最初に出会ったスター団のしたっぱがネモによく効く向上心の塊でものすごいアホだった   作:うみじゃけ

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ブルーベリー編 〜スター団のアホよ、永遠なれ〜
40.行くぜブルーベリー学園!アイツらに再会でスター!


 

 

 

—アップルアカデミー グラウンド—

 

 

 

 とある日の午後。

 

 アップルアカデミーの広大なグラウンドには、普段の授業では聞くことのできない激しい音が響き渡っていた。

 

「サザンドラ! 『りゅうのはどう』!」

 

 ネモの声が響く。それに応えるように三つの頭を持つサザンドラが翼を大きく広げた。

 

 三つの口に青白い光が集まっていく。

 

 次の瞬間——ドンッ!

 

 放たれた三条の光線が一直線に対戦相手へと迫った。

 

「来たぞマルマイン! 『こうそくいどう』で躱せ!」

 

 対するイレギアが叫ぶ。フィールドの上にいたマルマインがまるで弾丸のように駆け出した。

 

 地面を転がりながら一気に加速し、迫り来る『りゅうのはどう』を紙一重でかわしていく。

 

「おおー!」

 

 観客席から歓声が上がった。

 

「『こうそくいどう』にそんな使い方が……!」

 

 同じく観戦していたアオイが感心したように声を漏らす。

 

「イレギアー! 今日こそ勝てるちゃんだぜー!」

 

 ペパーは満面の笑みを浮かべて叫ぶ。

 

「うーん……ドラゴンタイプにでんきタイプは厳しいんじゃ?」

 

「ああ、だがそんな時の——!」

 

 イレギアが懐からテラスタルオーブを取り出す。

 

「《テラスタル》! もちろん、こんな時のためのフェアリーテラスだぜー!」

 

 マルマインの身体が眩い光に包まれる。

 

 やがて光が弾け、フェアリータイプへと変化したマルマインの頭上に、巨大なテラスタルの結晶が現れた。

 

「おおっ!」

 

 観客から再び歓声が上がる。

 

「なるほど! それならサザンドラの弱点を突ける!」

 

 ネモの瞳が輝いた。イレギアの表情も自信に満ちている。

 

「これで逆転だぜ!」

 

「うん! じゃあ、こっちも全力でいくね!」

 

 ネモが手を振り上げる。

 

「サザンドラ! 『ラスターカノン』!」

 

「何ーっ!?」

 

 サザンドラの口から放たれた鋼の光が、一直線にマルマインへと飛んでいく。

 

「マルマイン! 避け――」

 

 遅かった。

 

 ドォンッ!

 

 攻撃が直撃する。

 

 マルマインはその場で力尽き、テラスタルの輝きが消えていった。

 

「くっそー! また負けちまったぜー!?」

 

 イレギアが頭を抱えながら大きく項垂れた。

 

 

 

ポケモントレーナーの ネモに 敗北した……

 

 

 

 ネモは嬉しそうに片手を掲げる。

 

「やったー!」

 

「あっちゃー、惜しかったねー」

 

「《テラスタル》で意表をつけてたのはよかったんだけどなぁ」

 

「まあ、読めてたってことで」

 

「冷めてるぜマジボスー!」

 

「ボタンっていいなー」

 

 いつものやり取りだった。

 

 イレギアが何度もネモに挑み、ネモがそれを楽しそうに迎え撃つ。

 

 その光景はもはやアップルアカデミーでは珍しいものではなくなっていた。

 

 最初の頃はイレギアがネモに挑むたび、周囲の生徒たちは「またやってる」と面白半分に眺めていた。

 

 だが今では違う。

 

 少しずつ戦い方を変え、前回負けたところを修正し、それでも最後にはネモに負ける。

 

 その繰り返しを見ているうちに、いつの間にかイレギアを応援する者まで増えていた。

 

「今日も楽しかったよ、イレギア!」

 

 ネモが手を差し出す。

 

「特に最後の《テラスタル》! 逆転されるかもって、すごくワクワクしちゃった!」

 

「するつもりだったんだがなー……」

 

 イレギアは悔しそうにしながらも、その手を握る。

 

「まだまだだな……だが!」

 

 握手を終えたところで、イレギアは拳を握りしめた。

 

「次こそは勝ってやるからな!」

 

「うん! 楽しみにしてる!」

 

 二人は笑い合ってアオイたちのもとへ戻っていった。

 

「あそこでパーモットに苦戦したのが響いたなー」

 

「ですね! ひこうタイプよりも、じめんタイプやエスパータイプで攻めていくべきだったかもしれません!」

 

「二人ともお疲れちゃんだぜ」

 

 ペパーが用意していたスポーツドリンクを差し出す。

 

「冷えてるぞ」

 

「ありがとなペパー! さっすが気配り上手!」

 

「ありがとう、ペパー!」

 

 ネモも受け取ると、一気に飲み干した。

 

「……ぷはっ! 美味しい!」

 

「お前ら、本当に元気だな……」

 

 ペパーが呆れたように笑う。

 

「2人ともすごかったよー!」

 

 アオイも笑顔で2人を迎えた。

 

「というか、最後の一匹まで追い詰めたのって初めてじゃない?」

 

「確かに、すごいじゃん」

 

 ボタンも素直に感心していた。

 

「いや、追い詰めたのは前もあったな……あれは……」

 

 イレギアが何かを思い出したように呟く。

 

「あっ、先輩! あれは……!」

 

「おっ、そうだったな! あれは二人の秘密だったな!」

 

「えー?」

 

 アオイが頬を膨らませる。

 

「秘密~? 教えてよ~」

 

「アオイでもだーめ! これは先輩との秘密だもん!」

 

「残念だったな! 俺は別に話してもいいんだが、ネモがこういうなら黙ってないとな!」

 

「むぅ……」

 

 アオイは不満そうに足をバタバタしている。

 

 そんな2人を見て、ボタンとペパーは顔を見合わせた。そしてどちらからともなく淡く微笑む。

 

「といっても……もう少しポケモン増やさないとかなー?」

 

 イレギアがグラウンドの端へ目を向ける。そこでは彼のポケモンたちが思い思いに過ごしていた。

 

「そういえば、イキリンコ4匹捕まえたんですね」

 

「まるでイキリンコタクシーみたい!」

 

「おう! イキリンコタクシーのためにと思ってな! バトルも仕込んでるぜー! マルマインを新しく捕まえたのもアリだったな!」

 

 イレギアは満足そうにマルマインを見る。

 

「この爆上げ気分が癖になるぜ!」

 

「爆上げ気分……」

 

 ボタンが微妙な顔をする。

 

「まあ、本人が楽しそうだからいいんじゃねえか?」

 

「ね」

 

 イレギアはそのまま自分の端末を取り出し、ボックスへアクセスする。

 

「キタカミの里で捕まえたポケモンたちも、十分に戦えることが分かったしな」

 

「強かったですねー」

 

 アオイも画面を覗き込む。

 

「特にガチグマ! アカツキ……でしたっけ?」

 

「だろー?」

 

 イレギアは嬉しそうに頷いた。

 

「まさかあいつを駆使しても負けるとは思わなかったが……とはいえ、こいつも活躍してくれて嬉しかったぜ!」

 

「……確かあのポケモン、近づいちゃダメって言ってなかったっけ?」

 

 アオイがぼそりと呟いた。

 

「え、そうなん? なんか厄ネタ持ってきたんじゃ……」

 

「いやいや、問題ないって言ってたから大丈夫なはずだぜ」

 

「そうなん?」

 

 ボタンは少し考える。

 

「うーん……ならいい……のかな?」

 

「どうにしたって、そんなポケモンにも初見で勝てちまうネモ、マジでネモいぜ」

 

「ふふっ、強いポケモンと戦えて楽しかった~……あっ! 新しい戦法を思いつきました! 早速やりましょう、先輩!」

 

「奇遇だな、俺もだぜ! よっしゃ、やろうぜネモ!」

 

「すぐにバトル……」

 

 ボタンが呆れたように呟く。

 

「イレギアもネモくなってる……」

 

「ははっ」

 

 ペパーは楽しそうに笑った。

 

「見てる分には楽しいちゃんだけどな!」

 

 再びバトルコートへ向かっていく二人。

 

「………あはっ」

 

 その背中を見ながら、アオイはふと笑いをこぼした。

 

「どしたんアオイ?」

 

 ボタンが尋ねる。

 

「アオイも戦りたくなったん?」

 

「んーとね。戦いたくはなったけど……」

 

「なってはいるのかよ」

 

 ペパーが呆れる。

 

「えへへ。なんか……こんな日々が、ずっと続けばいいなーって」

 

「アオイ……」

 

 ボタンがじっとアオイを見る。

 

「それ、フラグ」

 

「フラグ?」

 

「まーたボタンの思わせぶりが……」

 

 ペパーが苦笑した、その時だった。

 

「——おっ! こんなところにいたんだね!」

 

 突然、背後から声が響いた。

 

 3人が振り返る……そこに立っていたのは今までこの場所にはいなかった男だった。

 

「んん?」

 

「だ、誰だこのデカい人……」

 

「なんか……ダンディー……」

 

 褐色の肌、長身の体躯、そして紳士然とした落ち着いた雰囲気。

 

 ただ立っているだけなのに妙な存在感がある。

 

「君がアオイ君だね?」

 

「え?」

 

「そして、あそこにいるのがイレギア君……」

 

 男はグラウンドの中央へ視線を向ける。ちょうどその時、再びバトルを始めようとしていたイレギアが振り返った。

 

「ん?」

 

 イレギアと男の目が合う。

 

「よし! 2人とも見つけた!」

 

「えっと……?」

 

 アオイは依然として戸惑っている。

 

「2人とも、ブルーベリー学園に行こう!」

 

 すると男はまるでこれから買い物にでも誘うような気軽さで言った。

 

「え?」

 

 アオイの口から素っ頓狂な声が漏れた。

 

「ちょっとちょっと! シアノ先生!」

 

 その直後、慌てた様子でクラベルが駆け寄ってくる。

 

「あ、ベルちゃーん」

 

 男—-シアノは悪びれもせず手を上げた。

 

「早速2人を連れていこうかなとね」

 

「早速すぎます! まずは自己紹介からでしょう!」

 

「あ、そうだったそうだった……僕、シアノ! よろしく!」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 アオイは戸惑いながら頭を下げる。そこへネモたちとバトルせんとしていたイレギアも戻ってきた。

 

「なんか呼びました?」

 

 イレギアはいつもの勢いとは違い、少し背筋を伸ばしている。

 

「えっと……シアノさん?」

 

「そうそう」

 

「俺がイレギアですが……」

 

「すげえ。イレギアがかしこまってるぜ」

 

「先生とかには丁寧になるんだ」

 

 ボタンも少し面白そうに見ていた。

 

「普段からそれくらい礼儀正しくすればいいのに」

 

「いや、俺だって礼儀くらいわきまえてるぞ」

 

 イレギアが反論する。

 

 クラベルが咳払いをした。

 

「では改めまして……アオイ君、そしてイレギア君。君たちはこのたび、栄えあるブルーベリー学園の交換留学生に選ばれたんだ!」

 

「交換留学生?」

 

 アオイとイレギアが顔を見合わせる。

 

「まあ簡単にいうとね」

 

 シアノは楽しそうに説明を始めた。

 

「僕のブルーベリー学園と、ベルちゃんのアップルアカデミーとで推薦を受けた学生を交換して、交流を深めようって話!」

 

「ブルーベリー学園って確か……」

 

「おう、ゼイユとスグリ、あとキンシバイの学園だよな」

 

「ゼイユって?」

 

 ネモが首を傾げる。

 

「俺たちが林間学校で出会った――まあ、友達だな!」

 

「へぇ……! ポケモン勝負は強いですか?」

 

「強い!」

 

「わぁ……!」

 

 ネモは目を輝かせて嬉しそうに身を乗り出した。

 

「わたしも行きたいです!」

 

「おっ、やる気あるねー、一緒に行く?」

 

「えっ! いいんですか!?」

 

「ダメです! そんなにホイホイと生徒を連れていってはいけませんよ、シアノ先生!」

 

「あっはは、だよねー!」

 

「なんか……結構適当?」

 

 ボタンが呟く。

 

「かもな……」

 

 ペパーも苦笑する。

 

「2人とも、先生にそういう言い方は良くないぜ」

 

「あ、真面目モードの先輩だ」

 

「ともかく、今回の推薦にはちゃんと理由があるんだよ」

 

 シアノが二人へ向き直る。

 

「アオイ君はスグリ君からの推薦。そしてイレギア君は――ゼイユ君からの推薦だ」

 

「スグリ!」

 

 アオイの表情が明るくなる。

 

「ゼイユ……が……」

 

 その一方でイレギアの表情から、わずかに笑みが消えた。

 

「先輩?」

 

 ネモが心配そうに顔を覗き込む。

 

「ああ……」

 

 イレギアは少しだけ視線を落とした。

 

「実は、音信不通で……」

 

「それは……心配ですね」

 

 ネモの声も少しだけ沈む。

 

「……そうなんだ」

 

 イレギアは小さく息を吐いた。

 

 林間学校で出会った少女。

 

 何かと口うるさくて、何かと世話焼きで……それでも決して嫌いにはなれない相手だった。

 

 そんな彼女から突然連絡がなくなった。気にならないわけがない。

 

「やっと会えるんだ」

 

 イレギアは顔を上げる。

 

「しっかり話もしないとな」

 

「そうですね、きっとゼイユさんも喜びますよ!」

 

「ああ!」

 

 イレギアもネモと顔を見合わせて笑った。

 

「それじゃあ2人とも、準備ができたら僕を呼んでね! ベルちゃんと一緒に校長室で待ってるから!」

 

「「はーい!」」

 

 アオイとイレギアが声を揃えた。

 

 2人はそれぞれ準備のために校舎へ戻っていく。

 

「……しばらく会えなくなるんだなー」

 

 その背中を見送るネモが少しだけ寂しそうに呟いた。

 

「まあ、交換留学だからな」

 

 ペパーは落ち着き払っていた。

 

「ま、すぐ戻ってくるでしょ」

 

 ボタンもその通りだ。

 

「……だよね!」

 

 ネモも再び笑顔になる。

 

 ——誰も、この時点では知らなかった。

 

 これから向かうブルーベリー学園で、何が待っているのか。

 

 この交換留学が、単なる学校間の交流では終わらないことを。

 

 

 

—ブルーベリー学園—

 

 

 

 一方、その頃。パルデア地方から遠く離れたブルーベリー学園。

 

 広大な学園施設の一角にある職員室では、1人の学生が教師と向かい合っていた。

 

「やあ、キンシバイ君」

 

「こんにちは、ブライア先生」

 

 呼び出されたキンシバイは丁寧に頭を下げる。

 

「今回もテラスタルについての調査でしょうか?」

 

「テラスタルの調査はひとまずひと段落したからね。それについては大丈夫だ。今回、君を呼んだのは別の用件だよ」

 

 ブライアは机の上に置かれていた書類を手に取った。

 

「交換留学についてだ」

 

「交換留学……?」

 

「そうとも。アップルアカデミーと、我々ブルーベリー学園との間で、生徒を交換して交流を深めることになってね」

 

「アップルアカデミー……」

 

 キンシバイの表情がわずかに変わった。

 

 林間学校で訪れた場所。そこで出会った生徒たち。

 

 そして——

 

「この前、林間学校で一緒になった学生から推薦があってね。君にそこへ行ってほしいんだ」

 

「……僕に?」

 

「ああ」

 

 キンシバイは少し考える……が、答えはすぐに出た。

 

「ありがとうございます。ぜひ行かせていただきます」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ」

 

 ブライアも満足そうに頷いた。

 

「手続きはこちらで済ませておく。君も準備をしておいてくれ」

 

「はい」

 

 キンシバイは一礼する。

 

「失礼します」

 

 職員室を出て、廊下を歩く。

 

 すれ違う生徒たちに軽く会釈をしながら、キンシバイは一人で歩いていた。

 

 そして誰もいない場所まで来たところで。

 

「……ふふ」

 

 小さく笑う。

 

「これでパルデア地方に行ける」

 

 その声には、先ほどまでとは違う色があった。

 

「彼らもよく行動してくれている……」

 

 誰かに話しかけるように呟く。

 

「これで、もう少しだけ計画を進められる」

 

 その背後、廊下の影から……何かがゆっくりと姿を現した。

 

 桃色の、不気味な影。

 

「モ……モモ……」

 

 かすかな鳴き声。

 

 キンシバイは振り返る。

 

「……ごめんね」

 

 その声は優しかった。

 

「もう少しだけ、力を貸してほしいんだ」

 

 桃色の影が、ゆらりと揺れる。

 

「伝説のポケモン——テラパゴス」

 

 キンシバイは静かに呟いた。

 

「その力を手に入れるために……」

 

 彼の瞳の奥に、強い意志が宿る。

 

「僕はパルデアへ行かなければならない」

 

 こうしてアップルアカデミーから二人、ブルーベリー学園から一人。

 

 それぞれの思惑を胸に、3人は目的地に向かっていった。

 

 アオイは再会を待つ友のために。イレギアは音信不通になった友との再会のために。そしてキンシバイは——

 

 彼らが再び顔を合わせるまで、そう時間はかからない。

 

 そしてその先に待っているのは単なる交換留学では済まされない、大きな出来事だった。

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