最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった 作:うみじゃけ
切実に自分以外の作品を見てみたいんですけど
夕焼けが滲む空をボーマンダの空飛ぶタクシーが翔ける。
タクシーにはつまらなそうにしているゼイユが上を気にして頬杖をついていた。
「ねえーっ、そういえばパルデアにお土産とか買っていくのーっ?」
ゼイユは切り裂く風音よりも声を上げて上で運転しているイレギアに問いかける。
「んー……そーだなー……まあ買っておこうかなー……」
返ってくるのはやはり上の空の曖昧なイレギアの声。ゼイユはそれに眉をひそめながらも声を張り上げる。
「そう、ならあたしが選んであげても良いわよーっ?」
「そうかー……そいつは……嬉しいなあ」
「あーもう! なんなのよさっきからムカつくわね! なにがあんたをそんなうじうじさせてんのよ!」
「うじうじって……理由ならさっき言ったろ。アカツキにコテンパンにされたんでもっと強くならねえとなってさ」
「……あっそ」
「そっ」
「…………」
「…………」
「「……………………」」
沈黙の間を風切り音だけが過ぎ去っていく。
とこしえの森から飛び立つ前のことだ。
ゼイユはイレギアの助けもあってアカツキから逃亡してしばらくは森の中に隠れていたのだが、戦闘音が止んでもイレギアから返事が来なかった。
心配になって一緒に避難したモトトカゲに乗って来た道を戻ると、そこにはイレギアのポケモンが勢ぞろいでピクニックをしているところだった。
バトルで汚れたポケモンたちをイレギアが綺麗にし、ルカリオが『いやしのはどう』で回復する……そんな現場に到着したゼイユはその光景に一瞬ポカンとなるも、すぐさまイレギアに詰め寄ってどうして連絡を入れなかったのかを問い詰める。
「だって圏外だったし」
「ああ確かに……てか! それならポケモンの使いでも寄越しなさいよおおおおおお!」
アーボックツイストが一度仕掛けられたところでイレギアたちは夕焼け空を仰いでスイリョクタウンに戻ることになる。
森の入り口に残していたタクシーに向かうまでの道のりを、イレギアは全く口を開かなかった。
いつもの調子であれば先ほどのバトルについてバカらしく語るというのに……ゼイユは気になって聞いてみた。
「勝てたは勝てたけど……トレーナーとしては負けたかな。1匹のポケモンに大勢で戦ってギリギリの戦い。世界の広さに驚かされたのと、自分のいる位置にちょっと……堪えたな」
イレギアは本気で落ち込んでいた。
ゼイユはそれに「そう」とだけ答えてどう触れればいいのかわからず、黙ったり、時々意味のない会話で盛り上げようと彼女らしくない反応を見せていた。
そうして数十分が経過して現在に至るのだが――ゼイユはスマホロトムを取り出して通話機能を使う。
連絡先は果たして家だった。
「――あっ、ばーちゃん? 突然で悪いんだけど――」
スイリョクタウンに到着する頃には空には夜の帳が下りていた。
「すっかり夜ね。スグたち、ちゃんとオリエンテーリング出来たかしら」
「……さあな」
イレギアはゼイユとは反対方向からタクシーを降りる。返事といいその行動といい、ゼイユの精神を逆撫でする行為に彼女は無言のまま両手を握り震わして怒りを露わにする……が、すぐに平常心に戻る。
「もうすぐ夕飯だな。アオイたちももう戻ってるだろうから、オーガポンについてはまた明日な」
話もそこそこにイレギアが公民館に向かおうとしたところ、ゼイユはその腕を掴んで引き留める。
「ん……どうしたよゼイユ? そーいや結局フルバトルは出来なかったけど」
「そんなん別にいいわよ……ねえ、今日うちに泊まりなさいよ」
「…………はあ?」
ゼイユの突然の誘いにイレギアは素っ頓狂なアホ面を晒す。
「何を急に……え?」
「言っとくけどあんただけじゃないから。アオイも誘ってきて。それじゃ、家で待ってるから……テレポートで来ないでね」
ゼイユはそれだけ言い残すと自分たちの家へと先に向かっていった……イレギアはその後ろ姿を突っ立って見ていた。
「え、ええ……?」
ひたすらその表情を困惑に塗り固めて。
「やっぱゼイユたちの家ってデカいよな。昔お面職人だったことに関係してんのかな?」
「あるかもですね。ここだけ村から離れてますし」
夕飯を終えたイレギアはアオイを連れて2人の家にまで訪れていた。泊まるということなので2人とも必要最低限のものを持って門を潜る。
「遅いわよ2人とも! あたしをよくも待たせたわね!」
家の門に入ると扉の前でゼイユとスグリが待っていた。
「あっ、アオイ……イレギアさんも、えっと、こんばんは……」
「さっきぶりだねスグリ。それで……どういう?」
「実はおれにもさっぱり……ねーちゃんどういうこと?」
「玄関前で話すのもアレだからとっとと上がんなさいよ。デザート作ってあるから、一緒に食べましょ」
一足先に家の中に入っていったゼイユを残った3人は視線で追っていく……やがて3人で目を合わせる。
「ほんとにどういうことだべ?」
「さあ? 急に泊まれっていうからさ。まっ、人ん家に泊まるのはワクワクイベントの醍醐味だからな。ありがたくお邪魔させてもらうぜ」
「ですね。お邪魔します」
「ん。お邪魔されるべ」
その後はゼイユらの祖父母が用意したデザートにみんなで舌鼓を打ったり、ゼイユの部屋でゲームして一喜一憂するなど楽しく過ごしていた。
そうして時は経ち、就寝時間が訪れる。
「布団も用意してもらって……ありがとね」
「いんだべこんくらい。それにしても、広い部屋でみんなで寝るなんて……なんか久しぶりでワクワクすんな」
「だな! しりとりでもするか!」
「初手で挙げるものじゃないわね」
それぞれの声が届くように家の広間4人でバッテン上になって布団に寝っ転がっており、流石のイレギアも寝るときはヘルメットを外していた。
「おれ、イレギアさんのヘルメット外した姿初めて見たべ」
「ワタシも……
「ばとる……なんだべそれ」
「うーん、アカデミーのバトル大会……かな?」
「俺もそこそこ勝ち上がったことあるけど、最終的にはアオイとかネモ……ああ、俺のライバルな。そいつらに負けちまうんだよなあ……」
「…………」
イレギアの言葉尻が弱くなっていくのにゼイユは気づいてゆっくり口を開く。
「ねえ、あんた」
「ん? しりとりか?」
「そんな不毛なことしないわよ。で――ちょっとは元気出た?」
ゼイユの発言にアオイとスグリは顔を見合わせるも、イレギアは目を丸くして驚いていた。
「な……なんだよそれ。俺はいつも元気満々だぜ?」
「なら語尾のすたーはどうしたのよ。昼間のバトルの後から無くなってるわよ」
「あ…………」
イレギアは不意を突かれて押し黙る。
「そういえば先輩が言ってるの、家に来てから聞いてないかも……?」
「ねーちゃん、よく違いに気づいたな」
「あんだけ言われてたら気づくわよ。星を描くあのへんなポーズもしないしさ。で……ちょっとは、元気出たかしら?」
ゼイユの諭すような質問に、イレギアはしばらく黙ってから急に毛布を剥いで立ち上がってスター団ポーズを披露する。それにアオイとスグリはあっけらかんと眺め、ゼイユはホッとしたように溜め息を零した。
「ありがとうございまスター。夜だから声は控えめにな」
「動きはひたすらにうるさいけどね」
「気づかせないようにしてたんだかな……ゼイユにゃ気づかれちまったか」
それだけ言ってからイレギアは再び毛布に潜り込む。
「アオイとスグリには言ってなかったけど、実は俺の新しい仲間がバトルで張り切っちまってな。俺がなんとかして止めたんだが……それでちょいとコテンパンにされちまってな。そこでかなり堪えちまったんだ」
「意外、先輩でも挫折とかするんですね」
「いつもしてるぜ? だからバトルの時はいつも撮影して何がダメだったか研究して、次こそ勝とうってしてる」
「撮影なんてしてたかしら?」
「してるぜ? 胸ポケットにカメラだけ出して……」
「隠し撮りの能力が高いべ」
「研究して努力して……それでも届かないことは今でも山ほど重ねてる。ネモにはまだ一勝もできてないからな。それでも勝ちたくってさ、ああ……そうだな。なんで落ち込んでたんだろ」
イレギアの声から熱が帯びていく。
「俺さ。アカデミーの人気者になりたいんだ。なって、みんなにちやほやされて、テッペンの景色を見てみたい! そっからはきっとアカデミーの全部が見れる……その先はパルデア全部、その次は世界全部! その景色はきっと最高の景色だからな……!」
イレギアのその目は天井の木目を越えて、はるか天井……星空を映していた。それをゼイユは頬を緩めてそんな彼の姿を瞳に収める。
「そんならこんなところで落ち込んでる暇ねえよなっ、ありがとうゼイユ! おかげで立ち直れまスター!」
ふとイレギアがゼイユの方を屈託のない、明朗な笑顔でもってお礼を告げる……当のゼイユは不意打ちに見たその笑顔にギョッとして寝返りをして顔を逸らしてしまう。
「そっ! それならいいわ……これはあくまであんたが舎弟で、舎弟の雰囲気が悪いとあたしまで雰囲気悪くなるからってだけだから……!」
「おう! それもそうだな!」
ゼイユが毛布をかぶっている様子をアオイとスグリが顔を近づけて囁き合う。
「にへへ……ねーちゃん、恥ずかしがってるべ……」
「舎弟だから、だってー」
「ちょっとあんたら聞こえてるわよ!」
「わははっ、なんか気分いいぜ。そうだせっかくだしスター団の知られざるエピソードを語ってやろう」
「おっ、気になる気になる」
「そもそもおれ、スター団がなんなのか聞いてねえべ」
「そういえばあたしも……寝る前に聞いてあげなくもないわよ」
「それならアオイにもいちから聞かせてやるぜ——!」
イレギアはスター団として過ごしてきた日々を懐かしむように——そもそもほとんど一人だったので組織として行動したことはほとんどなかったのだが——時々、スター団になる前のことも話していっていた。
……そんな時、イレギアはとある人物の姿が脳裏を過ぎる。
「あ————」
「なによ急に黙り込んで。それで、その御曹司がそのあとどうなったのよ」
すっかりアオイもスグリも眠った中でもゼイユはイレギアの面白おかしな物語を聞いていた。
「あ、ああ、それはだな——」
イレギアは脳裏に過ぎった人物を鮮明に思い出していく。
黒い短髪、中性的な顔立ち、そして——秘密主義者。
一年ほど前……『スター大作戦』が始まるよりも前にアカデミーを去っていったその友人のことを。
「……ふむ」
キンシバイは自室で空に煌々を煌めく月を窓辺から眺めながら淡く呟く。
「モモ……」
その隣にはいつものようにモモワロウが浮かんでいるが、その声色にはどこか憂いが帯びていた。
「いい夜だね。満月だ……それとも、友達のことを考えていたのかい?」
「モモワーイ」
桃が微かに縦に振れる、肯定。
「大丈夫。友達にはもう『お供え』をしたろう? だったら明日の朝には目を覚ますさ。オリエンテーリングはもう終わったから……プペーさんには断ってふたりで見に行こう」
「モモ!」
モモワロウが嬉しそうにキンシバイの頭の上を回る。それにキンシバイもまた静かに笑みを浮かべた。
「キミの友達も……きっと強いことだろう。アカツキは手に入れられなかった。だからその次は——鬼だ」
月を睨むキンシバイ……そしてところ変わってともっこプラザ。
奉られたともっこ像の前には紫色の餅が山のように盛られて供えられているのだった。