誰かいた気がしたのだ……そこまで考えたところでイレギアの全身から力が抜けていった。
「シビビ……!」
すかさずシビルドンが彼の背中に移って、彼をぶよぶよのその身体に寄りかからせながら地面に座らせた。
「おっ、と……ありがとなシビルドン。このまま寄りかかってちょっと寝ていいか? 流石の俺も疲れたぜ」
「シビビ―」
「グー!」
シビルドンの肯定を受け取ると、デカグースが未だ元気を振りまいてイレギアの足元に寝っ転がる。体重は決して軽くはないものの、それでも確かな毛の暖かさは毛布のようだった。
「アカツキも、そのまま、休んで……」
イレギアはそれだけ言い残すと目を閉じて一時休息に入るのだった。
とこしえの森の奥深く、そこで起こったことは村にまでは届いてないものの、そこに住まうポケモンたちには激震が走っていた。
興奮冷めやらぬポケモンたちが暴れる中を――キンシバイは平然と歩いていく。
「ボールを壊して僕が代わりに捕まえようとしたけど……残念、負けてしまったみたいだ」
「モモワー?」
野生のポケモンが急に静かになったかと思いきや、彼の横に桃のような姿をした浮遊するポケモンが現れる。
「今のうちに捕まえようにも……ね、作戦が失敗したうえでアドリブで動こうとするのは更なる失敗を生むんだ。今回は大人しく引かせてもらうよ」
「……モモ、ワーイ」
そのポケモンは了承したように、そしてご機嫌な様子でキンシバイの周りと飛び回る。
「ありがとうね、モモワロウ。それにそろそろだね。そろそろ……キミの友達を迎えに行かないと」
「モモモ! モモワーイ!」
「ふふふっ、それじゃあ。ポケモンたちを森に返してあげて。ボクはこんなに要らないから」
キンシバイのお願いを引き受けたモモワロウは周囲に服従していた、先ほどまでパニックで暴れていたポケモンたちに何やら告げると、彼らは紫色の靄を全身に揺らめかせて各々のいた場所に戻させていった。
「……それにしても、やっぱりイレギアは凄かったな」
静まっていく森の中でキンシバイは呟く。
「1年前はバトルなんてしてなかったのに、もうポケモンたちを手足のように動かせている……僕も見習わなくっちゃな。そうじゃないとこの先やってられない」
まるで過去を懐かしむように、未来を憂うかのように空を仰いでいた。